回転机
| 用途 | 事務作業、対面応対、図面確認 |
|---|---|
| 起源 | 19世紀末の欧州港湾事務所 |
| 普及期 | 1930年代-1970年代 |
| 材質 | オーク材、鋳鉄、合板、初期樹脂 |
| 代表的構造 | 回転盤式、偏心脚式、環状レール式 |
| 関連機関 | 内務省文具調整局、東京家具試験所 |
| 主な利用地域 | 日本、英国、北欧、北米 |
| 通称 | くるり机、巡回机 |
(かいてんづくえ、英: Rotating Desk)は、天板または脚部が一定周期で回転するよう設計された机の総称である。主にの窓口業務やで用いられたとされ、のちに・・の分野へと拡散した[1]。
概要[編集]
回転机は、机本体の一部が回転することで、書類・道具・使用者の向きを切り替えやすくした家具である。とくに業務において、来客に正面を向けたまま裏面の帳簿へ素早く移行できることから、初期の官庁建築に適した什器として評価された[2]。
一方で、単なる省力化器具にとどまらず、会議の進行や教育現場の席替え、診察時の視線調整など、回転という動作そのものが組織運営の比喩として扱われた点に特徴がある。なお、にで開かれた「可動家具展覧会」では、1日で展示台が転がしたと記録されているが、この数字は職員の手回し回数なのか客のいたずらなのか判然としない[要出典]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は頃、港の貨物記録係が、入港申請書と船舶台帳を往復せずに処理するため、裁断台の下に鉄製の回転環を取り付けた試作机に求められるとされる。これを視察したの家具技師が、後に「実務机は人間ではなく書類が回るべきだ」と述べたことが、回転机思想の原点になったという[3]。
日本へは末期、の欧文電報整理係を務めたがの付帯展示で見た二重盤式机を持ち帰ったのが最初とされる。ただし、当時の輸送記録には机ではなく「回る戸棚」と記されており、後年の回想録で机に格上げされた可能性も指摘されている。
普及と改良[編集]
、は回転机の標準化試験を開始し、天板の回転抵抗をに収めるよう勧告した。この数値は、筆記中に勝手に回らず、しかし応対時には片手で動かせる「実務上の静止」を狙ったものである。試験の責任者であったは、回転軸の摩耗を防ぐために自転車用ベアリングを流用し、結果として「机が最も滑らかに回るのは昼食後である」との妙な知見を残した。
には、庁舎の仮設文書棚で使用された「半回転式折り畳み机」が注目され、以降、の実験教室、の保健所、さらにはの寺院事務所にまで普及した。とくに寺院での採用は、帳面を前に向けるたびに机が半回転する様子が「法要の所作に合う」と受け取られたためである[4]。
衰退[編集]
後半になると、軽量なスチール机と化の進行により、回転機構を持つ机は急速に姿を消した。もっとも、完全に廃れたわけではなく、の一部中学校では「回してもよい机」として理科室に残り、毎年の耐久試験で必ず教員会議が紛糾したという。
また、にがまとめた統計では、国内の公共施設に残存する回転机はとされたが、実地調査では旧式の回転椅子や回転台が混入していた可能性が高い。これにより、回転机という概念は家具そのものから、可動性のある机周辺一式を指す言葉へと拡張していった。
構造と分類[編集]
回転机は、その回転方式によって大きく三系統に分けられる。第一にで、天板下の中央支柱を軸に360度回る最も古典的な方式である。第二にで、脚部の一部が楕円軌道を描くことで、机全体を完全には動かさず向きだけを変える方式であり、の狭い窓口に適していた。第三にで、床面に埋め込んだレール上を机が滑るように回転するもので、の見本市で一度だけ大規模導入されたが、清掃のたびに位置が微妙にずれるため不評だった。
材質面では、初期はとの組み合わせが多く、後年はとが増えた。なお、にの工場で試作された「透明回転机」は、来客から見える書類が増えすぎるため3週間で廃番となったが、現在も試作品1台が私設博物館に残るとされている。
社会的影響[編集]
回転机の普及は、単に家具の選択肢を増やしただけでなく、応対文化そのものを変えたとされる。たとえばでは、机を回す際の「一礼半秒ルール」が導入され、職員の所作が統一された。これにより窓口滞留時間が平均短縮したという報告があるが、測定担当者が「机の回転を見ている時間」を滞留に含めるかで議論になった[5]。
