Garden(1973)
| 作品名 | Garden(1973) |
|---|---|
| 原題 | Garden(1973) |
| 画像 | Garden_1973_poster.png |
| 画像サイズ | 240px |
| 画像解説 | 箱庭の門をくぐる少女たちのシルエット |
| 監督 | 神門啓二 |
| 脚本 | 神門啓二 |
| 製作会社 | 東雲フィルム |
| 配給 | 北辰映像配給 |
| 公開 | 1973年M月D日 |
『Garden(1973)』(ガーデン 1973)は、1973年M月D日に公開された東雲フィルム製作の日本のアニメーション映画である。原作・脚本・監督は神門啓二。興行収入は約41.7億円で[1]、第9回箱庭芸術賞を受賞した[2]。
概要[編集]
『Garden(1973)』は、冷戦期の幼少期を過ごした子ども達の記憶を、箱庭(はこにわ)という私的な空間に再配置することによって描いた作品とされる。画面は乾いた白と緑青(ろくせい)の中間色に寄せられ、登場人物たちが「庭」を作るたびに外界の恐怖が薄れていくという演出が特徴である。
本作の邦題は『箱庭の子供達』として流通したが、初期宣伝資料では題名の英語表記が先行しており、同名の児童文学の影響が指摘された[3]。もっとも、神門啓二は「Gardenとは、外に逃げられない人が、内側で増殖させる光のことである」と述べたとされ、解釈の幅を残す方向で編集が行われた。
製作面では、監督の希望により背景美術に微細な鉛筆ムラを残す方針が採られ、結果として彩色の均一性をあえて破る手法が採用されたとされる。これがのちに「箱庭エフェクト」と呼ばれる鑑賞上の合図となり[4]、上映環境によって色味が“揺れる”現象まで話題になった。
あらすじ[編集]
物語は、の郊外にある防空壕兼用の学童寮から始まる。少年は毎朝、寮の裏に残された廃材で箱庭の枠を組み、少女たちはそこに種を撒くふりをして「誓い」を置く。彼らは“庭が育つ条件”を、ラジオの天気予報の語尾や、配給表の余白に見つけた数字で読み替えていく。
やがて寮の外で、見回りが増える。町役場のは「不審物の持ち込み禁止」を通達し、同時にの撮影班が“教育映画の取材”名目で到来する。取材班が持ち込むカラーチャートは16区画で、庭の色を正確に合わせるよう求めるが、主人公たちはその数字に従うほど“庭の記憶が薄くなる”ことに気づく。
終盤、主人公たちは庭の中央に小さな時計の針を立てる。時計は実用ではなく、針が指す角度だけが「外の世界の正解」だと語られていた。だが針が一度も同じ角度を再現できないことが判明し、代わりに彼らは“ズレ”そのものを庭に定着させる。最後に庭が完成するが、完成したのは植物ではなく、子ども達が恐怖を数えなくて済むための手順であった、とされる。
登場人物(主要人物/その他)[編集]
主人公の少年・少女は、名前を作中で呼び合う回数が少ないように設計されている。これは「呼び名が外界の監視記録に似る」ためだと、作中の小さな台詞で説明される。
主要人物としては、箱庭職人見習いの少年、種の代わりに折り紙の“核”を置く少女、寮の先生でありながら通達文の語尾だけを覚えるが挙げられる。特に須藤ユイは、庭の色調を調整するたびに目を細め、16区画チャートの数字を“逆読み”することで世界の圧を弱めようとする役である。
その他として、の見回り役、通達を起案したの文書係、そして“教育映画取材班”のリーダーであるが登場する。取材班は当初、庭を「自然の再現」として撮りたいと語るが、撮影が進むほど庭の内側に侵入してしまう構図が描かれる。
声の出演またはキャスト[編集]
声の出演はオーディションの結果として記録されており、主人公格には俳優出身の声優が配置されたとされる。遠藤レン役は、須藤ユイ役は、久遠ミサ役はが担当したとされる。
佐々木警務官役には舞台俳優系のが配され、三原トオル役は低音が売りのであった。なお、庭の“時計の針”に相当する声(作中ではセリフのない効果音のように扱われる)は、制作担当が偶然録音した環状チャイムの素材を加工したものとされる[5]。このため、同じ上映でも聞こえ方が微妙に異なると評されることがある。
スタッフ(映像制作/製作委員会)[編集]
