どこどこぽろりんぴーなっら
| 分類 | 口承暗示句(擬音・地理指定型) |
|---|---|
| 主な使用場面 | 落語の前口上、地域イベント、ラジオの小演出 |
| 語源とされる要素 | 反復(どこどこ)+落ちる音(ぽろりん)+伸び音(ぴー)+終端合図(なっら) |
| 関連語 | ぽろりん、ぴーなっら、なっら符号 |
| 発祥地として言及される地域 | 蒲田周辺(ただし異説あり) |
| 運用上の特徴 | 地名を直接言わず、音で座標を示すとされる |
| 社会的影響 | 地域放送の“間”の設計、見物客の回遊促進 |
は、の民間語りから派生したとされる、場所指定を行う擬音的呪句である。暗号めいた響きとしてや一部の放送局で言及され、学術的には「即興地理暗示」と整理されてきた[1]。
概要[編集]
は、聴き手の注意を一点に集め、次の情報(地名・目的地・合図)へ滑らかに接続するための擬音的フレーズとして説明されることが多い。特に「どこどこ」が現在位置の確認を、「ぽろりん」が“落差”を、「ぴー」が延長を、「なっら」が確定(合意または開始)を象徴するとする解釈が有力である[2]。
成立経緯については、口承のまじない、旅芸人の口上、そして戦後の小規模放送実務が“折衷”されたのだと語られることがある。なお、民俗資料では確認が難しいとされるが、実務者の証言が複数の雑誌・社内記録に残り、結果として「実在したに違いないが、誰も同じ起源を言わない」タイプの語りへと変質したと論じられている[3]。
歴史[編集]
起源(“音による座標”の発明競争)[編集]
伝承の起点は明治末期、内陸の行商が、道案内の最中に喉を痛めたため「地名を言う回数」を減らそうとしたことに求められるとする説がある。具体的には、同地区の行商組合が1889年から1893年の4年間にわたり“街路音符”の試作を行い、全26パターンの擬音が記録されたという[4]。
そのうち、反復音(どこどこ)が聴覚の固定化に効き、落ちる擬音(ぽろりん)が方向転換のタイミングを強調し、伸び音(ぴー)が迷いを“伸ばす”ことで聞き手の歩行速度を一定化させる、という三要素が揃った組み合わせがの蒲田で“実用化”されたとされる。とくに1891年の実験では、案内にかかった平均時間が7分12秒から6分34秒へと、わずかに38秒短縮したという数字が、現在も引用されている[5]。
ただし、この数値は後年に“都合よく丸められた”可能性が指摘されている。実際、同じ資料群には「平均ではなく中央値」とも書かれており、読み手の解釈により意味が変わるとされる(編集者によっても注釈の位置が揺れる)。一方で、音で座標を示す発想自体は、後述の放送現場で同型の再発明が確認されたとされる[6]。
放送現場と社会実装(“間”を売る仕組み)[編集]
大正期末から昭和初期、ラジオ放送が普及する過程で、出演者の台本が“詰まり気味”になったことが問題視された。そこで、番組制作の(通称:放文協)が、アナウンサーが地名を読み上げる直前に挿入する“音のクッション”を規格化しようとしたという[7]。
規格案には、どこどこ・ぽろりん・ぴー・なっらの各要素を音量・伸長率で定義する試みが書かれている。たとえば「ぴー」は標準より13〜18%長く発音すること、語尾の「なっら」は息継ぎを0.3秒以内に終えることなど、妙に具体的な指示が残されているとされる[8]。この規格の草案が、麹町の倉庫で偶然発見されたという逸話も付随するため、物語としては非常に“それっぽい”。
その結果、1952年ごろから、地域の番組内で観客を回遊させる小企画に導入されたとされる。たとえばの前身系のローカル試験班が、商店街のスタンプラリーに「合図としてどこどこぽろりんぴーなっらを一度だけ含める」ルールを採用し、参加者の移動距離が平均で2.4km増加したと報じられた[9]。ただし、どの週のデータかが曖昧で、当時の放送記録が欠落しているため、後代の研究者からは「それでも引用したくなる良い数字」と評された[10]。
現代的変容(SNSの“なっら符号”)[編集]
2000年代以降、音声をそのまま書き起こす文化が広がると、は“座標ではなく感情”を指す言葉として転用されていった。特に、短い句を連続投稿する層で、最後の「なっら」を“確定の絵文字”として扱う「なっら符号」なる概念が生まれたとされる[11]。
また、地方自治体が行う観光動画でも、地名を明かさない代わりに、語尾のなっらで「ここから先は自分で探せ」という演出を行うケースが増えた。実務担当者の回想では、テロップの文字数を平均で19字削減できたため、字幕の読み切り率が上がり、視聴維持時間が中央値で28秒延びたという[12]。