また、では回転机が「自分で視点を変える道具」として児童心理に援用された。のの報告書によれば、回転机を使った図画工作の授業では、児童の提出物における右上がり線の割合が増加したとされる。ただし、同報告書の付録には机を回す係の児童が毎回2名余分に必要だったことも記されており、教育効果と人員増のどちらが主因かは不明である。
美術分野では、の作家が回転机を用いた「書くことの回転儀式」を発表し、展示のたびに観客が机を回しすぎて紙が全て遠心力で飛んだため、作品が事実上の空間インスタレーションとなった。
代表的な回転机[編集]
官庁系[編集]
で用いられた「式次第三面机」()は、左面が受付、正面が記録、右面が押印用という三面構成で、職員が回転させるたびに責任の所在も移ると揶揄された。実際には押印位置が微妙にずれるため、の角度から担当者を特定できたという逸話が残る。
教育系[編集]
の私立女学校で採用された「回学机」()は、黒板に向けると教師机、窓に向けると自習机として使える設計であった。冬季の暖房効率まで考慮されたが、回すたびに机上の墨壺が片寄るため、書道の時間だけは使用禁止となった。
医療系[編集]
の診療所で導入された「診察輪机」()は、患者側と医師側の距離をに固定する特殊な支柱を持っていた。聴診器の取り回しは良好だった一方、看護師が記録用紙を置いた瞬間に机が半回転する不具合があり、患者からは「やさしいが落ち着かない」と評価された。
批判と論争[編集]
回転机には、しばしば「見た目の工夫に対して実用効果が限定的である」という批判が向けられた。とりわけのでは、ある評論家が「机は回るほど仕事が遅くなる」と書き、翌月の反論記事で「遅くなるのは机ではなく官僚である」と応酬された。
さらに、回転機構の安全性をめぐっては、子どもが勢いよく回した机で指を挟む事故が相次ぎ、にはが「回転机の家庭使用に関する注意喚起」を出した。ただし家庭用に普及した事実自体は薄く、注意喚起の対象は主として祖父母の書斎とされる。なお、の古書店で発見された広告には「回転机、家族の対話が一周する」と記されており、文句の意味は不明である。
脚注[編集]
[1] 机の回転機構を家具分類に含めるかは研究者によって見解が分かれる。
[2] 窓口業務への適合性は、当時の庁舎平面図の改修記録から推定される。
[3] Holloway の発言は後年の回想録にのみ現れるため、同時代資料の確認が必要である。
[4] 寺院事務所での採用例は地方紙の短報に基づくが、現物は確認されていない。
[5] 滞留時間の測定方法については、報告書本文と付録で定義が異なる。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『回る机の行政史』内務省文具調整局, 1936年.
- ^ E. W. Holloway, “On Rotational Desks in Port Offices,” Journal of Civic Furnishings, Vol. 4, No. 2, 1901, pp. 11-38.
- ^ 村瀬兼吉『回転抵抗と筆記姿勢』東京家具試験所報告, 第12巻第3号, 1934年, pp. 7-19.
- ^ 石田晴彦『庁舎什器の近代化』建築資料出版社, 1948年.
- ^ Margaret L. Fenwick, “Desk Rotation and Administrative Flow,” Office Systems Quarterly, Vol. 18, No. 1, 1959, pp. 44-63.
- ^ 『可動家具展覧会図録』東京市産業課, 1927年.
- ^ 高瀬アキラ『回転する記憶の机』現代芸術評論社, 1967年.
- ^ 中村和夫『事務機器の安全設計』医歯薬出版, 1970年.
- ^ A. R. Bellamy, “The Circular Clerk: A Study of Pivot Tables,” Proceedings of the British Institute of Furnishings, Vol. 9, No. 4, 1938, pp. 201-219.
- ^ 『回る机と家族生活』北九州地方史研究会紀要, 第3号, 1969年, pp. 55-58.
外部リンク
- 東京家具試験所アーカイブ
- 可動家具史研究会
- 港湾事務机資料館
- 回転什器デジタル図書室
- 日本官庁家具年表