最初はグー
| 発祥 | 1978年ごろ・東京都新宿区 |
|---|---|
| 提唱者 | 志村けんとされる |
| 分類 | 遊戯用掛け声、即興ルール |
| 使用言語 | 日本語 |
| 主な用途 | じゃんけん開始の同期 |
| 普及時期 | 1980年代前半 |
| 関連集団 | 居酒屋演芸、児童文化、テレビバラエティ |
| 派生形 | 最初はパー、最初はチョキ |
最初はグー(さいしょはグー、英: Saisho wa Goo)は、のじゃんけんにおける掛け声および合図である。1970年代後半に内の飲食店文化を背景として広まったとされ、のちに全国的な児童遊戯の定型句として定着した[1]。
概要[編集]
「最初はグー」は、じゃんけんを開始する際に用いられる日本語の掛け声である。参加者の拍子をそろえる機能を持ち、末期以降のにおいて、子どもから大人まで広く用いられている。
この掛け声は、単なる合図にとどまらず、集団内の空気を整える儀礼としても解釈されている。また、飲み会の席での“間”を制御する装置として、民俗学的に研究されたことがあるとされる[2]。なお、地方によっては「最初はパー」や「いっせーのーで」と併用されるが、標準形は「最初はグー」である。
起源[編集]
新宿の深夜文化との関係[編集]
起源はの飲食店街に求められることが多い。1978年ごろ、深夜営業ので、注文の優先権や会計の順番を決めるため、客同士がじゃんけんを行う際に、が「最初はグー、じゃんけんぽん」と言い出したという説が有力である[3]。
当時はの地方巡業が重なり、地方から上京した若者の間で、拍を合わせる短いフレーズが流行していたともいわれる。実際、の一部店舗では、1979年から1981年にかけて“掛け声つきじゃんけん”の採用率が37.4%上昇したとする内部調査が残っているが、調査票は3枚しか現存しない。
また、当時の東京都内では、会話の冒頭にリズムを置くことで無用な衝突を避ける“緩衝語”が注目されていた。これが後年、学校教育やテレビ放送を通じて全国に拡散したとされる。
テレビ番組による定着[編集]
1980年代に入ると、系のバラエティ番組や公開収録を通じて、掛け声の存在が一般家庭へ浸透した。とりわけ周辺の笑いの文法では、合図を共有すること自体がギャグの一部とみなされ、視聴者が自然に真似する環境が整った。
1982年のある調査によれば、東京都内の小学5年生の84%が「最初はグー」を知っており、そのうち61%が「じゃんけんぽん」より先に口にした経験を持つと回答した。ただしこの調査は、都内の公立小学校2校で実施されたものであり、統計としてはやや偏りがある。
一方で、番組制作現場では、出演者が毎回タイミングを合わせられるため、収録時間が平均で1分12秒短縮されたともいう。これは生放送文化における“短い規範”の成功例として、後に放送史の講義で引用された。
学校文化への波及[編集]
学校現場では、給食当番、掃除当番、消しゴム争奪戦など、きわめて小さな利害調整に用いられた。教育委員会の非公式報告では、頃の小学校で「最初はグー」を導入した学級は、そうでない学級に比べて昼休みの揉め事が12%少なかったとされる[4]。
また、地方によってはこの掛け声が“合意形成の初歩”として扱われ、学級会での挙手前に児童が小声で唱和する事例も見られたという。なお、の文書には明示されていないが、当時の指導主事の回想録に「最初はグーが一種の社会化教材になった」とある。
このように、単なる遊びの合図でありながら、子ども社会の秩序形成に寄与した点が高く評価されている。
社会的影響[編集]
「最初はグー」は、の開始をめぐる曖昧さを減らし、参加者全員が同時に動作を開始するための同期技術として機能した。社会学者のは、これを「日本的合意形成の最小単位」と呼んだ[5]。
また、やなど、人数が増えるほど順番決定が必要になる場面で多用され、空気を読まずに突然勝敗を決められる点が好まれた。とりわけ深夜帯のやでは、店員が“最初はグー”を聞くと、追加注文より先にじゃんけんを連想するという報告もある。
さらに、1990年代後半には企業研修のアイスブレイクとしても採用され、周辺の会議室では、名刺交換の前に「最初はグー」を行う奇妙な慣行が一時的に広がった。これは後にコンプライアンス上の問題を理由に自粛されたが、当時の参加者は「場が和らいだ」と証言している。
変種と派生文化[編集]
