ぞね界隈
| 分野 | 音mad文化・リミックス/サンプリング作法 |
|---|---|
| 関連作品 | beatmaniaIIDX『REDZONE』 |
| 略称 | 「ぞね」 |
| 主要コミュニティ | 匿名掲示板/動画共有サイト/オフ会 |
| 主な制作媒体 | DAW(作曲・編集)+動画エンコード |
| 成立の時期(推定) | 後半から前半 |
| 文化的特徴 | “REDZONEの持つ速度感”を画面演出へ接続する作法 |
| 論争点 | 原曲の利用範囲と二次創作ガイドライン |
ぞね界隈(ぞねかいわい)は、beatmaniaIIDXの楽曲「REDZONE」を指す略称「ぞね」と、それを原曲とした音madの制作・視聴の周辺文化をまとめて指す用語である。特定の作者として氏や氏が言及されることが多いが、参加者の入れ替わりも速いとされる[1]。
概要[編集]
ぞね界隈は、略称が示す楽曲『』のリズム・構成を素材化し、音madとして再編集する行為と、その作品群をめぐる視聴者の共同体を指す[1]。
この用語は、単に「REDZONEが好き」という程度を超え、テンポの切り替え点やサビ直前の“息継ぎ”を「どこまで削って残すか」という作法論まで共有される点に特徴があるとされる[2]。また、音madはサウンドだけでなく、映像フレームを一定の段差でズラす“ゾーン同期”のような演出慣習と結びついて語られやすい[3]。
成立は前後の動画投稿ラッシュに起因するという説が有力である。とくに、曲の一節を切り抜く工程を「ゾーン採掘」と呼び、採掘の“歩留まり”をパーセンテージで報告する投稿者が増えたことが、コミュニティの一体感につながったとする指摘がある[4]。なお、この「歩留まり」指標の計算方法は投稿ごとに異なり、後述の論争に発展したともされる[5]。
用語と作法[編集]
「ぞね」の内訳と、音madの“原材料”観[編集]
ぞね界隈では、を単体の曲としてではなく「導入/加速/落とし/再点火」の四工程に分解して扱うのが一般的とされる[6]。この工程分解は、楽曲の小節構造に基づくという説明がなされる一方で、動画投稿者の間では「体感の区切り」を優先する場合もあるとされる[7]。
作業の中心は、(1) 元トラックの該当箇所を切り出し、(2) 指定BPMに“寄せる”のではなく、(3) むしろ逆にBPMへ“喧嘩を売る”編集を入れることで、緊張感を増幅させることだと説明されることがある[8]。特に「加速」工程を触ると、視聴者が気づかないまま脳内予測がずれて驚きが増える、という半ば民俗学的な経験則が共有されてきたとされる[9]。
また、「原材料」の語が使われるのは、素材の扱いを“掘削”に見立てた比喩が流行ったからだとされる。たとえばにで開かれた小規模勉強会では、切り抜き長を“採掘時間”として秒単位で記録し、参加者が互いの採掘ログを見せ合ったとされる[10]。
ゾーン同期(Zone Sync)と、細部への執着[編集]
音madの演出面では、音の山と映像の段差を“ゾーン”と呼ばれる区切りで揃えるが定番の作法として語られる[11]。ここでいう段差は、音声のピークではなく、視覚的に認識しやすいコマ落ちやUI点滅の位置で定義されるとされる[12]。
ぞね界隈の特徴は、細部を数値化して議論しようとする傾向にもある。たとえば「サビ直前の溜め」を一律でに固定する投稿が“基準案”として流通した時期があるが、同じ基準値でも画面サイズやエンコード設定でズレることが指摘され、その後「溜めは測定しない」という反発が起きたとされる[13]。
さらに、テンポ変更に伴う位相のズレは「位相ダメージ」と称され、許容値がまでなら“優しい”、それを超えると“荒れる”といった評価表現が広まったとされる[14]。ただし、その数値は実験データというより投稿者の体感に基づく、とする批判も根強い[15]。
作者名の扱い:【Kyoro】と【まるてん】をめぐる物語[編集]
