第五呼吸街道
第五呼吸街道(だいごこきゅうかいどう)とは、日本の都市伝説に関する怪談である[1]。全国に広まった結果、噂が噂を呼び、ブーム期にはマスメディアでも「呼吸が増える道」として報じられたと言われている[2]。
概要[編集]
第五呼吸街道とは、夜間に特定の旧道へ出ると「人間の呼吸が一段階増えてしまう」とされる都市伝説である。目撃談では、道の端が薄く発光し、足音に合わせて胸が勝手に上下するという恐怖が語られると言われている[3]。
伝承によれば、通常の呼吸に加えて「第五のリズム」が身体へ入り込むため、翌朝に声が枯れたり、笑っているのに涙が出なかったりするとされる。また、同名の別称として「呼吸強制道路」「五息街道」「赤い余韻の路」とも呼ばれる[4]。なお、この話にまつわる怪奇譚では、正体が妖怪ではなく“道そのものの記憶”であるともされるが、妖怪説も根強い[5]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源については諸説があるが、最もよく引用されるのは明治末期の測量事業に関するという話である。明治政府の内務省土木局が、霧の多い地域で地形を確認するため、測量員へ「規定呼吸」を課したという“衛生指導”が始まりとされる[6]。この規定呼吸がのちに「第四まででよい」と言われながら、誤記録によって“第五まである”と解釈された、という話が広まったと言われている。
一方で、民間ではさらに前に遡るともされ、の港町で漁師が「潮の音が呼吸を数える」と恐れた言い伝えが元だとする伝承もある。いずれにせよ、噂の骨格としては「道に入る=身体のリズムを奪われる」という妖怪譚の型に寄せられていったと考えられている。
流布の経緯[編集]
全国に広まったのはの怪談ラジオ番組『夜道の五息』以降とされる。番組では、架空の取材記録として「午前0時17分に犬が一度だけ吠えたあと、呼吸が追いつくまで人が立てなくなった」といった目撃談が語られ、翌週には投稿ハガキが届いたと報じられた[7]。
このブーム期には、系の地方版で「街道の曲がり角で息が増える」という見出しが躍り、マスメディアが恐怖を再加工したと指摘されている。さらにには学習塾向けの冊子で“危険な道しるべ”として扱われ、学校の怪談として半ば制度化したとも言われている。
噂に見る「人物像」/伝承の内容[編集]
噂において第五呼吸街道へ向かう人物像は、共通して「呼吸を数える癖」や「不意に息が止まる経験」を持つとされる。たとえば、目撃談では大学生のが、合宿帰りの夜道で「4回吸ってから止めるはずが、気づくと5回目が入っていた」と語ったとされる[8]。
伝承の核心は、出没した“道の気配”が、通行人の体内リズムを調整するのではなく“上書きする”という恐怖にあると言われている。という話では、道端に落ちる枯れ葉が、踏むたびに「吸う/吐く」の音に似た規則性を持っていたという目撃談があり、数日後に聴覚過敏になったとされる[9]。
また、正体については二派に分かれている。一方では「路面に住む妖怪が、旅人の呼吸を餌としている」と語られ、もう一方では「かつてここで訓練が行われた軍用通信路の残響が、身体へ同期するだけ」とされる。いずれも、見つけた者が“戻ろう”とすると余韻が長く続き、不気味な沈黙が続くためパニックに陥ったと報告される。
委細と派生/派生バリエーション[編集]
委細として語られる事象は、やけに細かい数で記録されやすいのが特徴である。たとえば「街道の標識は全部である」「最初のカーブをで曲がると第五が始まる」「恐怖がピークになるのは」のように語られることがある[10]。
派生バリエーションとしては、(1)「橋の上だけ第五になる」説、(2)「自転車で通ると五息が倍化する」説、(3)「海風が強い夜ほど増える」説などが挙げられる。さらに“学校の怪談”としては、体育館裏の側溝を「第五街道の入口」と呼び、部活の帰りに覗き込むと息が勝手に増えると言われている[11]。
このように、同じ骨格の都市伝説が、地元の地形と接続されて変形した結果、出没ポイントが全国に増えたと考えられている。結果として、正体は妖怪とされる地域もあれば、伝承上は“道に刻まれた規定”とされる地域もあり、言い伝えの多様性が保たれた。
噂にみる「対処法」[編集]
対処法は、噂の性質上「呼吸を奪われる前に秩序を奪い返す」ことに焦点が置かれている。代表的には、第五が始まるとされるタイミングで「いったん息を“数えずに”止める」やり方である[12]。伝承では、吸う・吐くではなく“聞く”に切り替えることで同期が外れるとされる。
また、道端の発光が見えたら、持参した塩を地面へ落とし、地面の温度が戻るまで振り返ってはならないとされる。という話では、振り返った者の背中から“もう一人分の呼吸”が聞こえ、恐怖のあまり喉が締まったとされる[13]。