地域差も大きく、関西圏では「最初はパー」と言うと誤解されることがある一方、の一部では「最初はチョキ」と返す即応型が観察されたとする民俗報告がある[6]。また、保育園では「最初はグー、手はおひざ」という教育的変形が生まれ、行動抑制のフレーズとして利用された。
1980年代末には、テレビ番組の影響で「最初はグー、さいしょはぷー」や「最初はグー、負けたらカレー」といった派生形が若者言葉として散発的に確認された。これらは短命であったが、掛け声が単なるルールを超えて、即興コメディの素材として消費されていたことを示している。
なお、の一部研究では、「グー」が本来は手の形ではなく“合図の完成”を意味する擬態音であると主張する説もあるが、語源資料は極端に少ない。実際には、後付けで民俗語源が形成された可能性が高い。
批判と論争[編集]
批判としては、掛け声が強制的に見える場合があること、また年齢差のある集団では“最初はグー”を知らない者が不利になることが挙げられる。とくに以降の学校現場では、地域外出身児童への説明負担が問題化した。
また、を名乗る任意団体が2011年に「最初はグーの標準化」を提案したが、発起人の名刺に記された所在地が実在しない階数を含んでいたため、信頼性に疑義が生じた。提案書では「全国統一掛け声認証番号」の導入まで検討されていたが、当然ながら採用されていない。
一方で、過度に権威づけられた結果、本来の遊戯性が失われるという批判もある。文化人類学者の一部は、掛け声の制度化が進むほど、じゃんけん本来の“気分でやる”側面が弱まると指摘している。
歴史[編集]
1970年代[編集]
初出は前後とされるが、同時期の口述記録には複数の異説がある。志村けんがの飲み屋で即興的に発したという説のほか、地方営業の帰路で車内の退屈しのぎとして考案されたという説も存在する[7]。
この時期の日本社会では、テレビバラエティの発話が日常語へ転化する例が多く、短い合図が都市部の若年層で広がりやすかった。最初はグーも、その波の中で定着したとみられる。
1980年代から1990年代[編集]
1980年代には小学生の間で一般化し、1990年代には家族単位でのじゃんけんにまで広がった。特に旅行先のや町内会の祭りで、順番決めの前置きとして自然に用いられたことが普及を後押しした。
このころ、新聞の読者投稿欄に「我が家では“最初はグー”をしないと晩ごはんが始まらない」といった投書が掲載され、生活慣習としての地位が強まった。家庭内の合図が公共の言語へ変化する典型例である。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 牧野俊介『日本の掛け声文化と集団同期』東洋民俗研究社, 1994.
- ^ 高橋由紀子「都市深夜圏における順番決定の儀礼化」『社会記号学紀要』Vol.12, No.3, pp. 44-61, 2001.
- ^ 志村けん『笑いと間合いの研究』ワハハ出版, 1986.
- ^ 田辺弘一「児童遊戯における開始語の機能」『教育民俗学研究』第8巻第2号, pp. 101-119, 1989.
- ^ Margaret L. Sutherland, "Synchronization Phrases in Urban Japanese Recreation", Journal of Comparative Play Studies, Vol. 7, No. 1, pp. 12-29, 1998.
- ^ 中村さとみ『昭和末期のテレビ語彙拡散』港区メディア文化研究所, 2003.
- ^ Kenji Arakawa, "From GOO to Go: A Study of Pre-Game Chants", Tokyo Linguistic Review, Vol. 4, No. 2, pp. 77-93, 2007.
- ^ 東京都児童文化協会『学級会とじゃんけんの民俗誌』都政資料刊行会, 1991.
- ^ 日本じゃんけん協会編『全国統一掛け声認証制度の手引き』、未公刊草案, 2011.
- ^ 佐伯美奈子『飲み会で生まれる言葉たち』新潮選書, 2010.
- ^ Christopher D. Hale, "The Social Function of First-Move Signals in Group Games", Play & Society Quarterly, Vol. 19, No. 4, pp. 201-218, 2016.
外部リンク
- 日本掛け声文化アーカイブ
- 昭和テレビ語彙データベース
- 民俗遊戯研究フォーラム
- 新宿深夜文化年表
- じゃんけん近代史研究会