『グリモアⅡ』
| タイトル | 『グリモアⅡ』 |
|---|---|
| 画像 | Grimoire_II_cover.png |
| 画像サイズ | 240px |
| caption | 空色の魔導書が頁ごと発光するパッケージアート |
| ジャンル | 対話式ハンティング・ロールプレイングゲーム |
| 対応機種 | 特製カートリッジ型携帯端末 / 据置グリッドワゴン |
| 開発元 | 黒曜書院ゲーム研究所 |
| 発売元 | 書写衛星流通株式会社 |
| プロデューサー | 笹森 ルイジン |
| ディレクター | 渡辺 精一郎 |
| デザイナー | エリカ・ハルヴァーズ |
| プログラマー | ソートン・K・ベラム |
| 音楽 | 窓際アーカディア楽団 |
| シリーズ | グリモア |
| 発売日 | 1996年9月13日 |
| 対象年齢 | 12歳以上 |
| 売上本数 | 全世界累計120万本(出荷ベース) |
| その他 | 『頁詠み(けいえい)』方式の音声連動を採用 |
『グリモアⅡ』(英: Grimoire II、略称: GI2)は、[[1996年]][[9月13日]]に[[日本]]の[[黒曜書院ゲーム研究所]]から発売された[[特製カートリッジ型携帯端末]]用[[コンピュータRPG]]。[[グリモア]]シリーズの第2作目である[1]。
概要[編集]
『グリモアⅡ』は、[[黒曜書院ゲーム研究所]]が魔導書の文脈解析を売りにして開発した[[対話式ハンティング・ロールプレイングゲーム]]である。プレイヤーは冒険者として、フィールドに散る符号断片を拾い、専用の「頁詠み」手順により魔法の挙動を“読み替える”形式を採る[1]。
本作は発売から半年で増刷を繰り返し、独自の暗号家系に由来する演出が話題となった。とくに「敵の呪詛を正しく“改行”する」とダメージ計算が変わる仕様は、攻略の枠を超えて学校の部活動でも議論されたとされる[2]。
ゲーム内容/ゲームシステム[編集]
ゲームシステムの特徴として、戦闘はオーソドックスなターン制である一方、行動選択時にテキスト入力(短い綴り)を求める。これが[[頁詠み]]として実装され、入力された綴りの“文字数”と“母音配置”が敵の防御属性へ反映されるとされる[3]。
戦闘面では、落ちものパズル的要素も取り入れられている。具体的には、敵が放つ詠唱文字が一定時間でフィールドを埋め尽くし、回避するには「弱い綴りから強い綴りへ」鎖を繋ぐ必要があった。失敗した場合、回復手段が縮むため、単なる暗記ゲーではなく状況判断が要求されたと評価された[4]。
アイテム面では、拾得した断片を「和紙」「鉄墨」「真鍮紐」などの素材に“解体”し、そこから新しい呪文語彙を再合成する。なお、合成には確率が絡むが、確率はシンプルではなく「冒険者の所持金額の下3桁」によって微調整されると取扱説明書に記載されていた[5]。
対戦モードとしては、対人ではなく“図書館裁判”と称される擬似対戦が用意された。両者は互いの魔導書メモ(戦闘ログ)を読み、誤読箇所を指摘することで勝敗が決まる。この形式は[[1997年]]にコミュニティ大会が開かれ、実況が「誰が誤植したか」という観点で盛り上がった[2]。
オフラインモードでは、音声センサーを内蔵した周辺機器が必要とされた。録音した自分の声で「鍵語」を発音すると、敵が“それを自分のせいだと思う”挙動になるという説明があり、発売当時から半信半疑のまま試すユーザーが多かったとされる[6]。
ストーリー[編集]
本作の舞台は、頁の擦り切れによって地形が書き換わる[[縁切り州]]である。主人公は「失踪した写本師の娘」として、州都[[鉛硝子港]]の図書局から調査を命じられる。調査の目的は、魔導書の第二巻に相当する「綴りの核」が、盗賊ではなく“行政”によって保管されている可能性を突き止めることとされる[1]。
物語は章立てで進行するが、章ごとに「正しい改行位置」が異なる。誤った順序で読んだ場合、同じ場所でも別の敵が出現し、会話が噛み合わない。開発スタッフはこれを「物語がプレイヤーを訓練する」と表現したという[3]。
終盤では、主人公が[[黒曜書院ゲーム研究所]]の実験倉庫に辿り着くという“メタ的”展開が用意されている。そこでは「綴りの核」が、発明者の名前と照合されることで消費される装置として描かれ、開発者の実名(のように見える)がテキスト中に断片として埋め込まれていると指摘された[7]。
登場キャラクター/登場人物[編集]
主人公は、写本師見習いの[[千草 レイ]](ちぐさ れい)である。レイは戦闘時、呪文ではなく「言い換え」を提案する役割を担い、敵の詠唱を“別の方言”で復唱することで突破口を作る設定になっている[1]。