さらに、学校の怪談としては「呼吸紙(呼吸を描いた授業用ワークシート)を破って走って逃げる」といった具体的な行動が広まり、不気味な噂として校内掲示で引用されたとも言われている。
社会的影響[編集]
ブーム期には、地域の行政が注意喚起を試みたとされる。たとえば群馬県の一部では、夜間の立入禁止看板に「呼吸に関する噂があるため、用件なき通行を控えること」との文言が添えられたとされるが、公式発表では“安全管理”という言い換えになっていたと指摘されている[14]。
一方で、都市伝説が流布することで観光イベント化した地域もあった。真偽は定じがたいが、「第五呼吸街道のカウントウォーク」と銘打った夜間散策が企画され、参加者へは事前に“吸う回数を自己申告する用紙”が配られたという[15]。この企画は安全対策の面でも批判を受け、噂が現実の恐怖を刺激する例として語られた。
また、インターネットの文化としては、呼吸を文字列に変換するハッシュタグ運用が流行し、「今日は第4までで止まった」「第五が来た」などの投稿が続いたとされる。こうして怪談が言語化されることで、正体の議論よりも“個人の身体感覚の記録”が中心になっていったと推定されている。
文化・メディアでの扱い[編集]
マスメディアでは、恐怖の演出として“呼吸の音”が強調されることが多かったとされる。テレビの特集『深夜の怪談五息』では、視聴者に向けて「息を合わせて見てください」というアナウンスがなされたが、結果として苦情が殺到し、翌年には編集方針が変えられたと報道されている[16]。
文化面では、小説や漫画にも取り込まれている。たとえば『呼吸の五番目(全8巻)』では、主人公が第五街道の“声なき妖怪”と交渉する筋が人気になったと言われる。また、ラジオドラマ『標識十二本の夜』では、出没の瞬間を「信号機が点滅する」音響で再現したとされる[17]。
このように、妖怪譚でありながら身体性(呼吸)を扱うため、学校の怪談としても採用されやすかったと考えられている。さらに、インターネット上では「第五呼吸街道チェックリスト」が作られ、恐怖を遊びとして消費する動きも見られたとされる。
脚注[編集]
参考文献[編集]
※すべて架空の文献である。
[1] 町田涼香『呼吸で語る怪談図鑑:日本の五息譚』新潮ミステリー文庫, 2012年. [2] 山口一馬「『第五呼吸街道』報道と視聴者反応の分析」『怪談学研究』第22巻第1号, pp. 33-58, 2001年. [3] 河村真理子『夜道の発光現象と都市伝説の接続』東京学芸大学出版局, 2016年. [4] 野原啓太「標識の本数が増える理由:都市伝説の数え癖」『民俗言語の記録』Vol. 9, No. 3, pp. 101-127, 2008年. [5] 佐伯倫太郎『測量員の規定呼吸覚書』私家版, 1954年. [6] 井手弘「内務省土木局の衛生指導と“誤記”伝承」『明治都市伝説資料館報』第5号, pp. 12-44, 1999年. [7] 『夜道の五息』編『怪談ラジオ・アーカイブス(1978-1983)』NHK出版企画, 1984年. [8] 高橋絵梨「学生目撃談の構造:呼吸の自己報告」『身体感覚と噂』第14巻第2号, pp. 201-219, 2005年. [9] 松永昌宏「葉音同期仮説:第五街道の聴覚演出」『比較恐怖研究』Vol. 3, No. 1, pp. 77-96, 2010年. [10] 大西礼子『恐怖は秒単位で語られる:怪談の数値化』講談社学術文庫, 2018年. [11] 石田眞理「体育館裏の側溝と学校の怪談」『教育民俗学ノート』第7巻第4号, pp. 54-82, 2003年. [12] 『夜間安全指導資料(非公式付録)』群馬県地域安全推進室, 1991年. [13] 鳥居哲也「塩と振り返り禁止:呪具の現代改変」『都市伝説と小さな儀礼』pp. 145-173, 2014年. [14] 関口紘介「自治体の注意喚起文言にみる回避戦略」『行政広報と噂の地層』第11巻第1号, pp. 1-24, 2011年. [15] 前田幸生『観光化する怪談:カウントウォークの社会実験』青弓社, 2020年. [16] 神田直人「テレビ演出における身体刺激の是非」『放送倫理研究』Vol. 18, No. 2, pp. 210-240, 2002年. [17] 佐倉悠人『標識十二本の夜:音響で読む怪談』音楽之書房, 1997年.
外部リンク
- 第五呼吸街道 目撃談まとめ
- 五息ハッシュタグアーカイブ
- 夜道の安全研究(非公式)
- 怪談ラジオ『夜道の五息』掲示板
- 標識十二本 記録サイト