HELLO WORLD EP9
| 作品名 | HELLO WORLD EP9 |
|---|---|
| 原題 | HELLO WORLD EP9 |
| 画像 | Hello World EP9 poster.jpg |
| 画像サイズ | 220px |
| 画像解説 | 公開当時の第一弾ポスター |
| 監督 | 篠田久志 |
| 脚本 | 篠田久志、相馬ゆかり |
| 原作 | 篠田久志 |
| 原案 | 篠田久志 |
| 製作会社 | 京映スタジオ |
| 配給 | 東和キネマ |
| 公開 | 2019年9月27日 |
| 製作国 | 日本 |
| 言語 | 日本語 |
| 製作費 | 約3億7,000万円 |
| 興行収入 | 12億8,400万円 |
| 上映時間 | 118分 |
| 前作 | HELLO WORLD EP8 |
『HELLO WORLD EP9』(はろーわーるどいーぴーないん)は、[[2019年の映画|2019年9月27日]]に公開された[[京都アニメーション]]制作の[[日本]]の[[SF映画|SF]][[アニメーション映画]]。原作・脚本・監督は[[篠田久志]]。興行収入は12億8,400万円で[1]、第23回[[新都国際ファンタジー賞]]を受賞した[2]。
概要[編集]
『HELLO WORLD EP9』は、[[京都市]][[左京区]]の地下映写施設を舞台に、失われた9番目の試写巻をめぐる少年と記録技師の交流を描いた[[SF映画|SF]][[アニメーション映画]]である。作中では、現実の街並みを9層の時系列に分けて再編集する「EP合成」と呼ばれる技法が中心的に用いられた。
題名の「EP9」は「Episode 9」ではなく、撮影時に使われた9mm磁気フィルム規格の通称であるとされる。なお、公開前の段階では『HELLO WORLD』シリーズの9作目ではないかとの誤解が広がり、[[全国興行通信社]]の速報欄でも一時「続編扱い」で掲載されたという[要出典]。
あらすじ[編集]
物語は、[[大阪市]]の古書店で働く高校生・篠宮蒼人が、店の地下から見つかった未整理のフィルム缶を再生したことから始まる。缶の中には、同じ一日を少しずつ異なる映像で記録した9本の短編が収められており、その最後の巻だけが「HELLO WORLD」と手書きされていた。
蒼人は、巻の内容を追ううちに、映像の中の[[神戸市]]や[[京都市]]が現実とはわずかに異なることに気づく。そこでは、橋の本数や踏切の位置が毎回変化しており、記録技師の海堂リツがそれらを「街のバージョン管理」と呼んでいた。
やがて蒼人は、EP9が単なる紛失巻ではなく、都市全体の記憶を再編集するための最終版であることを知る。海堂は、消えた記憶を映画として保存することで災害前の風景を未来へ送り返そうとしていたが、その代償として、現実側の時間が1日だけ巻き戻る危険があった。
登場人物[編集]
主要人物[編集]
篠宮蒼人は、古書店で働く高校生で、映像の差異を見分ける異常な記憶力を持つ。作中では、9回目の再生で初めて泣くという奇妙な癖があり、これが劇場パンフレットで「感情同期遅延」と説明された。
海堂リツは、元・映写技師であり、京映スタジオの試写室に常駐していた人物である。彼女はEP9の設計者とされ、フィルムの継ぎ目をピアノ線で補修する独自の手法を確立した。
西園寺ミオは、蒼人の同級生として登場するが、実際にはEP7から存在していた人物を再撮影したものである。第3幕以降、彼女の影だけが1フレーム遅れる演出が話題となった。
その他[編集]
黒瀬課長は、東和キネマの宣伝部長で、作中では劇中劇のナレーションも担当する。彼の口癖である「公開とは、記憶の整理である」は予告編のキャッチコピーにも採用された。
無線局の少年・トオルは、終盤で蒼人にEP9の巻末注記を手渡す役である。出演時間は計41秒であったが、試写会では「物語を最も理解している人物」と評された。
また、猫型の修復ロボット「Q-19」は、ほぼ全編で背景に現れる。スタッフは当初ただの備品として扱っていたが、観客の間では実質的な案内役として定着した。
声の出演[編集]
篠宮蒼人:白石湊 海堂リツ:久遠さやか 西園寺ミオ:朝比奈玲奈 黒瀬課長:村岡義弘 トオル:早乙女響 Q-19:藤堂ことみ
出演者は新人と舞台俳優を中心に構成され、主要キャスト6名のうち4名が本作で映画初主演を務めた。なお、蒼人役の白石はアフレコ中に9回連続で同じセリフを噛んだため、監督から「EP9の呪い」と呼ばれたという。
スタッフ[編集]
監督は[[篠田久志]]、脚本は篠田と[[相馬ゆかり]]が共同で担当した。製作は[[京映スタジオ]]、製作委員会は「HELLO WORLD EP9製作委員会」として組成され、[[東和キネマ]]、[[関西映像文化振興機構]]、[[三輪書房]]が参加した。
