藻蔵生姜
| タイトル | 藻蔵生姜 |
|---|---|
| ジャンル | 発酵冒険、学園伝奇、料理バトル |
| 作者 | 桐原ユウキ |
| 出版社 | 白灯社 |
| 掲載誌 | 月刊リュミナ |
| レーベル | リュミナ・コミックス |
| 連載期間 | 2011年4月号 - 2018年9月号 |
| 巻数 | 全14巻 |
| 話数 | 全86話 |
『藻蔵生姜』(もくらしょうが)は、によるの。『』()において連載された[1]。
概要[編集]
『』は、の下町にある老舗乾物店を舞台に、海藻を用いた熟成技術「藻蔵法」と、特殊な生姜料理をめぐる争いを描いた作品である。作中では、生姜を沿岸の藻室で眠らせると、辛味が円熟した旨味に変化するという独自の設定が採用されている。
連載開始当初は地味な食文化漫画と見られていたが、で主人公がの干潟から直掘りした昆布床に手を突っ込み、発光する生姜片を取り出す場面が話題となり、以後は急速に読者層を拡大した。累計発行部数は時点で480万部を突破したとされる[要出典]。
題名の「藻蔵」は、海藻を意味する「藻」と、熟成庫を意味する「蔵」を合成した造語であるが、作中ではさらにの地下水路に由来する古語であると説明される。この設定は、編集部が作者に対し「もっとそれっぽい由来がほしい」と要望した結果生まれたとされる[2]。
制作背景[編集]
作者のは、もともと料理手順の図解で知られる短編漫画家であり、頃からの漁協資料館で行われていた発酵保存食の実演会に通っていたとされる。そこで見た「昆布で包んだ大根の数日熟成」が着想源となり、のちに「もし生姜を海藻の寝床で寝かせたら」という発想へ飛躍した。
また、初期設定案では主人公は高校生ではなくの倉庫管理主任であったが、担当編集のが「読者が胃もたれする」として修正を提案したという。結果として、舞台は郊外の調理科高校へ移り、料理対決と学園伝奇が混交する現在の形が定着した。
制作にあたっては、実在の発酵学論文を参考にしたと説明される一方、単行本第3巻の巻末では「藻蔵法は月の満ち欠けで辛味を調律する」と記されており、科学と呪術の境界が曖昧である。この曖昧さが作品の最大の特徴とされ、ファンの間では「説明されるほど分からなくなる漫画」として知られている。
あらすじ[編集]
藻蔵入門編[編集]
主人公は、の港町で祖母から受け継いだ乾物店を手伝う少年である。ある日、店の納戸から古い木箱を開けたところ、藻に包まれた一本の生姜と、手書きの「三晩で怒りが消える」と書かれた札を発見する。
生姜を口にしたレンは、相手の感情を微量に味覚として感じ取る能力を得る。彼はこの能力を使い、客の好みに合わせた「温情甘酢」や「逆上黒酢」を作り分けるようになるが、同時に謎の料理研究会「」に目をつけられる。
学園対決編[編集]
藻蔵の技法を体系化するため、レンはへ編入する。そこでは、調理実習室ごとに湿度・塩分・海藻の種類が管理され、各クラスが年4回の「熟成査定戦」を行う制度が敷かれていた。
最大のライバルであるは、氷温で生姜を眠らせる「零度生姜派」の継承者であり、両者はで校舎裏の昆布山において初対決する。対決で使用された生姜は1本あたり平均17.3グラム、塩水濃度は2.8%、熟成時間は69時間と妙に細かい。
海底蔵争奪編[編集]
物語中盤では、の海底に沈んだとされる伝説の熟成庫「」をめぐる争奪戦が描かれる。深藻蔵には、かつて期の海軍料理監督官が作成した「辛味を兵站に変える」秘伝帳が眠るとされ、潮目会だけでなくの外郭調査班までもが動く。
レンたちは小型潜水艇で海底へ向かうが、そこで発見されたのは生姜ではなく、なぜかで包まれた大量の干し柿であった。この回は読者から「一番おいしそうな回なのに一番意味が分からない」と評された。
登場人物[編集]
は、本作の主人公であり、感情の「辛味化」を読み取る能力を持つ。普段は無口だが、生姜を扱う場面だけ異様に饒舌になることで知られる。
は、調理科3年の首席で、冷却と密封による保存調理を極めた少女である。料理中に必ず白手袋を外さないという癖があり、これが後に「手袋を外す回=敗北回」の定番化につながった。
会長のは、表向きはの海藻加工業者であるが、裏では藻蔵法の禁術を研究している。年齢はとされるが、作中では三度ほど若返っており、戸籍上の年齢が話数ごとに異なるという珍事がある。
なお、マスコット的存在のは、生姜の妖精ではなく「藻の保管責任者」という設定で登場する。語尾に「〜もろ」と付けるだけの存在であるが、単行本では最も多くの人気投票票を得た。
用語・世界観[編集]
作中の中心概念であるは、海藻を密閉容器に敷き、生姜を低温多湿で熟成させる技法であると説明される。公式設定によれば、よりも、よりもが適する場合があり、熟成結果は月齢と潮位で変化するという。
