大戦乙女ゲー『牟田口廉也と大和魂』
| ジャンル | 戦争恋愛シミュレーション、軍略ADV |
|---|---|
| 原案 | 東雲計画室 |
| 初出 | 1987年(カセットテープ版とされる) |
| 代表機種 | PC-9801、X68000、Windows 95 |
| 舞台 | ビルマ戦線、インパール、ラングーン周辺 |
| 主人公 | 牟田口廉也 |
| 特徴 | 戦況に応じて「大和魂値」が増減する |
| 流行語 | 帰還エンド、補給線ラブ、白旗フラグ |
| 監修組織 | 東亜ゲーム研究会連合 |
| 派生 | ドラマCD、演習用教材、同人誌 |
大戦乙女ゲー『牟田口廉也と大和魂』は、末期にの同人ソフト界隈で成立したとされる、を題材にした恋愛・軍略シミュレーション作品群の総称である。前線指揮官と「乙女的な戦意高揚」を組み合わせた独特の形式で知られ、のちに向けの教材ソフトとして再編集された[1]。
概要[編集]
大戦乙女ゲー『牟田口廉也と大和魂』は、の戦史と乙女ゲームの形式を奇妙に接合した作品群である。一般には「戦場を恋愛で解決するゲーム」と誤解されがちであるが、実際には補給線、軍令、士気、そして会話選択による部隊崩壊の回避を重視する、半ばとして設計されていたとされる[2]。
題名にあるは、後年の解説書では「プレイヤーが感情移入しすぎると最悪の作戦を選びやすくなる」ことを象徴する記号として扱われた。また「大和魂」は単なる精神論ではなく、イベント成功率と撤退判断に影響する内部パラメータの名称であり、最大値を超えると逆に部隊の統制が崩れる仕組みであったと伝えられる。なお、この仕様はの外郭団体であると称する研究会の依頼で導入されたという証言が残るが、裏づけは乏しい[要出典]。
成立の経緯[編集]
同人ソフトとしての起源[編集]
最初期の版は夏、の小規模サークル「東雲計画室」により頒布されたとされる。カセットテープに収録された1面分のみの試作で、プレイヤーは方面の補給基地に着任し、3人の「乙女参謀」から助言を受けながら作戦を選ぶ形式であった。頒布数は37本とされるが、実際に動作したものは21本程度だったという記録がある[3]。
この時点では恋愛要素は極めて薄く、キャラクター同士の好感度は「飯盒の貸し借り」と「将校用ビスケットの配分」で表現されていた。後年、制作メモから「恋愛フラグを立てると降雨イベントが起きやすい」との記述が発見され、これがシリーズ全体の基調になったとされる。
商業化と教材転用[編集]
、の出版社・緑陽文化社が本作を『戦略と倫理の実践』という教育ソフトとして再編集し、版を発売した。販売部数は初回出荷9,800本、追加ロット4,200本で、学習参考書としては異例の数字であると雑誌『月刊パソコン戦記』が報じた[4]。
もっとも、授業用の採点項目に「部下への告白を先延ばしにした回数」「補給より前線を選んだ回数」が含まれていたため、教育関係者からは「参考書に見えるが実質は情緒訓練装置である」と批判された。これに対し制作側は、戦争は理性だけでなく逡巡の総量で決まるとして反論した。
ゲームシステム[編集]
大和魂値と補給線[編集]
本作の中心となるのは「大和魂値」と呼ばれる独自パラメータである。これは、、の3要素を合成した値で、50を超えると演出が熱血化し、90を超えると司令部がプレイヤーの指示を半ば無視するようになる。最大値は127とされ、これは8ビット機の演算限界に合わせたものだと説明されているが、実際には開発者が「いちばん縁起が悪くなさそうだった」と語ったという逸話が残る。
補給線は恋愛ルートとも密接に連動しており、ヒロインのうちと親密になると弾薬が増えるが、を優先すると食糧は増える一方で士気が下がる、といった具合であった。この不均衡な設計がむしろ史実的だとして、一部の軍事研究会で教材扱いされたことがある。
敗北条件の異様な細かさ[編集]
敗北条件は非常に細かく、敵の攻勢により全滅する以外にも、「会議中に紅茶を2杯以上飲む」「将校が同じ敬礼を3回連続で繰り返す」「撤退命令を出した直後に雨が止む」など、心理的に敗北したとみなされる状況が多数設定されていた。とくに有名なのは、プレイヤーが敵将との会話で4回連続して曖昧な返答を選ぶと、画面に『大義はあるが食糧がない』というメッセージが出て即時ゲームオーバーになる仕様である[5]。
このメッセージはのちにネット掲示板で引用され、現実の組織論を揶揄する定型句として流行した。なお、当時の攻略本には「この時代の作戦は、選択肢よりも胃袋で決まる」との謎めいた一文が掲載されていた。
主要キャラクター[編集]
牟田口廉也[編集]
主人公である牟田口廉也は、史実の将軍像をそのまま美化するのではなく、妙に几帳面で、会議室では異様に声が小さい青年将校として描かれる。プレイヤーの操作次第では、彼が「計画書は完璧だが腹が減っている」と呟きながら作戦を実行する場面があり、これがシリーズの象徴的シーンとされる。
作中では彼の好感度が高いほど部隊の規律が上がるが、同時に補給不足が顕在化するため、恋愛エンドに近づくほど戦況が悪化する逆説的な設計になっている。この矛盾構造が「忠誠と生存は両立しない」という隠れテーマを生んだと評される。
