ノハヤマノホネキシタカムシ
| 名称 | ノハヤマノホネキシタカムシ |
|---|---|
| 界 | 動物界 |
| 門 | 節足動物門 |
| 綱 | 昆虫綱 |
| 目 | ハネムシ目 |
| 科 | 骨軋タカムシ科 |
| 属 | ノハヤマ属 |
| 種 | ノハヤマノホネキシタカムシ |
| 学名 | Nohayama fissura-costata |
| 和名 | ノハヤマノホネキシタカムシ |
| 英名 | Nohayama Bone-Creaking Rove-Cricket |
| 保全状況 | 準絶滅危惧(推定) |
ノハヤマノホネキシタカムシ(漢字表記:野刃山の骨軋高虫、学名: ''Nohayama fissura-costata'')は、に分類されるの一種[1]。
概要[編集]
ノハヤマノホネキシタカムシは、主に周辺の乾いた落葉層に生息する、音響を利用して縄張りを維持するとされる昆虫である[1]。名称は、翅基部にある微細な稜(りょう)が地表の微小な骨状鉱物と擦れ合うことで、軋むような音を出すことに由来すると説明されてきた。
本種は、標本採取の際に「笑い声のような甲高い軋音」が観察されることがあり、かつて地方博物館の展示で“骨の軋む害虫”として人気を博したとされる[2]。もっとも、のちに音の発生源は骨ではなく、地表のであると再検討されたが、その呼称だけは残存したとされる。
分類[編集]
ノハヤマノホネキシタカムシは、のに分類されるである[1]。科内では、翅基部の稜が“顎(あご)ではなく胸郭に結合している”点が特徴とされ、系統解析ではに単独で置かれている[3]。
起源については、19世紀末の林学調査隊がで採取した「骨軋する翅音」をもとに、民間の採集家が独立した属を提案した経緯が記録に残っているとされる[2]。ただしその記録は、後年に筆跡の一致が指摘され、研究メモの改変が疑われたとも言われている[4]。
近年では、地域伝承の「山が鳴く」という言い回しが、本種の繁殖期の合図音と結びつけて説明されることがある。実際に音の頻度が季節降雨と強く相関し、期の衛生統計に“軋音報告”が紛れ込んだ例もあるとされる[5]。
形態[編集]
ノハヤマノホネキシタカムシは、体長がおおむね6.8〜9.4mmの範囲で観察されるとされる[1]。体色は暗褐色から灰褐色で、腹部背面に“亀裂状の紋”が並ぶ点が同定の手がかりとされる[3]。
翅(はね)には、基部に向かうほど間隔が狭まる稜(りょう)の列があり、これが地表の微小凹凸やの粉と擦れることで「きしり」と表現される音を発生させると考えられている[2]。この音が高頻度に発生する個体は、翅の両側で稜の角度が0.7°だけ異なることが報告された例もある[4]。
脚には、先端から2節目にかけて細い棘(とげ)が密生し、これが落葉層の“乾燥した粘着土”に食い込むことで移動効率を高める構造であるとされる。なお、発見当初はこの棘が「骨を噛むための器官」と誤解され、俗称の由来として語られ続けたとも言われる[5]。
分布[編集]
ノハヤマノホネキシタカムシは、主におよびその周縁の山地帯に分布するとされる[1]。具体的には北部の標高420〜860mに集中して記録され、これは落葉層の炭素率と湿度の“交点”に一致すると説明されている[3]。
分布の境界は比較的急で、同じ県内でも谷を挟むと記録が途絶える場合があるとされる。2020年の観察報告では、トラップ設置点を1km間隔で並べたところ、軋音個体の捕獲率が設置点から約0.93km後に急減したとされる[6]。ただしこの数値は回収日の天候に左右される可能性があり、同じ手法での再現性は限定的とも指摘されている[7]。
人為的移動の可能性も論じられており、苗木運搬の箱材に幼虫が同梱されることで、周縁の植栽地にも一時的な出現があったとされる[2]。もっとも、定着には至らず、2〜3世代以内に消える例が多いと報告されている。
生態(食性/繁殖/社会性)[編集]
食性は、落葉層に堆積した微生物群と繊維片を“削り取る”ことで得るとされる[1]。特に、珪藻(けいそう)由来の微細片が多い地点で個体数が増える傾向が観察され、食性の一部が微生物生態に依存する可能性があると考えられている[3]。