映像制作は東雲フィルムの第二制作部が担当し、製作は「+地域教育映像協会(仮称)+新聞文化社」の三者で進んだとされる。製作委員会の議事録は現存が確認されていないが、少なくとも提出用の企画書には“庭の管理指標”として、色・音・沈黙の比率が数式で記されていたとされる[6]。
スタッフとしては、背景美術の、作画監督の、色彩設計のがクレジットされる。特に色彩設計は、緑青と白の配合比を「7:3」と固定せず、上映初週だけ比率が0.2ずつ変化したとする証言があり、編集部が“わざと揺らした”と論評した[7]。
音響面ではが協力し、寮の廊下の反響を実測するため、撮影セットを実際にの倉庫で組み直したとされる。これが本作の「沈黙の厚み」を作った要因として語られる。
製作(企画/制作過程/美術/CG・彩色・撮影/音楽/主題歌/着想の源)[編集]
着想の源は、神門啓二が幼少期に経験した“配給表の数字遊び”にあると説明されている。彼は「外界は数字で管理されるが、子どもは数字を遊びに変える」と述べ、Gardenはその変換装置だと位置づけたとされる。
企画は当初、実写の教育映画として提出されていたが、の担当者が「庭という題材が抽象的で監督の意図が誤読される」と懸念し、アニメ化に切り替えられたという経緯が記録されている[8]。ここで“監視語彙”を物語から削る方針が立ち、代わりに天気予報の語尾だけを反復する演出が追加された。
美術では、箱庭の枠を作る木材を実際にから取り寄せ、加工痕を残すため紙やすりの番手を敢えて#120に統一したとされる。撮影はセル画と合わせ、照明の色温度を「昼光より0.8%青く」調整したという記録が残る。ただしこの数値は関係者の証言と一致せず、「0.8%ではなく8%ではないか」という差異も報告されており、編集者があえてその揺れを脚注に回したとされる[9]。
音楽はが担当した。主題歌「きみの箱庭(ひばり形)」は、作曲時点で歌詞が完成しておらず、まずメロディを“逆再生”した旋律に合わせて歌詞が後から付けられたという逸話がある。結果として、サビの語尾が息継ぎのタイミングから自然に外れるよう設計されたとされ、観客の拍手の間隔が劇場ごとに揺れたという。
興行(宣伝/封切り/再上映/テレビ放送・ホームメディア/海外での公開)[編集]
封切りはの第3週目に行われ、初動の配給実績は全国56館でスタートしたと記されている。宣伝ではキャッチコピーとして「庭は守るものではなく、忘れないために壊すものである」が掲げられ、ポスターには“庭の土の断面”が印刷された。土の断面は実際の砂を撮影して貼り込んだとされるが、現物の確認は難しく、後年になって複数の模写ポスターが出回った。
興行収入は約41.7億円で[1]、成人層よりも学生・教員層の支持が厚かったと報告されている。再上映は1978年にミッドナイト上映枠で行われ、黒帯フィルムの“色の沈み”が話題となった。テレビ放送では、の特集枠で視聴率が15.2%を記録したとされる[10]。
ホームメディア化ではレーザーディスクが先行し、初期盤で色が飛ぶ問題(DVD色調問題)が発生した。原因はマスタリングのガンマ補正の誤差で、修正版の色温度が「+3」に調整されたとされる[11]。海外公開は、北米と欧州ではタイトルを『Children of the Courtyard』として翻訳する版が存在したとされるが、配給元の資料には“翻訳方針が不統一”とだけ記されている。
反響(批評/受賞・ノミネート/賞歴・ノミネート歴/売上記録)[編集]
批評では、冷戦という時代の“恐怖の記号化”を子どもの視点で扱った点が評価された一方、庭の仕組みが象徴過多であるという指摘も出された。もっとも、当時の映画評論家は「抽象の説明を子どもに押し付けない」という点を強調している。
受賞歴としては、第9回箱庭芸術賞(アニメ部門)を受賞したとされる[2]。同賞の選考講評では「監視の言葉を“沈黙のリズム”に変換した」ことが明記された。また、翌年にはの若手論文賞に関連書(講義録)がノミネートされたとされるが、応募要項との整合がとれず、実際に選考されたのは別資料だった可能性も指摘されている[12]。
売上記録では、劇場パンフレットが初週で約12.4万部を超えたとされる。数字の正確性については議論があるものの、会計帳簿に「余剰在庫を切り分ける必要があった」との書き込みが残っていると報告された。編集者の一人は「売れたからではなく、庭の比喩が“使える言葉”として求められたのだろう」と書いた。
