アイシクルロッジ
| 名称 | アイシクルロッジ |
|---|---|
| 種類 | 冷却型観光宿泊施設(氷柱演出建築) |
| 所在地 | 北海道上川郡上川町(架空) |
| 設立 | 昭和53年(1978年) |
| 高さ | 18.6 m(屋根上の氷柱含む) |
| 構造 | 積層断熱パネル+循環冷却ダクト |
| 設計者 | 渡辺精一郎建築設計事務所(共同監修: 札幌冷熱技研) |
アイシクルロッジ(あいしくるろっじ、英: Icicle Lodge)は、にある[1]。現在では、冬季の外壁凍結現象を売り物とする“自己増殖型イルミネーション”として知られている[1]。
概要[編集]
アイシクルロッジは、冬季に建物外壁へ微量の冷熱を循環させ、つららの形成を制御することを目的として作られた冷却型観光宿泊施設である[1]。現在では、宿泊客が“氷の季節限定パスポート”を取得し、夜間に壁面の凍結グラデーションを観察する体験が観光商品として定着している[2]。
施設の呼称は、主構造体が氷柱(icicle)に連動して見える角度設計から名付けられたとされる[1]。また、公式案内では「自然現象ではなく、自然に似せる技術」と説明されることが多い[2]。ただし、運用当初は凍結制御が過剰になり、玄関前が短時間で“徒歩不可”となった記録が残っている[3]。
名称[編集]
名称は、地元の商工会が昭和53年の観光キャンペーンで一般公募した案のうち、株式会社「澄嶺冷却工業」から提案された「Icicle Lodge(つららの館)」が採用されたとされる[4]。当時、応募総数は1,248通であり、採用候補は10案に絞られたと報告されている[4]。
一方で、施設パンフレットの初版では、名称が“氷の雫がロッジの周囲で増える”という民間語りに由来するとも説明されていた[2]。このため、利用者の間では「ロッジが増える」のか「氷柱が増える」のかで解釈が割れ、予約時にスタッフが必ず確認する慣習があったとされる[5]。
現在では、ロゴの頭文字Iを氷柱一本に見立て、照明の色温度が“氷点直前”に固定される設計思想が周知されている[2]。なお、この色温度設定がなぜか夏季の展示にも流用され、結果として展示室だけが季節感のない空気をまとっていたという逸話がある[6]。
沿革/歴史[編集]
着想と資金の出所[編集]
アイシクルロッジの構想は、1960年代後半に北海道内で続いた“夜間観光の空白”を埋める目的で、観光振興課の試案資料に端を発するとされる[7]。当時の試案では、降雪量の多い年でも観光客数が伸び悩むことが問題視され、解決策として「建物側から景観を供給する」案が検討された[7]。
計画の中核には、冬季限定で動作する冷却ダクトの概念が据えられた[8]。この冷却ダクトは、のちに札幌冷熱技研が“氷柱の形状を標準化できる”と主張して売り込んだ技術であり、契約時には開発費として総額2億3,400万円が計上されたとされる[8]。ただし、同社の社史では「一部の費用が“広告費扱い”された」と記され、会計監査の継続調査が行われたという[9]。
凍結事故と改修[編集]
昭和55年(1980年)冬の初期運用では、氷柱制御の閾値が誤って設定され、屋根周縁のつららが基準より約3割長くなったと報告されている[3]。その結果、玄関アプローチの照明反射が強まり、宿泊客が足元を見失う事態が起きたとされる[3]。
このときの対策として、渡辺精一郎建築設計事務所が“影を先に凍らせる”ための遮熱板配置を提案し、外壁の冷却配管を全周で76か所から84か所へ増設した[10]。また、冷却開始のタイミングが地表温度ではなく、建物内部の湿度指数(当時の社内呼称「潤氷指数」)に連動するよう改修された[10]。なお、その指数が導入された理由については「なぜか数字が覚えやすかったから」と説明されたとされ、技術会議の議事録の余白に注記が残っている[11]。
平成期には、観光需要の平準化のため、降雪が少ない年でも一定の凍結を“疑似再現”する制御ソフトが導入された[12]。その結果、自然雪が薄い年でも“氷柱カレンダー”が成立するようになり、施設の年間稼働率は導入前の58%から71%へ上昇したとされる[12]。
施設[編集]
アイシクルロッジは、に所在し、建物高さは18.6 m(屋根上の氷柱含む)とされる[1]。主構造は積層断熱パネルであり、外壁の内側に循環冷却ダクトを配し、凍結の発生位置を制御する仕組みである[8]。
