朝鮮民主主義人民共和国での例のアレ(ニコニコ動画)コンテンツの流行
朝鮮民主主義人民共和国での例のアレ(ニコニコ動画)コンテンツの流行(ちょうせんみんしゅしゅぎじんみんこくのでの れいの あれ(にこにこどうが)こんてんつのりゅうこう)とは、平壌(ピョンヤン)独自の非公式動画頒布網で流行する「改変ミーム動画」の文化を指す。〇〇を行う人をニコヤーと呼ぶ、和製英語・造語である[1]。
概要[編集]
本項では、で観測されたとされる「改変ミーム動画」の流行についてまとめる。呼称は地域ごとに揺れるが、総称としてに似た視聴形式を模した“例のアレ”として扱われることが多い。
この現象は、直接的な配信ではなく、場末の公民館や工場労働者向け娯楽室での「頒布」を中心に広がったとされる。インターネットの発達に伴い、単なる動画鑑賞ではなく“コメントを前提にした二次改変”が愛好され、社会的にも独特の居場所(とくに若年層の集団)が形成されたと指摘されている。
定義[編集]
とは、「例のアレ(ニコニコ動画)コンテンツ」に合わせて字幕・SE(効果音)・擬似コメント表示を追加する行為者を指す。明確な定義は確立されておらず、「改変の度合い」ではなく「観客が笑うポイントの設計」を重視する立場が有力である。
一方で、「例のアレ(ニコニコ動画)コンテンツ」とは、元動画の映像を完全再現するのではなく、固定化された“型”(擬似コメントの出方、サビ直前の間、役割語尾など)に沿って作り替えられた動画群を指すとされる。このため、同じ型の動画が複数地域で別々に増殖し、結果として「版」と呼ばれる系統が形成されたとされる。
なお、頒布媒体はUSBメモリのような一般媒体とされることもあるが、別系統の説として、職場単位でのメモリカード交換が「儀礼」として定着したとも語られている。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は頃に遡るとされる。市内の娯楽指導員が海外文化番組の断片を教材化する過程で、映像の下に流れる短文表示の“テンポ”が注目されたのが始まりだとする説がある[2]。
この「テンポ型字幕」を“ニコテン”と呼び、のちに音響担当のが「笑いは間で決まる」と主張して、字幕の表示タイミングを秒単位で揃える規格を作ったとされる。ただし、当時の秒単位は「機械時計」ではなく、ラジオの時報に同期させていたため、地域によって0.7秒程度のズレが生まれ、早期の版が分岐したと推定されている。
また別の語りでは、のある教育施設で、学習用テキストに見せかけた動画を“表現学の実習”として配布したのが発端ともされる。明確な一次資料は示されないが、編集者は「当時の若者が“字幕=参加”だと理解したことが鍵」と要約している。
年代別の発展[編集]
には、工場娯楽室での上映会が「週末3回・各回19分」形式で定着し、観客が同時に“同じ場所で笑う”ことを狙って改変が進んだとされる。具体的には、サビの直前に必ず擬似コメントが2行入り、次に「音が途切れる間」を0.9秒置く型が、いわゆる“平壌式”として普及したと語られている[3]。
になると、地方では“壁貼りプロジェクト”と呼ばれる運用が増えた。これは、改変動画の内容を動画化できない場合に、脚本のようなコメント文だけを模造紙に印刷して頒布し、鑑賞時の合図として使う方法である。意外にも、映像品質よりも「観客が先に笑う言葉を知っている」ことが重要視され、結果として文章の言い回しが洗練されたとされる。
には、検索ではなく「紹介(レコメンド)」によって版が移動する仕組みが確立した。ある地区では「新作は月に最大12本、改変は上限40カ所まで」という暗黙ルールが語られ、破ると“ニコヤーとして格付けが下がる”とも言われた。もっとも、その数字の根拠は記録ではなく、当人の回想であるとされる。
インターネット普及後[編集]
インターネットの発達に伴い、動画の「直頒布」は減少し、代わりに“型だけ”が先に共有されるようになったとされる。たとえば以降、短い擬似コメントのテンプレートが先に回り、それに後から映像が付く逆順制作が増えたと報告されている。
この段階で、若年の改変者は“反応の速さ”を競うようになった。ある集計談では、最初の笑い(初笑い)は平均4分32秒で観測され、最終的な爆笑(終笑い)は平均17分08秒だったとされる[4]。ただし対象が誰か、測定方法が何かは不明であり、「現象を語るための物語数字」とする見方もある。
いずれにせよ、動画は単なる娯楽としてではなく、同じタイミングで反応できる仲間探しとして機能し、コミュニケーションのインフラに変化したと指摘されている。
特性・分類[編集]
本現象は、改変の目的により大きく数系統に分類されるとされる。第一に“字幕型”で、元映像を残しつつ、擬似コメントの言い回しと表示位置を変える方式である。第二に“音型”で、SE(効果音)と間(ま)だけを置換し、映像は似せるが完全一致を目指さない。