方向性指定の通り、ぞね界隈では氏や氏が重要人物として挙げられることが多い。特に氏については、最初期に「REDZONEの“落とし”工程だけで成立する音mad」を作り、そこから派生して「削る勇気」文化が育った、という語りが定着している[16]。
一方氏は、テンポを弄るよりも“画面の間”を弄ることで驚きを作る方針を掲げた人物として語られ、代表作の周辺には「1小節の沈黙が9小節分に聞こえる」といった誇張を含む評がある[17]。なお、これらの逸話は掲示板の投稿から拾われたものが多いとされ、一次資料として検証されたものは少ないともされる[18]。
このように、作者名は技術的説明だけでなく“神話化”されやすい。結果として、特定の作者を支持する視聴者グループが形成され、のちの「原曲尊重か、改変自由か」の論争につながっていったと指摘される[19]。
歴史[編集]
成立前史:音madとゲーム音源の境界が揺れた時代[編集]
ぞね界隈が注目される以前、音madの世界には“ゲーム音源をどこまで切り抜くか”という曖昧な境界があったとされる[20]。特に、のように展開が速い楽曲は、編集の腕前が露骨に出るため、視聴者も制作過程の細部に目が向きやすかったと推定されている[21]。
この頃、の小さな同人即売会に関連する地下コミュニティで、投稿動画を“試聴会”のように回覧する習慣があったという。ある記録では、回覧用のリストがで構成され、そのうち系統がを占めたとされる[22]。もっとも、回覧リストの実在性には揺れがあり、後年「似たタイトルの動画が混ざっていた」とする訂正も出たとされる[23]。
また、匿名性が強い環境では、作法が文章よりも“テンプレ”として共有された。テンプレに基づく編集は再現性が高いとされ、結果として「ぞね界隈」という単語が、コミュニティ内の作法差をまとめるラベルとして機能したと考えられている[24]。
初期のブーム:採掘ログ競争と、オフ会の“座席表”問題[編集]
後半からにかけて、ぞね界隈は投稿頻度と視聴数の両方で加速したとされる。理由としては、の展開が短い単位で区切られ、“作業ログ”が見せやすかったことが挙げられる[25]。
この時期には「採掘ログ競争」と呼ばれる、切り出し秒数・ピーク位置・エンコード設定を表にして投稿する試みが広まった。ある集計では、掲示板に投稿された“ログ表”の総数がに達したとされる[26]。ただし、集計者の手作業による重複計算が含まれていた可能性が指摘されており、実際の数は程度に落ち着いたのではないか、という見立てもある[27]。
さらに、オフ会で“座席表”を配布する文化が生まれたとされる。席はサウンドチェックの都合で決められたはずだが、なぜか「採掘ログの順番」と対応するよう設計され、参加者が「座席表こそが主題ではないか」と冗談めいて語ったという[28]。このズレが、界隈の“儀式性”を高め、用語が定着する一因になったとされる[29]。
拡張期:二次創作ガイドラインと、速度感の“輸出”[編集]
前後には、著作権・二次創作に関する議論が広くなり、ぞね界隈でも「どの編集は許容され、どれが萎えるのか」という実務的な論点が増えたとされる[30]。結果として、投稿者は編集の意図を文章で補うようになり、単なる音の面白さだけでなく“言語化”が重視される流れが生まれた[31]。
一方、技術面では“速度感の輸出”が進んだとする説がある。すなわち、で培われた編集テンプレートが、別のゲームBGMやクラブ音源へ転用されたという主張である[32]。この転用は、視聴者が「同じ驚きの作法」を他ジャンルでも体験したいという欲求と結びついたとされる[33]。
なお、転用が進んだことで、界隈の内側では「ぞね界隈は散るのか」という不安も出たとされる。その象徴として、投稿タグの運用ルールが変更されたと語られるが、変更履歴は掲示板の断片に依存しており、確定的な資料はないとされる[34]。
社会的影響[編集]
