つるんつるんもち
| 分類 | 和菓子(即席菓子として流通)/食感規格用語 |
|---|---|
| 主原料 | もち粉、砂糖、増粘多糖(デキストリン類) |
| 食感の目標 | 表面の“つるん”と内部の“とろり”の同時発現 |
| 制度上の位置づけ | 食品表示ではなく官民プロトコル名として運用 |
| 一般的な提供形態 | 湯戻し・レンジ加熱後の冷却で提供 |
| 発祥の舞台 | 東海道沿岸の菓子研究会が集積した地域 |
| 関連語 | つるん指数、もち滑度、表面摩擦係数K |
つるんつるんもち(つるんつるんもち)は、日本の即席菓子に付与される食感規格として知られる語である。実際の和菓子としての名称に見えるが、起源は“品質検査”にあるとされる[1]。なお、独特の語感からSNS上では一種の民間合言葉にもなったとされる[2]。
概要[編集]
つるんつるんもちは、もち菓子の食感を“言葉で定量化する”ための口語的規格名として語られている。一般には、表面が滑らかで、舌触りが一定の抵抗感を保ちながらも、噛むと急に柔らかく崩れることが特徴とされる。
語の成立は、実店舗のヒット商品というより、菓子メーカー間の品質差をめぐる調停手続きに遡るとされる。とりわけが、視覚だけでは差が出る“表面の艶”を検査項目に組み込もうとした際に、検査員が冗談半分で貼ったラベルが、そのまま通称になった経緯が語られている[3]。
このため、同名の製品が複数存在するというより、“つるんつるんもち基準を満たしたとみなされる調合・工程”が、各地で別々に再現されてきたと考えられている。一方で、地域ごとに解釈が揺れており、「つるんが強すぎると腹にたまる」などの経験則が添えられることが多いともされる[4]。
語の成立と検査文化[編集]
“もち滑度”計測の導入[編集]
つるんつるんもちは、表面を“見た目”ではなく“摩擦”で捉えようとした発想から広まったとされる。昭和後期、各社の即席もちが同じ謳い文句でも微妙に食感が異なり、苦情が前身の窓口へ月平均約73件(1991年時点の集計)寄せられたことが契機となったと語られている[5]。
ここで導入されたのが、金属プレートにもちを短時間接触させ、引き剥がしに必要な力を“つるん指数”として記録する手順である。協議会の技術委員である渡辺精一郎(当時、食品機器メーカー勤務とされる)が、指数の語感が硬すぎるとして「つるんつるんもち」と呼び始めたのが、語の最初期の記録とされている[6]。
また、指数には“表面摩擦係数K”が併記され、メーカー間で「Kが0.31ならつるん、0.42ならねっとり、0.22なら乾き」といった便宜的区分が作られたとされる。なお、この数値は実際の工学的測定値ではなく、協議会内の換算式に由来する、と当事者からの回顧が残っているという[7]。この点は、後述の論争にも接続している。
湯戻し工程の“ちょうど30秒”説[編集]
工程面では、“湯戻しから提供まで30秒以内”という細かすぎる運用が、つるんつるんもちの評判を支えたとされる。協議会資料では、30秒の根拠として「水分移動のピークが±7秒の範囲で観測される」と記されているが、実際には社内メモの転記であるとされる[8]。
さらに、冷却は室温ではなく三重県の一部施設で用いられた“扇風機と温度計だけ”の簡易系を参照したとされる。温度目標が「23.6〜24.1℃」とされるのは、当時の工房で温湿度計がその刻みしか表示しなかった事情が反映された、と説明されることがある。つまり、起源が微妙に現場事情に引っ張られていた可能性があると指摘されるのである[9]。
このように、つるんつるんもちは科学の言葉を借りながら、最後は現場の“秒”に回収されていったと解釈されている。結果として、再現性のあるはずの規格が、家庭ではなぜか外れやすいという逆説も生まれたとされる。
発展史:誰が何を売り、誰が何を揉めたか[編集]
東海の“もち研究会”と商流の連結[編集]
つるんつるんもちは、菓子の一般名称としてより、東海地方を中心にした“もち研究会”の合意事項として育ったとされる。とりわけ名古屋市の貸会議室で開かれた小規模勉強会が、のちの商流に接続したとされる。
勉強会にはメーカーだけでなく、包装材ベンダーの技術者も参加していたとされる。彼らが持ち込んだのは、フィルム表面の静摩擦に関する知見であり、もちの“つるん”は中身だけでなく包装材の条件にも左右される可能性がある、と議論されたという[10]。
また、当時の議事録は“つるんつるんもちは餅の性質ではなく、時間と温度の共同作品である”といった表現で埋められていたと回顧されている。ただし、議事録の筆者が誰であるかは不明で、末尾にだけという判があるとも伝えられる[11]。この曖昧さが、後の都市伝説的受容を後押ししたと考えられている。
SNSでの“食感語”化と市場の拡大[編集]
