バナナのナス、バナナス
| 名称 | バナナのナス、バナナス |
|---|---|
| 読み | ばななのなす ばななす |
| 英名 | Banana Eggplant, Bananas |
| 分類 | 発酵果菜・保存食 |
| 起源 | 18世紀後半の港湾保税技術に由来するとされる |
| 主産地 | 愛知県三河湾岸、神奈川県三浦半島、九州北部 |
| 主原料 | 黄熟したナス科果実、粗塩、稲藁灰 |
| 代表的形状 | 短い棒状または輪切り状 |
| 関連制度 | 近代果菜検査法・湾岸熟成表示 |
| 備考 | 一部文献では「バナス」と略記される |
バナナのナス、バナナスは、からへ伝わったとされる、黄熟した果実を二度塩漬けして発酵させる保存食品である。名称の奇妙さから末期の史研究で注目され、現在では「果菜発酵史上もっとも説明しにくい食品」の一つとして知られている[1]。
概要[編集]
バナナのナス、バナナスは、黄熟した果実を低温で追熟させたのち、粗塩と稲藁灰で二段階に漬け込み、独特の甘酸味を引き出す保存食品である。名称にとが同居しているが、実際には両者の交雑種ではなく、18世紀の港湾保税倉庫で生まれた符丁が後に食品名へ転化したものとされる[2]。
この食品は、もともとの倉庫記録に現れる「蕉菜(しょうさい)」を起点に、明治期のが行った果菜輸出検査の過程で標準化されたという説が有力である。なお、20世紀前半にはの一部漁村で弁当のおかずとして普及し、酒席では「皮をむくまで中身が誰にも読めない食品」として珍重されたという。
歴史[編集]
成立[編集]
起源は、商館の倉庫で船積み用の青果が傷み始めた際、通訳のが「蕉」と「茄」を同一棚に置くと発酵が安定することを偶然に報告したことに求められる。報告書『港湾腐敗抑止略記』には、の倉庫番が「バナナのように曲がったナス」であると聞き違えたため、そのまま帳簿に「バナナス」と記されたとある[3]。
その後、年間にはの海運商人・が塩蔵技法を導入し、果皮に小孔を開けてを詰める工程を確立した。これにより、輸送中の潰れやすさが半減し、荷主からは「普通のナスより帳尻が合う」と評されたという。
明治から昭和初期[編集]
10年代になると、による「湾岸果菜統計」の対象となり、には税関で年間4,280樽のバナナスが通過したと記録されている。ただし、この数字は後年の研究者から「樽の大きさが一定でないため統計としてはやや怪しい」と指摘されている[4]。
期には内の洋食店が付け合わせとして採用し、特にのカフェー街では、注文票に「Bナス」とだけ書かれることが多かった。これは店員が「バナナ」と「ナス」を別々に書くのを面倒がったためで、結果として略称が独立した商品カテゴリを形成したとされる。
戦後の再評価[編集]
、冷蔵技術の普及により保存食としての価値は一度低下したが、にの食品保存研究班が「バナナスの褐変抑制」に関する実験を発表し、再び注目された。班長のは、試験区の一つで誤って砂糖ではなく味噌を投入し、結果として「甘じょっぱい別種のバナナス」が生まれたと回想している[5]。
さらににはの朝市で土産物化が進み、プラスチック容器入りの「携帯バナナス」が観光客向けに販売された。説明札に「冷やしても温めてもよいが、温めると語尾が伸びる」と書かれていたことから、地元では半ば冗談、半ば伝統として受け入れられた。
製法[編集]
標準的な製法では、黄熟直前のを収穫し、へたを落とさずに一晩陰干しする。翌朝、表皮に9か所の切れ目を入れてとを交互に刷り込み、ほど木桶で一次熟成させる。
その後、米酢にと干し柚子を加えた二次液へ移し、さらに寝かせると、内部に微細な空洞が生じ、甘味と塩味が層状に現れる。熟成の最終段階では、職人が「音で判定する」慣習があり、桶を軽く叩いた際にに近い音程が出ると完成とされたという。
名称の由来[編集]
「バナナのナス、バナナス」という重複表現は、港湾帳簿における検品用メモが起源であるとする説が主流である。すなわち、青果の符丁として「バナナのように見えるナス」を意味する語が、「バナナのナス」へ、その後書記の誤記によって「バナナス」へ変化したとされる。
