外れアナル
| 分類 | 民俗工学、衛生設備史 |
|---|---|
| 初出 | 1908年ごろ |
| 提唱地 | 長崎県五島列島周辺 |
| 主な用途 | 換気位置の補正、潮圧分散 |
| 関連制度 | 地方簡易排気基準 |
| 拡大期 | 昭和30年代-50年代 |
| 研究機関 | 帝都衛生工学研究会 |
| 代表的文献 | 『外れ孔配置史』 |
外れアナル(はずれアナル)は、の沿岸部で発達したとされる、位置のずれた排気孔を指す民俗工学上の概念である。のちにとの境界領域で再定義され、40年代には一部の自治体で試験導入が行われたとされる[1]。
概要[編集]
外れアナルは、本来設計上の基準点からわずかに外して設置される排気孔、またはその配置思想を指す用語である。地方の漁村で、強風時に臭気が逆流しやすい家屋に対し、意図的に中心線から外した孔を設けたことが起源とされる。
この概念は、のちに出身の技師・らによって体系化され、単なる「ズレ」ではなく「外し」による流体安定化として説明された。なお、当初はの衛生担当者から強い抵抗を受けたが、実地試験で年間換気効率が17.4%改善したとの報告が出たため、急速に注目されたとされる[2]。
歴史[編集]
漁村起源説[編集]
もっとも古い記録は、の某離島でまとめられた『潮風家屋手控』に見えるとされる。そこでは、台風のたびに便槽の臭気が室内へ吹き返すことから、棟梁のが換気筒を梁から3寸ずらして開けたところ、近隣12戸中9戸で「逆流が止まった」と記されている[3]。
この逸話は後世に誇張された可能性が高いが、の古い木造家屋において、壁面からの微妙な偏心施工が多かったことは複数の調査で確認されている。これが後の「外れ」を価値づける思想の基礎になったと考えられている。
制度化と試験導入[編集]
28年、衛生局の下に設けられた臨時検討班が、便槽換気の標準化に関する会議で「中心線厳守は必ずしも最適でない」との報告を行った。これを受けてとの2地域で、集合住宅の改修実験が行われたとされる。
試験では、孔の位置を平均で18.6ミリ外側に移した区画が最も良好で、住民アンケートでは「匂いが柔らかくなった」という謎の回答が多かった。なお、評価表には『感触は良いが説明は難しい』という自由記述が43件あり、当時の担当者を悩ませた[4]。
論争と再評価[編集]
41年には、の若手研究者が、外れアナルの効果は孔そのものではなく周囲の気流層にあると主張し、学会が二分された。旧派は「中心から外した位置こそ本質」としたのに対し、新派は「外れているように見えるだけで、実は配管全体が回転している」と説明した。
この論争は、で開かれた第14回簡易衛生設備大会で収束したとされる。最終的には、位置よりも施工者の「外し方の癖」が大きいという、やや都合のよい結論が採択された。
特徴[編集]
外れアナルの特徴は、完全な偏心ではなく、基準点からの微小な逸脱を前提とする点にある。熟練工はこれを「半歩外す」と呼び、では「よける」、では「逃がす」と表現したという。
また、施工現場では、鉛筆で引いた中心線をいったん消してから再記入する「消し線儀礼」が行われたとされる。これにより、作業者の意図が孔の位置に宿ると信じられていたが、の後年の報告書では「迷信の可能性がある」とやや冷たく記されている[5]。
社会的影響[編集]
外れアナルは、衛生設備の話題にとどまらず、期の住宅設計思想にも影響を与えた。たとえば、集合住宅の共用廊下で真正面を避けて配置された換気口や、の一部宿泊施設に見られる斜め通気の意匠は、その流れを汲むとされる。
一方で、名称の語感があまりに強いため、一般家庭では長く婉曲的な別称が使われた。公的文書では「偏位排気孔」、現場では「はずし穴」、若手職人のあいだでは単に「アレ」と呼ばれることも多かったという。ある調査では、時点で認知率は52%あったが、正しい意味まで説明できた者は7%にすぎなかった[6]。
批判と論争[編集]
外れアナルには、初期から「数値の恣意性」が指摘されていた。特に、効果測定に用いられた換気係数が測定者ごとに大きくぶれること、また「匂いが柔らかい」という指標が定量化しづらいことが批判された。
さらに、の一部マンションで実施された再現試験では、孔の位置を外しても効果が出ないどころか、隣室の鳩の侵入が2.3倍に増えたため、導入が見送られた。この失敗を受け、外れアナルは「万能技術」ではなく「土地柄を選ぶ技法」として再整理されることになった[7]。
後世への継承[編集]
期以降、外れアナルは実務よりも設計思想として引用されることが増えた。特にの防災住宅ガイドラインでは、「中心を外すことで圧を逃がす」という比喩として用いられ、災害時の通風設計や避難導線の考え方に流用された。
には、が所蔵する古図面の再調査によって、外れアナルに関する注記が少なくとも23件確認されたと発表した。もっとも、そのうち4件は後年の書き足しと見られており、学術的にはなお議論が続いている[8]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 白石恒次郎『外れ孔配置史』帝都衛生工学研究会、1957年。
- ^ 西園寺保「偏心換気と逆流抑制に関する一考察」『建築衛生』第12巻第3号、1961年、pp. 44-59.
- ^ 徳丸与三『潮風家屋手控』五島民俗資料叢書、1912年。
- ^ 厚生省衛生局『地方簡易排気基準試案』官報資料別冊、1954年。
- ^ Margaret L. Thornton, “Off-Center Apertures in Coastal Dwellings,” Journal of Vernacular Engineering, Vol. 8, No. 2, 1964, pp. 101-128.
- ^ 北條一成『住宅の外し方とその心理学』港湾建築社、1970年。
- ^ A. K. Sutherland, “Flow Drift and Smell Softening in Municipal Housing,” Proceedings of the East Asia Sanitation Congress, Vol. 5, 1968, pp. 33-47.
- ^ 『東京市簡易換気設備調査報告』東京市政研究会、1931年。
- ^ 小松原澄江「偏位排気孔の文化史」『地域技術史研究』第4巻第1号、1989年、pp. 12-26.
- ^ 『外れアナルの実験記録集』国立建築資料館紀要、第17号、2022年、pp. 5-21.
外部リンク
- 国立建築資料館デジタルアーカイブ
- 帝都衛生工学研究会年報
- 五島民俗工学保存会
- 簡易排気基準史料室
- 地方住宅外し技法データベース