『パリの日本食』(映画)
| 作品名 | パリの日本食 |
|---|---|
| 原題 | Nihonshoku in Paris |
| 画像 | Paris_Nihonshoku_Poster.jpg |
| 画像サイズ | 250px |
| 画像解説 | エッフェル塔の影で湯気がほどけるワンシーン |
| 監督 | 堀川 彰門 |
| 脚本 | 堀川 彰門 |
| 製作総指揮 | エロイ・マルタン |
| 配給 | ユニヴェルサル・フィルムズ・フランス |
| 公開 | 2013年2月14日 |
『パリの日本食』(ぱりのにほんしょく)は、[[2013年2月14日]]に公開された[[ラ・ルメンタル]]制作の[[日本]]の[[架空]][[ドラマ映画|ドラマ]]。原作・脚本・監督は[[堀川 彰門]]。興行収入は12億4300万円で[1]、[[セーヌ河畔映画祭]]脚本賞を受賞した[2]。
概要[編集]
『パリの日本食』(ぱりのにほんしょく)は、日仏の食文化交流を題材としつつ、実際には「食」が持つ外交儀礼としての側面を描いたドラマ映画である[3]。
本作は、主人公が[[パリ市]]の裏路地で小さな「献立調停室」を開き、[[セーヌ川]]沿いの香りの境界線をめぐる“口約束の法廷”へ巻き込まれていく物語として知られている[4]。
公開当初は恋愛映画として宣伝されたものの、観客アンケートでは「説明台詞が多いのに、湯気の描写だけ妙に正確」と評され、劇中のレシピが“作中史料”としてSNSで引用される珍現象も起きたとされる[5]。
あらすじ[編集]
東京から渡仏した献立監修者の[[水城 玲央]]は、[[パリ郊外]]のフードフェスに呼ばれるが、そこで配られた「日本食の定義書」により出場停止になる。定義書の条文は「箸の角度」「出汁の温度」「沈黙の秒数」で構成され、玲央はその条文が“翻訳の皮をかぶった査察”であることに気づく[6]。
玲央は、[[モンパルナス]]の古書店に併設された“献立調停室”へ赴く。そこで調停官の[[ソフィア・ラヴォワズィエ]]は、料理を味わうのではなく、料理が人の記憶をどう書き換えるかで判断すると告げる。彼女はセーヌ河畔の霧が濃い日は、だし汁の表面張力が変わり、会話の速度も変化すると断言する[7]。
調停室は、失われた家庭の味を求める来客と、公式の献立を守りたい行政側の板挟みとなる。最終的に玲央は、ラーメンでも寿司でもない“湯気の儀式”を提案し、観客の拍手が初回上映の[[上映時間]]のタイミングに合わせて揃うという、作中でも説明されにくい演出へ収束する[8]。
登場人物(主要人物/その他)[編集]
主要人物[編集]
水城 玲央(みずしろ れお)は、日本の献立監修者として渡仏し、食の正しさに囚われた自分を相対化しようとする人物である。劇中では、湯の温度を常に[[63℃]]から[[66℃]]の間に保つ“癖”が描かれ、これは監督が取材メモから再現したとされる[9]。
ソフィア・ラヴォワズィエは、献立調停室の調停官として登場する。彼女は法律文書のように料理手順を読み上げるが、最後は必ず沈黙を挟み、沈黙が「味の最後の改行」として扱われる点が観客の記憶に残ったとされる[10]。
その他[編集]
マルク・ドゥボワは、[[セーヌ河畔映画祭]]の事務局員として登場し、本作の“食の境界”を映画制作側の文脈へ接続する役割を担う。彼は「三度目の試写で初めて出汁の匂いが安定した」と言い、映画の制作過程に小さく干渉する[11]。
ルイーズ・カロは、モンパルナスの古書店の店主であり、登場シーンが短いにもかかわらず、劇中レシピの用語に関する注釈を大量に置いていく。彼女が残すメモのページ番号が、なぜか観客投票の結果と一致するという“作中内の偶然”が繰り返し強調される[12]。
声の出演またはキャスト[編集]
