トゲナシトゲアリトゲトゲ
| 分野 | 民俗学・民間分類学・遊具文化 |
|---|---|
| 成立時期(とされる) | 1997年頃 |
| 主な伝播経路(とされる) | 地域の自然観察会の記録ノート |
| 関連する概念 | 触覚記憶ラベル、針状音節索引 |
| 用語の性格 | 呪文風の識別語(観察用コード) |
| 代表的な使用場面 | 林縁の採集ゲーム、子どもの迷路競技 |
| 指摘される異説 | 工学用の音韻符号からの転用説 |
トゲナシトゲアリトゲトゲ(とげなしとげありとげとげ)は、日本の民俗学系サークルを起点に流通したとされる、同名の「識別語」および遊具文化の俗称である。語の列挙法は呪文に近いが、体系的な観察指示としても説明されてきた[1]。
概要[編集]
トゲナシトゲアリトゲトゲは、一見すると意味のない連続語であるが、実際には「触れた質感」「見えた形」「移動の癖」を短い音で順番に固定するための識別語として語られてきたとされる[1]。
語の構造は、まず「トゲナシ」(刺がない感触)で安全側を示し、次に「トゲアリ」(針や棘のような構造が存在する)を置き、最後に「トゲトゲ」(反復的に刺さる/絡む感覚)で危険度の上振れを予告する、と説明されることが多い。ただし、地域によって解釈の配列や語尾の伸ばし方が異なり、その差異自体が遊びとして記録されてきた[2]。
この呼称が生まれた過程には、子どもの自然採集と、大人の分類研究が交差した「現場主義」の色合いがあるとされ、のような組織が関わったとする伝承が存在する。なお、近年では「触覚記憶ラベル」として民間の学習法にも転用されているという指摘がある[3]。
歴史[編集]
語の発明と最初のメモ[編集]
起源は長野県の山あいにある、当時「分岐点の多い観察路」と呼ばれていた私設ルートに遡るとされる[4]。1997年、近郊の林縁観察会で配られたという手書きの回覧ノートには、危険な植物を避けるための「触る前の自己申告語」が記されていたとされる。
そのノートでは、棘の形状を説明する代わりに、観察者が自分の状態を短く読み上げることで集合の混乱を減らす工夫が採用された。そこで生まれたのが「トゲナシ→トゲアリ→トゲトゲ」の順番である、と語られてきた[4]。特に最初の2語は「事故報告の遅延」を減らす目的があったという説明があり、実務上の理由が呪文風の語感に衣を着た形になっているとされる。
なお、回覧ノートの筆跡が東京都の理系大学院生のものに似ているとして、別ルートの転用説が出た。転用説では「音韻符号(誤読しにくい母音配列)」を工学教育に使っていた研究者が、子どもの現場に持ち込んだのではないかと推定されている。ただし、この推定は出典の提示が弱く、要出典とされることが多い[5]。
遊具化と「反復的刺さり」の競技[編集]
2000年代前半には、語が自然観察だけでなく遊具として再設計された。具体的には、紙のカードに「トゲナシ」「トゲアリ」「トゲトゲ」と短く印字し、カードをめくるタイミングで“触覚の想像”を競うゲームが考案されたとされる[6]。
京都府の学区内イベントでは、カードの裏面に直径0.8ミリの微細な突起を配置したことが話題になったという。参加者は突起を触る前に必ず「トゲナシ」と声に出し、次に触った感触に応じて「トゲアリ」または「トゲトゲ」を選ぶ。結果として、選択ミスが増えるほど笑いが起きる設計だった、と記録されている[6]。
さらに2006年頃、競技運営側は安全管理のため「棘の語」を叫ぶ回数に上限を設けたとされ、例えば“トゲトゲ”の読み上げは1分あたり最大12回まで、というローカル規定が広まったとされる[7]。この細かさは、運営委員が事務処理の都合で「12」を好んだだけではないか、という噂もあるが、要領良く安全対策が行われたことから半ば神格化したとされる。
一方で、ゲームが熱中を呼び、実際の危険植物に触れる行為へ飛び火する例があり、内閣府の関連資料では「象徴語への過信」に関する注意喚起が“別件の文章”の中に紛れ込んだとされる。ただし、当該部分が本当に関連しているかは判然としない[8]。
構造と用法[編集]
トゲナシトゲアリトゲトゲは、単なる音の並びではなく、触覚の段階推定を口頭で行う手続きとして説明されることがある。ここで「トゲナシ」は“棘がない”ではなく、観察者が「まだ確認していないが安全帯を宣言する」意味で使われる場合があるとされる[9]。
次に「トゲアリ」は“棘がある”の直接宣言に限定されず、“棘の可能性があるため距離を取る”という予防的モードに相当するとされる。最後の「トゲトゲ」は、同じ危険が連続する場面を想定した比喩であり、絡みつく布地や粘着のような現象にも転用されることがあると報告されている[10]。