ぞね界隈の影響は、音mad制作の技術に限らず、コミュニティの“評価の付け方”そのものに及んだとされる[35]。従来の音mad評は「気持ちよかった/刺さった」など感想中心になりがちだったが、ぞね界隈では“同期点”や“位相ダメージ”のような、説明可能な語彙が導入されたという[36]。
この語彙化により、視聴者は制作難度の見積もりを行いやすくなり、投稿者は改善点を数値風に提示しやすくなった。結果として、制作は属人的だと思われていた面が、部分的に手順化されたと指摘されている[37]。
また、実在の地名としてで開かれた「小型サークル交流会」では、ぞね界隈の編集テンプレが“講座教材”として紹介され、ゲーム音源に関心がない層にも波及したとされる[38]。その一方で、教材化に際して一部の投稿が“元ネタ探し”の対象になり、制作の自由さが逆に縛られるという反作用も生まれたとする見方もある[39]。
さらに、動画エンコード手順のノウハウが共有され、一般の編集趣味者にも波及したという。あるまとめ記事では、関連キーワードの検索数が短期間でに跳ねたとされるが、検索データの算出根拠は示されていないともされる[40]。
批判と論争[編集]
ぞね界隈には、表面的には穏やかな制作文化でありつつ、内側には継続的な摩擦があったとされる。最大の争点は、のどこまでを切り抜くか、そして“雰囲気の盗用”と見なされる線引きである[41]。
また、採掘ログ競争が過熱した結果、「ログは正確か」「数値は体感の飾りか」という信頼性の問題が浮上した。掲示板では、同じという言葉が使われているにもかかわらず、再生環境が異なれば意味が崩れる、とする批判が現れたとされる[42]。その反論として「±7msは指標ではなく“礼儀”だ」と主張した投稿が拡散したという逸話も残っている[43]。
加えて、作者名の神話化が進むことで、新規投稿者が萎縮するという指摘もある。具体的には「氏の“落とし工程”を超えないと評価されない」という空気が生まれた、という語りがある[44]。ただし、この空気は“実際の評価傾向”というより“コメント欄の温度”に起因した可能性があるともされる[45]。
一方で擁護も存在する。ぞね界隈の数値化は、二次創作をめぐる説明責任の面で貢献したのではないか、という評価がある[46]。ただし、言語化が進むほど“説明のうまさ”が制作の本体を押しのけるという懸念も、同じく掲示板で繰り返し指摘されている[47]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 志賀原ユウ『音mad制作の経験則:同期と切り出しの“体感指標”』音響夜話社, 2021.
- ^ Dr. エイミー・タナカ『Rhythm Manipulation in Game Music Derivatives』Vol.3 No.2, 2020.
- ^ 関門リツ『擬似測定としての位相ダメージ:±ms言説の社会学』編集工房ウララ, 2022.
- ^ 小野寺ミナト『ゲームBGM二次創作の境界線と説明責任』第9巻第1号, 2019.
- ^ K.ヴェルナー『Temporal Editing and Audience Prediction in Online Remixes』pp.41-63, Vol.18, 2021.
- ^ 吉岡サトル『タグ文化の統計:ぞね界隈における投稿ラベルの3度の改訂』オンライン編纂研究会, 2020.
- ^ 佐倉ノエル『匿名掲示板の文体が生む“技術神話”』研究叢書ミクロ波, 2023.
- ^ 編集部『音mad講座:採掘ログ表の作り方(実務編)』月刊サウンドワーク, 2018.
- ^ 米田カナメ『渋谷から福岡へ:小規模交流会でのテンプレ教材化』pp.12-27, 2022.
- ^ 藤波ユカ『著作権と速度感:REDZONE系音madの議論史』判例迷走社, 2021.
外部リンク
- ぞね界隈アーカイブス
- Zone Sync ノート
- REDZONE採掘ログ倉庫
- 音MAD実験室(非公式)
- テンプレ編集議事録