乙女参謀たち[編集]
ヒロイン役は、前線に配属された架空の参謀たちである北條澄子、三宅しのぶ、雨宮ミドリの3名が中心である。北條は理詰めで補給を重視し、三宅は兵站を犠牲にしてでも現地住民との融和を説き、雨宮は作戦立案時にのみ異常な閃きを発揮する設定であった。
とくに雨宮は、夜間にだけ出るイベントCGが12枚存在し、そこでは地図帳を抱えたまま眠る姿が描かれた。ファンの間では彼女のCGの背景に街道の標高メモが微妙に誤っていることが話題となり、後年の完全版でひそかに修正されたという。
社会的影響[編集]
本作は当初、奇抜な同人作品として扱われていたが、半ばには「戦史を感情移入で学べる」として、大学のゼミや予備校の補助教材に流用された。とりわけのある研究会が、士気管理の失敗例を説明するために本作のセーブデータ27件を分析したとされ、これが一部新聞で紹介されたことから知名度が急上昇した[6]。
一方で、作中の「撤退は敗北ではなく、続きの章である」という台詞が、就職氷河期世代のあいだで自己啓発的に受容され、転職誌やビジネス書の見出しにまで転用された。こうした二次利用により、本作はゲームというより「不安定な組織運営を学ぶ寓話」として認識されるようになったのである。
批判と論争[編集]
批判の多くは、戦争表現を恋愛ゲームの文法に載せることで、歴史認識を軽薄化しているというものであった。ただし、支持派は「軽薄化ではなく、重圧の可視化である」と反論し、制作陣も「乙女ゲーの皮をかぶった兵站学」と説明したため、議論は長期化した。なお、の公開討論会では、ゲストの歴史学者が「これは不謹慎というより、食糧事情の方が不謹慎である」と発言し、会場が半笑いになったという記録が残る[7]。
また、シリーズ後期に追加された「白旗フラグ」システムをめぐっては、降伏を恋愛エンディングの一形態として処理するのは過激すぎるとする意見が相次いだ。開発側は、旗の色は選択肢の記号に過ぎないと説明したが、攻略本の挿絵が妙にロマンティックであったため、火に油を注ぐ結果となった。
評価[編集]
後年の評価では、本作は「戦争ゲームの皮をかぶった組織失敗シミュレーター」と見なされることが多い。ゲーム雑誌『コンバット・アンド・ロマンス』は、1998年の特集で本作を「失敗の各段階に名前をつけた最初の作品の一つ」と評し、特に撤退時の演出が異様に丁寧である点を高く評価した[8]。
また、コアな愛好者の間では、初期版のBGMに含まれるメロディがの市場歌を歪めたものだとする説があるが、これについては音楽担当者が「たまたま似ただけ」と述べている。現在では、レトロゲームイベントで実機展示される際、来場者がタイトルだけで敬礼する珍しい作品として知られている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯和臣『戦場と恋愛の交差点――東雲計画室の研究』緑陽文化社, 2001.
- ^ Margaret A. Thornton, "Emotion Metrics in Wartime Simulation", Journal of Comparative Game Studies, Vol. 12, No. 3, 1998, pp. 44-71.
- ^ 田中義博『軍略乙女ゲー史概説』月刊アーケード文化研究会, 第8巻第2号, 2004, pp. 101-126.
- ^ Hiroshi Kanda, "Supply Lines and Affection Flags", Proceedings of the Tokyo Interactive Narrative Conference, Vol. 4, 1996, pp. 9-28.
- ^ 高瀬みどり『補給が足りないときの会話術』新潮ゲーム文庫, 1999.
- ^ Kenji Morita, "The Yamato Spirit Variable in 8-bit Systems", Nippon Digital Humanities Review, Vol. 7, No. 1, 2002, pp. 5-19.
- ^ 『月刊パソコン戦記』編集部『PC-9801版 大戦乙女ゲー特集』工学社, 1993, pp. 18-25.
- ^ 小松原清『白旗フラグの文化史』中央架空出版, 2010.
- ^ Akiko Delaney, "Romance as Logistics: A Curious Case from Burma Front Games", East Asian Media Quarterly, Vol. 19, No. 2, 2006, pp. 77-93.
- ^ 山岸修『大義はあるが食糧がない――失敗の日本近代史』河出書房新社, 2014.
- ^ 鈴木真理子『ゲームにおける撤退表現の変遷』情報処理学会誌特別号, 第22巻第4号, 2008, pp. 211-230.
外部リンク
- 東雲計画室資料館
- 大戦乙女ゲー年表アーカイブ
- 補給線ラブ研究所
- レトロPC戦記博物誌
- 白旗フラグ保存会