日本原潜保有説
日本原潜保有説(にほんげんせんほゆうせつ)とは、のの一種であり、が公表せずにを秘密保有しているとする噂である[1]。主に・・を発端として全国に広まったと言われている[2]。
概要[編集]
日本原潜保有説は、における技術大国像と、期の残響が結びついて生まれた都市伝説である。表向きはとのもとで原子力潜水艦の保有は否定されているが、実際にはからにかけて複数の“潜航支援基地”が存在する、という言い伝えがある。
この噂は、で目撃されたという黒い艦影、異常に静かな海面、そして夜間にだけ届く低周波音を根拠として語られてきた。なお、信奉者の間では、艦名が一切記録に残らないことから「番号のない艦隊」とも呼ばれることがある[3]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源はの前後にさかのぼるとされる。当時、周辺で“海が妙に温かい夜がある”という噂が立ち、これを聞きつけた地方紙の校閲係・が、米軍の寄港報道と結びつけて「国内にも同種の艦があるのではないか」と書き留めたのが最初期の記録とされる[4]。
ただし、井上のメモは社内の湯飲み受けに挟まれたまま紛失したとされ、以後の流布は口伝に頼った。そのため、初期段階から話の輪郭が極端にあいまいであり、同じ“原潜”でも艦を意味したという説と、実験用の水中発電装置を指したという説が併存した。
流布の経緯[編集]
に入ると、近辺の商店街で「夜になると弁当箱ほどの灯が海中を移動する」という目撃談が増え、これがに拾われたことで一気に全国に広まった。特にの寒波の夜、の漁師が記した航海日誌に“潜航中と思しき巨大な泡の筋”が残されていたことが、信者側の決定的証拠として扱われた[5]。
一方で、にはの公開資料に艦番号の欠番があることから、「表に出せない艦艇が少なくとも3隻ある」とする解釈が定着した。これに拍車を掛けたのが、の深夜特集『静かな海のノイズ』であり、放送後は「原潜のソナーはの一部でしか拾えない」という半ば専門用語めいた説明が、かえって噂の威信を高めたとされる。
噂に見る人物像[編集]
日本原潜保有説の中核には、必ず数人の“知っているはずの人物”が登場する。たとえば、出身での造船所に再就職した老人、で艦籍簿を見たと主張する事務官、あるいは工事に関わったと称する測量士などである。彼らはいずれも実名が曖昧で、しばしば「A氏」「技師長」「元潜水医」とだけ呼ばれる。
この類型の人物像は、都市伝説にしばしば見られる“語り部”の役割を担う。もっとも、日本原潜保有説では彼らが単なる目撃者ではなく、の内部運用、燃料補給の時間帯、艦内の消火訓練まで知っていることになっており、語りの精度に対して情報の入手経路が異様に雑である点が特徴である。
伝承の内容[編集]
伝承では、日本の原潜は通常の潜水艦とは異なり、艦首に“潮目を切る銀板”を装備し、沖の深海でしかエンジンを始動しないとされる。また、浮上の際には甲板に白い塩の輪が残るため、港湾関係者はそれを見て“昨夜は来ていた”と察するという。
さらに、艦内にはがあり、長期潜航時には艦長以下全員がで士気を維持するという珍説も流布した。とくに有名なのは、ごろに建造された一隻が、潜航中にの“静かな渦”を利用して時速43ノット相当まで加速したという話である。もっとも、この数字は話者によって38、43、あるいは47ノットに揺れ、信頼性はきわめて低い。
委細と派生[編集]
艦隊の分類[編集]
派生バリエーションとしては、まず「」「」「」の3分類が有名である。本州外洋型はを横断できるとされ、日本海潜伏型は沖の海底火山列に沿って移動するという。瀬戸内静音型は小型で、の造船所で改修された軽量艦とされるが、潮の流れとエンジン音が一致しないため、しばしば“存在だけが先に沈んでいる”と評された[6]。
また、艦の識別方法として「艦影が月明かりを嫌う」「補給の際にの納品トラックと同じ時間に消える」などの怪奇譚もあり、の埠頭では深夜に水面が四角く見えると原潜がいる前兆とされた。
秘密組織との結びつき[編集]
以降は、原潜の存在を支える秘密組織として「」や「」といった、やけに官僚的な名称が登場するようになった。噂によれば、これらの組織はの研究費名目で海底通信や静音推進を研究しており、決裁印の数が多すぎて艦が建造されていることに誰も気づかなかったという。
とりわけ面白いのは、原潜の整備がの夜間点検と連動しているという派生説である。これは、深夜にレールを叩く音が“艦のボルト締め”に聞こえたことから広まったもので、との一部で強い支持を集めた。
噂にみる対処法[編集]
伝承上、日本原潜保有説に遭遇した者は、むやみに海を指さしてはならないとされる。原潜が“注目を浴びる”と潜航音が大きくなり、翌朝にの影が二本増えて見えるためである。また、深夜に港で低い唸りを聞いた場合は、を左肩に振るのではなく、航海日誌の最後のページを空白のまま閉じるとよいという。
さらに、では“海が静かすぎる日は波止場で数を数えない”という対処法が知られている。これは、原潜の艦数を数えた者は必ず翌日、近隣の造船所の掲示板に意味深な欠番を見つけてしまうためである。もっとも、いずれの対処法も実効性は不明であり、むしろ噂を聞いた者ほど海に敏感になるという逆説的な効果が指摘されている。
社会的影響[編集]
この都市伝説は、末期から初頭にかけて、沿岸部の子供たちの間で大きなとなった。特にやでは、夜の堤防を歩くことを“原潜観測”と呼ぶ遊びが流行し、地域のPTAが防犯の観点から注意喚起を行った記録がある[7]。
