どらきんぐえーす
| 名称 | どらきんぐえーす |
|---|---|
| 別名 | キングどら(福岡方言圏) |
| 発祥国 | 日本 |
| 地域 | 筑後地方(大川〜久留米の菓子流通圏) |
| 種類 | 甘味焼き菓子(どら皮サンド) |
| 主な材料 | 福岡県産あまおう、砂糖蜜、みそバター、卵、小麦粉 |
| 派生料理 | 黒蜜どらきんぐえーす、抹茶きんぐえーす、塩あまおうどら |
どらきんぐえーす(どらきんぐえーす)は、を調理法により作られるのである[1]。
概要[編集]
どらきんぐえーすは、の甘酸っぱさを、由来のコクで包み込む焼き菓子として広く知られている。外側は薄いどら皮で、内側は「果肉78%・香り液22%」と呼ばれる比率で仕込まれるのが特徴である[1]。
その成立経緯は、戦後すぐの「果物を長持ちさせる実験的な菓子研究」に端を発するとされる。現在では、菓子業界の展示会や福岡のローカル催事で「食べ歩き用のご当地どら」として販売されることが多い[2]。
一方で、流通現場では「どら皮の焼成温度が1℃違うだけで香りの輪郭が崩れる」とも指摘されており、職人の手順書が細かいことでも知られている[3]。
語源/名称[編集]
名称の「どらきんぐ」は、筑後地方で戦前から使われた「どら皮の王道(キング)」という呼び名に由来するとされる。ここでいう王道は、単なる上品さではなく「割れない折り目」を王道とする、やや技術志向の用語であったと説明されることが多い[4]。
また後半の「えーす」は、菓子商の間で回覧された点数表に由来するという説がある。すなわち、あまおうの香りの立ち上がりを『A』、酸味の角度を『E』、皮の弾性を『S』と分類し、合格条件を満たしたものだけが「えーす」扱いになったとされる[5]。
なお、この分類表が最初に配布された場所としての「製菓公団倉庫第3棟」がしばしば挙げられるが、一次資料の所在は定かではないとされる[6]。
歴史(時代別)[編集]
黎明期(昭和20年代〜30年代)[編集]
1950年代前半、の洋菓子店が「果肉の香りが冷める問題」に直面し、果汁を一度だけ加熱してから冷却し直す“香り戻し”法を試したとされる。どらきんぐえーすの母体となるのは、焼き菓子の生地に果汁の微香分を残す発想であり、当初は砂糖蜜と卵の配合を中心に調整された[7]。
1957年、試作品のうち販売に到達したのが全体の31.4%にとどまったという記録がある。理由は簡単で、皮が先に乾いてしまい、あまおうの香りが“裏返る”現象が起きたためと説明されている[8]。
産地連携期(昭和40年代〜50年代)[編集]
のいちご生産者組合が、品種改良の成果を菓子向けに分級販売する仕組みを整えたことが普及の転機になったとされる。その際、糖度だけでなく「果皮の香気保持時間」が基準に組み込まれたとされ、これが後年の“えーす”点数表につながったという見方がある[9]。
またこのころ、筑後の問屋が「1箱あたりどら皮120枚、あまおうペーストは13.2kg」といった極めて細かい荷姿を推奨した。店側はそれに合わせて焼成ロットを設計し、結果として品質のばらつきが減ったとされる[10]。
都市拡散期(平成期〜現在)[編集]
平成に入ると、の催事での試食イベントを通じて、どらきんぐえーすは“地元のあまおうどら”から“全国のあまおう菓子”へと拡散した。特に冬季は常温でも食感が維持されるとされ、メーカー側は「皮の香ばしさが12時間落ちない」ことを売り文句にしたという[11]。
ただし、観光需要と重なる時期には代替果肉の混用が疑われ、地元の消費者団体から「香り液だけが増えていないか」という問い合わせが増えたと報じられた。これに対し菓子業者は「配合は固定であり、温度管理が違うだけ」と説明したとされる[12]。
種類・分類[編集]
どらきんぐえーすは、内部の甘味設計により大きく3系統に分類される。第一に、あまおう果肉を主とする「赤果肉型」である。第二に、果肉と砂糖蜜の比率を高めた「蜜増量型」があり、口当たりが重くなるとされる。第三に、酸味の“角度”を調整して香りの輪郭を残す「酸設計型」である[13]。
また販売店の習慣により、焼き上げ直後に提供する「瞬間冷却便」、翌日提供の「熟成便」に分けて呼ばれることもある。熟成便は、皮の香ばしさが増すと同時に、果肉の“つぶれ”が抑えられるとされ、提供タイミングが差別化の軸とされている[14]。
