11.4x514mmINM弾
| 口径 | 11.4 mm |
|---|---|
| 薬莢長 | 514 mm |
| 弾頭形式 | INM複合芯弾 |
| 原型 | Møller-Navik試験弾 |
| 採用国 | ノルウェー、スウェーデン、アイスランド自治港区ほか |
| 初出 | 1919年ごろ |
| 用途 | 測距、対装甲標的、極地哨戒 |
| 特徴 | 低閃光・高貫通・寒冷地適性 |
11.4x514mmINM弾(じゅういってんよんかけるごひゃくじゅうよんみりめーとるいんえむだん、英: 11.4×514mm INM cartridge)は、第一次世界大戦末期の開発から派生したとされる、長寸の用弾薬規格である。主にの沿岸砲兵と極地探検隊のあいだで規格化が進んだとされ、後に「静かな穿孔力」を重視する用途で知られる[1]。
概要[編集]
11.4x514mmINM弾は、級の太径弾頭をの長い薬莢に収めた、非常に特殊な弾薬規格である。名称のINMは、当初はの略とされたが、後年になっての略であると主張する文献も現れ、定義が揺れている。
一般には「砲弾級の安定性を持つ小火器弾」と説明されることが多いが、実際にはで鹵獲された観測装置との機械工房が共同で考案した、半ば測距専用の装薬体系であったとする説が有力である。なお、弾薬自体よりも、これを扱うための分厚い真鍮製の薬莢ケースが有名になり、軍需倉庫ではしばしば“缶詰のような弾”と呼ばれた[2]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源はの冬、湾岸で行われた極地観測隊の試験に求められる。隊の照準士だったは、霧の中でも着弾音を遅延なく記録できる弾薬を求め、既存の相当の試作薬莢を切り詰めるのではなく、逆に極端に延長する設計を提案した。
この案は当初、艦砲の整備班から「薬莢が長すぎて弾倉に入らない」と一蹴されたが、の副主任が、弾倉に入れるのではなく観測塔の外部装填レールで運用すればよいと述べたことで通過したとされる。ここで用いられた試作弾が、後のINM弾の母体となった[3]。
規格化[編集]
、で開かれた北方弾薬会議において、11.4x514mmの寸法が暫定採択された。この会議では、薬莢底部の刻印を「INM」とするか「NIM」とするかで半日以上も揉めたが、議事録には最終的に「印字方向の都合によりINMを採用」とだけ記されている。
規格化の背景には、が冬季の巡視で、軽量弾では氷層を貫通できず信号弾にも転用しにくいという問題を抱えていたことがある。弾芯に硬化鉄とクジラ骨粉を混ぜた初期型は異様に高価で、1発あたりの製造費が当時のビール6.2本分に相当したという記録が残るが、これは後世の誇張だともいわれる。
普及と衰退[編集]
にはやの港湾哨戒で限定運用され、特に濃霧下での沿岸索敵に重宝された。弾道が比較的低伸で、着弾時の火花がほとんど出ないことから、密輸船の拿捕記録にしばしば登場する。
しかし第二次世界大戦期に入ると、より短く軽い級や級の汎用化が進み、514mmという薬莢長は物流上の負担として嫌われるようになった。終戦後も、の倉庫には未使用のINM弾が2,480発残っていたとされ、これらは1956年に農業用の防獣信号弾へ転用されたという、やや信じがたい記録がある[要出典]。
構造[編集]
INM弾の構造上の最大の特徴は、弾頭と装薬室のあいだに「安定帯」と呼ばれる空隙が設けられていた点である。これは寒冷地で装薬が均一に燃えにくいことを前提に、先に後部から燃焼を始めさせるための工夫であったとされる。
また、薬莢の肩部には微細な螺旋溝が刻まれており、発射前の振動で装薬粒子を一時的に整列させる効果があると説明された。もっとも、後年の工学誌では「実際には装填時の抵抗を増やすだけで、効果は神話に近い」と指摘されている。一方で、発射音が独特に鈍く、海霧の中ではラジオ越しの音源識別に向いたとする現場証言も多い。
運用[編集]
沿岸警備[編集]
沿岸警備用途では、11.4x514mmINM弾はと組み合わせて使用された。これは単なる銃ではなく、照準器と距離盤が一体化した据え置き式の装置で、発射後に反動を吸収するため、艇甲板に鋲で固定することが推奨された。
付近の記録によれば、ある哨戒班はINM弾で氷塊に穿孔し、その穴に赤い染料を流して潮流を読むという用途にも転用していたという。軍事用途と観測用途が混在したことが、この弾薬の評判を妙に高めた。
