ストレンジ・ミュージックシリーズ
| 分野 | 実験音楽・音響メディア |
|---|---|
| 企画主体 | 一般社団法人(通称・奇音機構) |
| 開始年 | |
| 初期の掲載媒体 | 機関紙『周波数便』およびストリーミング試験配信 |
| フォーマット | 連作アルバム+公開録音+会員限定テキスト |
| 主な対象 | 音楽研究者、図書館員、建築音響技術者 |
| キーワード | 無規格ノイズ、遅延反射、聴覚アーカイブ |
| 関連行政 | の「地域音響実装」補助枠(準備段階のみ) |
ストレンジ・ミュージックシリーズ(英: Strange Music Series)は、奇妙さを主題にした音響作品を段階的に展開する企画シリーズである。日本のと海外のの文脈を横断し、少人数の愛好家と一部の行政機関の双方から注目されたとされる[1]。
概要[編集]
は、複数の作曲者・録音技師・校閲者が「奇妙さの定義」を毎回更新することを前提に編成された、連続企画である。企画側では、作品そのものだけでなく、制作過程で生じる「音の矛盾」を記録して公開する点が特徴とされる。
成立の経緯は、まずの編集会議で提案された「同じ聴感を再現できないなら、再現不能そのものを作品にする」という方針に由来すると説明されることが多い。のちに、任意団体からへと組織改編され、各巻には共通の審査表(後述)が付随するようになった。
また、各巻の副題には、測定値だけでは語れない感覚語(例:「角ばった余韻」「呼吸に似る静電気」)が採用される。こうした命名は、単なる詩的表現ではなく、受け手の脳内再生を誘導する「解釈の座標」として機能していたとする報告もある[2]。
概要(選定基準と掲載範囲)[編集]
シリーズの掲載作品は、音源のジャンルではなく「再現性の欠落度」によって選定されるとされる。具体的には、同一環境で録音しても一致率がになる録音技術、または制作中に発生した予期せぬ機材挙動を意図的に残す作法が条件となっていた。
媒体面では、学術出版社の査読論文ではなく、地域図書館と大学の間にある中間領域(所蔵書の貸出履歴、利用者の反応メモ、展示室の残響ログ)に寄せて公開された。これはの「音声・録音資料の利用調査」が転用可能だと誤認した担当者がいたためだ、と回顧録で語られている。
掲載範囲は、少なくとも日本国内の、の小規模ホール、そして海外ではの改修中地下倉庫まで含むと整理されてきた。ただし、巻によっては所在が秘匿された「回収不能フォーマット」が存在し、追跡が難しいとされる点が、いわゆる“ストレンジ”の中心になった[3]。
歴史[編集]
前史:『周波数便』編集室の偶発規則[編集]
起源はに遡るとされる。編集者のは、大学の音響実験室で誤ってスピーカーの位相を反転させ、そのとき聴感が「笑い声のように跳ねた」と日誌に記した。日誌が奇妙さの“尺度”になると判断され、便の編集部は「位相反転をした曲だけを集める」と決めかけた。
しかし実際には、位相反転自体が再現可能になってしまう問題があった。そこで、の制作現場で使われる「テープ速度微調整」のログを混ぜる案が出るが、ログを公開すると別の音楽学会に先に特許が取られる懸念が浮上した。結果として、速度微調整ではなく「微調整を止める瞬間」を作品化する規則にすり替えられたとされる[4]。
展開:奇音機構の審査表と“巻ごとの矛盾”[編集]
が正式に設立されたのはである。機構は審査表(通称・矛盾スコア)を整備し、音の特徴を「物理値」「解釈値」「再発見値」に分解して採点した。ここで再発見値は、試聴者が最初に聞き間違えた要素を、二度目以降にどれだけ訂正できるかで評価された。
審査表の作成に関わったとされる音響技術者は、という人物名で記録されているが、同姓同名の別人も同時期に大学名簿へ載っており、編集の過程で取り違えられた可能性があると指摘される[5]。この“名簿の混線”すらシリーズの一部として扱われ、巻によっては「誤記から生まれる音の記憶」が章題になる。
なお、社会への影響としては、図書館での利用が増えると同時に、学校現場で「音の測定」より先に「聴感の記述」を学ぶ授業案が検討されるようになったという。もっとも、具体的な導入は自治体ごとに異なり、の一部校では「音響倫理の小テスト」が行われたとされるが、記録が限定的である[6]。
国際化:ベルリン地下倉庫と“回収不能フォーマット”[編集]
海外版の転機は、の倉庫転用計画に参加した録音班が、改修工事の振動を“曲の一部”として残したことにある。制作ログによれば、その倉庫ではの低域が定常的に現れ、作曲者が最終パートでその周波数帯だけを意図的に抜き取ったとされる。
