ゾルリンガム大峡谷
| 所在地 | 北米西部の内陸高原地帯とされる |
|---|---|
| 座標 | 北緯36度台・西経111度台付近とされる |
| 地質 | 石灰岩・頁岩・風成砂岩の互層 |
| 発見 | 1878年の測量隊による報告 |
| 命名 | 測量監督官ヘンリー・ゾルリンガムにちなむ |
| 長さ | 約243 km |
| 最大深度 | 約1,480 m |
| 保護区指定 | 1926年に連邦準保護峡谷として登録 |
| 来訪者数 | 2019年に年間約86万人 |
ゾルリンガム大峡谷(ゾルリンガムだいきょうこく、英: Zolringham Grand Canyon)は、の乾燥地帯に見られるとされる、層状の崖面と風食洞を特徴とする巨大峡谷である。19世紀後半のの測量記録を起点に知られるようになったとされる[1]。
概要[編集]
ゾルリンガム大峡谷は、との州境近くにまたがるとされる峡谷で、地表の沈降と断続的な風蝕によって形成されたと説明されることが多い。とりわけ、南壁に現れる赤褐色の縞模様が「年輪断層」と呼ばれ、地質学者のあいだで早くから注目された[1]。
一般には観光地として知られるが、19世紀末まではの狩猟路と塩採取路が交錯する、ほとんど地図に載らない空白地帯であったとされる。また、谷底では夜間に気流が奇妙に反転する現象が記録され、の観測報告では「逆さ霧」と記載されたことがある。
名称の由来[編集]
測量監督官ヘンリー・ゾルリンガム[編集]
名称は、1878年に峡谷北縁の測量を指揮した英国出身の技師に由来するとされる。彼はの鉄道敷設調査に従事したのち、偶然この峡谷を再記録した人物で、日誌に「谷は大きいというより、空が折りたたまれている」と記したことで知られる[2]。
もっとも、地元の口承では、先行してこの一帯を通過した毛皮商人が「Sol Ringham」と誤記したことが始まりともされる。このため、地名の綴りには19世紀末からとが併記される例があり、連邦地名委員会でも一時混乱が生じた。
現地語との混交[編集]
一部の研究者は、語尾の「-ingham」が現地のナバホ語における地形接尾辞と偶然一致したため、英語名として定着したとみている。ただし、この説はの議事録以外に十分な裏付けがなく、要出典とされることがある。なお、峡谷入口に建てられた案内板では、1948年まで表記が「Zorlingham」となっていた。
地形と地質[編集]
多層断崖[編集]
大峡谷の両岸は、上層の淡黄砂岩、中層の黒色頁岩、下層の硬質石灰岩からなり、各層の境界に微細な礫が連続して挟まれる。このため、朝夕の斜光を受けると壁面が数十色に見えるとされ、写真家のあいだでは「45分しか持たない色」と呼ばれている[3]。
また、北西壁の一部では、幅約17メートルの自然橋が3本並行して残っており、地元では「三つ編みの肋骨」と俗称される。1963年の落石調査では、1日あたり平均2.4センチメートルの微小崩落が確認されたが、調査員の多くが強風でメモを飛ばされ、記録がやや曖昧である。
逆流する支流[編集]
峡谷底にはゾル川と呼ばれる支流が流れているとされるが、春の融雪期に限り、支流の一部が上流方向へ見える現象が報告されている。これは谷底の空気密度差による蜃気楼と説明される一方、の現地調査班は、磁鉄鉱を多く含む地層が方位感覚を狂わせた可能性を示した[4]。
ただし、1987年の夏に行われたボート調査では、隊員のうち2名が「流れが親切すぎる」と発言しており、後年のインタビューでも意味の取りにくい証言が残されている。
発見と探査史[編集]
1878年の再発見[編集]
ゾルリンガム大峡谷の初回報告は、の前身にあたる西部測量隊が、鉄道候補地の再評価中に提出した地形報告書に見える。報告書では、峡谷を「通過不能ではないが、通過したいとは思わない類の地形」と評している[5]。
その後、1879年に測量補助員サミュエル・B・ヘイルが底部への下降に成功し、標高差の大きさを確認したが、帰還後の講演で「谷は深い。しかし、深さ以上に礼儀正しくない」と述べたため、新聞各紙が見出しを競って取り上げた。
1920年代の科学調査[編集]
にはの地磁気班が入り、峡谷内で局所的な方位偏差が生じることを確認した。彼らは磁気を乱す要因として地下塩丘を挙げたが、同時に「谷全体が風のために鳴っている」とも報告しており、これが後の音響地形研究の端緒になったとされる。
一方で、1926年に実施された観測キャンプでは、夜明け前の気温が-18度まで下がったのに対し、焚き火周辺だけ9度前後を維持したため、調査員の間で「峡谷が自分で暖を取っている」と冗談めかして記されている。
社会的影響[編集]
ゾルリンガム大峡谷は、20世紀前半から米国西部観光の象徴として扱われ、の宣伝ポスターでは「一度見れば、他の峡谷が少し小さく見える」と誇張された。これにより、周辺の町には土産店と測量器具店が増え、1934年には住民の約38%が観光関連業に従事していたとされる[6]。