キャスト(実写)としては、[[日本]]側の水城玲央役に[[藤堂 皐]]、ソフィア・ラヴォワズィエ役に[[エレナ・ベルナール]]が起用された。なお本作ではナレーションが少なく、セリフの前後に無音の間が設計されている点が特徴とされる[13]。
玲央の周辺人物には、[[ジャン=ピエール]]演じるマルク・ドゥボワ、[[カミーユ・デュラン]]演じるルイーズ・カロが出演した。吹替の制作資料では、沈黙の秒数を「0.7秒」「1.3秒」などと表記していたことが後年に明かされている[14]。
スタッフ(映像制作/製作委員会)[編集]
映像制作/製作委員会[編集]
本作の製作委員会には、[[ラ・ルメンタル]]を中心に、在日文化窓口を名目とする[[文化交流推進機構]]、フランス側の映像権利管理団体である[[SIREN映像権利会]]が参加したとされる[15]。
映像面では“湯気の質感”が最大の焦点になり、撮影チームは霧の粒径を[[0.12mm]]単位で記録したとされる。もっとも、この粒径が脚本上の小道具配置と連動している点については、撮影日誌の欠落が指摘されている[16]。
音楽/主題歌[編集]
音楽は作曲家の[[クララ・ヴァロワ]]が担当した。旋律は和楽器とフレンチホルンを“同じ呼吸”で鳴らす方針でまとめられ、特に終盤の主題動機は「出汁の味の語尾」に合わせて16小節だけ微妙に伸ばされたと報告されている[17]。
主題歌は「湯気の外交」(ゆげのがいこう)で、歌詞カードには“沈黙の行”が3行分印字されていた。これは一部の書店で誤って欠落したとされ、復刻時に問題になった[18]。
製作(企画/制作過程/美術/CG・彩色・撮影/音楽/主題歌/着想の源)[編集]
企画は、[[2010年]]にパリの料理研究会が開催した「味の領事館フォーラム」に端を発する、と公式パンフレットでは説明された。もっとも同フォーラムの議事録は「提出期限が休日で、翌日には霧で読めなかった」という記録のみ残っているとされる[19]。
美術面では、劇中の“献立調停室”が[[パリ市]]の倉庫図面を流用して作られたとされるが、実際の図面は判読困難で、セットには改修版が用意されたとされる[20]。CG・彩色については、白が多い料理場面で色被りを避けるため、照明の色温度を[[5400K]]から[[5600K]]へ段階的に変化させたと報告されている[21]。
着想の源としては、監督の[[堀川 彰門]]が「日本食は皿に載る前から外交だ」と語った発言がよく引用される。なお本人はインタビューで「“パリの日本食”は国ではなく、沈黙の住民票である」とも述べており、解説にはしばしば“宮崎監督による解題”に似た熱量の文章が混ざったと評されている[22]。
興行(宣伝/封切り/再上映/テレビ放送・ホームメディア/海外での公開)[編集]
公開にあたっては、チケット売場で「箸の持ち方」ではなく「出汁の匂いの説明」を配布する宣伝が行われ、映画館のスタッフが“湯気係”として配置された。もっとも、この湯気係は初週のみで、2週目以降は「匂い係」へ改称されたとされる[23]。
封切りは[[2013年2月14日]]で、バレンタインと同時期に設定された。初日の動員は推計で[[8,900人]]、興行収入は公開週末までに[[1億8200万円]]に達したと報告されている[24]。なお“2回目の上映で拍手が揃う”という噂が先に広まり、リピーターの比率が高かったとされる[25]。
テレビ放送では、[[NHK BS]]枠の特集として組まれ、視聴率は[[7.3%]]を記録したとされる。ホームメディア化では、DVDの色調問題として「白湯の黄味が緑寄りに出る」不具合が一度だけ話題になった[26]。
反響(批評/受賞・ノミネート/賞歴・ノミネート歴/売上記録)[編集]
批評では、[[東京都]]の映画批評家が「味の描写が“記憶の速度”として編集されている」と評したとされる[27]。一方でフランス側の新聞では「説明が丁寧すぎる」との声もあり、特に沈黙の秒数が“文化の型”として消費されている点が論じられた[28]。
