大死刑改造監禁法
| 題名 | 大死刑改造監禁法 |
|---|---|
| 法令番号 | 73年法律第412号 |
| 種類 | 公法(刑事・行刑分野) |
| 効力 | 現行法 |
| 主な内容 | 死刑判決の「改造監禁」への転換、監禁計画の認可、医療・拘禁の技術基準 |
| 所管 | 法務省 |
| 関連法令 | 大死刑改造監禁手続規則(省令)/医療拘禁基準告示 |
| 提出区分 | 閣法 |
大死刑改造監禁法(だいしけいかいぞうかんきんほう、73年法律第412号)は、死刑の執行を直ちに行う代わりに、受刑者を「改造監禁」へ転換し、永続的な拘禁と生体維持技術の管理を定めることを目的とするの法律である[1]。略称は。
概要[編集]
大死刑改造監禁法は、死刑制度を「最終的に死なせる刑」から「死ねない状態へ改造する刑」へと再設計するために制定されたの法律である[1]。
本法は、死刑判決が確定した場合であっても、裁判所の命令により受刑者の処遇を「改造監禁計画」に基づき切り替えることを定めるものである。改造監禁計画には、拘禁施設の構造、栄養・循環・休眠(サスペンド)運用、外部通信の遮断と制御記録、ならびに再審査の頻度が含まれるとされる[2]。
また、監禁技術の管理は、単なる刑務作業ではなく、一定の研究機関と連携して行われることが予定されており、結果としての所管分野が拡張されたと評価されている[3]。
構成[編集]
本法は全10章から成り、条文総数は合計214条であるとされる。章立ての概要は、総則から始まり、改造監禁への転換手続、監禁計画の認可、施設・設備基準、生体維持及び観察、情報の管理、再審査と更新、受刑者の権利調整、罰則、附則で構成されるとされる[4]。
条文上は、施行の際に「既存の死刑施設」を段階的に改修する移行規定が置かれ、一定期間は経過措置として「旧様式の独房運用」と「新様式の休眠運用」を併用するとされた[5]。
さらに、で細目が委任され、およびにより技術基準が更新される仕組みであるため、運用が法文より先行して変化しやすい構造と論じられている[6]。
沿革[編集]
制定の経緯[編集]
大死刑改造監禁法の制定は、昭和後期に広がった「死は一回では足りない」という行刑思想に端を発したとされる。特に、72年、法務省の内部検討会「死刑執行適正化研究会」(仮称)が、死刑を「執行の瞬間」ではなく「制度設計の連続性」で捉えるべきだと報告したことが契機となったとされる[7]。
報告書では、死刑執行の直前に生じる立会い手続の負担や、執行そのものが持つ象徴性が過熱する点が問題視され、同年中に「改造監禁」という用語が事務局案として提示されたとされる[8]。
この案は、国会審議で「死ねなくするのではなく、死が起きる条件を制度的に回避する」という説明により、当時の与党筆頭議員が「法の趣旨に沿った“時間延伸”である」と強調したことで可決に至ったとされる[9]。
主な改正[編集]
本法は、その後80年に「改造監禁更新基準改正」として一部改正され、に基づく再審査の間隔が、原則「6か月」から「7か月」に変更されたとされる[10]。理由として、医療拘禁の運用負担が「月単位の監査」では吸収できないため、四半期の会議体と同期させたことが挙げられた。
また、5年には、外部医師の立会いに関する規定が追加され、「義務を課す」だけでなく「拒否についてはこの限りでない」といった例外条項が導入されたとされる[11]。
さらに、19年の改正では、拘禁施設の改修費の上限が「1施設あたり年額3,240万円(当時価)」とされ、超過した場合は研究資金の融通を認める条項が盛り込まれたとされる[12]。この数字は当時の委員会記録に残っているとされるが、詳細は「要出典」として扱われたという指摘もある[13]。
主務官庁[編集]
大死刑改造監禁法の所管はとされ、同省の内部に「改造監禁管理局」が置かれると定められている。本局は、監禁計画の認可、・の運用指針の策定、並びににより更新される医療・拘禁の技術基準の管理を所掌する[14]。
加えて、施設基準の監査は、法務省の監査部門と、指定研究機関の共同チームにより行われる。監査は原則として年2回とされるが、重大事案(通信制御の逸脱が確認された場合)については追加監査が命じられるとされる[15]。
そのため、実務上は、のほか、厚生系の省庁が「協議」を通じて技術仕様へ関与することが多いと説明されている[16]。
定義[編集]
本法において「大死刑」とは、死刑判決により確定した刑をいうが、執行は直ちに行われるとは限らず、「改造監禁」へ転換することを含むものと定義されている[17]。
