FFFFFFFFFFFFFF/Mくすぐり天国
| 分類 | 参加型触覚アート/符号化エンタメ |
|---|---|
| 成立とされる時期 | 1998年ごろ(試行) |
| 主な開催場所 | 東京湾岸の小規模会場、のち地方展開 |
| 想定参加者 | 10〜40名程度の半クローズド形式 |
| 使用媒体 | 圧電リズムパネル、符号化ディスプレイ |
| 運営主体(通称) | 「くすぐり天国実行委員会」(実態は複数社共同とされる) |
| 論争の焦点 | 安全管理と同意表示の曖昧さ |
| 関連領域 | 触覚ゲーム、符号詠唱、ユーモア政策 |
は、触覚刺激を“音楽”として再現することを目的としたとされる参加型エンターテインメントである。発想の源は符号化遊戯とされ、1990年代後半にの地下ホールを皮切りに拡がったとされる[1]。一部では、規約違反の“笑い”が社会問題化したとも指摘されている[2]。
概要[編集]
は、観客の反応(くすぐったい/笑ってしまう/止めてほしい等)を即時に符号化し、その符号を“次の刺激”へ変換する形式の催しとして説明されることが多い。実際には名称の中に複数の由来が混在しており、冒頭の「FFFFFFFFFFFFFF」は“無限に近い待ち時間”を表す内部コードだったとする説がある[1]。
運営側は、くすぐりを単なる身体刺激ではなく、リズム構造を持つ「触覚の聴取体験」であると位置づけている。とくにの「M」は“Manual(手動)”ではなく“Measure(拍)”であり、拍単位で刺激強度とリズムを同期させることが肝だとされる[3]。この理屈により、会場では音響と触覚が同一の設計図から派生するものとして語られた。
ただし、初期の運営資料では「笑いは保証されないが、笑いに近い反応は設計する」との記述が確認されているとされ、2010年代以降は倫理面の検討対象となった。結果として、体験者の同意表示や“停止合図”が、紙の注意書きだけに依存していた時期があったと批判されることもある[2]。
歴史[編集]
符号化遊戯としての誕生(「FFFFFFFFFFFFFF」期)[編集]
この催しは、1990年代後半に付属の“実験音響研究班”が、視覚を奪った状態でも拍の予測が可能かを検証する目的で導入した、試作装置の系譜だとされる[4]。当時、装置は圧電素子と小型ディスプレイを連結しており、符号列「FFFFFFFFFFFFFF」が“待ち”を意味するダミーパターンとして画面に表示されていたという。
しかし当該班が残した社内メモには、なぜ「待ち」が“くすぐり”に変換されたのかが曖昧に記されている。そこでは「反応が出るまでの遅延を、観客にとっての“物語”にする必要があった」とされ、待ち時間(平均0.73秒)が観客の笑い声の発生率と相関しているように見えた、と詳細な数字まで書かれていたと報告される[5]。後年、この相関は“偶然の再現性”ではないかと疑われ、編集者によって扱いが異なる章が出来た。
この時点ではまだ「天国」という言葉はなく、単に“符号化触覚実験”と呼ばれていた。ところが、港区の民間会場がスポンサー募集の際に「地上最速の拍(はく)天国」というコピーを使い、結果として一般応募が殺到したとされる。コピーが独り歩きすることで、以降の正式名称の前身になったと考えられている[6]。
Mくすぐり天国への分岐(手順が“拍”へ)[編集]
2001年、運営が外部化される過程で「手順の共通化」が問題になったとされる。初期は会場ごとに刺激手順が微妙に異なり、同じ人でも毎回別の体験になりがちだったため、参加体験の再現性を求める声が出た。そこで導入されたのが、刺激の開始・停止・強度変化を拍(Measure)単位で管理する規格である。
この規格案の作成に関わった人物として、当時のデザイナー(仮名として記録されることが多い)や、情報設計会社が言及されている[7]。特には、参加者の“笑いの兆候”を音声波形の立ち上がり速度で推定し、拍の1/8単位で次の刺激パターンを決める設計を提案したとされる。
また、運営が公開したとされる「安全停止」手順には、驚くほど細かい規定があった。具体的には、停止合図は“参加者の親指のタップ回数が3回に達した時点で、刺激装置の出力を最大で72%減衰させる”というものであったとされる[8]。この数字はその後、模倣イベントのパンフレットにも転載され、逆に“数字が細かいほど本当に安全そうに見える”という批判も生んだ。
ただし、当時の内部記録では、減衰72%は平均値であり、最小ケースでは59%まで下がる可能性があるとも記されていたという。ここが、後年の「同意の読み違い」論争に繋がったとされる[2]。
社会への波及と“笑い政策”の誤解[編集]
は、単なる娯楽としてだけでなく、企業研修や地方イベントへ“拡張可能なフォーマット”として持ち込まれた。2006年にはの商業ホールで、社員のストレス軽減を目的とした短縮版が試行され、参加者の自己申告で「翌週の離職意向が-4.2ポイント改善した」とする広報資料が出回ったとされる[9]。この-4.2は小数点第二位まであり、信憑性に関心が寄せられた一方で、後に“自己申告バイアスの疑い”が指摘された。
一部の自治体では、“笑いが増える場所に人が集まる”という単純な理解から、観光施策として採用された。ここで誤解が生じ、刺激設計が“楽しいから良い”にすり替えられたと批判された。特にでは、参加型イベントの注意表示に関するガイドラインが強化される以前に運営が走り、注意書きがA4一枚に圧縮されていた例があると報告されている[10]。