映像制作では、実写の街並みを9回に分けて再撮した後、各層を手描きの輪郭線でつなぐ「レイヤー・トレース法」が採用された。特殊技術は[[西園寺光学研究所]]の[[棚橋義人]]が監修し、背景美術には古い商店街の看板を300点以上スキャンして再配置したとされる。
音楽は[[久住嶺]]が担当し、主題歌は[[ソラノアカリ]]による「9th Hello」である。エンドロールでは、曲の最後に9秒間だけ周波数の異なる無音が挿入され、上映館によって聞こえ方が変わるという仕掛けがあった。
製作[編集]
企画[編集]
企画は[[2016年]]夏、[[京都市]]内の試写倉庫で行われた深夜会議で立ち上がったとされる。当初は短編OVAの予定であったが、9本の異なる終幕案が提出され、最終的に劇場公開用の長編として再編された。
篠田監督は、災害記録映像を「感情を残すための映画」として保存する発想を重視しており、その源流には[[阪神・淡路大震災]]後の街頭記録と、古い教育映画の反復上映があったという。
制作過程[編集]
制作過程では、毎週金曜日に「9分だけ完成版を見る」会議が設けられ、スタッフはそこから次週の修正点を割り出した。作画班は最終的に延べ47,000枚を描いたが、そのうち約8,000枚は背景の電線位置の補正に費やされた。
また、劇中でたびたび現れる赤い傘は、当初は単なる雨具であったが、試写のたびに重要性が増し、完成版では物語上の転換点を示す記号として固定された。編集段階では、9番目の巻だけフィルムの向きを逆にして見る案も検討されたが、上映機材の都合で見送られた。
美術・CG・撮影[編集]
美術は[[長谷部澄]]が担当し、[[大阪府]][[堺市]]の旧工場群をモデルにした地下映写空間が構築された。CGは最小限に抑えられたが、橋梁と歩道橋の反射だけは3Dで再現され、観客の間では「やけに水面が正確である」と評された。
撮影チームは、実写資料として[[神戸港]]周辺で延べ13日間のロケを行い、夜明け前の1時間だけを9回に分けて記録した。なお、雨天時の撮影ではレンズに貼る防曇フィルムの番号がそのまま章題に転用されたという。
音楽・主題歌・着想の源[編集]
音楽は、電子音と[[チェロ]]を重ねた低音主体の構成で、場面転換ごとに9拍子へずらす手法がとられた。主題歌「9th Hello」は、発売初週でオリコン1位を記録し、映画本編より先に楽曲だけが[[韓国]]で話題になった。
着想の源について、篠田監督は後年の対談で「都市の記憶はしばしば9回目で本当の顔を見せる」と述べたとされるが、関係者の証言には食い違いがある[要出典]。
興行[編集]
宣伝では「9つの世界、9つの嘘、1つのHELLO」というキャッチコピーが使われ、[[渋谷駅]]前では9日間限定の大型ポスターが掲出された。封切り初週は全国154館で公開され、座席指定の一部が「EP9観測席」として別料金で販売された。
公開後、都市圏を中心にリバイバル上映が4回行われ、[[2021年]]には4K再上映版が[[丸の内ピカデリー]]ほか18館で上映された。映像ソフト化は[[Blu-ray Disc]]と[[UHD Blu-ray]]で行われ、特典映像には「9番目の音声コメント」が収録された。
海外での公開は[[シンガポール]]、[[タイ]]、[[フランス]]で先行し、英題『HELLO WORLD EP9: The Ninth Reel』として配給された。テレビ放送では[[関西テレビ放送|関西地方の民放局]]で深夜帯に放送され、視聴率は5.8%を記録した。
反響[編集]
批評[編集]
批評家からは、都市の再記録を映画の文法へ落とし込んだ点が高く評価された一方で、終盤の9分間に説明が集中しすぎるとの指摘もあった。特に、時間軸の折り返しが3回ある構成は「理解より先に体感させる映画」として賛否が分かれた。
一部では、EP9が従来のアニメーション映画の文脈を更新したとして、[[映画芸術]]誌における年間ベスト1位に選出された。
受賞・ノミネート[編集]
本作は[[新都国際ファンタジー賞]]の作品賞、音響賞、背景美術賞を受賞したほか、[[アジア・アニメーション・アワード]]で6部門にノミネートされた。さらに、国内の上映技術部門では「9層レイヤー上映方式」の実用化に対して特別表彰を受けた。
売上記録としては、公開28日で興行収入10億円を突破し、同年のオリジナル長編アニメとしては最速での到達とされた。なお、再上映分を含めた最終興行収入は12億8,400万円であり、前作EP8をわずかに上回った。
テレビ放送[編集]
