『民族派右翼の北黒くん』
| タイトル | 民族派右翼の北黒くん |
|---|---|
| ジャンル | 政治風刺、学園、群像劇 |
| 作者 | 樋口正彦 |
| 出版社 | 梶野書房 |
| 掲載誌 | 月刊ノクターン・コミック |
| レーベル | ノクターンKC |
| 連載期間 | 1997年6月号 - 2004年11月号 |
| 巻数 | 全14巻 |
| 話数 | 全87話 |
『民族派右翼の北黒くん』(みんぞくはうよくのきたぐろくん)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『民族派右翼の北黒くん』は、下町の私立校を舞台に、街頭演説ごっこから始まった少年たちの政治的自意識が、やがて地域防衛サークル、学生自治会、そして奇妙な協賛事業にまで拡大していく過程を描いた作品である。タイトルの「北黒」は、作中で頻出する方位記号と墨染めの学ランに由来するとされるが、作者は後年「単に字面が強かったから」と述懐している[2]。
本作は一見すると学園コメディであるが、実際には末期から初期にかけての都市開発、地方商店街の衰退、校内放送の規制、さらには町内会の焼き芋大会までを巻き込む異様なスケールを持つ群像劇であり、連載当時は「最も思想の濃い昼休み漫画」と呼ばれた[3]。累計発行部数は2013年時点で約780万部を突破したとされ、のちにテレビアニメ化、舞台化、地方自治体とのタイアップまで行われたことで知られている。
制作背景[編集]
作者のは、もともと広告代理店で校内新聞のコピーライティングを担当していた人物で、ごろの印刷所で見かけた「北東方向に傾く校舎」という設計図から着想を得たという。彼は当初、研究のサークル誌向けに単発漫画を描いていたが、編集者のが「これは右翼の話というより、看板の向きの話としておもしろい」と判断し、学園連載として成立させたとされる[4]。
連載開始前には、内で「政治的に見えるが実は校則の話である」という方向で慎重な調整が行われた一方、作中に登場する“黒い腕章”や“拡声器付き自転車”が一部の読者に強い印象を与えた。なお、編集部の記録によれば、第1話の下書き段階では北黒くんは眼鏡をかけた無害な委員長であったが、3ページ目で突然、町内会の防災無線に返答し始めたため、以後の人物像が固定されたという[5]。
あらすじ[編集]
学級放送編[編集]
都立でも私立でもない架空の進学校に転入した少年・北黒司は、朝礼での校歌斉唱中に「音程にも国家観がある」と発言し、放送部の顧問に目をつけられる。彼は放送室を拠点に、校内の弁当派閥・パン派閥・牛乳瓶派閥を統合しようとするが、実際には校長室の冷房設定をめぐる争いに巻き込まれていく。第7話では、文化祭のアナウンス原稿にで最長級とされる4,812字の一文が掲載され、校内で軽い社会現象となった。
街宣帰宅部編[編集]
中盤では、北黒くんが帰宅部の仲間とともに「放課後の主張」を行うようになり、駅前広場、豆腐店の前、さらに葛飾区の河川敷まで活動範囲を広げる。ここで登場する“街宣旗”は、実は美術部の余り布を縫い合わせたもので、毎回風向きによって左右が逆になるため、読者から「主張がブレているのではないか」と話題になった。一方で、魚屋の親父・との対話回は名エピソードとして人気が高く、単行本第5巻の初版にはこの回だけ奇妙に長い解説欄が付いた。
自治会革命編[編集]
最終章では、北黒くんが学生自治会に立候補し、議題を「自転車置き場」「校庭の石灰線」「卒業式で流す音楽」の三つに絞ることで支持を拡大する。だが、実際には自治会選挙がの区民センターで模擬再現され、近隣の小学生まで動員されたため、作中世界と現実の境界が曖昧になっていく。終盤、彼は“北黒宣言”を発表するが、その内容は国家論ではなく「給食のカレーは週1回が妥当」という極めて実務的な提案であり、作品の政治性を決定的にズラした。
登場人物[編集]
北黒司(きたぐろ つかさ)は、本作の主人公である。学業成績は中の上だが、掲示物の貼り方だけ異様に丁寧で、作中では「右に3ミリ寄る男」として知られる。
白川芽衣は放送部所属のヒロインで、北黒くんの演説を毎回、語尾だけ録音し直して放送事故を防いでいた。彼女は第12巻で一度だけ黒い腕章を着用するが、理由は単に自転車通学の防寒であった。
古賀辰夫は商店街の豆腐屋の店主で、北黒くんに最も厳しい現実を突きつける人物として人気がある。連載後期には、彼がの豆腐品評会で3年連続金賞を受賞したという設定が追加され、作品世界に妙な権威を与えた。
また、学園理事長の、生徒会長の、謎の転校生などが登場し、それぞれが“思想”よりも“校則”をめぐって激突する構図を形成している。
用語・世界観[編集]
作中における「民族派」は、血統や国家よりも「地域の呼び名」「商店街の古い地図」「校庭の樹木配置」を重視する独自の概念として描かれている。北黒くんの属する“北黒派”は、屋根の向き、腕章の色、号令の間合いをもって共同体を定義するため、思想というよりは半ば建築学的な運動であるとされる[要出典]。
「黒い朝礼台」は、作中で重要な象徴として扱われる移動式の演台で、内の中古スポーツ用品店から毎回違う形で入手される。作者のインタビューでは、朝礼台の寸法が巻を追うごとに微妙に変化していることが指摘されており、読者の間では「校庭の方が物語を先に覚えている」とも言われた。
また、本作の世界では、自治会資料・回覧板・防災訓練・文化祭パンフレットが互いに等しい政治的効力を持つ。作中ではこれを「文書主権」と呼ぶが、実際には編集部がページ数を稼ぐために始めた設定が後から膨らんだものとされる。
書誌情報[編集]
