Fat bomb night cruz
| 結成 | 1998年 |
|---|---|
| 結成地 | 神奈川県横浜市・大黒ふ頭周辺 |
| ジャンル | ヒップホップ、低周波ラップ、ナイトクルーズ |
| 活動期間 | 1998年 - 2009年、2014年 - 現在 |
| 中心人物 | K-BOMB Taro、Mika Vortex、DJ Hachiro |
| 別名 | FBNC、夜走り系 |
| 関連施設 | 倉庫スタジオ「No.9 Deck」 |
| 代表的事件 | 湾岸低音騒音規制騒動 |
Fat bomb night cruz(ファット・ボム・ナイト・クルーズ)は、日本のヒップホップにおける地下クルーの一派で、夜間走行型の即興ラップと低周波重視のビートメイクを特徴とする集団である。1998年に神奈川県横浜市の湾岸倉庫街で結成されたとされ、のちに「重量級サウンド」の代名詞として知られるようになった[1]。
概要[編集]
Fat bomb night cruzは、深夜の湾岸道路を模したリズム構成と、車載スピーカーでの試聴を前提にしたミックス文化で知られるヒップホップクルーである。一般には横浜のストリート文化の一部として語られるが、実際には末に行われた中古車オーディオ展示会の余興から発展したとする説が有力である[2]。
名称の「bomb」は爆発物ではなく、重低音が「落ちる」様子を意味する業界隠語とされる。ただし、初期メンバーの一人が米軍放出品の迫撃砲箱に機材を収納していたことから、外部からはかなり危険な集団に見えたとされる[3]。この誤解が、かえって伝説化を促進したと指摘されている。
歴史[編集]
結成の経緯[編集]
結成は1998年春、神奈川県横浜市の近くにあった輸入タイヤ倉庫の夜間警備詰所で行われたとされる。警備員の休憩時間に、当時19歳のが12分間の即興を披露したことが契機で、同席していたが「夜にしか鳴らない音がある」と発言し、クルー名が半ば冗談として定着した[1]。
当初は4人組であったが、が1999年に8台のターンテーブルを1台のミキサーに直列接続する改造を行い、音圧が異常に増したため、以後は機材ごとにメンバーを数える慣習が生まれたとされる。なお、この時点で近隣の自動車修理工場から「低音による工具棚の共振」が3回報告されている[要出典]。
湾岸期[編集]
からにかけては、東京湾沿岸の埠頭や高架下で行われた非公認イベント「Cruz Session」が人気を集めた。観客は平均で147人前後であったが、主催側は車両のアイドリング音まで演出として扱い、ラップとエンジン音のBPMを一致させる「同期走行」が名物となった。
とくに品川区の倉庫群で行われた第6回公演では、霧が厚くなりすぎた結果、メンバーの姿が見えず、音だけで会場を移動する演出が偶然成立した。この出来事は後に「視覚の排除による純音圧化」と呼ばれ、都市型ヒップホップ史の転換点として扱われることがある。
拡大と分裂[編集]
以降、クルーは音楽活動だけでなく、深夜配送業者向けの車内BGM提供、即興広告、自治体の防犯啓発イベントなどに進出した。特に横浜市の交通安全キャンペーンでは、駐車場のラインをトラックの進路に見立ててラップする企画が採用され、参加者数は2日間で約8,400人に達したとされる。
一方で、音圧の主導権をめぐり内部対立が起き、には「ミックスは重いべきか、速いべきか」を巡って事実上の分裂状態に入った。これにより派生ユニットの「Fat bomb dawn cruz」と「Night cruz Annex」が生まれたが、両者とも2年以内に元のクルーへ合流した。合流の条件として、スタジオ床下に7.8トンの防振ゴムを敷設するという妙な契約が結ばれたと伝えられている。
音楽性[編集]
Fat bomb night cruzの音楽性は、を「聴く」より「乗る」ものとして設計している点に特徴がある。テンポは平均86BPMから92BPMであるが、ライブでは車両のアイドリングに合わせて一時的に104BPMまで引き上げられることが多かった。
歌詞は、湾岸の夜景、金属疲労、コンビニの照明、深夜の首都高速など、都市の無機質な要素を細かく描写することで知られる。また、韻の構造が物流伝票の項目数に対応しているという説があり、実際に一部の曲では16小節ごとに「着地」「検品」「再積み込み」といった語が反復される。これはが青年期に港湾荷役のアルバイトをしていた経験に由来するとされる。
社会的影響[編集]
クルーの影響は音楽業界にとどまらず、神奈川県内の中古車ショップ、深夜食堂、倉庫リノベーションの広告表現にまで及んだとされる。2000年代後半には、彼らのステージ構成を真似た「車内完結型ライブ」が若者向けイベントの定番となり、観客が降車しないまま鑑賞する文化が一部で定着した。