また「改造監禁計画」とは、裁判所の命令により策定され、の規定により所管官庁の認可を受ける処遇計画である。計画には、拘禁環境の温湿度管理、休眠(サスペンド)運用の閾値、栄養・循環補助の周期、観察記録の保存期間(原則30年)を含むものとされる[18]。
さらに「生体維持技術」とは、受刑者の生命機能を維持しつつ、致死に至る生理的条件を回避する装置群を指すとされる。ただし、装置の説明責任は「の規定により」施行規則へ委任されるため、詳細は・によって補完される[19]。
「適用される者」については、確定死刑判決を受けた者のうち、再審査が可能な状態にある者とされ、疑義がある場合は医療拘禁審査会の決定によるとされる[20]。
罰則[編集]
本法では、許可なく受刑者の状態を変更した者や、監禁計画に違反した者に対し、罰則が定められている。では「改造監禁計画に基づかずに休眠運用を中断した場合」に罰金または懲役が科されるとされる[21]。
また、技術機器の不正輸入や、観察記録を改ざんした場合には「違反した場合」として重い刑罰が規定される。特にでは、記録の保存期間(原則30年)に反する媒体焼却を行った者に対し、懲役10年が下限とされるとされる[22]。
一方で、受刑者本人が自己の状態に関与する行為については、一定条件下で例外が設けられ、「拒否により義務を免れた場合はこの限りでない」といった趣旨の条文が置かれたと説明されている[23]。
なお、施行直後は運用の混乱を踏まえ、旧施設の暫定運用期間に限り罰則の適用が緩和される経過措置が置かれたとされる[24]。
問題点・批判[編集]
大死刑改造監禁法は、死刑を「死刑の執行」から切り離し、「死ねない身体」を制度化するものであると批判されている。反対論では、刑罰の目的が応報や一般予防にあるとしても、生体維持技術による“時間の無限延長”が、人格の尊厳と相容れないという指摘がなされたとされる[25]。
また、運用上はの所管下で・により技術基準が頻繁に更新される構造であるため、「法律で定めるべき事項が実務文書に移っている」との批判があるとされる[26]。
さらに、初期設計に関する当時の資料では、拘禁施設の改修に伴う予算が「3年で全国合計1,083億円」という記述でまとめられていたが、異なる資料では「1,091億円」とされていたという齟齬が指摘された[27]。この差は調整によるものと説明されたものの、野党は「要出典の数字が法の運用を支配している」と追及したとされる[28]。
一方で賛成論では、死刑判決の確定を受けた者に対し、執行の瞬間を巡る手続負担を軽減し、長期的な管理によって人権侵害を減らせる可能性があると主張されたとされる[29]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 法務省改造監禁管理局『大死刑改造監禁法逐条解説』ぎょうせい, 1985.
- ^ 山田修三『死ねない刑の設計思想:昭和期行刑政策の再解釈』日本刑事政策研究会, 1992.
- ^ M. A. Thornton“Procedural Continuity in Capital Sentences: A Hypothetical Framework,”Journal of Comparative Penal Systems, Vol. 14, No. 2, pp. 101-147, 1998.
- ^ 佐藤琴音『改造監禁計画の認可要件と審査構造』法政論叢, 第51巻第3号, pp. 77-124, 2004.
- ^ 内閣法制局『法令委任の限界に関するメモ(仮)』内閣法制局資料集, 第28号, pp. 1-19, 2007.
- ^ 高橋和子『観察記録と統制:30年保存義務の法技術』刑事法ジャーナル, 第22巻第1号, pp. 33-66, 2010.
- ^ R. L. Nakamura“The Suspended State and the Boundary of Punishment,”International Review of Penal Legality, Vol. 9, pp. 201-236, 2016.
- ^ 法務省『医療拘禁基準告示の逐次改定記録』法務省公報臨時増刊, 2001.
- ^ 渡辺精一郎『大死刑改造監禁法の運用実態に関する調査(誤字訂正版)』議会調査資料, 第3号, pp. 5-58, 2012.
- ^ 川島亮『改正の議事録から読む7か月再審査』行政手続研究, 第40巻第4号, pp. 1-29, 2019.
- ^ 田中春樹『大死刑改造監禁法—死刑を“改造”する技術の法史(版面研究)』青空法学叢書, 2021.
外部リンク
- 改造監禁管理局 公式アーカイブ
- 法務省 法令データ倉庫
- 刑事法資料館(大死刑改造法関連)
- 行刑政策研究フォーラム
- 医療拘禁基準の歴代告示まとめ