妹マスターの取り扱いに困ってます!
| タイトル | 妹マスターの取り扱いに困ってます! |
|---|---|
| ジャンル | 学園コメディ、家族劇、擬似SF |
| 作者 | 橘 透真 |
| 出版社 | 北星コミックス |
| 掲載誌 | 月刊ネオフレーム |
| レーベル | NFCスパーク |
| 連載期間 | 2014年4月号 - 2019年11月号 |
| 巻数 | 全11巻 |
| 話数 | 全73話 |
『妹マスターの取り扱いに困ってます!』(いもうとますたーのとりあつかいにこまってます)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『の取り扱いに困ってます!』は、郊外の私立を舞台に、天才的な対人操作能力を持つ少女と、その妹分のような立場に追い込まれた主人公の関係を描いた学園漫画である。作中では、日常会話の裏にある交渉術や家族的な支配構造が、極端に誇張されたギャグとして描かれている。
本作は当初、読者投稿企画の読み切りであったが、2014年春に掲載された特別編が編集部内で高く評価され、翌月より連載化されたとされる。単行本第4巻以降は売上が急伸し、2018年には累計発行部数380万部を突破したと発表された[2]。
制作背景[編集]
作者のは、もともとの広告制作会社で販促用ストーリーボードを手がけていた人物とされ、短い会話劇の中で人物の力関係を可視化する手法に定評があったという。『妹マスターの取り扱いに困ってます!』は、その経験をもとに「家庭内の力学を、学園コメディの形式で可視化する」ことを目的として構想された。
編集担当のによれば、初期案では主人公が「妹を管理する管理士」という設定であったが、誌面アンケートの結果、より直接的で感情の揺れが大きい「妹マスター」という呼称に改められたという。また、連載前半の数話は、の私立中高一貫校を取材して得た「購買部の行列」「雨天時の昇降口の混雑」などの細部が、妙に具体的な日常描写として採用された[3]。
なお、作中で頻出する「マスター適性値」という概念は、当時の編集部で流行していた社内テストを元にしたものとされるが、実際の計測方法は担当者ごとに異なっていたため、単行本化の際に数値の整合性が取れなくなり、一部は雰囲気で修正されたと記録されている。
あらすじ[編集]
入学編[編集]
主人公のは、成績も運動も平均的であるが、なぜか周囲から「妹のように扱うと最も反応が良い」と判断される特異体質の持ち主である。新学期、彼は転校生に突然「あなたにはマスター資格がある」と告げられ、以後、彼女の生活指導と人間関係の調停を任されることになる。
この編では、内の私鉄駅から学園までの通学ルートが異様に細かく描かれ、駅の自動改札の通過回数まで話数ごとに記録されている。第7話では、ことりが「朝の牛乳は90mlが最適」と主張し、クラス全体がその根拠を巡って半日議論する場面が話題となった。
生徒会編[編集]
生徒会副会長のが登場し、学園内の秩序維持を名目に「妹マスター制度」の公式認定を始めることで、物語は一気に制度劇の様相を帯びる。ここでは、主人公が複数の人物から「どの程度まで甘やかしてよいか」を採点され、評価表がAからGまでの7段階で振り分けられる。
第19話から第24話にかけては、文化祭実行委員会と連携した「マスター適性試験」が描かれ、試験会場となった旧体育館では、最終的にの業者が持ち込んだ舞台装置の一部が暴走し、照明塔が3cmだけ傾くという騒動が起きた。この事件は後に、ファンの間で「三センチ事件」と呼ばれた。
修学旅行編[編集]
第31話から始まる修学旅行編では、一行がとを巡り、旅程の都度「妹としての距離感」を再計測される。主人公は、清水寺前でことりに「現地での称号は“兄代理”です」と告げられ、以後、誰に対しても説明不能な肩書きで呼ばれるようになる。
この編の終盤では、琵琶湖畔の宿で行われた深夜の会議が重要であり、会議録には「朝食バイキングで味噌汁を二杯取る者はマスター適性が0.3上昇する」との記述が残る。もっとも、この理論には根拠がないとして、後年の単行本では注釈が追加された[4]。
家族会議編[編集]
終盤では、黒瀬家の親族が一堂に会し、ことりを巡る「妹マスターの定義」が正式に議題化される。ここで初めて、ことりが実の妹ではなく、幼少期に互いの家が隣接していたことから自然発生的に「妹役」が固定された存在であることが明らかになる。
最終話では、主人公が「取り扱いに困っている」のはことりではなく、彼女を中心に成立してしまった周囲の期待値そのものであると気づき、制度そのものを解体する決断を下す。結末は比較的静かなものであったが、最終ページの下部に小さく描かれた牛乳パックの角度がファン考察の対象となった。
登場人物[編集]
は本作の主人公であり、外見は地味だが、相手の反応を予測する能力に長けた人物である。彼の「気づかぬうちに指示役に回ってしまう」性質が、周囲の人物に次々と誤解を生み出す。
はヒロインであり、作中では「妹マスター」を自称するが、その実態は対人関係の主導権を握る側にいる。表情の変化が少ない一方で、発言の末尾にだけ妙な擬音を付ける癖があり、これが一部読者の間で流行した。
は生徒会副会長で、規則を振りかざすタイプの人物に見えるが、実際には誰よりも娯楽として制度を運用している。ほかに、購買部の、担任教師の、修学旅行で突然合流する謎のOBなどが登場する。
用語・世界観[編集]
作中の中心概念である「妹マスター」とは、単なる妹を持つ者ではなく、周囲の人物を無自覚に“守らせたくなる状態”へ誘導する技能保持者を指す。作中では、これを測定するための「マスター適性値」が学園内の非公式統計として扱われ、昼休みの黒板に毎週更新されていた。
