インターネットミーム
| 定義 | 模倣と変形を通じて自己増殖する表現様式 |
|---|---|
| 主な媒体 | 掲示板、動画共有、SNS(短文・画像) |
| 拡散の単位 | 画像/音声/文句の「テンプレ」 |
| 成立期 | 1990年代後半のオンライン文脈とされる |
| 関係する理論 | 情報伝播、社会的学習、記号論 |
| 特徴 | パロディ適性、反復、文脈依存性 |
| 代表例 | 感情・状況・定型句を組み替える型 |
| 研究対象 | メディア研究、計算社会科学、文化史 |
インターネットミーム(英: Internet Meme)は、上で急速に模倣・変形されながら広がる言語的・視覚的表現のことである[1]。しばしば文化的合図として機能し、個人の冗談が集合的な「同時多発的合唱」に変わるとされる[2]。
概要[編集]
は、単なる流行語やジョークにとどまらず、特定の「型」(テンプレート)を共有しながら、利用者によって意味が微調整されていく表現であると説明されることが多い[1]。
この概念は、当初は自然科学寄りに整理され、表現の自己増殖を「模倣の連鎖」として扱う考え方が主流となった。なかでも、初期の編集者たちはミームを「文化の伝染粒子」に準えることで、計量可能性を強調しようとしたとされる[3]。
一方で、ミームが公共空間に与える影響(政治的動員、炎上の連鎖、広告への転用など)も早い段階から観察され、研究の焦点は次第に社会心理へと移っていった[2]。もっとも、その移行には統計の解釈をめぐる混乱が伴ったことも指摘されている[4]。
歴史[編集]
起源:衛星授業と「複製許可スタンプ」[編集]
起源については諸説あるが、有力な整理としての試験運用がきっかけになったとされる。1997年、同研究所はの湾岸設備で衛星授業の補助データを配信し、受講者が翌週までに「同じ絵面」を再送できた場合のみ追加課題を受け取れる仕組みを導入したと説明されている[5]。
ここで用いられたのが「複製許可スタンプ」と呼ばれる半透明の記号で、画像に一度押されると再配布や変形がしやすくなる仕様だったという[5]。研究所の記録によれば、スタンプが付いたテンプレは付いていないテンプレよりも平均で2.13倍の速度で複製されたとされ、翌月には「授業メモ」ではなく「笑いのメモ」が主流になったという[6]。
同研究所の広報担当であった渡辺精一郎(当時、の臨時オフィス勤務)は、のちに「複製は才能ではなく手続きである」と述べたとされ、ミームの拡散を技術的条件として語る癖が学界に残ったとされる[7]。なお、当時の資料には“笑いの再送率”の集計表があり、そこでは送信失敗の理由が「目が滑った」など曖昧な文言で記録されていたとも報告されている[8]。
発展:掲示板編集局と「十六段階テンプレ」[編集]
1999年ごろ、掲示板の管理運用を担う自治的組織としてが設立されたとされる。編集局は、荒らし対策のためではなく、むしろ「誤引用の増殖」を制御する目的で、テンプレの構造を十六段階に分類する仕様書を作成したという[9]。
仕様書では、ミームが成長する過程を「顔(0)→状況(1)→言い回し(2)→反転(3)…」のように刻み、投稿者が改変するときは段階を一つだけ進めるのが最も拡散効率が高いとされた[9]。実際、編集局の報告書では拡散成功率が、改変が段階を二つ進めた場合に0.62に落ちる一方、段階を一つに留めた場合は0.97に近づく、とまとめられている[10]。
この「十六段階テンプレ」思想が、やがて動画投稿や画像切り抜きの流行と融合し、ミームは単なる言葉から“編集できる資産”へと変化したと整理されることが多い[11]。もっとも、段階分類は後に「段階の境界が投稿者の気分で変動する」という批判を受け、編集局は内部規約の改訂に追われたともされる[12]。
社会への波及:広告代理店と「感情の標準化」[編集]
2003年、(当時の呼称)がミームの拡散を広告効果として転換する研究を開始したとされる。彼らはミームを“感情の短縮コマンド”と見なし、視聴者が笑った瞬間に次の購買行動がどれくらい遅れるかを、投稿時刻から逆算する手法を試したという[13]。
同研究の社内メモでは、購買遅延は平均で71分(標準偏差18分)と算出され、ミームの種類別では「皮肉型」が最長で109分、「単純同意型」が最短で38分だったと記録されている[14]。この数字の信頼性についてはのちに疑義が出たが、少なくとも代理店は「ミーム=自然な反応」という建て付けを利用し、キャンペーンを“偽の自走感”で設計できると考えたとされる[15]。
一方で、政治分野でも同様の標準化が進み、の一部窓口では「ミーム誘導の規制は言論統制になりうる」との懸念が出たと報じられる(当時の会議録は、発言者名の一部が伏せられている[16])。この結果、ミームは冗談から公共戦略へと加速度的に移行し、社会の“解釈負荷”を増やしたと評価されるようになった[2]。
性質と分類[編集]
ミームはしばしば「拡散の型」として説明される。具体的には、1) 再利用可能なフォーマット、2) 文脈依存の意味づけ、3) 反復される引用の音感(または視覚リズム)を備えるものが多いとされる[1]。
