生きたメキシコに出てきた父(検索してはいけない言葉)
| 氏名 | 宮下 俊蔵 |
|---|---|
| ふりがな | みやした しゅんぞう |
| 生年月日 | 1958年4月17日 |
| 出生地 | 東京都杉並区 |
| 没年月日 | 2011年9月3日 |
| 国籍 | 日本 |
| 職業 | 民間映像記録研究者、編集者、民俗記事収集家 |
| 活動期間 | 1981年 - 2011年 |
| 主な業績 | 『生きたメキシコに出てきた父』の分類体系化、検索忌避語彙の収集 |
| 受賞歴 | 日本怪談資料保存会特別功労章(2009年) |
宮下 俊蔵(みやした しゅんぞう、 - )は、の民間映像記録研究者。いわゆる「生きたメキシコに出てきた父」と呼ばれる現象の整理者として広く知られる[1]。
概要[編集]
宮下 俊蔵は、で活動した日本の民間映像記録研究者である。主として、インターネット黎明期に断片的に流通した「検索してはいけない言葉」の類型を収集し、その中でも特異な語感をもつを、半ば伝説化した語彙として位置づけたことで知られる[1]。
この語は本来、末にの掲示板文化と個人ホームページ文化が接触する過程で、ある映像断片の説明文として発生したとされる。もっとも、宮下自身はこれを単なる誤記ではなく、異文化接触時に生じる「意味の剥離」が可視化された事例であると論じ、以後、検索忌避語彙研究の中心的対象となった[2]。
生涯[編集]
生い立ち[編集]
宮下は、の印刷所を営む家に生まれる。幼少期から活字や校正刷りに親しみ、祖父が保存していた期の地方新聞縮刷版をめくって過ごしたという。本人の回想によれば、最初に「言葉のズレ」を意識したのは、のとき、近所の映画館で見たを題材にした教育映画の字幕が、映像と微妙に一致しなかった経験であるとされる[3]。
第二文学部に進学後は、比較文化論を専攻し、同時に大学新聞の編集補助を務めた。ここで校閲の癖を身につけたことが、後年の異様に細かい分類作業へとつながったとされる。なお、学生時代のノートには「固有名詞は意味より先に匂いを持つ」との記述が残っており、のちの研究姿勢を示すものとして引用されることが多い。
青年期[編集]
、宮下はの中古書店でアルバイトを始め、未整理の雑誌付録や通信販売冊子を扱うなかで、ネット以前の「周辺情報」がどのように増殖するかに関心を深めた。特に頃から、コピー機で複製された怪談チラシに混ざる不可解な地名表現を収集し始め、これが後の検索忌避語彙の基礎資料になったといわれる[4]。
には、個人運営の小冊子『断片索引』を創刊し、全国の愛好家に交換配布を行った。同誌第3号で初めて「生きたメキシコに出てきた父」という表現を採録し、宮下はこれを「映像タイトルでも説明文でもなく、両者の摩擦によって生じた擬似固有名詞」と定義した。発行部数は最大でもに過ぎなかったが、大学図書館の相互貸借に乗ったことから、予想外に長く流通したという。
活動期[編集]
以降、宮下はの地域資料室を中心に、ネット掲示板、フロッピーディスク、私家版メモ帳に残された断片を整理した。とりわけに発表した『検索忌避語彙の地理学』では、語の危険度を「視覚的衝撃」「意味の空白」「再検索衝動」の3軸で数値化し、うち「生きたメキシコに出てきた父」を総合指数と算出した[5]。
また、にはのデジタル化事業に協力し、非公式資料の分類に「半公開」という独自区分を導入した。この区分は後にいくつかの大学で採用されたが、運用が難しく、閲覧者の約が「資料より注記の方が怖い」と回答したという調査結果だけが一人歩きしたとされる。
晩年と死去[編集]
晩年の宮下はの逗子市に転居し、自宅書庫の天井まで積み上がった索引カードの整理に没頭した。本人は、検索されることを前提としない言葉ほど長生きすると語っていたが、、慢性腎不全のためで死去した[6]。
死去後、遺稿『生きたメキシコに出てきた父の系譜』が同人誌経由で公刊され、そこに記された「語は人を選ぶのではなく、半径30メートル以内の空気を選ぶ」という一文が注目された。ただし、この遺稿の筆跡が複数あることから、本人単独の著作かどうかは今なお議論がある。
人物[編集]
宮下は温厚で寡黙な人物であったとされる一方、校正の話になると極端に細かくなったという。飲食店の卓上紙ナプキンにまで注釈を書き込み、知人からは「注釈で会話する男」と呼ばれた。
逸話として有名なのは、の講演会で「父という語は多くの場合、家族関係を示すより先に、映像の導入部で観客を不安にさせる」と述べたところ、聴衆の半数がメモを取り、残り半数が退席した事件である。本人はこれを成功例とみなしていたという[7]。
また、で注文したに対して「これには“生きている”要素が足りない」と言ったという証言が残るが、どこまでが事実でどこからが後年の尾ひれかは不明である。
業績・作品[編集]
宮下の代表作は、索引集『分類大全』である。これはからまでに採録した約を、視認性、連想汚染度、再読耐性の3項目で整理したもので、民間研究としては異例の体系性を持つとされた[8]。
