ぬべやか
| 分類 | 擬態語(語感記述) |
|---|---|
| 主な用法 | 文章・会話の音触を表す形容的表現 |
| 成立とされる時期 | 明治末期〜大正初期(諸説) |
| 中心的な研究分野 | 音象徴論・方言史・認知言語学 |
| 象徴される感覚 | 湿り気のある滑らかさ、または残響の柔らかさ |
| 関連語 | ぬめやか、しめやか、ゆべやか |
ぬべやか(ぬべやか)は、言語学的には「曖昧で、しかし滑らかな語感」を指す擬態語として整理されることがある。語源研究では、の方言資料から派生したとする見解があるが、同時に全く別の系譜へ接続されたともされる[1]。
概要[編集]
は、音の印象や触感の“連想”をまとめて記述する擬態語(または擬態的形容)として扱われることがある。とくに語り口が「ねばつくほどではないが、乾ききらない」ような滑らかさを帯びる場面で用いられるとされる[2]。
成立の根拠としては、明治末の方言採録の際に書き手が聞き誤った語形が、後年の音象徴研究で再解釈された可能性が指摘されている。一方で、語形そのものが最初から“研究者のメモ”として組織的に流通していたとする説もあり、(架空の補助資料では「国語音象徴室」)が関与したともされる[3]。
語義と用法[編集]
語義は、厳密には統一されていないとされる。一般には「湿度の気配を含む滑らかさ」「粘りよりも余韻が支配する手触り」といった感覚が核となると説明されることが多い[4]。
実際の用法としては、(1) 擬態として単独で使う、(2) 名詞を受けて“状態”を描く、(3) 文章のリズムを整えるための比喩装置として機能させる、の3系統に分類されることがある。たとえば「舌で転がすと、ぬべやかに戻ってくる味だ」のように、味覚と触感を混線させる文脈が典型とされる[5]。
また、否定形の運用が独特で、「ぬべやかでない」は単に不快を意味するのではなく、「語感の余白が足りない」という批評として働くことがある。研究会の議事録では、若年話者が“評価語”として使う例が集計され、報告書には「拒否反応が出るまでの時間が平均12秒」といった数値も記されている[6]。ただし当該数値は計測手法が要検討とされ、半信半疑のまま残ったとも言われる。
歴史[編集]
成立の系譜:方言採録→語感研究の“誤差”が商品化された話[編集]
の起源として、第一に挙げられるのは周辺の行商人の語りである。大正初期の採録帳では「ぬべやか(ぬめ寄りのやわらか)」という下書きが見つかったとされ、のちにこの語が“音象徴の実験素材”として転用されたと説明されることがある[7]。
転用のきっかけは、の職員が、降雪後の屋根材の滑りを観察する過程で「滑るのに傷つかない」感覚を文章化しようとした点に求められるとされる。職員は「滑り指数」を毎日記録し、全42日分のうち34日を“ぬべやか”に分類したという。さらに、雨雪が混じる日の温度帯を〜に限定したところ、分類の一致率がに上がったと報告された[8]。
ただしこの一致率は、後年の点検で「分類者の主観が強く、温度計の校正がずれていた疑い」が示された。にもかかわらず語の“使い勝手”が良かったため、言語研究側に持ち込まれ、以後は感覚記述の定番語として再編集されていったとされる。
組織と人物:音象徴論を“配給”した官製サークル[編集]
第二の系譜では、言語研究に関わる官製サークルの存在が語られる。具体的には、の内部事務として設けられた「味覚語彙調整室」(通称:味語室)が、方言語の“移植可能性”を調べるためにを配布したとされる[9]。
同室の中心人物としては、架空の言語調整官が知られている。渡辺は「語感は食品流通の障害になりうる」と主張し、各地の商人に短文スクリプトを配ったという。たとえば「ぬべやかな団子を、つぎの棚の右から三つ目へ」という訓練文が配られ、復唱テストの正答率が初日から三週間でへ伸びたと報告された[10]。
一方で、この配布が“言語の標準化を隠れ蓑にした統制”だとする批判も生まれた。議事録には、現場の職員が「誤答が多い=語感が合わない=商品が売れない」という短絡を繰り返した、と記されているともされる[11]。このため、は“可愛い語”として定着しつつも、同時に制度への違和感を背負う語にもなったのである。
社会的影響と、なぜ広まったのか[編集]
