四球四球四球四球本塁打三振三振三振
| 別名 | 四歩四歩四歩四歩本塁打三振列 |
|---|---|
| 分野 | 野球記録学、草野球文化 |
| 初出 | 1938年頃(通説) |
| 考案者 | 渡辺精一郎ほか(諸説あり) |
| 主な使用地域 | 東京、神奈川、埼玉 |
| 成立背景 | 記録用紙の欄外注記から派生 |
| 関連競技 | 硬式野球、軟式野球、独立リーグ |
| 特徴 | 四球が四つ続いた後に本塁打、終盤に三振が三つ並ぶ |
四球四球四球四球本塁打三振三振三振(しきゅうしきゅうしきゅうしきゅうほんるいださんしんさんしんさんしん)は、における一打席の配列様式を指す俗語で、特に投手の制球が極端に乱れた直後に打者が急転して長打を放つ現象をいうとされる[1]。の草野球圏で生まれた用語であり、のちにの非公式記録係の間で定着したとされる[2]。
概要[編集]
四球四球四球四球本塁打三振三振三振は、投手の投球内容と打者の結果を一行で要約した擬似スコア表現である。通常はの打席結果を連ねたメモとして扱われるが、文脈によっては一試合の空気を象徴する定型句として引用される。
この表現は、初期の学生野球で用いられた簡易記録法に由来するとされる。もっとも、のちに統計係があまりにも印象的であったため独立した用語として扱い始め、の周辺でも半ば公認の俗語になったとされる[3]。
成立の経緯[編集]
草記録からの発生[編集]
通説では、夏にので行われた学生招待試合の記録欄に、ある記録員が「四球×4、HR、K×3」と書き損じたことが始まりとされる。のちにこの略記が口伝で「四球四球四球四球本塁打三振三振三振」と読み上げられるようになったという[4]。
当時の記録用紙は1打席ごとの欄が狭く、走り書きの判読性を上げるために同一結果を縦に並べる慣習があった。これが、結果の羅列そのものを一種のフレーズとして可聴化させたと考えられている。
渡辺精一郎の整理案[編集]
の元学生で、後に私設記録家となったは、この表現を「制球崩壊と集中失速の連続」として分類し、に『打席列語法試論』へ収録したとされる。彼は四球が4つ並ぶ部分を「圧力の蓄積」、本塁打を「局所的爆発」、三振3つを「観客の沈黙が戻る区間」と呼んだ[5]。
なお、渡辺は同書の欄外で「五球目に死球が入ると語感が悪い」と記しており、この判断が結果的に四球四球四球四球本塁打三振三振三振という形を標準型に固定したとの指摘がある。
戦後の再拡散[編集]
以降、や周辺の喫茶店で野球談義の記号として再流行し、の地方予選を実況するアマチュア解説者の間で定着した。特にのある試合で、録音機の故障によりアナウンサーが打席結果を復唱した際、この句がそのまま放送されてしまい、一気に広まったという逸話がある[6]。
用法[編集]
この語は、単なる打席結果の羅列として使われるほか、試合展開の比喩としても用いられる。たとえば「今日は四球四球四球四球本塁打三振三振三振みたいな試合だった」と言えば、序盤の停滞と中盤の突然の加速、終盤の自滅的失速を意味する。
また、の愛好家のあいだでは、8打席以上の極端な偏りを示す記録に対してこの句を転用する慣習がある。もっとも、厳密には打順・投手交代・代打の有無が考慮されないため、学術的な記述としては不正確であるとされる。
文化的影響[編集]
草野球の合言葉[編集]
沿いの草野球では、四球が続いた時点でベンチがこの句を予言的に唱える風習が生まれた。もっとも、実際に本塁打までつながる例は少なく、言葉だけが独り歩きしたため、半ば縁起担ぎの掛け声として使われるようになった。
には、の社会人リーグで記録係同士がこの句を省略して「4BBHR3K」と書くようになり、のちにこれがデータベース入力のコード名に流用されたという。
放送と実況[編集]
の地方中継に携わったという元ディレクターの証言では、若手アナウンサーに「長くても一息で読める野球用語」として教えられたという。実際には息継ぎが難しく、の中継で誤って「四球、四球、四球、四球、ほんるいだ……」と詰まった音声が残り、むしろ視聴者の記憶に定着した[7]。
このエピソード以降、いくつかの地方局では、記録用紙にこの句があるときだけ赤鉛筆で波線を引く内部ルールが設けられたとされる。
批判と論争[編集]
一部の野球史研究者は、この用語が実在の記録様式ではなく、戦後に作られた後付けの伝説であると指摘している。特にのは、四球四球四球四球本塁打三振三振三振という表現が初出文献ごとに微妙に異なり、四球の数が3つや5つに揺れる例もあることから、「編集者の記憶が作った用語」と評した[8]。
一方で、草野球界では「細部の不一致こそが現場語の証拠である」と反論する声も強い。なお、2014年にの高校で行われた講演では、実際にこの句を板書した教員が「生徒の半数が記録記号だと思い、残りの半数が呪文だと思った」と証言しており、教育現場での扱いは今なお安定していない。
現代の受容[編集]
以降は、SNS上で試合の極端な流れを表す比喩として再評価され、短文文化との相性の良さから若年層にも広まった。特にでは、実際の野球中継とは無関係に、会議やプレゼンテーションの失敗を表す記号的表現として使用されることがある。
また、のファン有志が制作した非公式グッズには、この語を縦組みにしたタオルが存在し、四球の部分だけ白地、三振の部分だけ黒地にするという奇妙な意匠が採用された。売れ行きは限定的であったが、球場外の古書店では今も見かけることがある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『打席列語法試論』東都記録出版, 1941, pp. 33-41.
- ^ 佐藤恒雄『戦前学生野球記録法の変遷』日本野球史研究会, 1967, pp. 112-129.
- ^ Margaret A. Thornton, "Serial Plate Appearance Expressions in East Asian Amateur Baseball", Journal of Comparative Sports Records, Vol. 12, No. 3, 1988, pp. 201-219.
- ^ 小林玄『口述野球史とその符号化』港北文化社, 1974, pp. 58-77.
- ^ Akira Hosokawa, "Walk-Home-Strike Clusters and Crowd Silence", Pacific Baseball Studies, Vol. 5, No. 1, 1995, pp. 9-26.
- ^ 佐伯千鶴『野球実況における反復表現の民俗学』風媒堂, 2008, pp. 144-168.
- ^ George L. Bennet, "The Four-Baseball Anomaly in Scoring Notation", The Sporting Ledger, Vol. 21, No. 4, 1961, pp. 77-83.
- ^ 『四球四球四球四球本塁打三振三振三振の研究』神奈川大学地域文化叢書, 2016, pp. 5-29.
- ^ 田辺鈴子『放送事故としての野球実況』南風社, 1999, pp. 91-104.
- ^ Naomi Kisaragi, "Why Three Strikeouts Sound Like a Full Ending", Baseball Semiotics Review, Vol. 8, No. 2, 2003, pp. 50-66.
外部リンク
- 日本打席語彙学会
- 関東草記録アーカイブ
- 東京野球文化資料館
- 平塚球場史料室
- スコアブック民俗研究所