仲間として、寡黙な鍛冶見習い[[ボルド・ナイト]]が登場する。ボルドは文字を叩いて打刻することで属性を研磨するとされ、武器説明文には「打刻回数が[[17回]]を超えると“罪の熱”が抜ける」といった妙に具体的な記述がある[4]。
敵側には、州都の図書局に出入りする[[判読官]]がいる。判読官は人間ではなく書類の束から生まれる存在として描かれ、会話のたびに「あなたの判子はどこにありますか」と問い返す。なお判読官の初回討伐時に限り、勝利条件が“討伐”ではなく“誤読の訂正”とされる点が特徴的である[6]。
また、補助的な登場人物として[[鉛硝子港]]の港湾職員[[ミラ・オースティン]]がいる。彼女はプレイヤーの所持金額を聞き取り、条件により「頁詠み用紙」を1枚だけ追加配布するとされるが、その時の質問が毎回違い、乱数の種が「端末の時刻表示の右端」だという噂が広まった[5]。
用語・世界観/設定[編集]
本作の中核用語は[[グリモア]]と呼ばれる魔導書であり、第一巻と第二巻の間に“読み間違いが物理化される空白”があるとされる。空白は[[綴り欠損(つづりけっそん)]]という現象名で説明され、地域ごとに欠損の形が違う。たとえば縁切り州では「角が取れる」、鉛硝子港では「音が欠ける」といった具合に症状が異なる[2]。
頁詠みは、短い入力により呪文語彙の解釈を変更する仕組みである。技術的には表向き「文章の文法処理」で説明されるが、ゲーム内の開発注記では「母音を先に置くと“敵の記憶が追い越される”」とも書かれている[3]。
戦闘で用いられる属性体系は、武器種ではなく“文章の癖”である。具体的には「断定」「疑問」「条件」「余韻」など、発話様式が属性に対応する。さらに、防御の成功率が「プレイヤーが直前に選んだ行動の文末(〜した/〜します)」に影響するとされ、当時の攻略サイトはプレイヤーの入力ログを競って共有した[4]。
制作側の資料では、第二巻の中核装置が[[行政封緘機]]であるとされている。この装置は魔導書の“保管”を目的としているが、実際には保管対象の人物の反省文が必要になるという設定であり、社会制度と魔術が結びついた世界観が強調された[7]。
開発/制作[編集]
開発経緯としては、[[黒曜書院ゲーム研究所]]の社内プロジェクト「頁の気配」が前身にあたるとされる。企画が始まったのは[[1994年]]春で、当時の研究メンバーは“キーボード入力の誤り”に着目していた。誤りを単なるミスではなく、ゲーム進行の推進力にする方針が採用されたとされる[3]。
スタッフ面では、ディレクターの[[渡辺 精一郎]]がテンポ設計を担当し、敵の詠唱文字を「読み上げる時間の長さ」で調整したとされる[1]。一方でデザイナーの[[エリカ・ハルヴァーズ]]は、イベント会話の改行位置を“感情曲線”として設計し、プレイヤーが読むたびにテンションが変わる構造を目指したと記録されている[2]。
プログラマーの[[ソートン・K・ベラム]]は、確率調整を複雑にすることで攻略の単純化を防いだ。特に所持金の下3桁で合成率を補正する案は、テスト段階で「最初に買った菓子の種類」にまで依存して暴走したため、半年かけて現在の方式に“削った”と、後年のインタビューで語られた[5]。
発売元である[[書写衛星流通株式会社]]は、店頭販促として「改行ポスターキャンペーン」を実施した。ポスターの右下にある小さな句読点を、指でなぞってからレジへ持っていくと、公式紙袋が追加でもらえる仕組みであった。参加者の多くが行動を忘れるように設計されていたため、配布数は公称より少なく、結果として“ある時点から手に入りにくい”という神話が生まれた[6]。
音楽(サウンドトラック)[編集]
音楽は[[窓際アーカディア楽団]]が担当した。サウンドはストリングスを中心に据えつつ、録音中に偶然混入した環境音をそのまま採用した曲が多いとされる[1]。
代表曲として「鉛硝子港の改行風鈴」「判読官の沈黙(しじま)」「綴り欠損礼讃」が挙げられる。特に「判読官の沈黙」では、曲の終わりに[[2秒]]の無音が挿入され、その無音中にだけ発生する“頁詠み成功”演出がある。再生環境によって無音が途切れると攻略難度が変わるため、ユーザー間でプレイヤーごとの環境差が議論になった[4]。
ゲーム内の効果音にも音楽的な設計があり、アイテム合成時に鳴る金属音は、合成失敗時ほど高域が目立つように調律されていた。これが「失敗を予測できる音」として当たるようになり、攻略勢は“耳コピ”に近い学習を行ったという[3]。
他機種版/移植版[編集]
据置機の[[据置グリッドワゴン]]版は、[[1998年]]に発売された。携帯端末版で必須だった周辺音声入力は不要となったが、その代わりに「画面を指でなぞる」ジェスチャーが採用された。この仕様により、当時の攻略動画では指の軌跡が編集の対象になり、ネット文化の初期的な素材になったとされる[2]。
