大洋ホテルの2階
| 名称 | 大洋ホテルの2階 |
|---|---|
| 正式名称 | 警察庁による正式名称は「札幌中央区大洋ホテル第二階廊下遭遇事案」とされた |
| 発生日時 | 2021-07-14 23:06ごろ |
| 時間帯 | 深夜(23時台〜翌1時台) |
| 発生場所 | 北海道札幌市中央区 |
| 緯度度/経度度 | 北緯43.0552/東経141.3564 |
| 概要 | 大洋ホテル2階の廊下において、複数の宿泊客が“亡者”のような存在と遭遇し、うち2名が身体損傷を負った |
| 標的(被害対象) | 夜間に2階へ立ち入った宿泊客・スタッフ |
| 手段/武器 | 暗所での拘束、偽装音声、刃物のような工具による軽微な刺傷(捜査段階では特定途上) |
| 犯人 | 北海道警察は、ホテル元管理担当者を中心とする集団(単独説と共犯説が併存)を捜査対象とした |
| 容疑(罪名) | 殺人未遂、建造物侵入、傷害 |
| 動機 | “亡者の声”を演出し、宿泊プラン販売を装って不正な金銭を得ようとしたとされる |
| 死亡/損害(被害状況) | 死亡は確認されなかったとされるが、負傷2名・休業による損害が約8,430万円と推定された |
概要/事件概要[編集]
大洋ホテルの2階は、深夜の札幌市中央区に所在する大洋ホテル2階の廊下で発生した一連の遭遇事案である[1]。犯行は“亡者が彷徨っている”ように見せる演出を伴い、宿泊客は「足音が追いかけてくる」「カーテンが誰もいないのに揺れた」と供述していた[2]。
警察庁による正式名称は「札幌中央区大洋ホテル第二階廊下遭遇事案」とされた。事件は2021年7月14日23時06分ごろに通報が入り、捜査が開始されたとされる[3]。その後、同年7月下旬にかけて類似の目撃談が集まり、当該フロアの利用停止に至った[4]。
本事件は、後に人気ホラーゲーム第2作の舞台のモデルとして扱われることになったが、現実には“亡者”という言葉で恐怖を煽る装置と、対人被害につながる接触があったとされる[5]。なお、この「亡者」は演出であり得るとする見解が有力であった一方、超常的解釈を排するには至らなかったと報じられている[6]。
背景/経緯[編集]
ホテルの“改修履歴”と2階の空白[編集]
事件当時、大洋ホテルは2020年秋から2021年春にかけて改修が続いていたとされる。改修計画書には「第2階の北側廊下に防音材」「非常照明の交換」といった記載が見られ、工事記録は計17回分が確認されたとされる[7]。ただし、うち4回分は“作業担当が外部委託”と記され、領収書の日付が同一日にまとめられていたことが、のちに疑義として浮上した。
また、ホテルの防犯カメラは2階廊下の東端のみ稼働範囲が狭く、夜間に限って死角が生じる構造であると説明されていた[8]。この死角が“亡者の出現”と一致することから、捜査側は単なる設備不備とは考えにくいとし、動線設計そのものに着目した[9]。
“亡者”演出の成立条件(利用客の選別)[編集]
被害者側の証言では、犯人は犯行前に2階の利用者を把握していたように見えるとされる。目撃では「23時台のみに廊下がやけに冷える」「受付から離れた人ほど呼び止められた」というパターンが語られていた[10]。
捜査では、宿泊者名簿の閲覧ログと客室入退室履歴を突合し、2階への到達時間が“毎回23時12分〜23時19分”に集中していたと分析されたと報じられた[11]。ただし、宿泊日が一致しないにもかかわらず同一の“声の合成音”が観測されたことが、共通装置の存在を示す要因になったとされた[12]。
捜査[編集]
捜査開始と初動の混乱[編集]
警察は「刃物様のもので軽微な接触があったのでは」とする通報を受け、深夜の時点で現場臨場班を派遣した[13]。犯人は「人影を見た直後に、被害者が足を引きずっていた」とする通報があり、初動では“転倒事故”として扱われた時期があったとされる[14]。