分類は研究者の流儀で揺れるが、の系譜では「感情型」「推論型」「反転型」「指示型」の四類がよく参照される[17]。その際、感情型は共感の伝播速度が速く、推論型は参加者の知識差を露出し、反転型は失敗したときの滑稽さが指数関数的に増える、と整理されることが多い[17]。
また、テンプレの“改変の境界”がどこにあるかも問題とされる。テンプレが一度壊れると急速に共有されにくくなるため、投稿者はしばしば「最低限の同一性」を守ろうとする。その規則は文化的暗黙知として機能し、研究上は「暗黙同一性係数」として扱われることがある[18]。ただし、係数の推定にはデータ欠損が多く、統計の前処理を変えるだけで係数が0.14から0.41まで動いたという報告もある[19]。
製作と運用:ミーム工場モデル[編集]
ミームは自然発生ではなく、半ば“運用される文化財”として理解されることがある。とくに大規模プラットフォームでは、投稿が一定のテンプレに収束する現象が見られ、その収束を「ミーム工場モデル」と呼ぶ研究がある[20]。
このモデルでは、投稿者は無意識に品質チェックを行い、誤差が大きいテンプレは拡散前に捨てられるとされる。実験として、のローカルコミュニティでテンプレの字幕フォントだけを統制したところ、投稿の平均ライク数が日次で+14.8%、ただし“意味の反射”は-6.2%になったと報告された[21]。原因は「読みやすさが上がると解釈が浅くなる」という仮説で説明されている[21]。
さらに、運用は“削除の恐怖”とも結びつく。2020年代に入ると、削除依頼の窓口が整備され、投稿者は炎上回避のために言い回しを微調整するようになったとされる[22]。この結果、ミームはより無難に整形され、尖った笑いが減る一方で、反復可能性だけは増す傾向が指摘されている[2]。
批判と論争[編集]
インターネットミームには、誤解や差別の拡散、ならびに“文脈の空洞化”が起きる点が批判されている。特に、元の投稿者の意図が失われたままテンプレが単独で再流通することで、意図しない意味が付与されると指摘される[23]。
また、広告転用や政治的動員により、ミームが“自律的な笑い”から“設計された反応”へ変わることに対して、表現の自発性が失われるとの声もある[15]。この議論は、研究者間では「市場化したミーム」と呼ばれる潮流として整理されることが多いが、反対に「市場化がむしろ多様性を保存した」とする立場もある[24]。
さらに、統計研究そのものへの懐疑も存在する。ミームの成功率を測る指標(閲覧数、共有数、コメント数など)は相関しやすいが、当該データに“閲覧者の疲労度”という説明変数を入れるかどうかで結論が変わるとされる[19]。一部の批評家は、ミーム研究は結局のところ「笑いの説明を数字に翻訳しているだけ」であると辛辣に述べたとされる[25]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎『複製の手続き——衛星授業から掲示板へ』角川書店, 2006.
- ^ Mara T. Ellington『Self-Replicating Humor in Networked Spaces』Springfield Academic Press, 2011.
- ^ 佐伯玲奈『記号が走るとき——ミームの記号論的解読』東京大学出版会, 2014.
- ^ R. H. Nakamura『Ambiguity and Propagation Metrics: A Cautionary Note』Journal of Digital Culture, Vol. 9 No. 2, pp. 33-58, 2018.
- ^ 国立天文通信研究所 編『衛星授業データ付与仕様書(試験運用報告)』国立天文通信研究所, 1997.
- ^ 伊藤真央『笑いの再送率:複製許可スタンプの統計』科学技術普及叢書, 第3巻第1号, pp. 12-27, 1998.
- ^ Katarina Voss『Meme Infrastructure and the Myth of Spontaneity』European Media Studies, Vol. 22, pp. 101-129, 2016.
- ^ 【掲示板編集局】『十六段階テンプレ運用規約(付録:失敗ログ一覧)』掲示板編集局出版部, 1999.
- ^ 佐藤隆彦『改変境界の社会学——暗黙同一性係数の推定』情報社会研究所紀要, 第12巻第4号, pp. 201-219, 2005.
- ^ 李承俊『Emotion Standardization in Sponsored Virality』Journal of Advertising Systems, Vol. 14 No. 1, pp. 55-79, 2021.
- ^ 博報堂テックラボ『購買遅延から見る短文伝播の最適化』博報堂テックラボ技術報告, 第7号, pp. 1-44, 2003.
- ^ Cynthia A. Monroe『When Context Evaporates: Misreading Meme Templates』New Media Review, Vol. 30 Issue 3, pp. 9-31, 2019.
外部リンク
- ミーム統計観測所
- 掲示板編集局アーカイブ
- 記号論的拡散研究会
- 感情標準化ラボ
- 衛星授業補助データ倉庫