また、改行イベントの挙動が“完全再現”されない移植もあった。移植初期のパッチでは、改行位置が1文字ズレる不具合が残り、判読官の会話が噛み合わずに詰むケースが報告された[6]。後のパッチでは1文字ズレを修正したとされるが、修正前のバージョンはプレミア的に扱われ、古参は「詰みを楽しむ」ためにわざと戻して遊んだとされる[7]。
さらに、携帯端末版の“当時の手順”を再現した復刻として、販促サイトで「頁詠みの手癖診断」が配布された。診断結果は実ゲームに反映されないものの、ユーザーは結果をもとに自分の入力傾向を修正した。結果として復刻版の評価が上がり、移植がコミュニティの習熟を誘導した形になった[5]。
評価(売上)・関連作品[編集]
売上面では、全世界累計120万本(出荷ベース)を記録したとされる。日本市場では発売月に初動出荷の[[38.2%]]を達成し、翌月には増刷が決まった。増刷の判断材料として、ゲーム内ログ解析が利用され、「詠唱入力の癖が一定割合で一致する」ことが報告された[1]。
一方で批評では、難度の説明が“頁詠みの個人差”に寄りすぎている点が指摘され、専門誌では「運の比率が高い」という見出しがついた。ただしゲーム内で耳コピを誘導する設計が効き、最終的には「学習ゲー」として再評価される流れがあった[4]。
関連作品としては、同シリーズの[[『グリモア』]]第1作に加え、頁詠みの教材を題材にした外伝漫画「改行の旅人」、および[[1999年]]にテレビアニメ化された「鉛硝子港物語」がある。アニメは原作の“誤読を直す”価値観を強調し、視聴者参加型の改行投稿コーナーを設けたとされる[2]。
関連商品(攻略本/書籍/その他の書籍)[編集]
攻略本としては、[[シルヴァ書房]]から刊行された『[[グリモアⅡ]] 頁詠み完全読解(第1版)』がある。体裁は一般的な攻略本に見えるが、巻頭に「母音配置の地図」が挿入され、さらに“失敗のときだけ開く”ページがあると評された[3]。
また、専門書として『行政封緘機の倫理と誤読の統計(Vol.3)』が学術系出版社から出された。内容はゲームの話から逸脱し、文書行政の比喩とユーザー行動の相関を論じるが、参照文献の体裁が実ゲームの小ネタと一致している箇所があり、購入者の間で「出典のふりをしている」と笑われた[6]。
その他の書籍として、サウンドを解析した『窓際アーカディアの周波数日誌』が挙げられる。ここでは無音[[2秒]]がどの帯域で録音されたかを推定しており、数値の細かさでファンを納得させたとされる[1]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺 精一郎「『グリモアⅡ』における頁詠み入力の文法擬似モデル」『黒曜書院技術報告』第12巻第3号, pp.41-58, 1996年。
- ^ エリカ・ハルヴァーズ「改行位置が会話行列に与える影響」『ユーザインタフェース季報』Vol.7 No.1, pp.12-27, 1997年。
- ^ ソートン・K・ベラム「確率補正における所持金下位桁の効果」『ゲーム内部状態と経験則』第2巻第4号, pp.88-103, 1996年。
- ^ 笹森 ルイジン「対話式ハンティングRPGの設計哲学」『インタラクティブ・デザインレビュー』Vol.9 No.2, pp.1-19, 1998年。
- ^ 窓際アーカディア楽団「鉛硝子港の改行風鈴—無音区間の音響再現」『作曲と環境録音研究』第5巻第1号, pp.55-73, 1999年。
- ^ ミラ・オースティン「図書局判読官の台詞生成ルールに関する観察」『地域物語データ論』pp.203-219, 2000年。
- ^ 『グリモアⅡ』開発資料編纂委員会『グリモアⅡ 仕様書集(第3刷)』書写衛星流通株式会社, 1996年。
- ^ John A. Halvers『On Line Break Rituals in Interactive RPGs』Kuroyō Academic Press, 1998年。
- ^ Renée Marrow「The Embarrassment of Misreading: Administrative Magic in Fictional Worlds」『International Journal of Narrative Interface』Vol.4 No.6, pp.301-318, 2001年。
- ^ 田丸 慎也『無音2秒の攻略論(判読官編)』シルヴァ書房, 2002年。
外部リンク
- 頁詠みアーカイブ
- 鉛硝子港データベース
- 黒曜書院研究所の開発メモ
- グリモアⅡ改行ポスター保存会
- 行政封緘機・研究会