しかし、現場発生した異常として、2階廊下の非常灯が1分間だけ規則的に点滅していたことが指摘された。ホテル側は「点検中の自動復旧」と説明したが、警察は復旧ログと点滅パターンに不整合があるとし、捜査を傷害事件として強めた[15]。
遺留品と“偽装音声”の解析[編集]
遺留品としては、廊下の壁際に折り畳まれた布片と、摩耗した小型スピーカーと推定される部品が回収された[16]。また、被害者が「誰かに呼ばれた気がした」と供述した言葉は、周波数解析の結果、複数回にわたる編集が施された音声データに近い特徴を示したとされる[17]。
捜査記録では、当該音声の波形に“余白の無音区間が0.37秒で揃う”という異常な規則性があり、単なる偶然ではないと評価された[18]。この分析は、のちに証拠能力を巡る議論につながったと報じられている[19]。
被害者[編集]
被害者は2名であるとされ、いずれも2階廊下に立ち入った夜間利用者だった。被害者Aは「右手首に熱が走った」と供述し、擦過傷とみられる症状が報告された[20]。被害者Bは「首の後ろを掴まれた気がしたが、すぐ離された」と述べ、皮下の軽度内出血が確認されたとされる[21]。
なお、双方の証言で共通する点として「目の前に“誰もいないはずの影”が一瞬だけ現れる」「床のタイルが微かに鳴った」という体感が挙げられていた[22]。このため、検察側は単なる威嚇ではなく、一定の拘束・接触があったと整理したとされる[23]。一方で弁護側は、ホテルの改修による残響や冷却ダクトの風圧による錯覚の可能性を主張した[24]。
刑事裁判(初公判/第一審/最終弁論)[編集]
初公判は2023年(令和5年)2月8日に開かれ、検察は「犯行は“亡者の演出”を成立させるための計画行為である」と主張した[25]。起訴内容は殺人未遂・傷害・建造物侵入であり、犯人は“元管理担当者”として報道された[26]。犯人は「被害者を傷つける意図はなかった」として、供述では“幽霊企画のテスト”にすぎないと述べたとされる[27]。
第一審では、現場発生した点滅と音声波形の一致が重視され、証拠として位置づけられた[28]。ただし、弁護側は「音声解析はソフトウェア条件に依存しうる」と反論し、証拠の再現性を争ったと報じられている[29]。この段階で、判決に向けた論点整理として“亡者”という表現が証言の印象に与えた影響も指摘された[30]。
最終弁論では、検察は「遺留品の部品番号がホテル購入記録と一致する」と訴え、懲役を求めたとされる[31]。一方で弁護側は「被害者の目撃が複数段階で脚色された」と主張し、時効ではなくとも立証困難を強調した[32]。なお、判決は死刑には至らず、懲役〇年という形で結論が示されたと報じられたが、年数の細部は報道によって揺れがあるとも指摘されている[33]。
影響/事件後[編集]
事件後、大洋ホテルは2階を長期閉鎖し、再開時には防犯カメラの死角を解消する改修が行われたとされる[34]。また、夜間巡回を1時間ごとから30分ごとに増やしたとし、運用変更のコストは累計約1,920万円と見積もられた[35]。
社会的には、ホテル業界における“ホラー演出”の扱いが議論になった。ある業界紙では「宿泊体験の演出」と「安全確保」の境界が曖昧になり得ると指摘され、監査基準の強化が提案された[36]。その後、2階の廊下に関する怪談が地域で拡散され、未解決の噂として残った部分もあったとされる[37]。
評価[編集]
評価としては、専門家は本件が“演出のつもりが対人被害を招いた典型”として整理可能だとする見方を示した[38]。また、捜査記録の丁寧さが評価される一方、初動の混乱があったことも指摘されている[39]。
ただし、研究者の一部は「亡者という語彙が、証言の形成過程に作用した」可能性を重視した。すなわち、被害者が初期通報やSNSで触れた表現により、目撃の意味づけが変化したのではないかという指摘である[40]。この点については、判決文の要旨では“証言の整合性”が先に述べられ、その過程の検討が後回しになったとされ、評価の分かれ目になったと報じられた[41]。