また、への関心を迂回的に高めた点も無視できない。高校のやの授業で、なぜか潜水艦の仕組みだけ異様に詳しい生徒が現れたのは、この噂の影響とみなす研究者もいる。一方で、漁業関係者のあいだでは“海の異変を見てもすぐ騒がない”という慎重さが身についたともされ、地域の防災意識に微妙な影響を与えたという指摘がある。
文化・メディアでの扱い[編集]
では、前後に「海底の国家機密」といった見出しで断続的に取り上げられたほか、深夜番組の再現VTRでも頻繁に引用された。とくにの番組『今夜、港で何かが鳴る』では、実在する造船所の夜景に不自然なソナー音を重ねる演出が好評を博し、視聴者から“真偽はさておき怖い”との反応が多かったとされる。
やでは、原潜保有説はしばしば“失われた技術”の象徴として用いられた。なお、に公開されたインディーズ映画『沈む国の夜明け』では、艦橋の代わりに回転寿司のレーンが装備された原潜が描かれ、以後この説のイメージを決定づけたとする意見があるが、要出典である。
脚注[編集]
[1] 『現代日本都市伝説事典』では、原潜保有説を「冷戦後期の沿岸型怪談」と分類している。 [2] ただし、流布経路には、、など複数の説がある。 [3] “番号のない艦隊”という表現は、後年のファン用語であるともされる。 [4] 井上兼三郎のメモの所在は不明で、複写のみが残るという。 [5] この航海日誌はの古書店で発見されたとされるが、現物未確認である。 [6] 瀬戸内静音型の存在を示す公的資料は見つかっていない。 [7] 学校名、学年、配布資料の有無については一致した記録がない。
参考文献[編集]
田所一馬『海に沈む国家機密—戦後日本の潜航伝承』潮騒書房, 2008年.
Margaret A. Thornton, “Submerged Sovereignty: Japanese Naval Rumors in the Postwar Era,” Journal of Maritime Folklore, Vol. 12, No. 3, pp. 44-79, 2011.
佐伯隆之『港湾怪談と近代技術の噂』中央民俗出版, 1997年.
Kenji Watanabe, “Low-Frequency Panic and the Myth of the Silent Fleet,” Pacific Studies Review, Vol. 8, No. 1, pp. 101-128, 2004.
白石みどり『深夜の海と見えない艦—都市伝説の生成』青灯社, 2015年.
Christopher N. Bell, “The Missing Hull Numbers Problem,” Naval Rumour Quarterly, Vol. 5, No. 4, pp. 9-22, 1993.
大庭正彦『非核三原則の周縁で語られるもの』国境社, 2019年.
村瀬弘『日本原潜保有説の成立と拡散』東海大学出版会, 2021年.
Eleanor P. Hughes, “Tea Ceremony Aboard Imaginary Submarines,” Asian Folklore and Technology, Vol. 2, No. 2, pp. 66-70, 2018.
黒田航『海底の茶室—日本原潜保有説小史』湾岸新書, 2006年.
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田所一馬『海に沈む国家機密—戦後日本の潜航伝承』潮騒書房, 2008年.
- ^ Margaret A. Thornton, “Submerged Sovereignty: Japanese Naval Rumors in the Postwar Era,” Journal of Maritime Folklore, Vol. 12, No. 3, pp. 44-79, 2011.
- ^ 佐伯隆之『港湾怪談と近代技術の噂』中央民俗出版, 1997年.
- ^ Kenji Watanabe, “Low-Frequency Panic and the Myth of the Silent Fleet,” Pacific Studies Review, Vol. 8, No. 1, pp. 101-128, 2004.
- ^ 白石みどり『深夜の海と見えない艦—都市伝説の生成』青灯社, 2015年.
- ^ Christopher N. Bell, “The Missing Hull Numbers Problem,” Naval Rumour Quarterly, Vol. 5, No. 4, pp. 9-22, 1993.
- ^ 大庭正彦『非核三原則の周縁で語られるもの』国境社, 2019年.
- ^ 村瀬弘『日本原潜保有説の成立と拡散』東海大学出版会, 2021年.
- ^ Eleanor P. Hughes, “Tea Ceremony Aboard Imaginary Submarines,” Asian Folklore and Technology, Vol. 2, No. 2, pp. 66-70, 2018年.
- ^ 黒田航『海底の茶室—日本原潜保有説小史』湾岸新書, 2006年.
外部リンク
- 日本都市伝説研究会アーカイブ
- 海事怪談データベース
- 沿岸噂話収集室
- 深海伝承デジタル文庫
- 架空防衛民俗学センター