2010年代以降、つるんつるんもちは商品名というより“食感の擬音語”として拡散した。きっかけとして、で「湯戻し30秒でつるんつるん、噛むともちゅ」と書き込まれた一連の投稿が引用され続けたことが挙げられる。
その結果、菓子売場では「つるん指数が高いほど映える」という価値観が共有され、動画撮影向けの商品開発が加速したとされる。実際、東海系の量販店では、同語が表示ラベルに併記されるケースが増え、棚前での試食を“摩擦テストごっこ”のように見せる企画が出たともされる[12]。
もっとも、食感語の流行は規格の混乱も招いた。メーカーごとに“K換算が違う”と疑う声が出たほか、家庭では湯戻し時間を測れないため、誤解が固定された可能性がある、と側からも注意が促されたとされる。
製法と“基準”の内訳(諸説あり)[編集]
つるんつるんもちの基準としては、大きく「表面工程」「水和工程」「冷却工程」の三段階が語られることが多い。表面工程では、もち生地に“艶を作る”薄層として、増粘多糖の微量添加が行われるとされるが、配合比は非公開とされることが多い。
水和工程では、湯戻しの温度が「70〜75℃」付近に調整されるとされる。ただし、協議会の内部資料では「70℃だとつるん寄り、75℃だととろり寄り」と整理されており、両立のために温度を毎回“0.8℃ずつ”ずらす実務があったという話もある[13]。この“0.8℃”は再現実験のログからの引用とされる一方、裏では「検査担当の気分」との冗談も添えられている。
冷却工程では、冷却時間が“わずか40秒”から始める方式があるとされる。さらに、冷却が長すぎると“つるんが消える”とされ、逆に短すぎると表面が湿り、視覚上は失敗になると説明される。なお、これらの基準は一部地域で改変されており、では「冷却は扇風機でなく炊飯器の保温運転の余熱で」といったローカル版が語られている[14]。
批判と論争[編集]
つるんつるんもちには、規格の曖昧さと検査の再現性をめぐる論争がある。最大の争点は、つるん指数が“摩擦測定”だと称しながら、実際には換算式である点である。ある元検査員の証言では、プレート引き剥がしの力を直接測るのではなく、「音がするかしないか」を主観的補正に使っていたともされる[15]。
また、30秒説が独り歩きしたことで、健康志向の消費者が「30秒の製法が胃にやさしい」と誤って解釈した結果、噛まずに飲み込む事故が増えたのではないか、と指摘されたことがある。もっとも、因果関係は立証されていないとされるが、への問い合わせが増えた月(数)だけが、報告書に“つるん”と同じ擬音で書かれていたという[16]。
一方で擁護派は、語が遊びである以上、厳密な科学を求めるのが誤りであると反論している。また、語がもたらしたのは規格の透明性ではなく、食感への関心の可視化であり、それが市場の競争を促したのだと説明されることも多い。とはいえ、当初から“言葉で味を測る”方向性には限界があったと見る声も残っている。
脚注[編集]
脚注
- ^ 東海食品衛生協議会『もち加工プロトコル集(試験運用版)』東海食品衛生協議会, 1993.
- ^ 渡辺精一郎『食感を数値化する小さな装置』名古屋技術出版社, 1996.
- ^ 山岸玲子『擬音語としての菓子規格:つるんの系譜』季刊 食感学, 第12巻第3号, pp.45-58, 2012.
- ^ Margaret A. Thornton, “Friction-Based Texture Nomenclature in Convenience Sweets,” Journal of Applied Palatology, Vol.7 No.2, pp.101-129, 2015.
- ^ 【株)カントリーラボ】『品質差の調停記録:温度・時間・包装材の相互作用』内部資料, 1991.
- ^ 消費者庁『食品表示の運用と例示(平成23年度版)』消費者庁, 2012.
- ^ 佐藤明人『湯戻し工程の微差と苦情の統計』食品工程研究, 第28巻第1号, pp.12-33, 2001.
- ^ 鈴木一郎『擬音が売場を変える:食感マーケティングの実態』流通ジャーナル, 第41巻第4号, pp.201-220, 2018.
- ^ Hiroshi Tanaka, “Time-to-Texture Drift in Instant Mochi Products,” International Review of Food Semantics, Vol.3, pp.77-92, 2019.
- ^ 松原郁夫『摩擦係数Kの作り方(なぜか人気の手引き)』中央包装文化研究所, 2008.
外部リンク
- つるん指数研究所
- もち研究会アーカイブ
- 食感語辞典(暫定版)
- 東海食品衛生協議会 旧資料室
- 即席菓子プロトコルWiki