一方で、の民俗語彙研究では、漁村での呼び掛け「バナナのナス、バナナす?」が語源だとする異説もある。これは「今日、バナナみたいなナス、残っているか」という商人の問いかけが省略され、やがて商品名として固定したもので、地元では今も年配者が語尾を妙に伸ばして発音するという。
社会的影響[編集]
バナナスは、保存食でありながら見た目が果物に近いことから、学校給食や軍隊の補給食で「分類の練習」に用いられた。特にの文書には、兵卒が果物と誤認して食べたところ、塩気の強さにより全員が水筒の残量を再確認したとの記録が残る[6]。
また、の都市部では、家計簿上の「野菜」欄と「漬物」欄のどちらに記入すべきかで主婦層の議論を呼び、の会報『くらしの棚卸』に複数回取り上げられた。これにより、「食品の所属先は味ではなく工程で決まる」という半ば法令のような家庭内規範が広まったとされる。
批判と論争[編集]
一部の栄養学者は、バナナスの名称が一般消費者に誤解を与え、風味を期待した者がの食感に驚くとして批判した。また、にはの検討会で、名称に読点を含む商品登録は流通システム上不利であるとの報告が出された。
ただし、反対派の多くも試食会では箸を止められず、むしろ「最初に断言しにくい食品ほど広まりやすい」との経験則を認めている。なお、付きの議事録断片によれば、検討会の最後に委員長が「これはナス界のバナナである」と発言し、会場が一時静まり返ったという。
現代のバナナス文化[編集]
現代では、や沿岸の直売所で、贈答用・惣菜用・研究用の三系統に分かれて流通している。贈答用は金色の包み紙、研究用は無地の耐熱袋、惣菜用は最も安価な透明トレーに入れられることが多い。
には近くのイベント「果菜と港の夜市」で、長さ、重さの大型バナナスが公開され、来場者の4割以上が「思ったよりちゃんと食品だ」と感想を述べた。近年はスイーツへの転用も進み、バナナス入り羊羹、バナナスサンド、さらには「バナナス・ラテ」まで登場しているが、飲む側が先に困惑するため市場規模は限定的である。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田島英一『港湾果菜保存史序説』農林出版, 1998, pp. 41-68.
- ^ Margaret A. Thornton, "The Semiotics of Fermented Vegetables in Pacific Ports," Journal of Maritime Food Studies, Vol. 12, No. 3, 2004, pp. 115-139.
- ^ 鈴木与兵衛『蕉菜帳外録』三河郷土研究会, 1812.
- ^ 佐伯直人『近代果菜検査法と税関統計』日本食品史学会, 1976, pp. 203-227.
- ^ K. H. van der Meer, "On the Double Brining of Curved Solanaceae," Proceedings of the Nagasaki Mercantile Institute, Vol. 4, No. 2, 1791, pp. 9-31.
- ^ 木下清一郎『褐変抑制試験報告書』名古屋大学農学部紀要, 第18巻第1号, 1969, pp. 1-19.
- ^ 高橋澄子『都市弁当文化と略称食品』生活協同組合連合会出版部, 1984, pp. 77-94.
- ^ Atsushi Morikawa, "Audio-Based Ripeness Judgement in Barrel-Fermented Produce," East Asian Journal of Food Engineering, Vol. 7, No. 1, 2011, pp. 44-60.
- ^ 『港湾腐敗抑止略記』出島文庫影印叢書, 1933.
- ^ 日本食品標準化協会編『読点を含む商品名の流通適合性に関する検討』1988, pp. 5-12.
外部リンク
- 三河果菜史研究所
- 横浜港食品文化アーカイブ
- 出島倉庫文書デジタル館
- 湾岸熟成食品協会
- バナナス普及委員会