当てといてなんやコラ
| 名称 | 当てといてなんやコラ |
|---|---|
| 別名 | あてこら節、予告挑発句 |
| 発祥 | 関西地方・大阪府北部 |
| 成立 | 昭和後期 |
| 言語 | 日本語(関西方言) |
| 主な用途 | 即興対話、寄席、路上遊戯 |
| 代表的研究者 | 藤原光太郎、松浦サエ |
| 保護団体 | 日本即興応酬保存協会 |
当てといてなんやコラ(あてといてなんやこら)は、の口頭伝承を起源とする即興応酬型の対人文芸である。短い予告句と挑発句を組み合わせ、相手に「当てさせる」こと自体を競技化したもので、以降は若者文化の一種として再解釈されたとされる[1]。
概要[編集]
当てといてなんやコラは、相手に対して解答の先延ばしを強要しつつ、最後に挑発的な着地を与える形式の短詩的言語遊戯である。北部の市場言葉との港湾労働者の符牒が混淆して生まれたとされ、現在では一種の口頭パフォーマンスとして扱われる。
一般には「当てといて」の部分で謎を提示し、「なんやコラ」で予想の努力を無効化する構造を持つ。研究者の間では、40年代の深夜ラジオ番組が普及に大きく寄与したとみる説が有力であるが、実際にはの喫茶店で偶発的に定式化したという異説も根強い[要出典]。
歴史[編集]
前史[編集]
前史としては、末期の船宿で行われた「見当違い問答」が祖型とされる。これは、賭場帰りの客が互いに結論を最後まで言わず、相手に察せさせる遊びで、明治期の新聞には「妙に喧嘩腰な謎々」と記された記録がある。
この形式が現在の名称を得たのは頃とされる。当時、の市場で働いていた仲買人・浜田重吉が、荷札を読み違えた相手に対し「当てといて、なんやコラ」と返したのが定着の契機であるという。なお、浜田が本当に存在したかは一次資料が乏しく、の展示解説でも慎重な表現に留まっている。
放送による拡散[編集]
、系の深夜番組『夜明け前の方言帳』で、構成作家の藤原光太郎がこの言い回しを「大阪弁の最終形態」として紹介したことにより、若年層への浸透が始まったとされる。番組内では、視聴者が電話口で即興の返しを競うコーナーが設けられ、最盛期には1晩で2,418件の投稿があったという。
ただし、番組資料の一部はの局舎移転時に散逸しており、後年の研究者は映像断片と台本メモから復元を試みている。その結果、実際の放送では「なんやコラ」の語尾が週ごとに揺れ、時に「なんやそれ」に近い形も使われていたことが判明した。
制度化と保存運動[編集]
には、の演芸研究会が「当てといてなんやコラ保存会」を設立し、発声長・間合い・語尾の巻き込み角度を数値化した「三要素基準」を策定した。これにより、従来は酒席の場で流動的に運用されていた表現が、舞台上で再現可能な形式として整備された。
一方で、過度な規格化は「怒鳴り芸化」を招いたとして批判され、には内の寄席で「本来の軽妙さが失われた」とする声明が出された。保存会側は、逆に軽妙さを守るためには最低でも0.7秒のためが必要だと反論している。
構造と技法[編集]
当てといてなんやコラの基本構造は、提示・遅延・否定・挑発の四段階から成るとされる。第一段階で相手に推理を促し、第二段階で答えを保留し、第三段階でその推理の足場を崩し、最後に挑発を置くことで、会話の主導権を確保するのである。
演者はしばしばやを補助動作として用いる。特にの一部地域では、語尾の「コラ」を短く切る型が好まれ、では逆に長く伸ばして相手の沈黙を誘う型が発達したという。なお、の調査では、経験者の87.4%が「相手が笑う前に自分が少し後悔する」と回答しており、これが修練の指標とみなされている。
社会的影響[編集]
この表現は、の若者言葉における「軽い攻撃性の演出」として広く流通し、にはテレビ番組のテロップやインターネット掲示板でも模倣された。特に上では、予想を外した相手に対して「当てといてなんやコラ返し」と呼ばれる派生表現が生まれ、短文での応酬文化に影響を与えたと指摘されている。
また、がに行った地域言語教材の試行では、児童に攻撃的語感の抑制を教える反面教材として扱われた。教材には「使い方を誤るとただの圧になる」と明記されていたが、実際の授業では語尾の勢いだけが流行し、翌週には校内放送の語調が全体的に荒くなったという。
批判と論争[編集]
批判の中心は、この表現が本来の機微を失うと即座に威圧的になる点にある。特に研究者の中には、当てといてなんやコラを「冗談と恫喝の境界を1センチだけ越える装置」と評する者もいる。
さらに、にの外部協力者が発表した報告書では、実際の初出年代が保存会の主張より約11年早い可能性が示された。しかし報告書の脚注に用いられた証言者が「近所の喫茶店で聞いた気がする」という曖昧な証言を繰り返したため、結論は保留されたままである。
派生文化[編集]
派生文化としては、クイズ番組向けに語感を丸めた「当てといてや」があり、さらに企業研修用に無害化された「当ててみてください」が存在する。前者はの深夜バラエティで人気を博したが、後者はあまりに丁寧すぎて原型の緊張感を失ったとされる。
また、の一部の高校では文化祭の出し物として「当てといてなんやコラ選手権」が行われ、制限時間15秒以内に最も美しく不穏な言い回しを作った班が優勝する。2019年大会では、優勝作が「当てといて、答えたら損やで」であったため、審査員から「もはや別競技」と評された。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 藤原光太郎『深夜帯における挑発的応答の民俗学』関西文化出版, 1981年.
- ^ 松浦サエ『大阪口承芸の変形と定着』国語社, 1994年.
- ^ 浜田重吉『市場言葉覚書』吹田地方資料刊行会, 1962年.
- ^ 田中由紀子「関西圏の予告句における間投性」『言語文化研究』Vol.18, No.3, pp.45-67, 2007年.
- ^ M. Thornton, "Aggressive Anticipation in Urban Japanese Banter" Journal of Folk Pragmatics, Vol.12, No.1, pp.101-129, 1998.
- ^ 佐伯健一『応酬の美学――挑発と保留の構造』みなみ書房, 2003年.
- ^ 国立国語研究所編『方言接触と都市語彙の拡散』三省堂, 2017年.
- ^ K. Morita, "The 0.7-Second Pause and Its Social Consequences" Osaka Review of Speech Acts, Vol.5, No.2, pp.14-39, 2014.
- ^ 『夜明け前の方言帳 番組台本集 第4巻』毎日放送出版部, 1974年.
- ^ 大阪即興応酬保存協会『三要素基準 公式解説書』同会資料室, 1989年.
外部リンク
- 日本即興応酬保存協会
- 関西口承文化アーカイブ
- 吹田方言資料室
- 大阪深夜放送史研究会
- 都市語彙観察ノート