地域差としては、北海道では語尾の「トゲ」が少し長く伸ばされ、聞き手の集中を促す工夫があるとされる。一方ででは、読み上げの際の息継ぎが採点対象になり、“息が途切れる=誤認”という判定が行われた例もあるという[10]。このように、言語学的には幼児向けのリズム教育に寄せた運用が見られる反面、民俗的には“触れる前の祓い”として扱われる場面もあり、解釈の幅が広いとされる。
社会的影響[編集]
トゲナシトゲアリトゲトゲは、自然観察会の外にも波及し、学校の安全教育に似た形で採用されたとされる。特に、触れる前に口頭で状態を宣言することで、見落としを減らす教育効果があったという主張がある[11]。
また、語のリズムが短く、子どもが覚えやすい点から、「対話の遅延」を縮めるコミュニケーション手段としても紹介された。例として、林縁の“迷路競技”では、迷った子が合図を送る際にを使うルールが定着し、スタッフの誘導時間が平均で19%短縮された、という数字が報告されたとされる[12]。
この19%の算出根拠は、参加者全員を同じルートで走らせたわけではないため不確実性が指摘されているが、記録が残っていたために自治体間で引用され続けたと説明されることが多い[12]。さらに、民間企業の安全啓発ポスターでは、比喩として棘を「注意の連続」と置き換えた運用が見られ、言葉が社会の“比喩の語彙”に取り込まれていったとされる[13]。
批判と論争[編集]
批判としては、象徴語があたかも実測に準ずるかのように振る舞う点が問題視された。例えば、指導者が「トゲアリと言ったから大丈夫」と判断し、実際の危険チェックを省くケースが報告されている[14]。
また、語が“呪文”として理解されるほど、過剰な儀礼化が進むのではないかという懸念も出た。ある市民団体は、ゲームが盛り上がるほど参加者が「トゲトゲ」を大声で繰り返し、周囲に注意を払わなくなる事態が起きると指摘した[15]。
一方で擁護側は、そもそもトゲナシトゲアリトゲトゲは観察のための合図であり、危険の軽視ではないと反論した。実際、運営マニュアルでは「トゲナシ」は確認前宣言に過ぎず、最終的には視認と距離確保を行うことが必須とされるという。もっとも、このマニュアル自体が見つかりにくい資料であり、要出典扱いになった箇所もある[16]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 相良倫子『棘の言語化と子どもの安全行動』萌芽書房, 2003.
- ^ D. K. Morita『Vocal Rituals in Informal Field Learning』Journal of Playful Cognition, Vol.12 No.3, 2009, pp.41-66.
- ^ 【要出典】中島雅人『地域回覧ノートの筆跡史』京都民間文庫, 2011.
- ^ 田中慎吾『林縁採集会における合図体系の変遷』日本野外学会紀要, 第7巻第1号, 2005, pp.12-28.
- ^ Margaret A. Thornton『Phoneme-Friendly Cues for Risk Communication』International Review of Safety Folklore, Vol.4 No.2, 2014, pp.109-133.
- ^ 佐伯容子『触覚の段階推定:トゲナシからの推論』心理教育研究, 第19巻第4号, 2012, pp.233-259.
- ^ 伊藤和彦『紙カード型触感ゲームの設計要件』東京工房論叢, Vol.21 No.1, 2008, pp.77-95.
- ^ B. L. Chen『When Spines Become Metaphors: A Case Study of Community Pop-Science』Applied Mythology Quarterly, Vol.9 No.2, 2016, pp.5-31.
- ^ 吉田麻衣『注意連続としての棘:安全啓発ポスターの語用論』宣伝と言語, 第3巻第2号, 2018, pp.51-70.
- ^ 松嶋一郎『北海道における語尾伸長の採点実務(誤読を減らす訓練)』北方教育技報, 第2巻第9号, 2020, pp.301-318.
外部リンク
- 林縁採集会アーカイブ
- 触覚記憶ラベル研究所
- 遊具安全設計ギルド
- 針状音節索引オンライン索引
- 迷路競技運営記録館