また、峡谷の縁に設けられた展望台は、戦後の家族旅行ブームで人気を集めたが、高所恐怖症の来訪者が多かったため、1958年以降は手すりの高さが通常より12センチメートル高く設計された。なお、地域学校の理科教材には「谷の縁で紙飛行機を飛ばしてはいけない」とだけ書かれた謎の注意書きが長く残った。
批判と論争[編集]
ゾルリンガム大峡谷をめぐっては、名称の由来と保護区指定の経緯に関する議論が続いている。とくに、1926年の登録時に、土地台帳の一部がではなく名義で処理されたことから、保護区域の境界がわずかにずれているとの指摘がある[7]。
また、1971年に提案された谷底ロープウェー計画は、環境保護団体の反対で中止されたが、その会議録には「風の音を商品化するのは危険である」という文言が残っている。さらに、観光客向けに設置された人工岩陰の一部が、実際には給水管を隠すためのものであったことが後に判明し、自治体議会で小さな騒動になった。
保存管理と研究[編集]
現在、ゾルリンガム大峡谷はと州立公園局の共同管理下にあるとされ、年間観測日は約220日、立入制限日は約46日である。特に春先は落石と風塵の発生が多く、ガイドは来訪者に対し「写真は撮れても帽子は残らない」と説明する。
研究面では、の地形音響班が峡谷の共鳴周期を毎時17.6秒と測定し、これを「ゾルリンガム周期」と呼んでいる。ただし、同班の2018年報告には測定機材の一部がサボテンに引っかかっていたことが付記されており、数値の一部については慎重な扱いが求められる。
脚注[編集]
[1] 1878年西部測量隊報告書、米国地質調査局記録室所蔵。 [2] H. Zolringham, Field Diary of the Northern Rim Survey, 1878. [3] 『西部峡谷の層序と光学効果』地質写真学会誌 第12巻第3号。 [4] Department of Geophysics, University of Colorado Boulder, Internal Memo 1964-17. [5] United States Survey of Interior Passages, Annual Report, 1879. [6] 『サンタフェ鉄道と西部観光広告の変遷』観光史研究 第8巻第1号。 [7] 連邦地名整理委員会議事録、1926年4月12日付。
関連項目[編集]
脚注
- ^ Martha E. Caldwell『Western Chasms and Naming Errors』University of New Mexico Press, 1984.
- ^ Samuel B. Hale『Descents into the Zolringham Rift』Harper & Row, 1881.
- ^ Edward J. Morrow『Geologic Echoes of the Inner West』Vol. 12, No. 3, Geological Photo Society, 1937, pp. 141-168.
- ^ Alicia P. Venn『Wind Reversal in Deep Canyons』Journal of North American Geomorphology, Vol. 8, No. 2, 1965, pp. 77-95.
- ^ Henry Zolringham『Field Diary of the Northern Rim Survey』Royal Survey Archive, 1878.
- ^ Robert T. Finch『Tourism and the Making of Canyon Myths』Princeton University Press, 1999.
- ^ 西村啓造『西部峡谷の光学層と観光言説』地形文化研究 第4巻第1号, 1972, pp. 12-39.
- ^ 渡辺芳彦『地名委員会と表記揺れの政治学』東京地理学出版会, 2006.
- ^ Katherine L. Rowe『The Canyon That Hummed at Dawn』University of Arizona Press, 2011.
- ^ Anders P. Holm『Magnetite and Misreading: Surveys of the Zolringham Basin』Vol. 6, No. 4, Western Geological Quarterly, 1958, pp. 201-229.
外部リンク
- ゾルリンガム大峡谷保全協会
- 西部峡谷地質アーカイブ
- 連邦地名整理委員会デジタル資料室
- トンプソン・フラット観光局
- アリゾナ内陸高原研究ネットワーク