114514
| 原型 | 民間無線の試験番号 |
|---|---|
| 成立 | 1920年代末頃 |
| 再流通 | 1990年代後半 |
| 主な用途 | 合図、反復、煽り、拍手の代替 |
| 関連分野 | 電信史、掲示板文化、数秘術 |
| 中心地 | 東京都千代田区、神奈川県横浜市 |
| 代表的受容 | ネット掲示板、動画コメント欄 |
| 派生 | 114514!、114514514、イイヨイイヨ |
114514(いちいちよんごーいち)は、日本のインターネット文化において、特定の反復構文を示す符号列、または拍子・合図・暗号として用いられた数列である。もとは大正末期の民間通信実験に由来するとされ、のちに2ちゃんねる系の掲示板文化を経て広く流通したとされる[1]。
概要[編集]
114514は、もともと符号語として扱われた四桁の反復数列であり、単純な数字列でありながら、口頭で唱えやすいことから合図や応答に転用されたとされる。特に、短い拍の連打を伴う「114-514」の区切り方が、当時の無線愛好家の間で好まれたという。
後年、この数列は掲示板文化に取り込まれ、意味の希薄さそのものが逆に強い情動を生む記号として再解釈された。なお、初期の使用例には、送信試験の成否を確認するための「自動応答番号」であったとする説と、東京電機大学系の学生サークルが作った暗号表に由来するという説があるが、決着はついていない[2]。
起源[編集]
114514の起源は、1928年に横浜港周辺で行われた短波通信の実地試験にさかのぼるとされる。当時、民間通信士の高橋寅之助は、雑音下でも口頭復唱しやすい番号を探しており、同じ母音構成が連続する「いちいち・よんごーいち」を暫定採用したという。
この番号が注目されたのは、単に覚えやすかったからではない。試験に参加した12名のうち9名が、なぜか読み上げのたびに笑ってしまい、記録係が「感情を誘発する符号である」と書き残したためである。のちにこの記録は国立科学博物館の未整理資料室で再発見されたが、紙片の端に「通称・イイヨ番号」とだけ書かれていたことから、後世の研究者をさらに混乱させた[3]。
また、昭和初期の鉄道関連記録にも、点呼の補助番号として「114514」が現れる。もっとも、これは運転保安上の正式番号ではなく、現場の検査員が独自に用いた便宜記号であったとされる。これが後に都市伝説的な広がりを見せ、鉄道省の内部文書にまで波及したとする説がある。
普及と変容[編集]
1990年代後半になると、114514はパソコン通信系の草の根ネットワークを介して再流通した。とりわけ東京都渋谷区のゲーム系サークルと大阪府の音声合成愛好家が、同じ数字列を異なる意味で使っていたことが、相互感染的な拡大を引き起こしたとされる。
この時期の特徴は、意味が固定されていないにもかかわらず、使用者同士が「わかっている前提」で反応し合った点にある。ある調査では、1999年から2002年の間に投稿された約18,400件の短文ログのうち、114514を含むものは全体の0.7%にすぎなかったが、返信率は通常投稿の3.2倍に達したという[4]。
さらに動画共有サイトの普及後は、コメント欄における「反復拍手」や「集団同意」を示す記号として定着した。これにより、114514は単なる数字ではなく、視聴者の温度感を示す民間メーターとして機能するようになったのである。
文化的解釈[編集]
114514をめぐっては、数秘術的解釈、民俗学的解釈、行動経済学的解釈が乱立している。数秘術派は、1・1・4・5・1・4という配列が「再帰」「ためらい」「接続」の三要素を含むと説明するが、実証的根拠は乏しい。
一方で、京都大学の疑似言語研究班は、114514が人間の笑いの閾値を下げる「音節並進効果」を持つと報告している。もっとも、この研究は被験者27名のうち19名が実験前に深夜ラーメンを食べていたため、要出典とする研究者もいる。
また、114514は「強い意味を持たないからこそ強い」と評されることがある。これは、大阪の漫才研究者片桐仁之助が提唱した「空白記号論」によるもので、記号が内容よりも場の一致を優先する場合に、最小限の数字列が最大限の共感を生むとされる。
社会的影響[編集]
114514の社会的影響は、インターネット上にとどまらなかった。コンビニエンスストアの一部店舗では、深夜帯のレジ待ちが長引くと客が番号を唱和する現象が報告され、神奈川県警察の生活安全課が軽く注意喚起を行ったという。
また、企業研修のアイスブレイクで「114514」を題材にしたワークショップが採用された例もある。参加者を4名ずつに分け、各自が1・1・4・5・1・4の役割を担う形式で、5分後には全員が何をしているのかわからなくなるという欠点が指摘されたが、チームの一体感は高かったとされる[5]。
さらに、横浜市の一部中学校では、数学の補助教材として「反復数列の発声練習」に使われた時期があった。ただし、これは正式採用ではなく、担当教諭が「授業が静かすぎる」と感じたために個人的に導入したものである。
批判と論争[編集]
114514は広く親しまれる一方で、その由来をめぐる論争も多い。特に、東京の文化批評誌『週刊記号観測』は、114514が本来の通信番号であったという説明に疑義を呈し、「後世の集合的想起が先にあり、起源は後から付与された可能性が高い」と指摘した[6]。
また、総務省所管の電気通信史研究会では、関連資料の一部が昭和戦前期の様式と一致しないことから、後世の写しである可能性が高いとされた。これに対し、擁護派は「写しであっても、114514の社会的実在性は揺らがない」と反論している。
なお、2010年代には「数字列を過度に神格化している」との批判もあったが、当の愛好家たちは「神格化ではなく、反復の美学である」と応じた。議論は平行線をたどり、結果として114514は、批判されるほどに増殖する典型例となった。
派生文化[編集]
脚注[編集]
脚注
- ^ 高橋寅之助『短波通信便覧 第3版』日本電報文化協会, 1931年.
- ^ 片桐仁之助『空白記号論と反復の美学』関西出版, 1998年.
- ^ Margaret A. Thornton, “Serial Numbers as Social Signals,” Journal of Media Semiotics, Vol. 12, No. 4, pp. 211-239, 2001.
- ^ 佐伯由里子『掲示板方言と記号の転生』青雲社, 2004年.
- ^ Kenji Aramaki, “The 114514 Phenomenon in East Asian Comment Culture,” Inter-Asia Studies Review, Vol. 8, No. 2, pp. 77-101, 2009.
- ^ 国立通信史編纂室『昭和前期 電信略号集成』資料篇第2巻, 2012年.
- ^ 渡辺精一郎『民間無線と笑いの統計学』東京計量学会, 2015年.
- ^ Eleanor V. Pritchard, “When Numbers Become Cheers,” Bulletin of Digital Folklore, Vol. 5, No. 1, pp. 19-44, 2017.
- ^ 『週刊記号観測』編集部『114514はどこから来たか』週刊記号観測別冊, 2019年.
- ^ 山城ノボル『イイヨ番号の神話学』みらい文庫, 2020年.
- ^ H. Saito, “A Study on the Curious Number Sequence 114514514,” Proceedings of the Society for Recreational Linguistics, Vol. 19, No. 3, pp. 301-318, 2022年.
外部リンク
- 日本記号民俗学会アーカイブ
- 昭和電信史デジタル館
- 掲示板文化研究室
- 東西数字伝承データベース
- イイヨ番号保存会