そのほか、『メキシコという誤読』『父の出現論』『閲覧注意の民俗学』などがあり、いずれもで少部数印刷された。とくに『父の出現論』は、に関する章が全体の7割を占めるにもかかわらず、実際のメキシコ文化との関係はほぼ説明されていないため、後年しばしば「題名だけが正しい書物」と評された。
研究上の最大の貢献は、「生きたメキシコに出てきた父」を単なる奇妙な文字列ではなく、掲示板文化、映像断片、海外地名、家族呼称が短い圧縮過程で結晶化した複合語と捉えた点にある。宮下はこの語を、日本の情報環境が生んだ“意味の化石”と呼んだ[9]。
後世の評価[編集]
宮下の評価は二分されている。支持者は、彼が匿名掲示板文化の残骸を、単なる都市伝説ではなく資料批評の対象へ引き上げたとみなす。一方で、批判的立場からは、観測対象に対して過剰に意味を与え、結果として「怖さの説明書」を量産しただけではないかとの指摘がある[10]。
後半になると、大学のメディア研究や情報社会論の授業で、宮下の索引方式が引用されることが増えた。ただし引用されるのはたいてい「危険語の定義式」ばかりであり、肝心の本文はあまり読まれていないとされる。これは本人の「索引は読まれなくてよい。たどり着くためにある」という言葉と奇妙に一致している。
なお、にはの小規模展示で、宮下の手稿と索引カード約が公開され、来場者アンケートでは「内容より字面が強い」が最多回答となった。展示担当者は、宮下の仕事が今なお“検索されることの暴力”を逆照射していると総括している。
系譜・家族[編集]
宮下家はから続く印刷・装丁関係の家系とされ、父・宮下 恒一は活版印刷所の職工、母・宮下 玲子は地方紙の校正係であった。俊蔵は三人兄弟の長男で、弟の一人は後に図書館司書となり、兄の分類癖を最もよく理解した人物として知られる。
妻の宮下 里美とはに結婚し、二人のあいだに長女と長男がいる。家族は宮下の研究をある程度支持していたが、書庫の一角に「閲覧注意」と記された段ボール箱がも積まれていたため、生活空間としては不便であったという[11]。
家系図上では、祖母の宮下 ハルが期の貸本屋で働いていたことが判明しており、宮下が断片資料に執着した背景には、この祖母から受け継いだ「人の口に残るものは本より遅れて正しい」という家訓が影響したと推定されている。
脚注[編集]
[1] 宮下俊蔵『断片索引入門』私家版、2001年、pp. 12-19。
[2] 佐々木悠介「検索忌避語彙の成立と流通」『情報文化研究』Vol. 14, No. 2, pp. 44-61。
[3] 杉並区教育委員会『昭和末期の地域映像教材目録』1999年、p. 88。
[4] 『神田古書通信』第41号、神田古書連盟、1989年、pp. 5-7。
[5] 宮下俊蔵『検索忌避語彙の地理学』民間出版室、2004年、pp. 103-109。
[6] 「宮下俊蔵氏死去」『週刊資料保存』2011年9月10日号、pp. 3-4。
[7] 増田洋平『講演会の社会学』港区文化研究所、2005年、pp. 210-212。
[8] 宮下俊蔵・編『検索してはいけない言葉分類大全』断章社、2008年、pp. 1-8。
[9] 梶原ミドリ「意味の化石としてのインターネット初期語彙」『メディア考古学年報』Vol. 6, 第1号, pp. 77-95。
[10] Robert H. Elling, "Over-Interpretation in Vernacular Archiving," Journal of Digital Folklore, Vol. 9, No. 3, pp. 201-219.
[11] 宮下里美『父の書庫と台所』海鳴り出版、2014年、pp. 55-58。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 宮下俊蔵『断片索引入門』私家版, 2001.
- ^ 佐々木悠介『検索忌避語彙の成立と流通』情報文化研究所, 2007.
- ^ 宮下俊蔵『検索忌避語彙の地理学』民間出版室, 2004.
- ^ 梶原ミドリ『意味の化石としてのインターネット初期語彙』青灯社, 2012.
- ^ 増田洋平『講演会の社会学』港区文化研究所, 2005.
- ^ Robert H. Elling, "Over-Interpretation in Vernacular Archiving," Journal of Digital Folklore, Vol. 9, No. 3, 2016.
- ^ Susan P. Merrow, "The Mexico Father Phenomenon and Search Anxiety," Bulletin of Media Anthropology, Vol. 18, No. 1, 2014.
- ^ 『神田古書通信』第41号, 神田古書連盟, 1989.
- ^ 宮下俊蔵・編『検索してはいけない言葉分類大全』断章社, 2008.
- ^ 田所一樹『閲覧注意の民俗学』北斗館, 2010.
外部リンク
- 断片索引アーカイブ
- 検索忌避語彙研究室
- 民間映像資料協会
- 昭和語彙保存センター
- メキシコ誤読年報