徹底討論
| 名称 | 徹底討論 |
|---|---|
| 読み | てっていとうろん |
| 英語 | Thorough Debate |
| 起源 | 1967年ごろ、東京都千代田区 |
| 提唱者 | 平澤 一成、木戸原 玲子 |
| 分類 | 討議技法、放送演出、集団意思決定 |
| 主な利用 | 番組討論、自治体合意形成、企業研修 |
| 象徴的所作 | 机を三角形に並べること |
| 関連施設 | 霞ヶ関討議研究所 |
徹底討論(てっていとうろん、英: Thorough Debate)は、論点を一切残さずに結論へ到達することを目的として設計された日本の討議技法である。1960年代後半にの民間シンクタンクで体系化されたとされ、のちに系の教養番組を通じて一般化した[1]。
概要[編集]
徹底討論は、争点を細分化し、各論点を3段階の確認手続きに通したうえで、最終的に「未解決点一覧」をゼロに近づけることを目的とする討議法である。参加者の発言量よりも、論点の消失率を重視する点が特徴であり、議事録上では「議論が終わった」のではなく「論点が吸収された」と記録されることが多い。
この方式は、のの中で、民間研究者のと放送作家のが共同で整備したとされる。もっとも、初期資料には茶会記録や鉄道事故報告書の書式が混在しており、後年の編集では「実務家の工夫」と「演出上の奇習」が判別しにくくなっている[2]。
歴史[編集]
起源と初期理論[編集]
徹底討論の起源は、42年にのにあった会議室「三号炉」に求められる。ここでは当初、企業の品質会議を短時間で終わらせるための工夫として、発言を「主張」「反証」「保留」の三色に分ける方式が導入されたが、参加者の一人が誤って全発言を方眼紙へ転記したことで、論点を地図化する発想が生まれたという。
はこの手法を「論争の配管工事」と呼び、対立点を管路のように見立てて詰まりを除去することを提唱した。一方のは、テレビ番組向けに「一見白熱しているが、実際には結論へ収束しているように見える」演出を加え、これが後の標準形式となった。なお、初期の研修マニュアルでは、机上に置く鉛筆の本数まで規定されていたとされる[3]。
普及と制度化[編集]
、の外郭団体とされるが「徹底討論式進行要領」を発行し、自治体の公聴会や商工会議所の説明会に広がった。とくにでは、騒音対策協議の成功例として紹介され、平均会議時間が従来の84分から61分へ短縮したと記録されている[4]。
しかし普及の過程では、論点を減らすこと自体が目的化し、異論を述べた人の発言が「すでに整理済み」とみなされる問題が生じた。このためには主導で「反対意見の保全条項」が追加され、議論の終盤に必ず2分間の沈黙を挟むよう定められた。資料によっては、この沈黙が最も重要な部分であると解説されている[5]。
放送文化への影響[編集]
徹底討論が一般に知られるきっかけとなったのは、教育番組『夜更けの論点整理』である。番組では、パネルの中央に置かれた砂時計が落ち切るまでに結論へ到達しなければならず、失敗した場合は出演者全員が翌週まで同じ椅子配置で再集結する仕組みが採用されたという。
この演出は視聴率上の成功を収めたが、同時に「議論がやたら丁寧なのに、何も決まっていないように見える」という新しい批判も生んだ。1980年代には、の収録現場で1回の放送に平均7本のマイクと12枚の付箋が使われるようになり、編集部内では「付箋が本体で、発言は添え物」と揶揄された。
方式[編集]
徹底討論の標準手順は、①論点の抽出、②論点の圧縮、③論点の再配分、④結論の仮置き、⑤異論の保管、の五段階からなる。とくに③では、各参加者の主張を「A:即時実施」「B:条件付き実施」「C:次回へ持ち越し」の3箱に仕分けするため、会議室の隅に段ボール箱が3つ置かれるのが通例である。
参加者数は7人前後が理想とされるが、これは「8人を超えると論点が3層目で自己増殖する」との経験則による。実際、の港湾調整会では、参加者が13人に達した結果、議題が逆に19項目へ増えたことがあり、以後は名札の裏に「増殖注意」と印刷されるようになった[6]。
社会的影響[編集]
行政と企業への浸透[編集]
以降、徹底討論は地方自治体の住民説明会や企業の危機対応訓練に採用された。とりわけの自動車部品工場では、不具合報告を徹底討論式で処理した結果、再発防止策の「言い回し」だけが精緻化し、現場の改善速度はむしろ3%低下したとする内部報告がある。
