「くりくりおめめにおめがのおくち」
| 分野 | 言語遊戯・児童音韻学(民間) |
|---|---|
| 成立時期(推定) | 大正末期〜昭和初期 |
| 主な使用場面 | 発話誘導、リズム遊び、童歌 |
| 特徴 | 母音の反復と、口形を想起させる比喩 |
| 波及ルート | 保育士研修→地域読み聞かせ会→簡易検査表 |
| 関連概念 | 口形観察法、韻律まくら |
「くりくりおめめにおめがのおくち」(英: Kurikuri O-me-me ni O-me-ga no O-kuchi)は、子ども向け言い回しとして流通したとされる由来の民間韻文である。幼児期の発話指導や即興リズム遊びにも転用され、やがて「口の形」観察の合図として制度側に取り込まれたとされる[1]。
概要[編集]
「くりくりおめめにおめがのおくち」は、文字どおりの比喩により、目・口の動きを“言葉で固定する”ためのフレーズとして説明されることが多い。特にを「くりくり」、を「おくち」として定型化し、発話の前後で顔のパーツ位置を確認させる合図として用いられたとされる。
語の前半に当たる「くりくりおめめ」は視線の循環運動を想起させ、後半の「おめがのおくち」は“おめ”の反復を口腔内部の動きに対応させる構造をもつとされる。結果として、幼児の発音を観察しやすい言い回しとして、地域の保育現場から収集され、のちに保育カリキュラム風の資料にまで編入されたとされる[1]。
一方で、この語が本当に言い伝えとして成立したかどうかは定かであるとされる。ただし、地方図書館で確認された「家庭用リズム帖」には、同フレーズが「第7拍で唇が軽く開くよう言う」と記載されていたという報告があり、運用面からの一貫性が強調されている[2]。
歴史[編集]
起源:『口形札』としての誕生[編集]
このフレーズの起源は、早口の童歌が苦手な子どもに対して「口の形だけを先に教える」実務が広まり、その手順を覚えるための“札”が必要になったことにあると説明されることが多い。最初期の運用者として挙げられるのは、の寺子屋出身の保育補助員・(架空名として扱われることが多い)が関わったとする言い伝えである[3]。
渡辺は、当時の教室で子どもが誤って舌を奥に引っ込める癖を見せた場面を記録し、その観察項目を「目のくるり」「おめの角度」「おくちの開き」の3点に分解したとされる。そして、それぞれを一息で言える語呂として並べたものが「くりくりおめめにおめがのおくち」である、という説がある[3]。
なお、口形札は当初“韻文”ではなく、木製の薄札(2cm幅・全長9.4cm)として配られたとされる。そのため文字を読めない子でも、札を見て合図を出せたとされ、寺子屋からの慈善保育にも波及したと推定されている[4]。ただし、札の実物写真が残っているかについては「見つかっていない」との注記が付くこともある。
制度化:『韻律まくら』と研修マニュアル[編集]
大正末期から昭和初期にかけて、都市部で乳幼児の集団保育が拡大し、発話のばらつきを“授業の手順”に落とし込む試みが増えたとされる。そこで、地域の保育指導者会が「韻律まくら」と呼ばれる即興練習帳を作り、その中に「くりくりおめめにおめがのおくち」が“第3週の口形チェック項目”として収載されたという。
この収載を主導したのは、当時に付属していたとされる「幼児発声実技研究班」であり、班長には(架空の学術者として知られる)が据えられたとされる[5]。田島は、発話の観察を定量化するため、合図の直後に行う「口角の上がり」を7段階で採点する簡易表を提案したとされ、そこにフレーズのタイミングが組み込まれた。
具体的には、合図→模倣→再合図の間隔を「平均2.6秒(許容±0.3秒)」とし、毎回の反復回数を「12回連続、最後だけ16回」とする運用が記録されているとされる[6]。この数値が“細かすぎる”ことで逆に信用が増したとする指摘もあるが、当時の教材は現場で擦り切れたため、原資料の残存状況にはばらつきがある。
社会的影響:保育だけでなく『読み』へ[編集]
制度化されたフレーズは保育に留まらず、読み聞かせ会や児童向け演劇の準備体操にも波及したとされる。特に内の図書館ネットワークでは、「口の動きが見えると、物語への集中が上がる」という経験則が広まり、「くりくりおめめにおめがのおくち」が“導入の合図”として採用された時期があったとされる[7]。
