タレーラン式外交
| 題名 | タレーラン式外交法 |
|---|---|
| 法令番号 | 昭和57年法律第142号 |
| 種類 | 公法(外交手続法) |
| 効力 | 現行法 |
| 主な内容 | 交渉成果の「責任分解」手続、報告様式、例外規定 |
| 所管 | 外務省 |
| 関連法令 | 外交交渉記録の保全に関する省令、国際説明義務告示 |
| 提出区分 | 閣法 |
タレーラン式外交法(たれーらんしきがいこうほう、昭和57年法律第142号)は、過去の政権の外交上の失敗を「交渉の余地」として再定義し、次期政権の責任を最小化するための日本の法律である[1]。略称は「タ式外」です。所管は外務省が行う[2]。
概要[編集]
タレーラン式外交法は、外交交渉における「前政権の選択」と「現政権の成果」を、同一案件であっても法的に切り離して扱うことを目的とする日本の法律である[1]。
本法は、外務大臣に対し、交渉の進捗を所定の「責任分解報告書」により毎月記録させ、国会提出の際に適用条項を明示することを義務づけるものである(第3条、第11条)[3]。とりわけ、相手国からの抗議や国内世論の揺り戻しが発生した場合に備え、説明文言のテンプレートを定める点が特徴とされる。
なお、適用の対象は「外交」とされるが、本法のいう外交交渉には、実務上は通商、査証、文化交流、そして“言外の侮辱”の処理まで含むものと解されている。
構成[編集]
本法は、全18章・計72条・附則11項から成り、条文は「手続」よりも「言い回し」の精度に重点が置かれているとされる。
第1章は総則として目的、定義、適用範囲を置き、第2章以降で、責任分解報告書(第9条以下)、交渉記録の保全(第14条)、国会答弁の様式(第22条)などを規定する。さらに、政権交代期における移管手続が別立てで整備されており、これにより「失敗の連鎖」を遮断することが期待された。
一方で、条文中には「法律の趣旨に反する場合を除き」などの包括句が多用され、裁量の余地を残す設計になっていると指摘されている。
沿革[編集]
制定の経緯[編集]
タレーラン式外交法は、昭和55年の総理指名後に発生した対外信用不安を背景として、急ごしらえで編成された「説明統合臨時作業班」により起草されたとされる[4]。
当時、外務省は交渉担当者の自筆メモが“前政権の悪口”として拡散される事態に直面しており、責任追及が具体化する前に、交渉史の位置づけを調整する必要があると判断されたとされる。そこで、外務省内の「言外処理局」(架空の部署名として、当時の内部資料で言及される)により、同じ事実を“別の責任”へ写像するための条文原案が作られた。
特に議会審議では、提出者側が第1条の読み上げに先立ち、条文の語尾(〜とする/〜に規定する)を3回以上読み直すことを要求されたという“運用上の儀礼”が残っており、これがのちに「形式の精度が外交の安全弁になる」という信条を生んだとされる[5]。
主な改正[編集]
施行後、昭和60年の「説明文言改良改正(昭和60年法律第33号)」では、責任分解報告書の様式が刷新され、記入欄が従来の48項目から77項目へ増やされた[6]。この増加は、抗議文を“失敗”ではなく“説明不足”として処理できる余白を増やす狙いであったとされる。
さらに、平成7年の一部改正では、第41条の例外要件が緩和され、「相手国の発言が侮辱に該当するおそれがある場合」には、この限りでないとする運用が明文化された[7]。一部の野党は「侮辱の閾値が閣議で動く」と批判したが、与党は「閾値は事実に基づく」と反論した。
ただし、学術側からは、改正ごとに語尾の“逃げ道”が増えているとの指摘もある。
主務官庁[編集]
本法の所管官庁は外務省である(第2条)[2]。外務大臣は、本法に基づき、各外交交渉案件ごとに責任分解報告書を編成し、条項適用の理由を記載しなければならないとされる。
また、外務省は、外交記録の保全に関する省令案を作成し、政令で定める期間内に施行しなければならない(第16条)。この期間は、通常180日(ただし重大案件は240日)とされ、記録が“保存されたこと”自体が説明上の証拠になるよう設計されている。
国会への提出は、衆議院・参議院それぞれに対し同一書式で行うものの、想定質問が異なるため、要旨欄の語尾だけが微調整される運用が慣行化したとされる。
定義[編集]
本法では、いわゆるタレーラン式外交を、複数の政権が関与した外交案件について、結果の評価軸を分割し、現政権の成果のみを“達成”として扱うことと定める(第4条)[8]。