受賞としては、[[セーヌ河畔映画祭]]脚本賞のほか、音響部門での短期ノミネートが複数回記録されている。売上記録としては、劇中で使用された「調停用出汁セット」が関連商品売上の上位に食い込み、レンタルランキングでも異例の首位を記録した[29]。
もっとも、出汁の温度設定が“実際の製菓レシピと一致していない”という指摘が出ており、監督は「一致するのは観客の体温だけ」と回答したと伝えられる[30]。
テレビ放送[編集]
テレビ放送では、番組内で“沈黙の秒数”を図解するテロップが入れられた。これは視聴者の混乱を避ける狙いだったとされるが、結果として逆に「秒数当てクイズ」のように視聴者が楽しむ形になったと報告された[31]。
再放送では、[[パリ市]]での上映前イベント映像が追加され、玲央が調停室で読み上げる献立条文の全文が字幕付きで公開された。しかし字幕の一部に誤字があり、翌日の修正で“湯気係→匂い係”が再び揺れたとされる[32]。
関連商品(作品本編に関するもの/派生作品)[編集]
関連商品としては、映画の“献立調停室”を再現した調理器具セットが発売された。セットには小さな温度計と、沈黙のためのタイマーが付属し、店頭で「沈黙は材料ではありません」という注意書きが同梱されている[33]。
派生作品としては、[[文化交流推進機構]]が監修した短編映像『湯気の外交・特別版』(全9分)が制作された。これは本編の終盤にある16小節の主題動機だけを抽出して編集した構成であり、教育用途としても販売されたとされる[34]。また、レシピ本ではなく“条文集”の体裁で出版された点が特徴である[35]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 堀川 彰門「『パリの日本食』脚本メモと沈黙の設計」『月刊映像編集学』第18巻第2号, pp. 41-63, 2013年。
- ^ エレナ・ベルナール「役者としての沈黙—0.7秒と1.3秒の差について」『俳優技術研究』Vol.12 No.4, pp. 88-97, 2014年。
- ^ クララ・ヴァロワ「和楽器とフレンチホルンの同一呼吸」『音楽工房ジャーナル』第9巻第1号, pp. 12-27, 2012年。
- ^ 佐伯 玲子「“匂い係”という観客設計」『映画興行論集』第6巻第3号, pp. 105-119, 2013年。
- ^ Eloi Martin「Parisian Cuisine as Diplomatic Ceremony: A Case Study」『Journal of International Film Reception』Vol.7 No.2, pp. 33-52, 2015年。
- ^ SIREN映像権利会「権利管理から見た食文化映画の波及」『映像権利研究年報』第3巻第1号, pp. 1-19, 2014年。
- ^ 文化交流推進機構編『味の領事館フォーラム記録(閲覧不能版)』文化交流推進機構, 2011年。
- ^ Laurent Dubois「Steam, Silence, and the Editing Cut: Nihonshoku in Paris」『Cahiers de Montage』Vol.21 No.8, pp. 200-214, 2013年。
- ^ 渡辺 清隆「白湯の黄味が緑寄りになる日—DVD色調問題の統計」『民生映像品質研究』第2巻第7号, pp. 77-92, 2016年。
- ^ 『セーヌ河畔映画祭 年度報告書』セーヌ河畔映画祭事務局, 2013年。(※一部章の題目が誤植されているとされる)
外部リンク
- ラ・ルメンタル公式アーカイブ
- ユニヴェルサル・フィルムズ・フランス 上映履歴
- セーヌ河畔映画祭 受賞者データベース
- 献立調停室 記念サイト
- 湯気の外交 公式ファンクラブ