このような波及の結果、くすぐりが“健康行為”とみなされることが増えたが、その扱いには慎重さが求められた。のちに編集者の手元で「天国」という比喩が、過剰に楽観的に受け取られる危険をはらむ言葉であるという議論があり、名称そのものを巡る再編集が行われたとされる[1]。
体験の仕組み[編集]
では、参加者は半円状に配置され、刺激パネルは参加者の“背後にあるように見える位置”へ設置される。これは視線の方向が反応を左右するためであり、運営資料では視線の平均逸脱角が12度前後になるよう調整されているとされる[11]。
次に、催しは通常3ステージ(導入/拍合わせ/余韻)で構成される。導入では弱い振動が体表の同じ部位へ与えられ、参加者が“どの刺激に笑いが混ざるか”を学習する。拍合わせではの規格により、強度とリズムが同期し、参加者の呼吸のピッチ変化に合わせて次の拍が選ばれる、と説明されることが多い。
なお、余韻ステージでは“刺激を止めても笑いが残る”現象を活用する設計が採られるとされる。運営側はこれを「止まったのに続く拍」と呼び、終了の瞬間に音響のみをわずかに延長する。ここで、参加者の笑い声の平均持続が1.93秒であるという内規があり、模倣イベントがこぞって同じ値を採用したという逸話がある[12]。ただし、同内規は後年、データの母集団が“常連中心”だった可能性を示す注記つきで再確認されたとされる[2]。
批判と論争[編集]
最大の論争は、同意と停止の運用である。批判者は、注意書きの文面が「くすぐりは個人差がある」としながらも、停止合図が“手のタップ3回”に固定されている点を問題視した。タップが出せないタイプの参加者(緊張や身体状態の都合)に対し、停止が実務上成立しにくい可能性があると指摘されたのである[2]。
また、停止合図後の減衰が理論値では十分でも、実装では遅延が入り得るとされる。具体的には、装置の制御遅延が最大0.18秒あり、その間に刺激が完了するため、参加者が“止めたはずなのに感じる”と訴えることがあると報告された[13]。この指摘に対し運営側は「体験の質を守るため遅延は必要だった」と反論し、質と安全の優先順位を巡って対立が生まれた。
さらに、「FFFFFFFFFFFFFF」という内部コードが、単に演出のための暗号であるにもかかわらず、なぜか“身体への根拠づけ”として受け取られたという奇妙な誤解もあった。コミュニティでは、コードの先頭が多いほど“効き目が上がる”という俗説が生まれ、運営に新しい改造要求が殺到したとされる[5]。この流れが、結果として設計のブレを増やし、標準化と安全管理の議論をさらにややこしくしたといわれる。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 伊東恵理『触覚を聴く技法:拍と笑いの相関研究(Vol.3)』東京学術出版, 2007.
- ^ Katherine M. Rowe, “Tactile Rhythm Encoding and Participant Compliance,” Vol.12, No.4, Journal of Playful Systems, pp.113-141, 2012.
- ^ 山川慎一『〈天国〉という比喩の公共性:参加型刺激の言説史』国際文化政策研究所, 2015.
- ^ 渡辺精一郎『実験音響研究班の記録:FFFFFFFFFFFFFFの意味論』日本放送協会技術資料, 1999.
- ^ 佐伯明人『待ち時間0.73秒の物語化:符号化遊戯の初期報告』音響教育年報, 第8巻第2号, pp.55-77, 2004.
- ^ Li Wei, “Measure-Based Stimulation Protocols in Urban Microvenues,” Vol.7, No.1, Proceedings of Human-Centered Play, pp.20-39, 2009.
- ^ 【アルゴリズム・プレイスメント研究所】編『笑い兆候推定の実装指針(改訂版)』アルゴリズム・プレイスメント研究所出版, 2003.
- ^ 田村由香『停止合図はなぜ3回か:触覚装置の遅延と同意運用』日本生体情報学会誌, 第21巻第6号, pp.301-328, 2011.
- ^ 大阪市観光課『参加型体験の地域波及効果(仮説調査報告)』大阪市, 2006.
- ^ Rafael S. Ortega, “User-Controlled Humor Interfaces: A Cautionary Study,” Vol.3, No.9, International Review of Participatory Entertainment, pp.88-102, 2014.
- ^ 中村礼二『笑い政策の落とし穴:比喩と計測のズレ』日本社会体験学会論文集, 第15巻第1号, pp.9-26, 2018.
- ^ 李成勳『FFFFFFFFFFFFFF/Mの技術史(誤植版)』触覚工学社, 2016.
外部リンク
- くすぐり天国アーカイブ
- 拍合わせ設計ノート集
- 参加型刺激の安全ガイド倉庫
- 笑いの計測サンプル集
- 港区地下ホール実験記録