極地探検[編集]
の遠征では、食料庫の温度管理に失敗し、代わりにINM弾の木箱が断熱材として使われたとされる。箱1つあたりの重量が41.8kgもあったため、隊員の間では「弾薬より箱のほうが戦果を挙げる」と冗談にされた。
この遠征記録には、発射よりもむしろ薬莢を熱源として再利用した逸話が多く、朝の靴乾燥に2発、コーヒー保温に3発を回した日まであったという。こうした使い方は後に圏の山岳救助隊にも伝わったが、公式には採用されていない。
批判と論争[編集]
11.4x514mmINM弾は、その巨大な薬莢寸法ゆえに、当初から「弾薬というより金属工芸品である」と批判された。特にの軍需経済学者は、同規格の補給費が標準小銃弾の7.8倍に達すると試算し、実用化に疑義を呈した。
また、INMの略称が後年に付け替えられた件については、設計委員会が都合よく意味を変えたのではないかとの指摘がある。なお、1950年代に公刊された回想録のなかには「INM弾は、もともと港湾の倉庫番号11-4-514をそのまま規格名にした」と述べるものもあり、これはほとんどの研究者に退けられているが、完全には否定しきれていない[4]。
現代における扱い[編集]
現代では、11.4x514mmINM弾そのものが新規に製造されることはほとんどない。ただしやの民間軍事資料館では、展示用の空薬莢と復元銃が人気を集めており、特に薬莢底部の刻印を見せるための拡大鏡が常備されている。
また、北欧の一部コレクターのあいだでは、INM弾の木箱を改装して楽器ケースにする習慣がある。重量配分がよく、よりむしろの収納に適しているとされるが、実用性はともかくとして話題性は高い。2022年にはの骨董市で、未発火の試験弾が1発だけ3万1,000クローナで落札された。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ Erik S. Mikkelsen『The Northern Cartridge Compendium』Polar Press, 1964, pp. 88-121.
- ^ Hjalmar N. Berg『Ballistics for Fog and Ice』Royal Mechanical Institute Journal, Vol. 12, No. 4, 1927, pp. 201-219.
- ^ 渡辺精一郎『北方弾薬史序説』海鳴書房, 1978, pp. 34-67.
- ^ Ingrid Madsen『Economics of Unwieldy Calibers』Nordic Defence Review, Vol. 3, No. 2, 1958, pp. 15-29.
- ^ Lars K. Eide『INM弾薬莢底部刻印の変遷』Bergen Technical Papers, 第9巻第1号, 1949, pp. 5-18.
- ^ S. J. Thornton『Cold-Weather Propellant Behavior in Extended Casings』Journal of Arctic Ordnance, Vol. 8, No. 1, 1933, pp. 1-26.
- ^ 高橋みどり『極地観測隊と軍需転用の諸相』北海学術出版, 1989, pp. 142-177.
- ^ Osvald Rune『On the Alleged Warehouse Number Origin of INM』Proceedings of the Oslo Historical Society, Vol. 41, No. 7, 1961, pp. 302-305.
- ^ Margaret A. Thornton『A Treatise on Cartridge Length Anxiety』Cambridge Maritime Studies, Vol. 5, No. 6, 1970, pp. 77-90.
- ^ ヨハン・レーヴィン『薬莢はなぜ長いのか—11.4x514mmの心理学—』港湾文化評論, 第22巻第3号, 2001, pp. 11-39.
外部リンク
- 北欧軍需史アーカイブ
- ベルゲン海事博物館デジタル展示
- 極地弾薬研究会
- ノルウェー弾道資料室
- トロムソ民間軍事資料館友の会