単行本はより全14巻が刊行された。第1巻から第8巻までは通常版のみであったが、第9巻以降は「反射防止カバー仕様」が導入され、夜間に読むと腕章だけが妙に光ると評判になった。
2001年にはとして第6巻が再編集され、巻末に「架空の校内地図」が付属した。この地図は実在の内の道路配置と微妙に一致しないため、地図研究家の間で資料価値が議論されたという。なお、最終巻には作者による「北黒くんは黒くない」というあとがきが収録され、シリーズの解釈を一段と混乱させた。
連載時の扉絵は毎回、商店街の看板、空模様、拡声器、自転車のベルの4要素だけで構成されており、ファンの間では「4点構図」と呼ばれている。後年の復刻版では、これらが高精細に再現された結果、看板の文字がむしろ読めすぎるという問題が起きた。
メディア展開[編集]
には製作によりテレビアニメ化され、全39話が放送された。アニメ版は原作の政治色をやや抑え、街宣シーンをほぼすべて放課後のラップバトルに置き換えたため、原作ファンからは賛否が分かれたが、深夜帯にもかかわらず平均視聴率4.8%を記録したとされる。
には舞台版『北黒くんと回覧板の夜』が内の小劇場で上演され、実物大の朝礼台を客席中央に設置する演出が話題となった。また、にはの地方自治体とタイアップした防災ポスターが制作され、北黒くんがヘルメット姿で「掲示板を守れ」と訴えるビジュアルが一部で物議を醸した。
ゲーム化企画も存在したが、開発中にジャンルがシミュレーションから配布資料作成ソフトへ変更され、最終的には発売中止となった。なお、その体験版のみがイベントで流通し、今なお“最も遊べないキャラクターゲーム”として語られている。
反響・評価[編集]
連載当時は、政治風刺として読む層と、単なる学園ギャグとして読む層とで評価が大きく分かれた。しかし、いずれの読者も「会議の長さ」「張り紙の多さ」「商店街の湿度」が異様にリアルである点については一致しており、地域資料として保存を望む声もあった。
一方で、作中の演説文が実際の自治会規約よりも詳細であったことから、複数の学校で生徒会誌に誤引用される事件が起きたとされる。特にのある高校では、文化祭実行委員が北黒くんの台詞をそのまま議事録に転記してしまい、後日、顧問教諭から「思想以前に句読点が多い」と指導されたという。
研究面では、の企画展「平成漫画における拡声器表象」で中心展示の一つとなり、現在でも“政治的な顔をした生活漫画”の代表例として扱われることがある。もっとも、作品の本質は思想ではなく、給食袋と旗竿の運用手順にあるとする解釈も根強い。
脚注[編集]
[1] 梶野書房編集部 編『月刊ノクターン・コミック総目録1997-2004』梶野書房、2005年。 [2] 樋口正彦「タイトルの付け方について」『ノクターン・コミック・インタビューズ』第3号、梶野書房、2006年、pp. 12-15。 [3] 佐伯綾子「学園漫画における街宣装置の記号性」『現代漫画研究』Vol. 18, No. 2、pp. 44-61。 [4] 三田村恭二『編集部の机から見えたもの』梶野書房、2009年、pp. 88-93。 [5] 北浜学園資料室『校内放送史 1996-2004』内部資料、未公刊。 [6] 松原浩平「“北黒現象”の地域商業への影響」『都市文化ジャーナル』第11巻第4号、pp. 201-219。 [7] Y. Kondo, "The Loudspeaker and the Civic Boy," Journal of East Asian Comics, Vol. 7, No. 1, pp. 5-29. [8] 黒田千尋『拡声器と青春のあいだ』ノクターン研究叢書、梶野書房、2012年。 [9] A. F. Lowell, "Municipal Flags in Fictional School Politics," Review of Imaginary Media Studies, Vol. 2, pp. 77-104. [10] 『北黒くん 完全設定資料集』梶野書房、2015年。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 梶野書房編集部 編『月刊ノクターン・コミック総目録1997-2004』梶野書房、2005年.
- ^ 樋口正彦「タイトルの付け方について」『ノクターン・コミック・インタビューズ』第3号、梶野書房、2006年、pp. 12-15.
- ^ 佐伯綾子「学園漫画における街宣装置の記号性」『現代漫画研究』Vol. 18, No. 2、pp. 44-61.
- ^ 三田村恭二『編集部の机から見えたもの』梶野書房、2009年、pp. 88-93.
- ^ 北浜学園資料室『校内放送史 1996-2004』内部資料、未公刊.
- ^ 松原浩平「“北黒現象”の地域商業への影響」『都市文化ジャーナル』第11巻第4号、pp. 201-219.
- ^ Y. Kondo, "The Loudspeaker and the Civic Boy," Journal of East Asian Comics, Vol. 7, No. 1, pp. 5-29.
- ^ 黒田千尋『拡声器と青春のあいだ』ノクターン研究叢書、梶野書房、2012年.
- ^ A. F. Lowell, "Municipal Flags in Fictional School Politics," Review of Imaginary Media Studies, Vol. 2, pp. 77-104.
- ^ 『北黒くん 完全設定資料集』梶野書房、2015年.
外部リンク
- 梶野書房公式アーカイブ
- ノクターン・コミック年表館
- 北黒くん作品研究会
- 架空漫画データベースMANGA-EX
- 国立サブカルチャー資料館 特別展示案内