もっとも、これらの効果測定は、どのプラットフォームで行われたかが一致していない。とはいえ“効果が出たように見える”設計が可能な点が、語の存続に寄与したと考えられている。なお、いくつかの掲示板では「なっら」を唱えると迷子が減るとする怪談もあるが、科学的裏付けはないとされつつも、なぜか編集記事の注釈にだけ長々と残ることで知られる[13]。
特徴と用法[編集]
用法は大きく「地理暗示」「間(ま)の調律」「合意の合図」の3類型に分けられると説明される。地理暗示では、地名を直接言わない代わりに、聴き手の内的地図を更新することが狙われる。間の調律では、語りのテンポ調整として導入されるため、落語の前口上で“聞き手の息継ぎ位置”を揃える道具になったとされる[14]。
また合意の合図としては、観客側が反応(うなずき・笑い・小さな返事)を返しやすい語感であることが挙げられる。たとえば、関連の旧資料として「返答率の観測」なる表が引用されており、反応率が“平均で約1.7倍”になったとする記述がある。ただし同表は、上から2行が欠けた状態で転記されているとも言われ、出典の完全性に揺れがある[15]。さらに、この揺れがかえって“自分で試したくなる”雰囲気を作ってしまい、結果として口承が強化されていったとされる。
なお、発音上の注意点として「ぽろりん」は柔らかい破裂よりも、やや摩擦音寄りで発する方が“落差”の印象が出やすいと語られる。一方で、放文協の音声資料では逆に破裂音寄りが推奨されており、現場ごとに“解釈が競い合う”形で運用が変化した可能性が指摘されている[16]。
批判と論争[編集]
の合理性をめぐっては、音響心理学の立場から「純粋な擬音に座標機能を求めるのは飛躍」とする批判がある。これに対して支持側は、座標機能とは“数学的座標”ではなく“注意の座標”であり、注意の誘導は言語外要因で成立すると主張する[17]。
また、起源の歴史については、同じ“蒲田”が出てくる文献が複数ある一方で、登場する組合名・放送局名が不一致であることが問題視されている。たとえば、ある資料ではが関与したとされ、別の資料では「局の下請け音声整音班」が関与したとされるため、誰が実務の主導を握ったのかが曖昧になっている[18]。
さらに、SNS上では「なっら符号」が単なる語感遊びに過ぎないという意見も強い。にもかかわらず、観光施策の現場では“言えば効果が出る気がする”演出として採用され続けており、研究倫理の観点から「測定の設計が都合よく補強されていないか」が問われている[19]。ただし、編集者や広報担当が“失敗したケース”を残さない傾向があるとされ、検証を困難にしているとも指摘されている。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山根晶人「即興地理暗示の語音設計に関する一考察」『音声伝承研究』第12巻第3号, pp.41-58, 2003.
- ^ 渡辺精一郎「擬音フレーズによる注意誘導の仮説」『日本言語行動学会誌』Vol.8 No.1, pp.12-29, 1911.
- ^ Margaret A. Thornton「Acoustic Timing as Social Agreement Markers in Broadcast Culture」『Journal of Radiophonic Linguistics』Vol.27, No.2, pp.101-133, 1997.
- ^ 放送文化協会編『ラジオ台本の間(ま)規格化:草案集』放文協出版, 1954.
- ^ 斎藤礼二「蒲田口承史料の再読—どこどこ系の系譜」『民俗音響年報』第5巻, pp.77-96, 1988.
- ^ K. Hoshino「Subtitle Density and View Retention in Regional Promotion Films」『Media Behavior Studies』Vol.19, No.4, pp.220-241, 2016.
- ^ 【参考文献】「なっら符号」匿名「一度だけ挿入する合図の効果」『観光演出の社会心理』第3巻第1号, pp.5-18, 2012.
- ^ 中村実「返答率の観測表における欠損転記問題」『編集と出典の実務』第9巻第2号, pp.33-49, 2009.
- ^ 佐伯康成「音のクッションがもたらす回遊行動」『都市行動シミュレーション』Vol.6 No.3, pp.59-74, 1962.
- ^ 藤堂ゆかり『音声と地図のあいだ—注意の地理』中央書房, 2020.
外部リンク
- 音声伝承アーカイブ(仮)
- 放送台本間規格データ館(仮)
- 蒲田口承資料デジタル(仮)
- なっら符号研究コミュニティ(仮)
- 都市回遊と擬音の実験ログ(仮)