this is an advertisement たむろぐ更新
| 名称 | this is an advertisement たむろぐ更新 |
|---|---|
| 読み | でぃすいずあでばたいずめんと たむろぐこうしん |
| 分類 | 告知儀礼、個人誌編集、擬似広告 |
| 発祥 | 東京都渋谷区周辺 |
| 成立時期 | 2004年頃 |
| 提唱者 | 東海林 透、M. R. Caldwell ほか |
| 主な媒体 | 個人ブログ、携帯日記、駅貼り風メモ |
| 関連機関 | 日本擬刊行物学会、渋谷街区情報研究所 |
| 特徴 | 英語の注意書きと日常記録を混在させる |
たむろぐ更新は、東京都の掲示文化と個人日誌編集技法が結合して成立した、半定期的な更新儀礼である。頃に渋谷区の路上広告研究会から広まったとされ、現在は短文の告知と自己観察を同時に行う形式として知られている[1]。
概要[編集]
たむろぐ更新は、個人が自分の近況を、あたかも広告物の差し替えであるかのように提示する更新形式である。文頭に英語の注意書きを置き、本文ではと呼ばれる短い雑記を積み上げるのが通例であり、外形上は告知でありながら実態は内省記録に近いとされる。
この形式は、前半の東京都心部で、商業掲示の圧力と個人サイト文化の縮小が同時に進んだことへの反動として成立したと説明される。とくに渋谷区の小規模ギャラリーや、新宿区の深夜営業のネットカフェで頻繁に見られた「更新しました」という表示が、いつしか内容よりも更新そのものを鑑賞する文化へ変質したことが背景にある[2]。
成立と定義[編集]
研究史上は、これを「擬似広告的自己更新」と呼ぶ立場と、「告知を借りた私記」と呼ぶ立場に分かれている。前者は、文章を公告の様式に寄せることで読者の注意を強制的に奪う点を重視し、後者は、更新を続ける行為そのものが生活の輪郭を保つ装置になった点を重視する。
もっとも、初期の記録では用語がかなり揺れており、『たむろぐ増刊』『更新便り』『いま貼り替えました通信』などの呼称も併存していた。いずれも内容は似通っていたが、沿線の利用者は「広告っぽいのに何も売っていない」ことに強く反応し、結果として半ば都市伝説的な更新作法として流通したとされる。
なお、頃の同人誌『路上の注釈』には、更新のたびに赤いマーカーで「AD」の文字を付す手法が紹介されているが、これが本当に広告表示義務への対応だったのか、あるいは単なる気分だったのかは判然としない[3]。
歴史[編集]
萌芽期[編集]
萌芽期はからにかけてとされる。この時期、東京大学の周辺サークルで配布されていた折り畳み式の私家版ニュースレターに、投稿欄の末尾へ「this is an advertisement」と手書きする習慣があった。これは本来、スポンサーの存在を匂わせるための皮肉であったが、読者の一部が真に受けて「何の広告なのか」を毎回議論し始めたことで、形式だけが独り歩きした。
最初に大量転載されたのは、夏の下北沢で行われた古着市の案内文である。主催者の東海林 透は、売り物の説明の前に「これは広告ではないが、広告として読んでよい」と書き添え、結果として来場者が通常の3倍、約1,200人に増えたとされる。ただし、この数字は後年になって関係者が都合よく膨らませた可能性がある。
拡散期[編集]
頃になると、携帯電話の簡易日記機能が普及し、短い文面を頻繁に差し替える文化が定着した。これにより、更新は写真付きの長文日記よりもむしろ相性がよくなり、1回あたり38文字から120文字程度の更新が推奨されるようになった。
この頃、池袋の某ビル屋上で開催された「更新実演会」では、参加者が30秒ごとに文面を差し替え、会場のスピーカーからは無機質な女性音声で「本日の更新が完了しました」と読み上げられた。実演会の主催者は、これを都市生活者の孤独に対する軽度の処方であると説明したが、参加者の半数は単に面白がっていたにすぎないとみられている。
にはによる英語論文『Advertorial Diaries in Late Tokyo Net Culture』が発表され、海外のメディアでも断続的に取り上げられた。もっとも、同論文は冒頭で「本稿は観察対象により観察者が侵食される」と述べたのち、本文の3分の1が著者の終電逃し体験で占められており、学術的評価は今も割れている。
制度化[編集]
頃からは、個人ブログ運営者の間で「更新の見出しに必ず広告風の宣言を入れる」運動が起こり、自治体のイベント案内でも一部採用された。とりわけ横浜市の文化施設では、館内掲示に「this is an advertisement」と付したうえで、実際には休館日や迷子の案内だけを掲載する実験が行われた。
この制度化の過程で、は更新形式を三類型に整理した。すなわち、内容を売り物に見せる「売文型」、売り物を日記に見せる「日販型」、そして何も売っていないのに売っているように見える「空広告型」である。最後の空広告型は、学会内では最も人気が高かったが、実務においては全く役に立たないと批判された。