テレビ放送[編集]
テレビ放送では、前述の特集枠以外にも、地方局での“教育と映画”連動番組が組まれた。ここでは、本編に挟み込まれる形で、監督が制作図面を指し示す短いコーナーが設けられたとされる。
放送時の視聴者投稿は、番組で紹介されたものだけでも3,201通に達したとされる[10]。内訳は「庭の色が落ち着いた」という感想が1,487通、「沈黙の効果音が怖い」という感想が612通、「自分も数字遊びをしていた」という回想が903通であったと報告されている。ただし集計方法が明らかでなく、後年になって分類基準が変更された可能性も指摘されている[13]。
リバイバル放送では、誤差の少ない色再現を優先し、音声の中域だけを補正した“静かな版”が放送された。視聴者の間では「同じ映画なのに、怖さの輪郭だけが消える」と語られ、象徴が個人の経験に合わせて変形することを示す事例として取り上げられた。
関連商品(作品本編に関するもの/派生作品)[編集]
関連商品としては、映画パンフレットに加えて、箱庭の枠を模した組み立てキット(全24枚のカード部材)が販売されたとされる。キットには説明書が同梱され、紙面に“庭の管理指標”として色の割合や音の回数が書かれていた。数字が細かいほど正しい庭が作れるという誤解を誘ったことが、後年の批判につながったとされる。
サウンドトラックはLPとカセットでリリースされ、収録曲の並びが版によって異なる。特に主題歌の別テイクが収録された“夜明け録”盤は、通販でのみ売られたとされるが、販売網の資料が残っていない。また、作中の箱庭時計の針に相当する効果音を収録したという玩具は、メーカーが型番を統一しておらず、流通時期に差異があったとされる。
海外向けの派生としては、子ども向けの朗読CD『Garden, a Quiet Tutorial』が出版された。こちらでは“数字の遊び”が英語で解説されるが、語感の再現が難しく、結果として意味が少しずれるように翻訳されていると指摘された。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 神門啓二「『Garden(1973)』制作覚書:箱庭の沈黙」『東雲フィルム研究紀要』第12巻第3号, pp.11-34.
- ^ 北辰映像配給編『箱庭の子供達 興行記録抄』北辰映像配給, 1974年.
- ^ 佐久間理沙「冷戦記憶のアニメーション化:庭の比喩の系譜」『日本映像学会誌』Vol.28 No.2, pp.77-101, 1976.
- ^ 内海キヨト「背景美術に残る鉛筆ムラの機能」『アニメーション研究』第5巻第1号, pp.45-63, 1975.
- ^ 鳴瀬スタジオ「環状チャイムの録音と加工実験」『音響技術月報』第19号, pp.2-9, 1973.
- ^ 相馬ユカリ「色彩設計の揺らぎは演出である」『色彩工学レビュー』第3巻第4号, pp.201-219, 1977.
- ^ 三原トオル「取材班の編集方針:教育映画の誤読を防ぐ」『映画広報研究』Vol.9 No.1, pp.58-71, 1974.
- ^ K. Thornton『Symbolic Silence in Postwar Animation』Kestrel Academic Press, 1981.
- ^ Lars M. Hovland「Gamma Corrections and Audience Perception: A Case Study」『Journal of Media Calibration』Vol.7 No.2, pp.33-49, 1982.
- ^ 『NHK放送統計年鑑 1973』日本放送出版協会, 1974.
- ^ 編集部「DVD色調問題の系譜:静かな版の再現」『映像ソフト研究』第2巻第2号, pp.10-27, 2001.
- ^ 菊地篤「箱庭時計の物語機能:数字遊びの心理」『児童文化史論叢』第21巻第1号, pp.90-122, 1999.
外部リンク
- 東雲フィルムアーカイブ
- 北辰映像配給 作品データベース
- 箱庭芸術賞 レガシー
- アニメーション音響研究室
- NHK特集アーカイブ