九回裏満塁本塁打×3
| 分類 | 野球用語、記録現象、比喩表現 |
|---|---|
| 初出 | 1949年ごろ(記録誌上) |
| 発祥地 | 大阪市・上本町周辺 |
| 提唱者 | 渡辺精一郎(記録学者) |
| 主な用途 | 試合終盤の逆転劇の記述 |
| 派生 | 九回裏満塁本塁打×2、延長十一回表満塁本塁打×3 |
| 記録方式 | 公式スコアと民間記録誌の併用 |
| 象徴色 | 深紅 |
| 関連団体 | 全日本終盤記録協会 |
九回裏満塁本塁打×3(きゅうかいうらまんるいほんるいだすりー)は、においての状態からを3度連続で記録した現象、またはそれを記念する競技用語である[1]。主にの記録文化から広まったとされ、実際には「一試合での連続達成」よりも「同一打席群における象徴的反復」を指す場合が多い[2]。
概要[編集]
九回裏満塁本塁打×3は、試合終盤における極端な逆転願望を可視化した文化上の慣用表現である。一般には、にで迎えた打席が三度もとして記録されるという、通常の競技進行から見ればほとんど起こりえない出来事を指すが、記録文化ではむしろ「起こりえなさ」を数値化したものとして扱われた。
この概念は、20年代の都市球場において、得点表示板の故障と場内アナウンスの誇張が重なって定着したとされる[3]。のちにの整理によって定義が揺らぎ、現在では「同一試合で三度、九回裏の満塁局面が発生し、そのたびに観客が本塁打級の歓声を上げた状態」を含む広義の用法も認められている[4]。
歴史[編集]
起源と定義の混乱[編集]
最初の用例は、ので配布された試合速報号の余白に、記録係のが書き込んだ「九回裏満塁本塁打、三連のごとし」という走り書きであるとされる[5]。この表現は当初、打者が三者連続で本塁打を打ったという意味ではなく、満塁の緊張が三段階にわたり場内を覆ったことを比喩したものだった。
ところが翌年、の若手編集者がこの記述を誤って活字化し、あたかもが九回裏に満塁本塁打を三本放ったかのような表現に改変した。これが地方紙を中心に拡散し、各地で「そんなことが本当にあるのか」という問い合わせが相次いだため、かえって語としての生命力が増したといわれる[6]。
プロ野球界への波及[編集]
にはで行われたナイターにおいて、の公式記録員がこの語を用い、結果としてスコアブックの脚注欄が3ページにわたり増補された。以後、傘下の一部球団では、九回裏に満塁が生じるたび、記録員が三色の鉛筆で打席欄を囲む慣習が生まれた。
一方で、のでは、観客の誤解から「三本目の本塁打」が期待されすぎた結果、実際には単打で終わった打席に対して場内が10秒近く沈黙した。これが後に「沈黙の三塁打事件」と呼ばれ、終盤記録の社会的影響を考える典型例として引用されている[7]。
記録文化としての成熟[編集]
、は九回裏満塁本塁打×3を「勝敗を越えて記憶される反復的逆転譚」と定義し、地方記録誌ごとにばらついていた基準を統一した。ここでは、実際の打球結果よりも、観客席の反応、ベンチの動揺、実況の間の取り方が重視された。
なお、協会は統一見解の中で「本塁打の3回達成が確認できない場合でも、打者の素振りが3回とも同じ軌道であれば準記録とする」と定めたため、以後の解説書ではスイング解析が異様に細かくなった。1982年版の『終盤打撃年報』では、打者のバット角度が平均41.7度、観客の立ち上がり速度が0.8秒以内であれば「象徴的成立」とされている[8]。
競技上の扱い[編集]
現行の解釈では、九回裏満塁本塁打×3は公式記録というよりも、に近い扱いを受けることが多い。すなわち、スコア上は1本のサヨナラ本塁打でも、文脈上それが「三重の終盤劇」として読まれる場合に、この語が付与される。
また、の間では、9回裏・満塁・本塁打の3条件が一度にそろうだけでなく、「代打の指名が遅れた」「守備側ベンチの扉が2回開いた」などの周辺事象が三つ以上重なると、俗に「×3達成」と呼ぶ慣習がある。ただしこの運用は地域差が大きく、とで判断が割れやすいと指摘されている。
社会的影響[編集]
この語は、だけでなく、企業の危機管理文書や学校の応援練習にも流入した。にはの広告会社が、「九回裏満塁本塁打×3型提案」と称する営業資料を作成し、短時間で三度の提案修正を行う社内文化を表現したことで話題になった。
また、の一部高校では、文化祭の模擬試合でこの語を合言葉にし、九回裏に相当する最終発表枠で演劇・合唱・映像の三部門を一括逆転させる形式が定着した。もっとも、教育現場では「不必要に期待値を上げる言葉」として注意喚起されることもあり、ながら保護者会で議題に上ったという記録が残る。
批判と論争[編集]
批判の中心は、この表現が過度に劇的であり、実際の試合の静かな価値を覆い隠すという点にある。特にので行われた試合後、記録誌が「九回裏満塁本塁打×3の精神」と大書したことで、勝敗とは無関係な演出が先行しているとする論考が相次いだ。
一方で擁護派は、野球とは本来、得点だけでなく「得点が得点として受け取られるまでの時間」を含む競技であると主張する。彼らによれば、本語はその時間差を3回ぶん束ねたものであり、むしろ現代の即時性に対する批評として機能しているという[9]。
一覧的派生語[編集]
九回裏満塁本塁打×2は、主に前夜祭や予告編に用いられる準用語である。三重の終盤劇の予兆を示すが、実際には二重の惜敗を記録する際に使われることも多い。
延長十一回表満塁本塁打×3は、九回裏の概念を逆位相に移植したもので、関西の古参記録員の間では「時間を1イニングだけ巻き戻した表現」と呼ばれる。ほかに、雨天コールド七回裏満塁二塁打など、同系統の誇張表現がいくつかある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『終盤記録論』大阪記録出版社, 1953, pp. 41-68.
- ^ 佐伯みどり「九回裏満塁本塁打×3の成立過程」『野球史研究』第12巻第3号, 1968, pp. 9-27.
- ^ Harold P. Winch, The Ninth-Inning Grammar of Japanese Baseball, Kobe University Press, 1979, pp. 113-141.
- ^ 高井誠一『スコアブックの民俗学』白鳳館, 1981, pp. 202-219.
- ^ Martha L. Ishida, Grand Slams and Urban Memory, Vol. 4, No. 2, 1988, pp. 55-74.
- ^ 『終盤打撃年報 1982年度版』全日本終盤記録協会, 1982, pp. 7-15.
- ^ 中村義和「沈黙の三塁打事件について」『関西スポーツ史紀要』第7巻第1号, 1990, pp. 88-96.
- ^ 小林みのる『満塁の詩学』みすず終刊社, 1997, pp. 31-49.
- ^ Elaine T. Morita, Threefold Drama in the Late Innings, Vol. 9, No. 1, 2003, pp. 1-23.
- ^ 『九回裏満塁本塁打×3 公式解説書』大阪毎日記録局, 2011, pp. 5-28.
外部リンク
- 全日本終盤記録協会 公式解説アーカイブ
- 大阪毎日記録局 資料室
- 上本町球場 文化史データベース
- 野球記録民俗学研究所
- 九回裏現象学会