世界観上、食材の「気配」を数値化する、熟成室の温度を歌声で制御する、そして仕込み中に失敗すると自動で謝罪文が印刷されるなど、実用性に疑問のある装置が多数登場する。これらの装置は第2巻以降ほとんど説明されないが、なぜか読者は受け入れていた。
また、作中では「辛味」「香気」「湿度」をそれぞれ別の通貨のように扱う経済圏が存在し、では生姜1片が一時的に小切手の代用品となる回もある。このあたりから、作品は料理漫画というよりも、保存と流通をテーマにした都市ファンタジーとして読まれるようになった。
書誌情報[編集]
単行本はのより刊行された。第1巻はに発売され、初版は2万部であったが、書店向け特典の「藻蔵レシピカード」が好評を博し、3刷まで伸長した。
第7巻には、連載時に話題となった「生姜の身代わりとして大根を熟成させる」エピソードが収録されている。なお、単行本化の際に29ページ分が加筆修正されたとされるが、その大半は背景に置かれた海藻の種類を描き分けただけであった。
最終14巻の帯には「辛味の終着点、ついに沈む」とだけ書かれており、内容を理解していない新規読者を大量に困惑させた。
メディア展開[編集]
には制作によりテレビアニメ化され、深夜帯ながら平均視聴率を記録したとされる。オープニングテーマはによる「潮騒の下味」で、サビの直前に毎回3秒間だけ無音になる演出が「熟成の間」として話題になった。
また、の老舗味噌蔵とタイアップした限定商品「藻蔵生姜・潮だまり仕込み」が全国で8,400個販売され、アニメ終了後もやとのメディアミックスが継続した。実写ドラマ化の企画も一度進行したが、撮影初日に生姜を8時間冷凍しすぎたため中止になったという。
ゲーム化計画では、プレイヤーが湿度計を回して生姜を寝かせる携帯用ソフトが開発されたが、操作があまりに地味で発売延期を繰り返し、最終的には学会発表用のデモとして転用された。
反響・評価[編集]
本作は、当初は一部の料理漫画愛好家にだけ支持されていたが、の「藻の香りで過去の記憶が蘇る」回を境に、SNS上で急速に拡散した。特に「生姜を寝かせるだけで家族の確執が解ける」という展開は、深夜アニメファンよりも地方の漬物店主に刺さったとされる。
批評家のは本作を「発酵と情念の接続を描いた稀有な作品」と評し、またの報告書では「若年層の昆布購入率を押し上げた可能性がある」と推定された。しかし一方で、作中の科学考証については、海藻を蔵に入れるだけで会話能力が1.3倍になる描写に対し、複数の読者から疑義が呈された。
最終回放送後には、各地で「藻蔵法を実践した」とする自称熟成者が続出し、の直売所では昆布の一時的な品薄が発生した。なお、原作者はインタビューで「実際にやってもたぶんおいしいだけで、人格は変わらない」と述べたとされる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 桐谷玲子『月刊リュミナ編集史 2010-2018』白灯社出版局, 2019.
- ^ 緒方真澄『料理漫画と湿度演出』リュミナ書房, 2016.
- ^ H. Thornton, "Fermentation Imaginaries in Contemporary Manga," Journal of East Asian Popular Culture, Vol. 18, No. 2, pp. 44-67, 2019.
- ^ 海野玄斎『海藻熟成概論』潮文館, 2008.
- ^ 藤堂一成『辛味の社会学』東都学術出版, 2021.
- ^ M. Kisaragi, "The Moist Cellar Aesthetic in Post-2010 Comics," Pacific Review of Comics Studies, Vol. 7, No. 1, pp. 102-129, 2020.
- ^ 藍川りつ『アニメ化された発酵表現の変遷』白灯社メディア研究室, 2017.
- ^ 黒瀬拓也『藻蔵生姜 公式ビジュアルガイド』リュミナ・ブックス, 2015.
- ^ 岩倉千尋『食と記憶の境界線』港湾新書, 2018.
- ^ E. Watanabe, "Pickled Emotions and Tidal Storage," International Journal of Culinary Fiction, Vol. 4, No. 3, pp. 11-39, 2022.
外部リンク
- 白灯社作品データベース
- 月刊リュミナ公式アーカイブ
- 藻蔵生姜ファン研究会
- 藻蔵学園同窓会記録室
- 潮目会資料館