X歴元年1月1日
| 名称 | X歴元年1月1日 |
|---|---|
| 別名 | 元日ゼロ補正日 |
| 位置づけ | X歴の起算日 |
| 制定 | 1934年ごろの暦改正試験 |
| 提唱者 | 黒川 省吾 |
| 所管 | 内務省 臨時暦式審査室 |
| 初出文献 | 『X歴試案報告書』 |
| 関連制度 | 補日制度・二重元号制 |
| 象徴物 | 白紙の年号札 |
| 記念行事 | 暦橋渡り |
X歴元年1月1日(えっきれきがんねん1がつ1にち)は、の起点とされる日付であり、後世の暦学者のあいだで「最初に日付として自立した1日」として知られている[1]。一般にはの年号制度に由来するとされるが、実際にはの旧・時刻標準研究所で作成された実験暦が発端であるとされる[2]。
概要[編集]
X歴元年1月1日は、X歴における最初の日付である。暦学上はのであるが、実務上は前年末の23時40分からすでに準備日として扱われ、役所・学校・鉄道の三者で日付の切替時刻が異なっていたとされる[3]。
このため、同日をめぐっては「年の始まり」ではなく「年号の始まり」であるとの解釈が広まった。なお、当時の新聞ではの深夜速報によりこの日付が全国へ浸透したとされるが、放送局内の回覧では「実験終了後、元に戻すこと」と赤字で補記されていたという[4]。
成立の経緯[編集]
X歴の構想は、初期に流行した「可逆暦」研究の一環として生まれたとされる。可逆暦とは、年度末に暦を巻き戻すことを前提とした制度であり、の実務簡素化案として検討されたが、実際には役人の押印回数を減らすことが主目的であったとする説が有力である。
中心人物は、出身の暦法学者・黒川省吾である。黒川はからにかけて、の下宿で毎夜23時台に紙片を切り貼りし、暦月の境目を単位で再定義する試案を作成した。彼の草稿には「元年の1月1日は、まだ意味を持たないが、意味を持たせるには最適である」とあるとされ、後年この一文だけが妙に有名になった[5]。
制度[編集]
元年1月1日の扱い[編集]
X歴では、元年1月1日が暦の基準点である一方、同日を「未確定日」とする地方運用も存在した。たとえばでは港湾検疫の都合上、午前6時までを「前日扱い」とし、では商店街の帳簿締めに合わせて午前9時を新日付の開始としたという[6]。
補日制度[編集]
X歴の最大の特徴は、1月1日に先立つ「補日」が設けられた点である。これは上では存在しないが、各省庁の内部文書では「元年の空白を埋めるための暫定日」と記されていた。補日はのちに3日増え、最終的に5日分まで拡張されたため、制度設計の時点ですでに破綻していたと指摘されている。
社会への影響[編集]
X歴元年1月1日は、の利息計算、のダイヤ改定、の始業式にまで影響を及ぼしたとされる。特にでは、切符の発売窓口が「元年札」と「旧年札」に分かれ、駅員が紙片を振ってどちらを採用するか決めていたという逸話が残る。
また、地方自治体では、この日を記念して朱印ではなく青墨で公文書に日付を書く慣行が一部で広まった。青墨は「新しい年号はまだ乾いていない」という意味を持つと説明されたが、実際にはの節約だったともいわれる。
論争[編集]
X歴元年1月1日をめぐっては、暦改正の正統性に関する議論が長く続いた。批判派は「元年の1月1日を定義するには、まず元年の前日が必要である」と主張し、支持派は「その矛盾を制度で吸収するのが暦である」と反論した[7]。
さらに、の一部寺院では、同日を「まだ一日も始まっていない日」として読み替える独自の法要が行われたとされる。この解釈は後にで「空白元旦説」と呼ばれたが、議事録の末尾に誰かが「やはり無理がある」と鉛筆で書き足していたことから、学術的評価は分かれている。
文化的影響[編集]
文学の分野では、X歴元年1月1日を題材にした短歌や随筆が散発的に現れた。とりわけ風の文体を模した匿名作家による『一日目の白紙』は、暦のない正月を描いた作品として一部で珍重された。
また、戦後にはの印刷工場で「X歴元年1月1日」と刷られた誤植ラベルが大量に出回り、これを切り貼りして年賀状に使う風習が生まれた。年賀状の片隅に「なお、これは試案である」と小さく添えるのが粋とされたという。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 黒川省吾『X歴試案報告書』内務省臨時刊行部, 1934.
- ^ 佐伯真一『可逆暦と近代官僚制』暦学出版社, 1971.
- ^ Margaret L. Henshaw, “Chronology Without Midnight,” Journal of Temporal Administration, Vol. 12, No. 3, pp. 44-68, 1988.
- ^ 高見沢修『元年の発明――日付の政治史』青灯社, 1994.
- ^ A. R. Bell, “The First Day Problem in Experimental Calendrics,” Proceedings of the Royal Society of Chronography, Vol. 8, pp. 101-129, 1962.
- ^ 内務省 臨時暦式審査室編『補日制度に関する覚書』官報附録, 1935.
- ^ 村井百合子『暦の切れ目と都市生活』港町出版, 2001.
- ^ 林田啓介『X歴元年1月1日をめぐる誤読』日本暦史学会紀要, 第17巻第2号, pp. 5-21, 2008.
- ^ Jean-Paul Viret, “White Paper New Year and Administrative Delay,” Revue d’Histoire des Dates, Vol. 4, No. 1, pp. 9-33, 1979.
- ^ 『一日目の白紙』編集委員会『一日目の白紙とその周辺』東都文化研究所, 2016.
外部リンク
- 日本暦学資料館
- 暦史フォーラム
- 元年研究会
- 空白元旦アーカイブ
- 東京時刻標準史料室