それでも導入が続いたのは、議論の過程が可視化され、責任の所在を「討論の途中経過」に分散できる利点があったからである。社内文書では「結論の妥当性よりも、結論へ至る音量の均衡が重要」と記されることがあり、この種の表現は後の会議研修で頻繁に引用された。
教育現場での利用[編集]
の一部高等学校では、ごろから現代社会の授業に徹底討論の簡略版が取り入れられた。生徒は立論カードを5枚までしか持てず、6枚目以降は「感情の持ち込み」とみなされ減点対象となるため、準備段階から情報の取捨選択が鍛えられるとされた。
ただし、採点が厳密すぎたため、ある年度には「主張は正しいが紙の折り目が深い」という理由で減点された生徒がいたとされる。これを受けては、折り目の角度を45度以内に抑えるよう通達を出したが、実効性は不明である。
批判と論争[編集]
徹底討論への批判として最も多いのは、議論を尽くしたように見せながら、実際には論点の移動を繰り返しているだけではないかという点である。とくにの関連の番組討論では、司会者が同じ質問を色違いの言葉で4回繰り返し、結果として出演者全員が「まだ答えていないのに時間が来た」と認識したことが、後年まで語り草となった。
また、徹底討論では「結論保全」の名目で少数意見が付録扱いにされやすいとの指摘がある。一部の研究者は、これは討議技法というより「異論を美しく収納するための家具」であると批判したが、逆にこの収納性こそが日本的合意形成の洗練であると擁護する声も根強い。なお、の年報では、徹底討論の満足度は高いものの、議題完了率の定義が毎年変更されていることが報告されている[7]。
変種[編集]
徹底討論には、場面に応じた複数の変種が存在するとされる。最も有名なのは、発言者を円卓ではなく直列に並べる「縦型徹底討論」で、これはの混雑案内を参考に開発されたという。また、地方議会で用いられる「低速徹底討論」は、各意見の合間に2分の間を置くことで、対立を深めずに疲労だけを均等化する方式である。
さらに珍しいものとして、の文化施設で試験導入された「無音徹底討論」がある。これは発言せずに資料だけを並べ替える形式で、最終的に司会者がうなずいた回数で採決の代替としたため、記録係からは「会議というより盆栽の手入れに近い」と評された。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 平澤一成『徹底討論の理論と実務』霞ヶ関出版, 1974.
- ^ 木戸原玲子『夜更けの論点整理—放送討論の設計—』東都書房, 1976.
- ^ 全国論点整理協会編『徹底討論式進行要領』自治会館出版部, 1973.
- ^ 佐伯敏夫「論点圧縮と沈黙区間の関係」『討議技法研究』Vol. 12, No. 3, pp. 44-61, 1981.
- ^ Margaret L. Henshaw, 'Structured Argumentation in Japanese Civic Forums,' Journal of Comparative Deliberation, Vol. 8, No. 2, pp. 113-129, 1994.
- ^ 渡辺精一郎『会議録における結論保全の書式』有斐閣, 1988.
- ^ Kobayashi, T. and Reid, S., 'The Three-Box Model of Thorough Debate,' Proceedings of the Pacific Symposium on Dialogue Systems, pp. 201-219, 2002.
- ^ 中村昭雄『自治体説明会の作法』地方行政研究社, 1991.
- ^ 平澤一成・木戸原玲子『徹底討論入門 —付箋が本体である—』三号炉文庫, 1969.
- ^ Frank H. Doyle, 'On the Preservation of Minority Objections,' Civic Process Review, Vol. 5, No. 1, pp. 9-27, 1979.
- ^ 木下悦子『無音会議の文化史』青嵐社, 2005.
外部リンク
- 霞ヶ関討議研究所 年報アーカイブ
- 全国論点整理協会 公式資料室
- 三号炉文庫 デジタル館
- 日本会議演出学会 研究ノート集
- 夜更けの論点整理 番組保存委員会