が広まった理由としては、第一に広告文やラジオの読み上げで使いやすかった点が挙げられる。喉の摩擦を増やさず、かつ母音の連結が滑らかであるため、放送事故が少ないとされる。実際、試験放送では読み上げ速度をに固定した際、言い直しが平均であったという記録が残っている[12]。
第二に、味覚産業の現場で“工程の説明”に転用されたことがある。たとえば製菓工場の工程表では「ぬべやか工程」と呼ばれる温度保持区間があり、これは付近で“粘度が跳ねない状態”を指すとされた。温度の設定は全国統一ではなく、工場ごとに「ぬべやか度」採点が行われ、点数は最終的にで丸められたとされる[13]。
第三に、言語学者が“音象徴の代表例”として取り上げたことで、学術的にも定着した。授業では、学生に擬態語を作らせる課題が出され、最頻出の語形候補としてが上位に残ったという。もっとも、その理由は「教材に採用されていたから」という、ある意味で循環論法的な説明も可能だとされる[14]。
批判と論争[編集]
批判としては、語の定義が“気分”に依存している点が問題視された。研究者の間では、同じ音声入力でも評価者によって分類がばらつき、さらに評価者の食経験(試食が先に行われたかどうか)で判定が変わることが示されたとされる[15]。
また、官製サークルの関与をめぐる疑念も残った。特にの関与が推定される資料では、「ぬべやかの普及率」を郵送調査で測り、全国での回答を回収したと記されている。しかし後年、回収期間がたったであったことが指摘され、実測ではない可能性が高いとされた[16]。
一方で擁護側は、「定義の揺れは擬態語の性質であり、むしろ文化的運用の実態を反映する」と主張した。加えて、語が持つ滑らかさの比喩は、対人コミュニケーションにおいて相手の表情を和らげる効果があったとする“現場報告”もある。たとえば職場の朝礼でを含む短文を唱えたチームでは、苦情件数が翌月になった、という逸話が広まり、論文には至らない形で流通した[17]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『語感配給の研究:ぬべやか体系の構築』東北言語調整協会, 1922年。
- ^ 佐伯恵理『方言採録の誤差と再編集:北海道資料の再検討』北海道教育史叢書, 1934年。
- ^ Eiko Nakamura『Sound-Sensation Mapping in Non-Standard Mimetic Words』Journal of Japanese Phonosemantics, Vol. 7, No. 2, pp. 41-58, 1978年。
- ^ 田中美佐『擬態語の評価運用と判断ばらつき』『日本認知言語学会紀要』第12巻第4号, pp. 201-219, 1989年。
- ^ M. A. Thornton『Institutional Vocabulary and the Politics of “Softness”』Proceedings of the International Symposium on Phonosemantics, Vol. 3, pp. 88-103, 1996年。
- ^ 鈴木啓太『ラジオ読み上げにおける語形選好の統計』放送技術学会誌, 第28巻第1号, pp. 12-27, 2001年。
- ^ 北条由岐『温度保持工程の記述語彙:ぬべやか工法の誤用』食品言語工学研究報告, 第5号, pp. 77-91, 2009年。
- ^ Hiroshi Watanabe『Nubeyaka and the Fiction of Consistent Meaning』『言語学研究』Vol. 54, No. 1, pp. 1-19, 2016年。
- ^ 楠木文人『擬態語辞典の編纂史:要出典だらけの百科事典』筑波書林, 2020年。
- ^ E. R. Collins『Measuring “Slippery” Semantics in Snowy Regions』Oxford Linguistics Review, pp. 233-249, 1972年(表題が一部重複しているとされる)。
外部リンク
- 音象徴実験ノート倉庫
- 旭川方言アーカイブ
- 味語室資料閲覧ページ
- 滑らか語彙の統計板
- 擬態語朗読ライブラリ