早稲田大学放送研究会
| 設立 | (早稲田放送技術会としての前身) |
|---|---|
| 所在地 | 早稲田キャンパス(西早稲田旧校舎付近) |
| 活動内容 | 学生制作のラジオ番組、音声合成の実験、送信機の保守訓練 |
| 研究領域 | アナウンス音響、周波数管理、臨時回線運用 |
| 主な成果(通称) | 『無音のない原稿』方式、通称WBR(Waseda Broadcast Recorder) |
| 会員構成 | 学部横断(電気・文学・政治経済・演劇系の混在) |
| 公的連携 | 系の技術講習へ「共同演習名目」で参加 |
| 活動頻度 | 月2回の技術会合と、年4回の公開試聴会 |
早稲田大学放送研究会(わせだだいがくほうそうけんきゅうかい)は、の早稲田キャンパスに拠点を置く放送技術の研究・制作団体である。同期局の学生が出演者として参加する形式が早くから定着し、現在に至るまで学内の「声の工学」を支える組織として知られている[1]。
概要[編集]
早稲田大学放送研究会は、放送技術を「聴くための科学」として扱う学内サークルであり、主に前史の実験記録を参照しながら制作を行うとされる[1]。
組織の特徴として、放送原稿の整形を単なる文芸ではなく、音声波形の“予習”として設計する点が挙げられる。具体的には、会の講師陣が学生の朗読を1回につきずつ分解して採点し、次回までに改善を求める「逆算リハーサル」手法が伝統として残っている[2]。
この会が最も誇るのは、音声の明瞭度を上げるだけでなく、放送事故を“起こさない台本”の作り方を研究対象にしたことである。会内ではしばしば、沈黙(無音)こそが最大のノイズであると教えられており、台本には必ず「息継ぎの位置」まで書き込む習慣がある[3]。
成り立ち[編集]
前身:早稲田放送技術会の「沈黙監査」[編集]
本会の前身は、に設立された「早稲田放送技術会」であると説明される。発端は、当時の大学運営が進めていた学内講義の遠隔伝送計画が頓挫したことにあり、計画担当の技術官僚補佐が「通信ではなく、“沈黙の監査”が先だ」と主張したことがきっかけになったとされる[4]。
その沈黙監査とは、録音物を解析して、話者が黙った時間を累積し、合計がを超えた回を「不合格」とするという、極端に数値化された基準であった。学生はその結果、原稿を読むより先に、息の管理を覚える必要が出たため、文学系の学生が急増し、演劇系の学生と電気系の学生が“喉の回路”を共同で設計する形に発展した[5]。
早稲田式送信訓練:西早稲田の旧校舎で鍛える[編集]
研究会が現在の名で知られるようになったのは、前身組織がへ移転した後のであるとされる。この移転に際し、会は旧校舎(当時の西早稲田付近)で送信訓練を実施したが、問題は電波そのものではなく、校舎内で反響が強すぎる点だった。
そこで考案されたのが「反響差分台本」方式であり、同じ文を2回読み、、前提で書き直すことで、収録後に“反響の記憶”を台本に埋め込むという発想が導入されたと説明されている[6]。なお、この方式は後年、音響研究の講義資料として大学図書館に登録され、学外にも参照されるようになったとされる[7]。
活動と技術:研究会で生まれた“放送の癖”[編集]
早稲田大学放送研究会では、番組制作が研究の中心に置かれつつ、制作を成立させるための周辺技術が細部まで規定される。たとえば原稿の改訂は、提出前日に「発音カレンダー」と呼ばれる表を使い、同一単語の発音を連続で変えることを禁じるとされる[8]。
また、送信機の点検は月2回の技術会合で行うとされ、点検項目はカテゴリに分かれる。学生たちは点検票に基づき、周波数の“ずれ”を数値として記録し、ずれ幅が一定以上なら、番組の台本より先に声の速度を調整する。ここで声の速度とは、滑舌ではなく「単語の到着タイミング」で測る考え方だとされる[9]。
一方で、研究会は音声合成にも早くから関与したと噂される。会の資料では、初期の試作音声が「読み上げ」ではなく「聞き返し」を想定して設計され、質問文のイントネーションだけが自然に残るという特徴を持ったとされる。そのため、合成音声は会内で“返事上手”と呼ばれ、公開番組の引き(間)に活用されたという[10]。なお、この合成音声の評価法がユーモラスに記録されており、採点者が「腹落ち」した回数を以上とした場合に合格とされた、と書き残されている[11]。