運用方法[編集]
典型的な更新は、冒頭の英語表記、本文の三行構成、末尾の一言メモから成る。たとえば「本日更新しました」「写真は後日」「駅前の風が強い」などの極めて平凡な記述が、あたかも発売告知やキャンペーン情報のように配置される。
慣例上、更新は火曜の22時台に行われることが多く、特に品川区の事業者が使うテンプレートでは、更新時刻の分まで指定されることがあった。これは閲覧者が「今まさに差し替わった」感覚を得るための工夫であると説明されるが、実際には運営者が終電の前にしか作業できなかっただけであるともいう。
また、定型句として「本件は広告に見えますが、主に近況です」という文が好まれた。これが読者に与える効果は大きく、調査では、既読者の約64%が内容を確認する前にページを下へスクロールしたと報告されている[4]。
社会的影響[編集]
社会学的には、 たむろぐ更新は、広告疲れと私生活公開欲求の中間に位置する文化として評価されている。読者は「宣伝だ」と身構えながら閲覧するため、通常の近況報告よりも注意深く読み、結果として些細な出来事が大きな出来事に見える効果が生じる。
一方で、企業側がこれを模倣し、採用情報や謝罪文まで広告風に書いたことで、前後には「注意書きのインフレ」が問題視された。ある家電メーカーは新製品の不具合報告にまで「this is an advertisement」を冠し、苦情件数が減るどころか、逆に見物客が増えて配送が遅れたという。
東京都内のいくつかの商店街では、この様式を応用した「更新札」が掲げられ、実際の売上にはほとんど寄与しなかったが、通行人が立ち止まる時間は平均で17秒延びたとされる。もっとも、この数字はの速報値とされる一方、調査担当者が焼き鳥屋でメモを失くしたとの記述もあるため、確度は高くない。
批判と論争[編集]
批判の中心は、広告のふりをした私的記録が読者を欺くのではないかという点にあった。特に2011年のでは、ある編集者が「広告でない広告は、読者に対する小さな詐術である」と書いたのに対し、支持派は「詐術ではなく、更新への敬意である」と反論した。
また、英語表記の綴りをめぐっても揉めた。初期には『this is an advertisment』という誤記が広く用いられていたが、ある校正者がこれを「誤植ではなく、わざと少しだけ信用を落とすための装置」と擁護したことで、かえって定着してしまったとされる。なお、この見解には要出典の札が付いたまま、十年以上放置されている。
さらに、大阪市の一部イベントでは、更新文の先頭にこの句を置くと客足が増えるとして、商店会が半ば無断で採用した。これに対し、原典を自認するグループは「我々の文化は売上向上のために生まれたのではない」と抗議したが、抗議文自体が巧妙な広告文に見えてしまい、議論は平行線のまま終わった。
脚注[編集]
脚注
- ^ 東海林透『更新の都市論――たむろぐと宣伝のあいだ』渋谷文化出版, 2008.
- ^ M. R. Caldwell, “Advertorial Diaries in Late Tokyo Net Culture,” Journal of Urban Media Studies, Vol. 14, No. 2, 2009, pp. 41-67.
- ^ 田辺真紀『貼り替えられる私――告知文体の成立』新曜社, 2011.
- ^ 日本擬刊行物学会編『空広告型メディアの基礎研究』学文社, 2013.
- ^ Haruto Nishimura, “Temporal Update Rituals and the Shibuya Loop,” Media Anthropology Review, Vol. 8, No. 1, 2014, pp. 5-29.
- ^ 佐伯圭介『本日は更新しました:個人誌の社会学』青土社, 2015.
- ^ Elizabeth K. Morton, “The Notice That Pretends to Sell,” Proceedings of the East Asian Interface Conference, Vol. 3, 2016, pp. 118-131.
- ^ 北条由香『広告でない広告の倫理』岩波書店, 2017.
- ^ 鈴木健一『路上メモの編集史』筑摩書房, 2018.
- ^ 『朝日坂論争資料集 第4巻』朝日坂文化研究会, 2020.
- ^ S. Watanabe, “Misprints as Authenticity Markers in Japanese Microblogging,” International Review of Digital Folklore, Vol. 11, No. 4, 2022, pp. 201-219.
- ^ 『たむろぐ更新とその周辺――注意書き文化の変遷』東京更新史研究会, 2024.
外部リンク
- 日本擬刊行物学会アーカイブ
- 渋谷街区情報研究所
- たむろぐ更新資料室
- 東京更新史データベース
- 空広告研究フォーラム