進研模試
| 分野 | 教育評価・学習計画 |
|---|---|
| 実施主体 | 進研ゼミ系統の試験企画機関 |
| 対象 | 中学・高校段階の学習者 |
| 試験形式 | 科目別筆記(マーク式中心) |
| 特徴 | 設問の難度を統計モデルで調整 |
| 主な用途 | 進路設計と学習量の再配分 |
| 派生機関 | 地方自治体と連携した学力モニタリング |
| キーワード | 偏差の可視化・学習ログ |
(しんけんもし)は、の学習塾業界で広く用いられる模擬試験の名称である。もともとは受験指導のための統計調査として構想され、のちに「志望校適性」測定の枠組みに発展したとされる[1]。
概要[編集]
は、模擬試験という形式をとりつつ、設問・解答・学習履歴を結びつけて「学習の癖」を可視化する枠組みとして説明されることが多い。とくに採点後に提示される結果表は、志望校の系統別に“次に伸ばすべき単元”を割り当てる設計であるとされる。
成立の経緯は、1970年代後半にへ本部を置く学習データ研究班が、個別指導塾の行き当たりばったりな教材選定を「計測可能」にする必要性から着想した、と伝えられている[2]。その後、試験問題は単なる難易度調整ではなく、解答パターンの統計分岐(いわゆる“解き方の癖”)を前提に改訂されるようになった。
ただし、当初の理念は“学力の現在地”ではなく“学力が次に変化する方向”を見通すことに置かれていた。そのため、結果が良いほど「次は簡単な問題を避けて中距離の演習を増やす」といった逆説的助言が出る構造が、後年には一部で物議を醸した。
歴史[編集]
起源:赤ペン連動の“街頭データ収集”計画[編集]
の原型は、にあった民間研究室「学習適応計算室」が、1978年に提案した「赤ペン連動データ収集」計画にあるとされる[3]。この計画では、模試答案を返却する際に赤ペンの入力量をサンプル化し、さらに返信用封筒に付けた“消印タイムスタンプ”から解答時間帯の偏りを推定する方式が検討された。
実務面では、郵便物の消印時刻を秒単位で解析するため、の協力を得て、全国の試験会場から「同一タイムスタンプ幅に収まる郵送波形」を集める必要があったとされる。これにより、模試は試験問題を配るだけでなく、回収運用そのものが統計モデルの一部になった。
この仕組みが完成したのは1981年とされ、当時の試作版は“全科目で合計120,480問”を擬似生成するテスト設計として広報された。しかし実際には、印刷工程の都合で「半分の設問が紙の繊維方向により難度が揺れる」問題が見つかり、そこで現場は“繊維方向補正”を独自に導入したという。のちにこれが、設問の見かけの難度ではなく、解答者の癖を読み取る発想へとつながったとされる(ただし資料の所在は不明である、とする指摘もある)[4]。
発展:適性工学と“偏差の反転表示”の導入[編集]
1989年、進研側の編集委員会「適性工学編集会議」が設けられ、模試結果に“偏差の反転表示”が導入されたとされる[5]。これは、偏差値をそのまま並べず、志望校群ごとに「伸びしろ期待」をスコア化し直す方式である。例えば偏差値が60前後の受験者には、志望群E(中堅上位)で“次の成績上振れが期待される”と表示される一方、偏差値が高い受験者には志望群Aで“次は横ばいの確率が高い”と表示されるように設計された。
この反転は学習者に誤解を生むとして批判されたが、会議では「努力が必要な場所へ誘導するため」と説明された。具体的には、結果の冊子は32ページ構成で、うち12ページ目に“学習の方向転換提案”が配置される。さらに提案文は文長を統一するため、1文の目標文字数を平均24字に揃えた、と社内資料で言及されたとされる[6]。
その後、2000年代に入ると、の試験センターで試験監督の業務ログを分析し、着席開始から最初の答案記入までの時間を「集中開始指数」として扱うようになった。ここで得られた指標は、解答の正誤だけでなく、途中で迷った単元の位置特定にも使われたと説明される。
社会への影響:地方自治体との“学力温度管理”連携[編集]
が社会に与えた影響として、自治体との連携が挙げられる。たとえばでは、2007年から「学力温度管理事業」に参加し、学校ごとの結果を“冷え”と“温まり”に分類して教材配分の意思決定に活用したとされる[7]。この制度では、学力の季節変動を統計的にならすため、模試の実施月を原則として「6月・10月・1月」の3回に固定した。
しかし、固定化は“学力が寒いときだけ対策する”という逆転思考を生み、学校現場では「温度が上がる設問ばかりを演習させる」弊害が問題視された。そこで、反対に“温度が下がる設問”を敢えて混ぜる方針が検討されたが、当時の保護者説明会では「それは教育ではなく抽選だ」との声も出たという。
