紅一点職業野球
| タイトル | 紅一点職業野球 |
|---|---|
| ジャンル | スポーツ、群像劇、青春、架空ルール野球 |
| 作者 | 黒川 透真 |
| 出版社 | 蒼林社 |
| 掲載誌 | 月刊ベースライン・ゼロ |
| レーベル | ソラノヴァ・コミックス |
| 連載期間 | 2008年4月号 - 2014年11月号 |
| 巻数 | 全14巻 |
| 話数 | 全86話 |
『紅一点職業野球』(こういってんしょくぎょうやきゅう)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『』は、末期に消滅したとされる女性混成リーグ「紅一点制度」を題材に、の興隆と崩壊を描いた架空のスポーツ漫画である。単なる野球漫画ではなく、試合ごとに選手の契約条項、用具検査、観客動員の算定法まで物語に組み込んだ点が特徴とされる[2]。
作中では、の下町球団「」に入団した女性投手・を軸に、選手会、球団経営、系の審査機構が複雑に絡み合う。作中の野球は九回制であるが、七回以降は「職能補正」が発動し、守備位置が職種ごとに再編されるという独自設定があり、読者の間では「野球をしているのに労働法を学ぶ漫画」と評された[3]。
連載初期は地味な社会派作品と見られていたが、の「赤土スタンド大崩落編」を機に人気が急伸し、は最終的にを突破したとされる。後年はテレビアニメ化、舞台化、さらには球場飯とのコラボイベントまで展開され、一部では社会現象となったと説明されている[4]。
制作背景[編集]
作者のは、もともと労使交渉を主題にした読み切りを得意としていたとされ、頃にの旧近くで見た少年野球大会をきっかけに本作の構想を得たという。だが本人はのちに、「野球そのものより、ベンチ裏で交わされる契約のほうが面白かった」と語ったとされ、この発言が作品の方向性を決定づけたとみられている[5]。
編集部は当初、女性選手が一人だけ在籍する設定を「やや説明過多」と判断したが、黒川は逆にその一人を物語の重心に据えることで、球界の規範と例外を可視化した。ここからタイトルの「紅一点」は単なる比喩ではなく、作中ではリーグ規約上の条文名として扱われることになった。なお、連載会議の議事録には「野球における一輪挿し的緊張感」という不可解な文言が残っている[6]。
作画面では、ユニフォームの縫い目や木製バットの木目が異様に細かく描き込まれており、編集長のは、単行本第3巻の帯で「試合より会計報告が熱い」と宣伝した。実際、初版は控えめだったものの、以降は地方球場での物販が伸び、特にので売られた限定しおりが高額転売の対象になったという。
あらすじ[編集]
東雲入団編[編集]
は、女子野球経験者でありながら「職業野球適性検査」でE判定を受けていたが、の育成枠制度により仮採用される。彼女は入団早々、打席に立つ前に就業規則の暗唱を求められ、チーム内の上下関係が監督ではなく「勤怠係」によって決まっていることを知る。ここで登場するは、外見こそ豪快な四番打者であるが、実は選手会の会計監査を担う人物として描かれる。
この編の見どころは、初登板で朱里が投げた球速よりも、球団側が彼女のロッカーに置いた労働契約書の厚さがあったことにあるとされる。読者の間では、彼女が「マウンドより先に印鑑を押した女」として語り継がれた。
紅一点条項編[編集]
リーグ全体で「各球団に一名のみ女性職業選手を登録できる」というが導入され、その運用を巡って各球団が奇妙な競争を始める。朱里は、紅一点であることを広告価値として押し出す球団と、戦力としてのみ扱おうとする首脳陣の板挟みになり、試合ごとに立場が揺らぐ。特にの戦では、相手ベンチが彼女の登場を理由に守備シフトを7回も変更し、観客動員がに達したという。
この編では、職業野球における「例外」が制度を変える様子が描かれ、朱里自身も条項の廃止ではなく再設計を目指すようになる。なお、終盤で条項改正案が提出される場面は、作中でも屈指の長台詞回として知られている。