ここで重要なのが、フレーズが単なる発話遊びではなく「演者側の段取り」になった点である。たとえば朗読者は、セリフの直前に必ずこのフレーズを言い、口形の準備が終わったことを参加者へ提示したとされる。結果として、舞台上の身体動作と音韻が結び付けられ、のちの児童演技法にも影響したとする記述が見られる[7]。
ただし、運用が広がるにつれ「口形の採点」が過度な負担になったという反発も生じた。とくに、地域の就学前検査に似た様式で“合図の成功率”が扱われ、家庭での練習回数が増えた家庭もあったとされる[8]。そのため、フレーズの是非をめぐって、後年には「遊びとしての条件」と「検査としての逸脱」が論じられることになる。
特徴と用法[編集]
フレーズの運用上の特徴は、語頭の「くりくり」が顔面の小回旋を促す指示として働き、次の「おめめ」が視線の固定を促すとされる点にある。さらに「おめがのおくち」では、母音の連続が口腔の開閉タイミングを揃える役目を持つと説明される。
現場では、フレーズは必ずしも“正確に言えること”を目的にしないとされることが多い。むしろ、(1) 吸う、(2) 目で合図する、(3) 口を開く、(4) すぐ閉じる、という順序を覚えさせる「動作手順」として扱われたという。加えて、合図の直後に頬を軽く押す(皮膚温が0.4℃上がったように感じる、という回顧談がある)などの派生運用も報告されている[9]。
また、歌唱や体操に転用する際には、拍に合わせて「くりくり」だけを二拍に伸ばし、「おくち」を一拍で切る調整が推奨されたとされる[10]。この調整則は、楽譜ではなく“口の形が見える尺”として伝承されたとされ、地域差が生まれたと推定されている。
批判と論争[編集]
批判の中心は、民間フレーズが制度的な採点へと接続されたことである。ある保育関係者は、フレーズが「遊び→観察→評価」に変わると、子どもが失敗を恐れて口を固めるようになると指摘したとされる[11]。この指摘は、合図直後の“口の開き”が本来の呼吸運動と干渉し得るという理屈で支持された。
一方で擁護側は、フレーズは元々「手順の記憶」を助ける道具であり、検査目的に使うこと自体が誤用であると主張したとされる。特にの研修会では、フレーズ使用時の態度を「正解探しではなく、観察を遊びとして返す」と定める提案があったという[12]。
また、語の内容自体が“意味のない音”ではなく、口の比喩として意味づけられすぎた点も論点とされた。結果として、「おめが」をどの方向へ見せるべきか(言う人の手の角度か、子どもの視線方向か)で解釈が割れ、同じ園でも運用が異なることがあると報告されている。なお、この割れ目は“担当者の経験年数差”に比例すると言われ、統計が引用されたが、出典の所在が曖昧な記述も一部にある。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎「家庭用リズム帖における口形合図の運用(第3週記録)」『児童音韻通信』第12巻第4号, pp.41-58, 1932年。
- ^ 田島梢「幼児発声の手順化と韻文札の有効性」『保育実技年報』Vol.9, pp.101-137, 1934年。
- ^ A. Thornton「Timing of Vowel Sequences in Early Imitation Tasks」『Journal of Play Phonology』Vol.2 No.3, pp.12-29, 1936.
- ^ 佐藤きみ「木札による口の形指導と地域差」『地方教育資料』第5巻第2号, pp.77-89, 1951年。
- ^ 中村眞理「読み聞かせ導入合図としての擬音句」『図書館児童サービス研究』第18巻第1号, pp.201-223, 1970年。
- ^ K. Watanabe「A Simplified Scoring Scheme for Mouth Opening after Rhythm Cues」『Proceedings of the Informal Pediatric Speech Conference』Vol.1, pp.55-64, 1981.
- ^ 鈴木卓也「研修マニュアル化した民間韻文の社会的受容」『教育社会学の試み』第22巻第3号, pp.9-37, 1999年。
- ^ 『厚生省 幼児発声実技研究班報告書(未綴本)』厚生省, 第7表のみ閲覧, 1933年。
- ^ 小川ルミ「くりくりおめめの二拍伸長規則について」『児童演技と身体運動』第3巻第6号, pp.33-47, 2008年。
外部リンク
- 韻律まくらアーカイブ
- 口形観察資料室
- 地域読み聞かせ団体連絡票
- 児童音韻学徒の掲示板
- 保育実技年報の索引ページ