一方で、連携によって学習資源の再配分は透明化されたとも言われる。試験結果の公開手順が細かく定められ、提出物の締切は「実施の翌週木曜17:00」といった運用ルールまで文書化されたとされる。なお、この時期の運用文書は一部が検索不能である、とする指摘がある[8]。
仕組み[編集]
は、通常の模擬試験のように科目ごとの設問を解答させ、得点に基づく順位や判定を出す。ただし特徴として、設問は“正答率”だけでなく“誤答の文型”まで前提に作られているとされる。たとえば数学では、計算ミスの種類を「符号」「分配」「単位換算」の3系統に分類し、国語では誤読のパターンを「指示語」「接続語」「比喩の根拠」の3系統で追う設計が採用された、という。
採点後のフィードバックでは、結果表に3層のコメントが表示される。1層目は「到達度」、2層目は「次の単元」、3層目は「学習行動の再配分」であるとされる。ここで行動再配分は、毎週の演習比率を分解して提示される。例として、国語を伸ばす場合に「現代文55:古典25:記述20」のような比率が示されるが、これは当時の編集会議で“分数を嫌う学習者”がいることがわかり、比率が小数でなく整数に固定されたためだと説明される[9]。
さらに、点数のよい/悪いにかかわらず「見直しログ」を提出させる運用が導入された時期もある。紙の提出物はA4で最大7枚とされ、余白には“間違いの再現手順”を1行で書かせる、といった細則があったとされる。ただし、その運用が全国一律だったかどうかは、回覧資料が断片的に残っているのみであるという[10]。
問題点と批判[編集]
には、データ駆動の利点がある一方で、評価の“設計”が学習者に与える影響が過剰に強いのではないか、という批判がある。とくに反転表示に関しては、「伸びると言われたのに、実際には偏差が下がった」という報告が少なくないとされる。
また、学習者の行動ログを重視するほど、家庭での学習が“模試向け最適化”に寄ってしまう懸念も指摘された。たとえば英語では、リスニングの弱点よりも「設問文の選択に影響する語彙の揺れ」を先に矯正するよう助言が出る場合があり、現場では「会話能力ではなく“設問処理能力”が伸びるだけだ」という声が上がった。
ただし、これらは単純な悪影響としてだけ語られたわけでもない。データを用いたフィードバックは、家庭での学習計画の不確実性を減らしたという評価もある。とはいえ、当時の自治体連携で用いられた分類語が学校ごとに微妙に違うことがあり、「同じ言葉でも意味が違うのでは」と疑われたこともある[11]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田中眞一『学習評価の統計設計:模擬試験の反転表示に関する研究』教育出版, 1996.
- ^ 佐藤由紀『赤ペンと消印:答案回収データの工学的活用』日本郵便学会誌, Vol.12, No.3, pp.41-58, 1987.
- ^ 山口克己『学習適応計算室の記録:1970年代後半の街頭データ収集構想』文京教育研究叢書, 第2巻第1号, pp.11-33, 1991.
- ^ Katsumi Yamaguchi, “Fiber-Direction Correction in Printed Test Items”, Journal of Assessment Engineering, Vol.4, No.2, pp.77-92, 1990.
- ^ 進研適性工学編集会議『適性工学と志望校群スコアの再設計』進研ゼミ研究資料, 2001.
- ^ M. Thornton, “Reverse-Deviation Interpretation in Educational Feedback”, International Review of Learning Metrics, Vol.19, No.1, pp.120-145, 2005.
- ^ 横浜市学校教育課『学力温度管理事業の運用報告書(試行版)』横浜市, 2009.
- ^ 岡田明子『解答パターン分類の設計思想:誤答文型からの推論』国語評価研究, 第7巻第4号, pp.203-229, 1998.
- ^ 進研ゼミ試験センター『A4七枚ルールと見直しログ運用:平成の微小規定集』進研センター技術報告, 2012.
- ^ The Shinken Panel, “Concentration Start Index and Item Sequencing”, Asian Journal of Educational Operations, Vol.8, No.6, pp.9-27, 2016.
外部リンク
- 進研模試アーカイブ
- 適性工学編集会議データ閲覧室
- 学力温度管理ポータル
- 模擬試験設問工学Wiki
- 赤ペン消印統計サイト