繁殖は、初夏の夜間低温(18〜21℃)と、雨上がり後の表層乾燥が重なる時期に活発になるとされる[5]。オスは地表を歩きながら翅基部を擦らせ、群れの中心から半径約12m以内にいる個体へ“軋音”を届けると記録されている[6]。この距離は、当時の気象台が算出した音の減衰式に合う値として紹介され、結果として民間の目撃談が科学寄りに整理された経緯がある[8]。
社会性は単独性が基本とされつつも、繁殖期のみ“短期集合”が形成されるとされる[1]。集合のサイズは平均17.3個体(推定)で、最大でも25個体に留まると報告されている[4]。なお、集合が大きくなるほど音の干渉が起きやすくなるため、同じ個体が繰り返し軋むのではなく、時間差で役割を交代している可能性が指摘されている[7]。
一方で、巣(す)として見なされる構造がほとんど地中に存在しないことから、衛生害虫と誤認されることがある。特に落葉を掃き集める時期に“突然増える”と感じられるのは、捕食者の活動低下が重なるためであると説明されている[2]。
人間との関係[編集]
ノハヤマノホネキシタカムシは、地方の自然観察会で人気が高い一方、農林作業者からは“骨を軋ませる害虫”として警戒されてきた[2]。ただし実害は限定的で、農作物の茎を直接傷つける証拠は乏しいとされる[3]。
その一方で、1970年代にの衛生課が配布した注意チラシに、本種が「不快音発生源」として掲載されたことがある[5]。チラシには“夜間に軋音が続く場合は、周辺落葉層を深さ5cm以上まで反転せよ”と具体的に書かれていたとされる[6]。反転深さの数値は、現場で土が最初に“硬く感じる層”を指していたとも言われるが、後年には科学的根拠が薄いとして批判された[7]。
また、では、本種の翅音を録音して「擬音付き標本」として展示したところ、来館者が“骨がきしむ”音として認識した事例が報告されている[1]。展示担当の学芸員は、音響解析よりも物語性を優先した編集方針をとったとされ、結果として俗称が学術文献にも波及したと記されている[4]。
近年は、落葉の管理方針が変わったことで個体数が減少した可能性が指摘されている。保全状況は確定していないものの、環境保護団体の調査では“観察ログの件数が年平均8.1%低下”したと報告されており、準絶滅危惧相当の扱いが検討されている[8]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 山岸礼二「野刃山落葉層における骨軋タカムシ科の音響行動」『日本昆虫音響学会誌』第12巻第2号, pp. 41-58, 2016年。
- ^ 渡辺精一郎「骨軋する翅音の鑑定基準(試案)」『長内県自然史研究報』第3号, pp. 1-19, 1978年。
- ^ Dr. Margaret A. Thornton「Acoustic microgeography of leaf-litter rove insects」『Journal of Hypothetical Entomology』Vol. 29 No. 4, pp. 233-251, 2019.
- ^ 伊藤ミナト「稜角度差が繁殖成功率へ与える影響」『北方生態学レビュー』第7巻第1号, pp. 77-88, 2021年。
- ^ 長内県衛生課「夜間不快音に関する簡易指針:軋音発生時の対応」『衛生実務叢書』第5集, pp. 12-16, 1973年。
- ^ 佐伯康太「標高帯における捕獲率の減衰モデル」『応用フィールド統計』第15巻第3号, pp. 310-326, 2020年。
- ^ Karin van Dijk「On the reliability of single-season observations in montane insects」『Ecology of Borrowed Notes』Vol. 41, pp. 99-118, 2018.
- ^ 森谷岬「“骨”の誤解:展示編集が与えた分類学的波及」『博物館学通信』第22巻第2号, pp. 55-73, 2022年。
- ^ Takeshi Nomura「Leaf-litter organisms and anthropogenic perception」『International Review of Field Naturalism』Vol. 6 No. 1, pp. 1-24, 2015.
外部リンク
- 野刃山自然博物館 収蔵データベース
- 長内県 環境観察ログアーカイブ
- 骨軋タカムシ科 音響同定ガイド
- フィールド統計の暫定公開ノート
- 架空昆虫写真館:軋音の瞬間