社会的影響[編集]
早稲田大学放送研究会の影響は、放送そのものよりも、放送の“訓練文化”が学外に波及した点にあるとされる。とりわけ学内の卒業生が、自治体の広報課や教育機関の講座運営に関わり、音声の標準化に近い研修を組み立てたと説明される[12]。
例えば内の複数の学校では、授業の始まりに「声の点呼」を導入したと報告されている。これは放送研究会が考案した、開始直前のに“余計な誇張をしない発声”をそろえる手順であり、教員の間で「声が揃うと授業が揃う」として語り継がれたという[13]。
また、研究会は不特定多数の視聴者に届くことを前提に、事故対応も教育したとされる。会内では、放送事故を起こしたときの公式手順として「言い直し」ではなく「沈黙の後に情報を増やさない」方針が推奨された。ここでは“謝罪は短く、事実は増やすな”という考え方が徹底され、後年の広報文にも影響したとする指摘がある[14]。
批判と論争[編集]
一方で、早稲田大学放送研究会の手法は、音声を数値化しすぎる点で批判も受けたとされる。特に「逆算リハーサル」が過度に厳格であるという声があり、学生の創造性が削がれるという指摘が学内掲示板で繰り返されたとされる[15]。
また、研究会の“沈黙監査”が社会へ波及する過程で、放送の形式が行政文書のテンプレートに寄っていったのではないか、と疑義が出た。ある元会員は、放送研究会の教えが「人間の揺れ」を排除する方向で誤解され、教育現場で機械的な読み上げが増えたと証言したとされる[16]。
さらに、会が関与したとされる合成音声の公開実験について、出典の扱いが曖昧だとされる論争もある。会の資料には「当時の資料室にあった“無名の音声”を使用」とだけ記されており、と推測の余地が残る書きぶりであると指摘されている[17]。このため、技術の由来をめぐって外部研究者との間で意見対立があったとも伝わるが、詳細は明らかにされていない[18]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 早稲田大学放送研究会『声の点呼と台本設計:WBR運用記録』早稲田大学出版局, 1959.
- ^ 山田絹代『放送事故に学ぶ沈黙管理』通信技術叢書, 1964.
- ^ A. Thornton, Margaret『Broadcast Cadence in University Training』Journal of Applied Acoustics, Vol.12 No.3, pp.44-71, 1971.
- ^ 中村誠一『反響差分台本方式の発明経緯』音声工学年報, 第5巻第2号, pp.9-28, 1980.
- ^ 鈴木明郎『FM前史における学内伝送の試み』放送史研究, 第18巻第1号, pp.103-132, 1992.
- ^ 田村里奈『返事上手の合成音声:Waseda試作の評価方法』人文情報学研究, Vol.7 No.4, pp.201-219, 2003.
- ^ Kawasaki, Ryo『Frequency Drift and Script Correction among Student Broadcasters』Proceedings of the Symposium on Transmission, pp.77-96, 2010.
- ^ 小林和幸『行政広報における“声の標準化”の誤読』公共メディア論叢, 第22巻第3号, pp.55-80, 2016.
- ^ B. Hernandez, Luis『Silence as Noise: The Waseda Method Revisited』International Review of Broadcasting, Vol.31 No.2, pp.1-23, 2019.
- ^ 早稲田大学放送研究会『無音のない原稿(増補改訂版)』早稲田大学出版局, 2021.
外部リンク
- 早稲田放送技術アーカイブ
- WBR公式記録室
- 声の点呼ワークショップ報告書
- 沈黙監査シミュレータ同好会
- 反響差分台本データベース