関連事件/類似事件[編集]
関連事件として、同様の“夜間の空間演出”が問題となった事件が挙げられる。例えば、札幌市内の別ホテルで、深夜に客室扉へ断続的に風が吹き込む装置が見つかった事案があり、こちらは検挙まで至ったが被害認定が限定的だったとされる[42]。また、福岡市のイベントホールでは、通報対応の遅れによりパニックが拡大したと報じられたが、本件ほど具体的な遺留品は確認されなかったとされる[43]。
類似事件では、“亡者”“影”“声”といったオカルト語彙が報告で先行し、のちに物理的要因に回収されるパターンが見られるとされる。ただし、本件では廊下の点滅と音声解析が同時に現場と結びついたため、より計画性が疑われた点が特徴とされる[44]。
関連作品(書籍/映画/テレビ番組)[編集]
関連作品として、ホラーゲームの分野では“人気ホラーゲーム第2作”がモデルにされたとされる。ゲーム内では、2階廊下に亡者が彷徨っている設定になっており、プレイヤーが23時台にだけ現れる“影の誘導音”を辿る展開があるとされる[45]。ただし、作中の演出は実在事件をそのまま再現したものではないと説明されているという。
また、テレビ番組では特番のドキュメンタリーとして「消えない廊下」が制作され、捜査映像のような体裁で音声解析結果が図示されたとされる[46]。書籍では、ルポルタージュ形式の『凍る廊下の夜』が発行され、2階の“冷える理由”について、ダクト設計と心的錯覚を併置する議論が収録されたとされる[47]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 北海道警察『札幌中央区大洋ホテル第二階廊下遭遇事案 捜査報告書』北海道警察本部, 2022.
- ^ 佐伯真琴『宿泊施設における夜間安全管理の再点検』警務研究叢書, 第41巻第2号, 2022, pp. 113-156.
- ^ Thomas R. Ellery『Acoustic Patterning and Human Misperception in Night-Time Environments』Journal of Forensic Acoustics, Vol. 18 No. 3, 2021, pp. 51-79.
- ^ 松原礼二『証言形成とオカルト語彙:判例分析から』刑事政策レビュー, 第9巻第1号, 2023, pp. 27-64.
- ^ 札幌地方裁判所『令和5年(ワ)第1123号 大洋ホテルの2階事件 記録』札幌地方裁判所, 2023.
- ^ 内閣府『観光施設における体験演出ガイドライン(試案)』内閣府政策資料, 2022.
- ^ Mika Tanabe『Hotel Security Camera Coverage and Perceived Threat』International Journal of Hospitality Safety, Vol. 6 No. 4, 2020, pp. 201-223.
- ^ 田所邦明『亡者の声は誰のものか:音声波形の鑑定実務』法科学技術年報, 第27号, 2024, pp. 88-102.
- ^ 大沼聡『ホラーゲーム制作と現実事件の境界』デジタル文化研究, 第3巻第2号, 2021, pp. 1-18.
- ^ Editorial Board『Case Studies in Night-Time Assault Disguises』Forensic Case Bulletin, Vol. 12 No. 1, 2019, pp. 10-44.
外部リンク
- Tayo Hotel Incident Archive
- 北海道警察・報道資料検索
- Forensic Audio Lab Notes
- Sapporo Urban Folklore Database
- Hospitality Safety Compliance Center