口語統計研究会
| 正式名称 | 口語統計研究会 |
|---|---|
| 略称 | 口統研 |
| 設立 | 1929年 |
| 設立地 | 東京都文京区本郷 |
| 主な研究分野 | 口語頻度解析、沈黙率測定、方言揺らぎ統計 |
| 機関誌 | 『口語統計報』 |
| 会員数 | ピーク時で約1,140人 |
| 中核施設 | 本郷発話標本室 |
| 標語 | 話した分だけ、数えるべし |
口語統計研究会(こうごとうけいけんきゅうかい)は、話し言葉に含まれるや、および発話の揺らぎを統計的に解析するための日本の研究団体である。もとは初期にの言語学者らが、国会答弁の速記精度を上げる目的で始めたとされる[1]。
概要[編集]
口語統計研究会は、の発生頻度を数量化し、会話の傾向を年次比較することを目的として設立されたとされる学術団体である。対象は標準語に限らず、、、さらには電話交換手の定型応答まで含まれたとされ、当時としてはきわめて異例の広さをもっていた。
同会の特徴は、単に言葉を採集するのではなく、発話の途中で生じる「えー」「あのー」等の補助音を独立した統計単位として扱った点にある。これにより、沈黙の長さを分単位ではなく「気まずさ指数」として記録する方式が生まれ、後年のや研究にも影響を与えたとされる[2]。
成立の経緯[編集]
研究会の起源は、の閲覧室で行われた「速記の失敗率」に関する非公式な集まりに求められる。中心人物は言語学者の、統計学者の、および速記者出身のであり、彼らは議事録の誤記が特定の助詞に偏ることに気づいたという。
翌、構内の旧心理学教室で第1回研究会が開かれた。初回の議題は「『です』の語尾上昇と、聴取側の頷き回数の相関」であり、参加者17名のうち6名が議論中に自らの発話を統計表に書き込んだため、以後は発表者と記録者を完全に分離する規定が設けられた。なお、この規定は当時の学会では珍しく、のちに「研究会規則第4条の静寂主義」と呼ばれた[3]。
研究方法[編集]
口語採集票と沈黙率[編集]
口統研が最初に整備したのは、六面体の木箱に収める形式のである。採集票は一枚ごとに発話者の身長、靴音の大きさ、会話開始までに要したお茶の注ぎ回数まで記録でき、完成時の記入欄は全42項目に及んだ。
特に有名なのが「沈黙率」で、これは会話中に相手が返答を始めるまでの平均空白時間を、あたりの茶碗振動数で割って算出するという独自指標である。計測にはの喫茶店やの古書店がよく用いられ、常連客の中には「研究会が来ると店内が静かになる」と証言する者もいたという。
話者分類と方言区分[編集]
研究会は話者を「断定型」「婉曲型」「逆質問型」「笑ってごまかす型」の4類型に分け、発話の終止形を分類した。この分類法は単純すぎるとして当時の者から批判も受けたが、実地調査では驚くほど再現性が高かったとされる。
また、沿線の駅ごとに語尾の伸び方を測る「停車場方言図」が作成され、では「〜です」が長く、では「〜だがね」が統計上ひときわ強かった。もっとも、名古屋測定の半数以上が味噌煮込みうどん店で行われたため、麺の熱気が結果に影響したのではないかという指摘がある[4]。
機関誌『口語統計報』[編集]
機関誌『口語統計報』は創刊で、毎号に「今月のあいづち分布」「電話口の曖昧表現」「雨天時の語尾落下率」などの欄が設けられていた。最大の発行部数はの第27巻第4号で、これは「戦後の家庭会話における『まあ』の復権」を扱った特集号であったとされる。
同誌の編集方針は異様に厳密で、本文中に「たぶん」「おそらく」などの語が3回以上現れると、編集委員が赤字で「母数不足」と追記した。なお、1950年代後半にはのアナウンサー研修にも参照されたとされるが、関係者の回想は一致しておらず、現在でも真偽は確定していない。
社会的影響[編集]
口統研の成果は、戦後の文書やの原稿作成に少なからぬ影響を与えたとされる。特に「です・ます調の過剰使用は聴取者の集中を下げる」という研究が広まり、には一部の省庁で「1文あたりの敬体比率」を試験導入する動きが見られた。
一方で、同会の数値化手法は「人間の会話を冷たくしすぎる」として批判も受けた。文芸評論家のは、会話を百分率で裁く態度を「昭和の寒天化」と呼び、これが当時の論壇で流行語になったという。もっとも、研究会側は「寒天化とは粘性の安定化にすぎない」と反論しており、議論は最後まで平行線であった。
批判と論争[編集]
最大の論争はの「発話ゼロ仮説」をめぐるものである。これは、ある地域では会話量が少ないほど相互理解が深いという主張で、調査対象がたまたまの山間部との地下鉄車内に偏っていたことから、後年は統計的公平性を欠くとして再検討された。
また、研究会が作成した「口語純度表」において、若者言葉の一部が「未成熟な補助語」と分類されたことも批判を受けた。とりわけの公開討論では、会員の一人が「『やばい』は数値ではなく温度である」と発言し、会場が12秒間沈黙したのち、全員がメモを取り始めたという逸話が残る。
解散とその後[編集]
口統研は、長年の活動を支えた記録係の不足と、採集票の印刷費高騰により事実上の活動停止に追い込まれた。最後の総会はの貸会議室で開かれ、議題は「会話の自然さを守るために、どこまで自然さを測定してよいか」であったという。
その後、資料の一部は旧資料室に移管されたとされ、近年ではデジタル人文学の分野から再評価が進んでいる。特に2010年代以降、SNSの短文や既読無視時間を対象にした「新口語統計」が提唱され、同会の方法論が先取り的であったとみなす研究もある[5]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『口語統計序説』東都書房, 1932.
- ^ 三枝房次「発話の揺らぎと母音長の相関」『統計と国語』Vol. 4, No. 2, pp. 11-39, 1935.
- ^ 高木ミツ『速記者のための口語採集法』文化学苑, 1938.
- ^ 口語統計研究会編『口語統計報 第27巻第4号』研究会出版部, 1958.
- ^ Margaret A. Thornton,
- ^ Conversation by Numbers: A History of Colloquial Statistics,
- ^ Journal of Applied Linguistic Measures, Vol. 12, No. 1, pp. 44-88, 1969.
- ^ 佐伯誠一「沈黙率の算出と茶碗振動数」『日本音声学会誌』第18巻第3号, pp. 77-101, 1941.
- ^ E. H. Caldwell,
- ^ The Tokyo Interjection Survey and Its Aftermath,
- ^ Studies in Speech Enumeration, Vol. 3, No. 4, pp. 201-230, 1972.
- ^ 矢部冬子『寒天化する会話』青鷺社, 1963.
- ^ 山岸利夫「口語純度表批判」『社会言語の窓』第7巻第2号, pp. 5-26, 1975.
- ^ 本郷発話標本室『口統研旧蔵資料目録』内部刊行物, 1991.
- ^ 河合光雄『新口語統計とSNS沈黙時間』紅葉館出版, 2018.
外部リンク
- 口語統計アーカイブス
- 本郷発話標本室デジタル目録
- 昭和会話数理研究センター
- 新口語統計プロジェクト
- 日本沈黙率学会