赤土スタンド大崩落編[編集]
夏、の本拠地で観客席の一部が崩落し、試合どころではなくなる。だが本作ではこの事故が単なる災害ではなく、球場の下に眠っていた旧職業野球時代の「審査台帳庫」が露出する事件として扱われる。朱里たちは土砂の中から、29年の入場記録と、なぜか未使用の審判用白手袋を発見する。
ここで明かされるのが、紅一点条項が戦後復興の物資統制から派生したという、にわかには信じがたい経緯である。物語は一気に歴史劇の様相を帯び、球団のマスコットである狸が「古い野球は配給制だった」と喋り始めるが、この台詞は当時から要出典扱いであった。
登場人物[編集]
は、本作の主人公であり、右投げ左打ちの投手兼代走要員である。血気盛んである一方、試合後に必ず会計帳簿を読み返す癖があり、そのためファンからは「数字の見えるエース」と呼ばれた。
は東雲の主将で、強打者でありながら選手会の実務にも精通している。作中ではたびたび朱里に「打球は飛ばせても、規約は飛ばせん」と諭すが、本人は規約を一文字ずつ赤ペンで修正するほど几帳面である。
は球団広報で、紅一点条項のPRを担当する。実は試合の勝敗よりもグッズ売上を優先している節があり、朱里の背番号を「女性の一本足」と読んで販促に使ったことがある。
はリーグ統括部の査察官で、白い手袋と巻尺を持って球場を回る人物である。シリーズ中盤で彼が実は元捕手だったことが明かされ、ルールに厳しい理由が「現役時代に三度もマスクを割られたから」と説明される。
用語・世界観[編集]
は、本作の核心となる架空の制度で、各球団に一名だけ登録される女性職業選手を特別に保護する一方、同時に特別視もするという矛盾を内包している。作中ではこれがの附則17条として扱われ、試合前に審査印を押されるとユニフォームの肩章が少し赤く発色する仕組みになっている。
は、単なるプロ野球ではなく、選手が競技成績だけでなく労働技能、納税実績、地域奉仕点まで査定される制度である。勝率のほか、球団食堂での配膳速度、移動バスの清掃回数、ファンレター返送率が順位に影響するため、試合に勝っても球団会議で負けることが珍しくない。読者の一部は、この世界観を「野球版の官公庁」と評した[7]。
また、の地下には「旧職業野球文書庫」が存在し、そこから発見される資料の多くが、なぜか半券の裏に書かれている。作中ではこれを「観客の記憶が紙に定着したもの」と説明しているが、地質学的には極めて怪しい。さらに、球場の芝は試合前に必ず四分の一だけ刈り残されるという妙な慣習があり、これは「紅一点が最後まで残るように」という縁起担ぎだとされる。
書誌情報[編集]
単行本はのレーベルより刊行された。通常版のほか、各巻末に「球団会議録」が付属する初回限定版が存在し、特に第7巻は付録のミニスコアブック目当てに品薄になったという。
刊行ペースはおおむね年2巻であったが、第10巻から第12巻にかけては作者の取材による地方球場巡りが増えたため、間隔がやや空いた。なお、第14巻の帯には「最終話、まさかの9回裏から始まる」と書かれていたが、実際には8回表の回想が半分を占めていた。
書誌担当のによれば、初版帯の印刷ミスで「職業野球」が一時「職業野生」と組まれたロットが50冊ほど流通したとされる。これらは現在、古書市場で妙な高値がついている。
メディア展開[編集]
にはが発表され、深夜枠ながら平均視聴率を記録したとされる。アニメ版では試合シーンに3DCGが導入され、特に審査印が回転する演出が「無駄に荘厳」と話題になった。さらに、主題歌を担当したの歌詞に「バットより重い書類」という一節が入り、ネット上で二次創作が急増した。
には舞台化され、球場を模したステージ上で役者が実際に塁を回る演出が採用された。地方公演では観客が審判役を務める回もあり、最前列の客がストライクゾーンの幅を毎回変えてしまったため、千秋楽では舞台監督が「観客の判定は正しいが統一されていない」とコメントしたという。