第5条では、「責任分解」とは、交渉の経緯を(1)前政権の選択(2)現政権の調整(3)相手国の反応に区分し、報告書の条項適用を可能にすることをいうと規定する。
さらに、第6条により「前政権の失敗」とは、現政権の政策努力によって合理的に改善されうると見込まれる事象であって、具体的には“改善可能性が立証されるまで失敗と断定しない”ものに該当する者とされる(第6条2項)[9]。ただし、当該立証は、過去の記録の解釈により行うものとされ、この点についてはこの限りでないとされる。
条文上は、用語の定義が丁寧である一方、解釈の分岐点が多く残されているといえる。
罰則[編集]
本法に違反した場合、外務省の担当職員には懲戒手続が適用されるが、同時に“言い回し”の誤りにも刑事罰が結びつく設計になっている。
第60条では、責任分解報告書において、第9条の規定により記載すべき「適用条項番号」を欠落させた者は、6月以下の拘禁または罰金30万円に処するものと規定する[10]。
また、第63条では、相手国の発言を「侮辱」と断定したまま提出した場合であって、法律の趣旨に反する場合にはこの限りでないとしつつ、結局その場合でも“反証不能”と判定された者に対し罰則を科す運用があるとされる(第63条)[11]。なお、附則第9項により、行政罰の対象となるのは個人だけでなく、部署単位でも一定の場合に適用されると解されている。
もっとも実務上は、刑事罰の適用より先に、外務省内の「語尾審査会」(架空の審査機関名)が差し戻しを行うと伝えられている。
問題点・批判[編集]
タレーラン式外交法は、責任を分解して説明の衝突を回避するという意味では合理的だと評価される一方で、「責任の実体」そのものを言葉で動かす危険があるとして批判されている。
特に、第6条の定義は「失敗と断定しない」ための条件が広く、説明不足が恒常化する温床になると指摘されている[12]。また、年次報告で使用されるテンプレート語彙(「改善可能性」「合理的調整」「相手国の反応」)が固定化し、相手国からは“日本の説明が同じ形で返ってくる”という不信が生じたとする観察もある。
野党側の有識者会見では、条文の抜け道を示すため、わざと会見原稿の語尾を7回変えてみたところ、最終的な評価が変わることを示したという逸話が紹介された。これは極端であるものの、「法令は手続を整えるためのもの」という原則から逸脱しているとの疑義が強いとされる。
さらに、ある研究者は「附則11項が“適用される範囲”を広げる方向に働いており、法令解釈が政治の気分に連動する」と述べたとされる[13]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 外務省『タレーラン式外交法逐条解釈(改訂版)』外務省官房, 1982年, pp. 12-45.
- ^ 佐伯和馬『責任分解報告書の法理——語尾の統治と説明義務』法律文化社, 1995年, Vol. 14, 第2巻第3号, pp. 33-61.
- ^ Martha J. Hargrove『Diplomatic Liability and Narrative Segmentation』Oxford University Press, 2001年, pp. 101-139.
- ^ 内閣法制局『法令技術に関する実務要領(附則の扱い)』有斐閣, 1986年, pp. 77-84.
- ^ 山田玲奈『相手国の反応を「事実」に固定する手続論』国際法政策研究会, 2008年, pp. 201-226.
- ^ 外務省『責任分解報告書様式の変遷資料』外務省, 1995年, pp. 5-18.
- ^ 田村誠一『侮辱認定と例外規定——「この限りでない」の運用分析』日本法政学会, 1999年, Vol. 22, 第1巻第4号, pp. 12-29.
- ^ Klaus D. Rehn『The Semantics of Diplomatic Escape Clauses』Springer, 2012年, pp. 58-90.
- ^ 前田政人『外交は記録である——保存期間180日・240日の意味』青林書院, 2003年, pp. 9-27.
- ^ 【要出典】法令比較研究所『日本の“説明義務告示”とその派生』架空出版社, 2017年, pp. 1-15.
外部リンク
- タレーラン式外交法データベース
- 外務省語尾審査会記録倉庫
- 責任分解報告書の見本館
- 国会答弁様式アーカイブ
- 説明統合臨時作業班(幻の資料)