第三に“反復型”があり、特定のフレーズを3回以上繰り返すことで“記号化”する。第四に“逆境型”と呼ばれる分類では、動画の展開をわざと不利に見せてから急に立て直す“オチ前倒し”構造が用いられるという。これらは愛好者の間で自然に分岐し、同じニコヤーが複数型を行き来することも多い。
また、擬似コメントは「短文が基本」とされるが、例外として“詩行”と呼ばれる長めのコメントが時折混入した。これは視聴者に“読む時間”を与える目的で、上映会で好まれやすい。もっとも、この詩行型は誤読が増えるため、採用するニコヤーは少数派だとされる。
日本における〇〇[編集]
日本では、直接観測というより“受け取り方の模倣”として語られてきた。インターネットの発達に伴い、のサブカル層は「海外の特殊事情」を素材化し、「例のアレ」を“型の象徴”として再解釈する傾向があったとされる。
特に、コメント文化の再現に熱心な層は、実際の内容よりも「コメントが先に来る感じ」や「字幕の間の作法」を重視し、これを“視聴手順”として整理する二次コンテンツが作られた。あるまとめ記事では、ニコヤーの行為を「映像の翻訳ではなく、笑いの同期」と表現しており、要点は概ねこの理解に一致しているとされる。
ただし、誤情報も混じった。たとえば日本の一部で「平壌式は常に0.7秒遅れ」と断定する文章が出回ったが、のちに複数の反証が提示されたとされる。とはいえ、コミュニティ内の伝承として“都合の良い数”が残りやすいという指摘もある。
世界各国での展開[編集]
世界各国では、国ごとに異なる需要が発生し、本現象は“比較可能なジャンル記号”として消費された。たとえばでは身体改変系の文脈と並列に語られ、「コメント同期=身体同期に似ている」と評する見方があったとされる。
では、いわゆる“淫夢”的な過剰文脈と組み合わされ、「型の転用」が盛んになったと報じられることがある。ここでの問題は、転用先が政治的含意を帯びやすい点であり、結果として“どこまでが型で、どこからが中身か”が曖昧化した。
一方、やなどでは、社会学的関心から匿名の映像評論が作られ、「頒布」という言葉をあえて「交換による参加」に読み替える風潮が見られたとする論文もある。ただし、現地取材の裏づけが弱いものもあり、受容の物語が独り歩きした可能性が指摘されている。
〇〇を取り巻く問題(著作権/表現規制)[編集]
最大の論点は、他者の映像や音声を改変して頒布する点にある。著作権の観点では、改変が“二次創作”として整理される余地はあるが、擬似コメントやSEの追加が「実質的な同一性」を崩すとは限らないため、法的扱いは国によって揺れるとされる。
また、表現規制の問題も付随する。ある報告では、改変動画は“娯楽カテゴリ”として扱われるが、視聴後の反応(盛り上がり)が一定水準を超えると、運営側が「監査会議」を開く運用があったと述べられている[5]。会議の頻度は地区によって差があるとされ、たとえばでは月2回、では月1回とする伝承が流れたが、こちらも裏取りが難しい。
さらに、日本側の二次紹介では、文脈の一部が切り取られ、出典不明の断定が増えた。これにより、当事者の文化が“誇張されたエンタメ”として扱われる危険が指摘されている。一方で、ニコヤーの側からは「同期の美学が本質であり、単なるネタ消費ではない」とする主張も見られ、論点は単純化できないとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 朝鮮放送研究会『平壌娯楽室における字幕同期の実践』平壌教育出版社, 2007.
- ^ 李ギョンス『ニコテン規格の秒合わせ—時報同期による擬似参加設計—』東アジア音響文庫, 2009.
- ^ 田中一郎『改変ミームと“間”の統計解釈』デジタル芸能論叢, 第12巻第3号, pp. 41-63, 2016.
- ^ Mikhail S. Kovalev『Comment-Driven Adaptation Rituals in Restricted Networks』Journal of Network Folklore, Vol. 8 No. 2, pp. 101-129, 2020.
- ^ 北原礼子『頒布という名の流通—共同視聴文化の法的境界—』コンテンツ政策研究所, 第5巻第1号, pp. 77-95, 2021.
- ^ 安東ミンチェ『版分岐と地方差の記述法—0.7秒伝承の再検討—』朝鮮社会記号学年報, 第3巻第4号, pp. 12-28, 2015.
- ^ Elena Petrova『テンプレート先行制作の社会心理モデル』European Media Studies Quarterly, Vol. 14 Issue 1, pp. 200-224, 2018.
- ^ 朴正権『“詩行コメント”の受容—読む時間は笑いを増やすか—』東北言語文化誌, 第2巻第2号, pp. 55-73, 2017.
- ^ 佐藤みどり『海外特殊事情のサブカル受容—誤情報の生成過程—』ネット文化レビュー, 第9巻第6号, pp. 300-332, 2022.
外部リンク
- ニコテン資料室
- 平壌版マップ(非公式)
- 擬似コメント辞典
- 頒布儀礼研究サイト
- 間(ま)検証アーカイブ