また、学園には「兄代理制度」「生活音監査」「おやつ交渉会議」などの独自制度が存在し、これらはすべて生徒会公認の民間慣行として描かれる。もっとも、制度の多くは明確な設置根拠がなく、後付けで学園史に組み込まれた疑いがある。
世界観上、ことりたちは「対人距離を縮めるとき、最初に飲み物をどちらが持つかで関係が決まる」と信じている。こうした設定は一見実用的であるが、作中ではしばしば、なぜか天気予報や文化祭予算の話にまで飛び火する。
書誌情報[編集]
単行本はのレーベルより刊行された。第1巻は2014年10月に発売され、初版は3万部であったが、帯に「この妹、管理不能」と記されたことから書店別の平積み競争が起きたという。
第6巻は特装版が同時発売され、劇中の「マスター認定証」を再現したカードが封入された。なお、第9巻の初回限定版には、ことりが作中で使ったとされる無地の手帳を模したメモ帳が付属したが、実際にはページ数が17ページしかなく、実用性の低さが逆に好評であった。
累計発行部数は2020年時点で450万部を突破したとされる[5]。また、海外版は、、で刊行され、フランス語版では「master」の訳語を巡って校正が3度差し戻されたという。
メディア展開[編集]
2017年には制作によるテレビアニメ化が発表され、全12話で放送された。アニメ版では、原作の会話劇を補完するため、ことりの視線移動に合わせてBGMが細かく切り替わる演出が導入され、一部回ではBパートの半分以上が無音のまま進行した。
同年にはドラマCD、スマートフォン向けパズルゲーム、実在しない紅茶ブランドとのタイアップ企画が展開され、ゲーム版では「兄代理ポイント」を消費して会話を解放する仕様が採用された。これが「課金すると家族関係が進む」と誤解され、SNS上で小さな論争を呼んだ。
さらに、とで開催された原画展では、原稿用紙の裏に書かれた作者のメモが展示され、「牛乳は冷蔵庫の奥がよい」などの生活指導が来場者に妙な影響を与えたとされる。
反響・評価[編集]
本作は、学園ラブコメでありながら制度設計と家族感情を同時に扱った点が評価され、評論家のは「日常会話を通じて支配と依存の輪郭を描いた稀有な作品」と評した。一方で、一部の読者からは「妹という語の使用法が過剰に拡張されている」との指摘もあった。
2016年には、作品の流行に影響されて「マスターごっこ」を行う中高生が増えたとする報道があり、系の調査研究会で取り上げられたが、後に「再現性のある実態は確認されなかった」と結論づけられた[6]。ただし、駅前の文房具店で手帳の売上が一時的に伸びたことは確認されたという。
2019年の最終回放送後には、ハッシュタグ「#取り扱いに困ってます」が24時間で約18万件投稿され、うち7割がことりの牛乳パックに関する考察であったとされる。
脚注[編集]
1. 連載開始時の掲載誌紹介記事による。 2. 単行本第8巻帯の公称値。 3. 編集者インタビュー『月刊ネオフレーム増刊・作家の机』2015年春号。 4. なお、この注釈は第7巻以降で削除された。 5. 北星コミックス広報部の年次リリース。 6. 「学校文化と擬似役職制度に関する基礎調査」研究会報告書、2017年。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 橘 透真『妹マスターの取り扱いに困ってます! 1』北星コミックス, 2014.
- ^ 橘 透真『妹マスターの取り扱いに困ってます! 8』北星コミックス, 2018.
- ^ 山科紗良「連載初期における会話劇の設計」『月刊ネオフレーム編集資料』Vol. 12, No. 3, 2015, pp. 44-51.
- ^ 西園寺玲子『少女漫画と制度のゆらぎ』北嶺書房, 2019, pp. 201-219.
- ^ K. Morita, “Family Roles and Soft Authority in Contemporary School Comics,” Journal of Imaginary Media Studies, Vol. 7, No. 2, 2020, pp. 88-104.
- ^ 北星コミックス編集部『NFCスパーク 作品年鑑 2018』北星コミックス, 2019.
- ^ 高井啓介「購買部の行列と感情労働」『教育表現研究』第18巻第1号, 2016, pp. 9-17.
- ^ Margaret T. Hollis, “The Little Sister Master Phenomenon,” East Asian Comics Review, Vol. 4, No. 1, 2018, pp. 13-29.
- ^ 編集部共著『妹という肩書きの社会史』北辰研究会, 2020, pp. 57-73.
- ^ A. Yamada, “On the Usage of Master-Adaptation Scores,” Proceedings of the 11th International Symposium on Fictional Sociolinguistics, Vol. 11, 2019, pp. 302-310.
- ^ 橘 透真『妹マスターの取り扱いに困ってます! 11』北星コミックス, 2019.
外部リンク
- 北星コミックス公式作品ページ
- 月刊ネオフレーム作品アーカイブ
- スタジオ・ミルリット番組紹介ページ
- 妹マスター研究会データベース
- 原画展『取り扱い注意報』特設サイト