また、とのタイアップで「朱里の勝利祈願弁当」が発売され、1か月でを売り上げた。球団公式サイトでは、選手よりも先に契約書のテンプレートがダウンロードできるという謎仕様があり、ファンからは「実用的すぎるメディアミックス」と揶揄された。
反響・評価[編集]
本作は、初期には「硬派すぎる」と敬遠されたが、職業野球の裏側を制度論として描いた点が研究者にも注目された。の報告では、スポーツ漫画でありながら労働契約のページ比率が全体のを占めるとされ、異例の高数値である。ファンの間では、勝敗よりも「今週の規約改定」のほうが盛り上がるという現象が確認された。
一方で、紅一点条項の扱いについては「制度の批判としては鋭いが、物語としてはやや残酷である」との指摘もあった。とくに朱里が優勝の瞬間にマウンドではなく事務局の承認待ち列に並んでいる最終話は、賛否が分かれた。しかし、この唐突な現実味こそが本作の魅力とされ、連載終了後も「球団経理回」だけを再読する層が一定数存在する。
総じて『紅一点職業野球』は、スポーツ漫画の文脈に官僚制、ジェンダー、地方興行、そして妙に細かな備品管理を持ち込んだ作品として評価されている。なお、後年の評論では「もしが総務課に配属されていたら」という比喩で語られることが多いが、これは比喩としてはともかく、事実としてはかなり怪しい。
脚注[編集]
[1] 連載開始時の公式告知による。
[2] 『月刊ベースライン・ゼロ』2008年5月号、編集後記。
[3] ただし、この定義は第4巻以降で徐々に変質したとする説もある。
[4] 売上推計には重版分と特装版を含む。
[5] 作者インタビュー『球場の裏で考えていたこと』による。
[6] なお、この議事録の所在は確認されていない。
[7] 一部の批評家は「野球ではなく球団行政の漫画」と評した。
関連項目[編集]
脚注
- ^ 黒川透真『紅一点職業野球 1』蒼林社, 2008, pp. 3-192.
- ^ 瀬尾 恒一「連載初期における制度野球表現の変遷」『月刊ベースライン研究』Vol. 12, No. 4, 2011, pp. 44-59.
- ^ 秋月しおり『ソラノヴァ・コミックス刊行誌の裏側』蒼林書房, 2015, pp. 88-113.
- ^ Margaret L. Henson, “Scarlet Clause and the Gendered Dugout,” Journal of Fictional Sports Studies, Vol. 8, Issue 2, 2016, pp. 101-126.
- ^ 黒川透真・田崎光二「球団経理と物語駆動型試合演出」『架空文化論集』第7巻第1号, 2013, pp. 17-35.
- ^ 佐伯みのり『アニメ化される制度漫画の条件』蒼穹社, 2014, pp. 201-229.
- ^ Robert J. Vale, “The One Scarlet Policy in Postwar Baseball Narratives,” University of Northchester Press, 2017, pp. 55-79.
- ^ 藤間雅彦「赤土球場崩落事件の地層学的再検討」『都市伝承地誌』第19巻第3号, 2018, pp. 6-21.
- ^ 黒川透真『紅一点職業野球 14』蒼林社, 2014, pp. 3-244.
- ^ 中野小百合『野球漫画における契約書表現の研究』風見館, 2020, pp. 140-167.
- ^ Eleanor Pike, “Baseball, Bureaucracy, and the Strange Red Shoulder Patch,” The Review of Imaginary Comics, Vol. 3, No. 1, 2021, pp. 9-28.
外部リンク
- 蒼林社公式作品アーカイブ
- 月刊ベースライン・ゼロデジタル書庫
- 東雲キャバリアーズ公式ファンクラブ
- 架空漫画年鑑データベース
- ソラノヴァ・コミックス特設ページ