また、が2010年にまとめたとされる非公式資料では、夜間の高架下利用における騒音苦情の約18%がFat bomb night cruzの模倣イベントに関連していたと記録されている。もっとも、クルー自身は「音量ではなく密度の問題である」と反論しており、後年のインタビューでも「鼓膜ではなく、骨で聞かせるべきだ」と発言したとされる[4]。
批判と論争[編集]
最大の論争は、に東京都の某区で行われた深夜公演において、観客が低音に反応して駐車場ゲートを誤作動させ、約37分間にわたり周辺車両が脱出不能になった事件である。この件は「音響による小規模封鎖」として報じられ、クルー側は偶然の産物であると主張したが、会場設計図に低音増幅用の斜線が書き込まれていたとして、真偽を巡る議論が続いた。
また、女性メンバーのが前面に出ると動員が安定する一方、彼女のラップだけが異様に政治的であるとして、一部のファンから「夜景に労働問題を混ぜるな」と批判されたこともある。ただし、本人は「夜景そのものが労働の残光である」と応じ、むしろ支持を拡大した。
ディスコグラフィー[編集]
Fat bomb night cruzの代表作としては、の『No.9 Deck Session』、の『Harbor Bass Ordinance』、2008年の『Idle Lights, Full Tank』が挙げられる。いずれも自主制作であったが、ジャケット写真が異様に精密で、特に『Harbor Bass Ordinance』は港湾施設の配置を実測したかのような構図から、後に都市計画の資料として誤用されたことがある。
未発表音源としては『Mirrors on the Expressway』が有名で、これはを3周しながら録音されたとされる。ただし、3周目の終盤でナビゲーション音声がそのままサビに採用されたため、クレジット上は「共同作曲:車載GPS」と表記される稀有な作品となった。
メンバー[編集]
中心メンバーは、、の3人である。K-BOMB Taroは作詞と現場交渉、Mika Vortexはフロウ設計と対外発言、DJ Hachiroは機材改造と録音監修を担ったとされる。
ほかに、補助メンバーとして道路標識の設置を担当した「Sugi-P」、給電ケーブルの保守を行った「Aki 13」、車両誘導をしていた「Nori Terminal」などがいたが、役割が準メンバー扱いであったため正式なアルバムクレジットには載らないことが多かった。なお、彼らは一時期「クルーは9人なのか11人なのか」で揉め、最終的に「機材込みで12」とする暫定決着がついたという。
脚注[編集]
[1] 結成年には諸説あり、とする資料もある。 [2] ただし、展示会の正式記録は現存しない。 [3] このエピソードは後年のファンジンで広まった可能性がある。 [4] 当該発言の初出媒体は確認されていない。
脚注
- ^ 田島航『湾岸低音文化史』港湾音楽研究所, 2014.
- ^ M. A. Thornton, "Sub-bass and Urban Mobility in Late-1990s Japan", Journal of Transpacific Sound Studies, Vol. 12, No. 3, pp. 44-71, 2011.
- ^ 中村紘一『深夜倉庫と即興詩学』青灯社, 2009.
- ^ R. Feldman, "Cruising Beats: Vehicle-Acoustic Performance and Youth Identity", Sound & Society Review, Vol. 8, No. 1, pp. 5-29, 2007.
- ^ 横浜都市文化史編集委員会『大黒ふ頭周辺夜間表現活動記録』横浜未来出版, 2016.
- ^ 佐伯みどり『低音の政治学』晶文館, 2012.
- ^ K. Yamashita, "An Ordinance for Harbor Bass", International Journal of Maritime Musicology, Vol. 4, No. 2, pp. 118-133, 2015.
- ^ 長谷川勇『倉庫に響くラップの系譜』都市表現研究会, 2008.
- ^ E. Sato, "Night Driving as Performance: The FBNC Case", Pacific Urban Arts Quarterly, Vol. 19, No. 4, pp. 201-219, 2020.
- ^ 『車載GPSと創作行為の相関』日本音響民俗学会紀要 第23巻第2号, pp. 77-93, 2018.
外部リンク
- 湾岸サブベース資料館
- 横浜夜間文化アーカイブ
- FBNCファンジン保管庫
- 首都圏クルーズ音楽年表
- 港湾即興研究ネットワーク