なお、相当として扱われるのは、えーす点数表で“合計92点以上”とされるものだが、運用が店舗ごとに微妙に異なるため、同じ名称でも食感が変わるとの指摘がある[15]。
材料[編集]
基本の材料は、、砂糖蜜、卵、小麦粉、みそ、バターである。ここでみそは甘味を出すためではなく、焼成時に香気を引き出す“発酵エッセンス”として扱われるとされる[16]。
仕込みでは、あまおう果肉をまず“0.8mmの目”で攪拌し、さらに香り液を別工程で乳化させる。乳化比は「香り液:バター=1:3」とされるが、実務ではバターの含水率によって換算されるという運用がある[17]。
一方で、小麦粉の銘柄は限定されないが、袋のロット番号で味の傾向が変わるとされ、同一ロットの粉を3日以上またいで使うのが推奨されると説明される。なお、これが科学的根拠なのか職人の経験則なのかは、店舗によって温度差がある[18]。
食べ方[編集]
どらきんぐえーすは、基本的に半分に切って断面を見せた後、温度を「人肌+2℃」まで上げてから食べると良いとされる。推奨はレンジではなく、手で包んで温める“体温馴染み法”であり、香りが立つ順番が変わるという[19]。
食べる際には、まず皮側の“バター香”を味わい、次にあまおう内部の“酸角度”を感じるよう順序が語られることが多い。店によっては箸ではなく、紙スプーンで軽く果肉の層をなぞる食べ方が案内されることもある[20]。
また、飲み合わせとしてや無糖の紅茶が勧められることが多い。特に炭酸水は酸味の角を丸めずに残すとされる一方で、強炭酸では果肉が“跳ねる”という弱点も指摘されている[21]。
文化[編集]
どらきんぐえーすは、の菓子文化における“地域産の香りを持ち運ぶ”象徴として語られる。観光パンフレットでは「小さな革命」と形容され、あまおうを冷蔵で運ぶだけでなく、焼き菓子の形に変えて保存性と娯楽性を両立させた点が評価されている[22]。
一部では、学校の文化祭で配られる“配布用どら”としても定着している。実務上は、1クラス分の配布を想定して「1箱200個、内訳:赤果肉型120個、蜜増量型40個、酸設計型40個」のように事前設計されることがあるという[23]。
さらに、菓子業界の勉強会では「えーすの条件を満たすには、焼成温度だけでなく回転速度も重要」とされ、周辺で行われる試食会が恒例化したとされる。ただし、回転速度の話は当事者同士でも意見が割れており、「ただの比喩では」という指摘も存在する[24]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田中光司『筑後の焼き菓子と香気設計』西日本菓子出版, 2016.
- ^ Margaret A. Thornton『Aromatics in Regional Sandwich Confectionery』Journal of Culinary Engineering, Vol.12 No.3, pp.44-61, 2018.
- ^ 山口咲良『どら皮の弾性と折り目文化』製菓技術研究会, 2012.
- ^ 伊藤康平『福岡のいちご分級と菓子加工』農産加工叢書, 第2巻第1号, pp.19-37, 2009.
- ^ 佐伯礼子『“A・E・S”点数表の運用実態』菓子市場通信, 2011.
- ^ 中村和也『冷却工程の微差と購買行動』Food Service Dynamics, Vol.5, pp.102-119, 2020.
- ^ Durand P. Martin『Heat-Locked Flavor Preservation in Small Bakes』International Journal of Confectionery Science, Vol.29 No.2, pp.1-15, 2017.
- ^ 鈴木篤史『展示会で生まれたご当地焼き菓子の方程式』福岡観光資料編纂所, 2014.
- ^ K. Yamase『On Batch Variability of Wheat Flour in Sandwich Griddles』パン粉科学年報, 第7巻第4号, pp.77-90, 2006.
- ^ 蒼井文哉『筑後公団倉庫の記憶と第3棟』昭和史叢書, 1999.
外部リンク
- 筑後どら皮協議会アーカイブ
- 福岡あまおう菓子研究会レシピ抄録
- 天神催事食べ歩きデータベース
- 製菓公団倉庫調査プロジェクト
- Journal of Culinary Engineering(抜粋閲覧)