館内には、通常客室のほかに「霜見ラウンジ」と呼ばれる観察室があり、壁面センサーがつららの“成長曲線”を読み取って映像化する[13]。また、ロッジ正面には「氷点広場」と称される半屋外スペースが整備され、夜間の撮影スポットとして指定されている[13]。撮影用の三脚を固定する金具が地面に埋め込まれているが、その位置がなぜか“来客の身長平均”を基準に決められたとされ、来歴は資料館で公開されている[5]。
さらに、施設の暖房は客室ごとに独立し、冷却系と干渉しないよう温度差管理が行われている[14]。この温度差が体感として「上半身は冬、足元は春」と表現されることがあり、スタッフが冬の講習会で必ず一度だけその言い回しを繰り返すという[14]。
交通アクセス[編集]
施設へのアクセスは、最寄りの架空路線駅としてに設定された「上川アイス前駅」(旅客扱いは季節限定)から徒歩約12分とされる[15]。また、路線バスは冬季のみ「氷柱循環便」が設定され、運行間隔は概ね40分であるとされる[15]。
車での来訪では、主要道路から敷地入口までの区間が除雪の優先順位“第2帯”に指定され、降雪時でも通行可能となるよう運用されている[16]。なお、施設の駐車場は総数173台で、うち優先枠が21台あると記録されている[16]。
また、観光庁の指針に準拠する形で、悪天候時には入館受付が「霜見ラウンジ前の非接触カウンター」に移される運用が導入された[17]。このカウンターは“凍結センサーが不穏な挙動をするときだけ”本人確認が厳格になる仕様であり、宿泊客の間では「機械が疑ってくる」と評判になった[17]。
文化財[編集]
アイシクルロッジは、氷柱演出建築としての意匠が評価され、平成23年(2011年)にの「冷却景観技術選定」へ登録されたとされる[18]。登録理由は、外装の凍結制御が景観維持と安全対策を両立した点にあると説明されている[18]。
さらに、地方自治体の運用資料では「技術景観の準文化財」とも呼ばれ、施設周辺の撮影ガイドラインが景観条例の別表に反映された[19]。なお、別表の改正履歴では、氷柱の撮影角度に関して“地面からの視線高さ91 cmを基準とする”という、やけに具体的な記述が残っている[19]。
一方で、文化財登録に関しては、冷却エネルギーの環境負荷が過大ではないかという指摘もあり、検討会の議事録では「低負荷運転の証明方法」が論点として挙げられた[20]。このため、登録後に省エネ制御が段階的に導入され、現在では“観光需要のピーク時間帯のみ段階冷却”が採用されている[20]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 北海道庁観光振興課『冬季観光需要の平準化試案(昭和期綴)』北海道庁, 1976.
- ^ 渡辺精一郎『氷柱演出建築の設計原理』渡辺精一郎建築設計事務所, 1982.
- ^ 札幌冷熱技研『潤氷指数の定義と制御実験報告(第1回)』冷熱技術報告, 第12巻第3号, pp. 41-67, 1981.
- ^ 株式会社澄嶺冷却工業『冷却ダクト配列の最適化に関する内部報告書』社内資料, 1977.
- ^ 上川町『上川アイス前駅(季節運行)運用要領』上川町役場, 1994.
- ^ 国土保全景観財団『冷却景観技術選定の概要と事例』国土保全景観財団紀要, Vol. 8, No. 2, pp. 15-38, 2011.
- ^ 井川真琴『夜間景観における人工供給の受容—寒冷地観光の社会学的考察』観光社会研究, 第27巻第1号, pp. 103-129, 2016.
- ^ Kawahara, R.『Controlled Freezing Aesthetics in Northern Lodges』Journal of Regional Climate Design, Vol. 5, No. 4, pp. 221-240, 2012.
- ^ Sutherland, M. A.『Energy Budgets for Decorative Cooling Systems』International Review of Cold Architecture, pp. 3-19, 2009.
- ^ 森口玲子『つらら事故の学習効果—安全運用の制度化』建築安全学会誌, 第19巻第2号, pp. 77-95, 2019.
外部リンク
- アイシクルロッジ公式観察日誌
- 上川町季節運行マップ
- 国土保全景観財団 データベース(登録作品)
- 札幌冷熱技研 冷却制御シミュレーター
- 渡辺精一郎建築設計事務所 アーカイブ