肩こりカリカリ
| 名称 | 肩こりカリカリ |
|---|---|
| 読み | かたこりかりかり |
| 英語表記 | Kata-Kori Karikari |
| 分類 | 肩部筋緊張緩和のための擦過儀礼 |
| 起源 | 1968年頃 |
| 発祥地 | 東京都千代田区神田周辺 |
| 考案者 | 渡辺精一郎とされる |
| 主材料 | 竹製の薄片、松脂粉、温湿布 |
| 所要時間 | 1回7分から12分 |
| 関連機関 | 日本肩部衛生研究会 |
肩こりカリカリ(かたこりカリカリ)は、の緩和を目的として行われる、微細な擦過音と振動を併用する民間療法である。主に後期の都市部で広まり、のちにを中心とする健康文化として知られるようになった[1]。
概要[編集]
肩こりカリカリは、肩甲骨上部に竹片状の器具を軽く当て、一定の間隔で「カリカリ」と音を立てながら摩擦刺激を与えることで、凝り固まった感覚を散らすとされる療法である。施術者は患者の呼吸に合わせて圧を変えるのが基本とされ、音の大小が効果の指標になるという独特の体系を持つ[2]。
この療法は、当初は印刷所や製本所で働く職人のあいだで、長時間の前屈姿勢による肩の張りを和らげるために工夫されたものとされる。その後、の古書店街で評判になり、喫茶店の片隅で行われる「10分肩こりカリカリ」が流行したことから、都市型の簡易健康法として定着した。
成立史[編集]
通説では、に三崎町の製本工場で、渡辺精一郎が断裁後の竹端材を肩に当てたところ、摩擦音が一定のリズムを生み、作業者の緊張が緩んだことが始まりとされる。渡辺は当初これを「肩擦式」と呼んでいたが、工場の番頭が「カリカリと鳴るのがよい」と評したことから、現在の名称が定着したという[3]。
にはが設立され、肩こりカリカリの標準手順を定めた「第1版・肩部擦過指針」が発行された。同書では、施術者は右手に竹片、左手に松脂粉を持ち、肩峰の外側3センチ付近を1秒あたり2回の速度で擦過するよう推奨している。ただし、同指針の一部には「被験者が笑いをこらえた場合は、反応を見誤るおそれがある」と記されており、学術文書としては異例である[4]。
方法[編集]
基本手順[編集]
肩こりカリカリは、まず肩を温めたのち、型の小型木枠に固定した竹片を用いて、肩から首筋へ向けて短い往復動作を行う。標準的な一式は7分で、3分ごとに「休止拍」と呼ばれる無音時間を挟むのが特徴である。熟練者ほど音が小さくなるが、効果はむしろ高いとされている[5]。
器具[編集]
器具は「カリ板」「やわらぎ竹」「粉受け布」の三点で構成される。特にカリ板は、秩父地方の間伐材を薄く削ったもので、厚さは0.8ミリから1.3ミリの範囲が推奨された。なお、1970年代後半にはアルミ製の改良型も試作されたが、金属音が強すぎて利用者の評判が分かれ、普及には至らなかった。
普及と社会的影響[編集]
1970年代から1980年代にかけて、肩こりカリカリはの出版社、新聞社、電話交換局などの座業中心の職場で半ば公認の休憩法として広まった。特にの編集プロダクションでは、締切前の深夜帯に「カリ係」が置かれたという記録があり、1晩で14人を連続施術した事例も残されている[6]。
また、にはの生活情報番組で「音でほぐす肩の文化」として短く紹介され、翌週に問い合わせが1,200件を超えたとされる。この放送をきっかけに、肩こりカリカリは単なる職場の裏技から、家庭内の健康儀礼へと拡張した。なお、当時の主婦向け雑誌では「夫婦喧嘩のあとに行うと会話が再開しやすい」とまで書かれていたが、要出典とみられる。
学術的検討[編集]
研究史[編集]
の周辺で行われた小規模調査では、肩こりカリカリを受けた群の72.4%が「肩の存在を忘れた気がする」と回答したとされる。一方で、比較対象群との有意差は再現できなかったという報告もあり、効果の主因は音響による心理的予期であるとの説が有力である[7]。
批判[編集]
批判的立場からは、肩こりカリカリは実質的には軽擦法に独特の命名を与えただけではないかと指摘されている。また、1989年の通知草案では「器具の名称に比して、施術時間が短すぎる」として注意喚起が検討されたが、正式通達には至らなかった。
流派[編集]
肩こりカリカリには、主として「神田流」「深川流」「多摩式」の三系統がある。神田流は音の規則性を重視し、深川流は湿布との併用を基本とし、多摩式は自宅の木べらを転用する簡便さで知られる。いずれも共通して、施術の最後に肩を2回軽く叩く「締めカリ」を行う点が特徴である。
一方で、1990年代以降はヨガや整体の影響を受け、肩こりカリカリを行う前に深呼吸と首回しを組み合わせる「ハイブリッド・カリカリ」が登場した。これに対し古参の施術者は「音の純度が落ちる」と批判したが、若年層には受け入れられた。
現代の受容[編集]
に入ると、肩こりカリカリはオフィス向けセルフケアとして再評価され、内の文具店や雑貨店で簡易キットが販売されるようになった。2021年時点で、首都圏の健康雑貨売場の約3.8%に「音響ほぐし」コーナーが存在したとする業界資料がある[8]。
また、動画投稿サイトでは「30秒でできる肩こりカリカリ」が流行し、再生回数が200万回を超えた例もある。ただし、再生数の急増の多くは「猫が竹片の音に反応した」動画によるもので、純粋な療法需要を反映しているかは不明である。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『肩部擦過療法の実際』日本肩部衛生研究会, 1974年.
- ^ 佐伯康弘『都市労働者における肩こりカリカリの受容』生活衛生学会誌 Vol.12, No.3, pp.44-59, 1981年.
- ^ Margaret L. Thornton, "Rhythmic Scratching and Muscular Relief in Postwar Tokyo", Journal of Applied Folk Medicine, Vol.8, No.2, pp.101-118, 1987.
- ^ 日本肩部衛生研究会編『第1版 肩部擦過指針』東京肩部出版会, 1972年.
- ^ 黒田信之『神田古書街と手技文化』神保町文化叢書, 1990年.
- ^ 田島由紀子『音でほぐす:肩こりカリカリの心理的効果』臨床民俗研究 第5巻第1号, pp.9-27, 1994年.
- ^ 厚生省生活衛生局『擦過療法に関する通知草案集』官庁資料室, 1989年.
- ^ W. H. Mercer, "A Note on Karikari Pressure Patterns",International Review of Somatic Practices, Vol.4, No.1, pp.13-21, 2002.
- ^ 小林麻里子『オフィス健康文化と小器具の流通』現代消費研究, 第18巻第4号, pp.66-82, 2011年.
- ^ 中村和也『肩こりカリカリ入門 カリカリと肩は救えるか』東都生活新書, 2018年.
外部リンク
- 日本肩部衛生研究会
- 神田健康文化アーカイブ
- 都市民間療法データベース
- 肩こりカリカリ保存会
- 昭和生活術研究所