ただし抜き取りは録音機の校正ではなく、現場の壁材の乾燥度合いに依存していた。乾燥度の測定が不十分だったため、次回制作では抜き取り結果が変化し、シリーズの原則である「再現不能の利用」が強烈に体現されることになった。
このとき導入された概念がである。形式上はデータではなく説明テキストに相当し、再生方法が複数に枝分かれするよう設計されていた。結果として、音源を所有しても同一体験に到達しないことが“購入の動機”になり、商業流通よりも私的上映が増えたと報告されている[7]。
各巻の特徴(見出しだけでなく“矛盾”を買わせる仕組み)[編集]
シリーズは巻ごとに「奇妙さのテーマ」を設定したとされる。第1巻は“角度のある反射”、第2巻は“遅延の癖”、第3巻は“聴感の反転”など、物理現象というより、受け手の身体感覚を主語にした命名が採られた。
また、公開録音では参加者が同じ順番で耳を塞ぎ、最後に外すタイミングだけを観察される儀式的プロトコルが採用された。ある参加者は「自分が外したはずなのに、外した感覚が他人のものに変わっていた」と述べたという。こうした証言は検証可能なデータではないが、シリーズ側では“検証不能な一致”こそが奇妙さだと位置づけた[8]。
さらに、奇音機構の事務局は、巻末に「解釈の座標図」を付けた。座標図は音の周波数軸と、受け手の生活文脈軸(通勤、食事、睡眠)を重ねたもので、合理的であるように見せつつ実際は生活文脈が曖昧に定義される。ここが批判の火種になった(次節)。
批判と論争[編集]
論争の中心は、シリーズが科学的根拠に見える文章構成をとりながら、評価の多くを聴感の主観に依存させている点にあった。批判者のは「再現性が欠けているなら、欠けた理由を言語化するべきだが、シリーズは言語化を“作品化”して逃げている」と主張した[9]。
一方で擁護側は、音楽研究の対象が物理値だけではないことを強調した。特にのがまとめた報告では、「奇妙さとは測定の欠落ではなく、測定が届かない領域の表現である」とされ、評価はむしろ“測定の限界を共有する行為”だと論じられた。
ただし、記録の一部には整合性の疑いがあるとされる。たとえば、ある巻の公開録音の参加人数がとされる一方、会場の座席数はであったことが後に判明した。機構側は「立ち見は“聴覚パラメータ”として数えた」と説明したが、数え方が恣意的だった可能性が指摘されている[10]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 佐伯律子『周波数便編集余録—奇妙さの尺度をめぐって』周波数便社, 2008.
- ^ 田宮克弥『主観評価と再現不能の倫理』音響批評叢書, 2011.
- ^ 山下理紗『身体文脈としての聴感—ストレンジ・ミュージックの解釈座標』京都大学出版会, 2013.
- ^ Dr. Margaret A. Thornton『Non-Reproducible Listening: Toward an Ethics of Error』Oxford Acoustics Press, 2014.
- ^ 渡辺精一郎『テープ速度の“止めどころ”に関する試験報告(第3報)』日本音響技術学会, pp. 41-58, 2009.
- ^ 奇音文化振興機構『矛盾スコア審査表の手引き(第2版)』奇音機構事務局, pp. 12-27, 2010.
- ^ Klaus Wernicke『Berlin Archive Experiments and the Strange Index』Vol. 7, No. 2, Journal of Urban Sound Studies, pp. 201-229, 2012.
- ^ 一般社団法人奇音文化振興機構『地域音響実装メモランダム(抜粋)』文化庁補助資料室, 第1巻第1号, pp. 3-16, 2015.
- ^ 編集部『“回収不能フォーマット”の記述形式について(暫定稿)』周波数便別冊, 2016.
- ^ Nakamura, H.『Interpretation Maps in Experimental Audio』(タイトルの表記が資料により揺れるため要確認)Vol. 3, No. 1, International Review of Listening, pp. 77-96, 2018.
外部リンク
- 奇音機構アーカイブ
- 周波数便 データ閲覧室
- ストレンジ試聴ログセンター
- 回収不能フォーマット解題サイト
- 音響倫理フォーラム(仮設)