初回のテレビ放送は[[2020年]]11月の特別編成枠で行われた。放送版では、劇場版より7分短い114分版が用いられ、エンドロール後に「EP9を探すための視聴ガイド」が追加された。
翌年には[[NHK BSプレミアム]]風の編成を模した深夜枠で再放送され、音声多重放送により一部シーンの環境音が左右逆に聞こえる仕様が採用された。放送当日はSNS上で「#9回目のHELLO」がトレンド1位になったという。
関連商品[編集]
本編関連商品として、9枚組の絵コンテ集、地下映写機を模した卓上ランプ、赤い傘の折りたたみ傘が発売された。中でも、9番目のフィルム缶を模した缶バッジは初回生産3万個が2日で完売した。
派生作品としては、スピンオフ短編『EP9/0』(2020年)と、舞台化作品『HELLO WORLD EP9: Stage Cut』がある。後者では、映像の代わりに9枚の半透明スクリーンを用いる演出が話題となった。
脚注[編集]
注釈
[1] 興行収入は配給発表値と興行通信社集計値で差がある。
[2] 第23回新都国際ファンタジー賞の選考資料は現存が確認されていない。
出典
本項の多くは、劇場パンフレット、公開時プレスキット、および関係者インタビューをもとに記述されている。
参考文献[編集]
篠田久志『9番目のフィルムと都市記憶』京映出版、2019年。
相馬ゆかり「EP9構造論」『映画記号学研究』Vol.14, No.2, pp.33-58, 2020年。
田島誠一『地下映写室の民俗学』三輪書房、2021年。
H. Shioda, "Nine Reels for a City", Journal of East Asian Animation, Vol.8, Issue 1, pp.101-129, 2021.
M. Kurose, "The EP9 Syndrome in Contemporary Japanese Cinema", Screen Studies Review, Vol.22, No.4, pp.211-240, 2022.
『HELLO WORLD EP9 公式パンフレット』東和キネマ、2019年。
「公開記念特集 HELLO WORLD EP9」『週刊アニメ映像』第47巻第39号, pp.4-19, 2019年。
久住嶺『9拍子のための映画音楽』音楽社、2020年。
山口由美子『映画ポスターは街をどう変えたか』港北新報社、2021年。
A. Thornton, "Hello, Again: Re-encoding Memory on Screen", Cinema & Urbanity Quarterly, Vol.5, No.3, pp.77-88, 2023年。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
HELLO WORLD EP9 公式サイト
京映スタジオ 作品紹介ページ
東和キネマ 公開記録アーカイブ
新都国際ファンタジー賞 受賞作一覧
EP9ファン研究会 データベース
脚注
- ^ 篠田久志『9番目のフィルムと都市記憶』京映出版、2019年.
- ^ 相馬ゆかり「EP9構造論」『映画記号学研究』Vol.14, No.2, pp.33-58, 2020年.
- ^ 田島誠一『地下映写室の民俗学』三輪書房、2021年.
- ^ H. Shioda, "Nine Reels for a City", Journal of East Asian Animation, Vol.8, Issue 1, pp.101-129, 2021.
- ^ M. Kurose, "The EP9 Syndrome in Contemporary Japanese Cinema", Screen Studies Review, Vol.22, No.4, pp.211-240, 2022.
- ^ 『HELLO WORLD EP9 公式パンフレット』東和キネマ、2019年.
- ^ 「公開記念特集 HELLO WORLD EP9」『週刊アニメ映像』第47巻第39号, pp.4-19, 2019年.
- ^ 久住嶺『9拍子のための映画音楽』音楽社、2020年.
- ^ 山口由美子『映画ポスターは街をどう変えたか』港北新報社、2021年.
- ^ A. Thornton, "Hello, Again: Re-encoding Memory on Screen", Cinema & Urbanity Quarterly, Vol.5, No.3, pp.77-88, 2023年.
外部リンク
- HELLO WORLD EP9 公式サイト
- 京映スタジオ 作品紹介ページ
- 東和キネマ 公開記録アーカイブ
- 新都国際ファンタジー賞 受賞作一覧
- EP9ファン研究会 データベース