フォークソング同好会
| 分野 | 民俗音楽愛好活動、地域コミュニティ |
|---|---|
| 成立の背景 | 自発的な歌唱文化と小規模交流の需要 |
| 活動形態 | 路上・集会所・小劇場での自由演奏会 |
| 主要な関与者 | 学生、商店街関係者、退職音楽教師 |
| 関連用語 | “回覧譜”、巡回コード、しおり採譜 |
| 象徴的行事 | 年1回の“風向き祭” |
| 代表的な地域例 | 、など |
| 所掌領域 | 楽曲保全(口承)と歌詞の検閲回避 |
フォークソング同好会(ふぉーくそんぐ どうこうかい)は、においてフォークソングを愛好する小規模な集団として形成されたとされる。特に、地域の路地裏で実施される“即席の交流会”が社会的な注目を集めたとされる[1]。
概要[編集]
フォークソング同好会は、フォークソングを“鑑賞”するだけでなく、歌唱技術と地域の語りを共同で育てる集まりとして説明されることが多い。一般には、楽器の有無にかかわらず参加できる形態を採り、会員が歌詞の語感や旋律の細部を互いに採譜・補正しながら共有する仕組みが特徴とされる[2]。
この活動は、音楽ジャンル史の文脈では小さな話題として扱われることが多いが、実際には、商店街の人員配置や自治体の広報運用、そして“若者が集まる場所の設計”にまで影響したとする指摘がある。特に、同好会が提案したとされる「回覧譜(かいらんふ)」という独自の共有形式が、地域の情報伝達モデルとして模倣されたとされる[3]。
名称と選定基準[編集]
フォークソング同好会という名称は、明確な全国統一団体の呼称というより、現地の実務に即して名付けられたケースが多かったとされる。たとえばの“千代田回覧譜保存班”が、のちに便宜上「フォークソング同好会」と呼ばれるようになった経緯が、同区の古い掲示板資料に残っているとされる[4]。
一方で、同好会と称する団体の選定は、会の規約よりも実施内容で判断されたとされることが多い。具体的には、(1)歌詞が“口承として復元可能”であること、(2)一曲あたり少なくとも3通りの方言アクセントが記録されること、(3)演奏時間が通常のライブより短く、代わりに質疑応答が長いこと、などが暗黙の基準とされていたとされる[5]。
なお、この基準を満たすことが難しい団体は、代替名として「民謡風語りの研究会」などを名乗ったといわれる。ただし、同名が混在したことで“どの会がどの譜面体系を採用しているか”が紛らわしくなり、後述の対立の火種になったとされる。
歴史[編集]
起源:回覧譜と“沈黙の検閲”[編集]
フォークソング同好会の起源は、1960年代後半のにおける学生サークルの実務に求められるとされる。そこで、当時流通していた印刷歌詞カードが一斉に“貸出不可”になった事件があり、代替として採用されたのが回覧譜であったとされる[6]。
回覧譜は、紙面に歌詞を載せつつも、肝心の1行目だけを空欄にし、参加者が“音を聞いた記憶”から埋める方式だったと説明される。この仕組みは検閲の回避に近い効果を持つとされたが、同時に、記憶の揺らぎを議論の中心に据える文化を生み出したとされる。つまり、欠落があるからこそ共同編集が起きる、という設計思想があったとする説がある[7]。
なお、回覧譜の運用には極端な細則があったともされる。ある記録では、空欄部分に書き込む際、鉛筆は2Bのみ、書き足しの所要時間は平均で43秒以内とされ、違反者は次回の演目リストから“歌詞の色”を選ぶ権利を剥奪されたとされる。この数字の根拠は不明だが、当時の自治会文書の“訂正跡”が一致するという主張がある[8]。
拡大:風向き祭と商店街の人流工学[編集]
1970年代に入ると、フォークソング同好会は単なる趣味の延長ではなく、地域の人流を作る装置として利用されるようになったとされる。とりわけ、の商店街が主催した“風向き祭”は、会場の向きを風(風向計)に合わせ、来場者の会話が途切れない導線を設計したことで知られるとされる[9]。
風向き祭では、同好会がステージを用意するのではなく、各店先に“回覧譜の朗読ポイント”を置く方式が採られた。参加者は、店ごとに異なる方言イントネーションを確認するよう求められ、結果として「歌詞の違いが買い物の口実になる」現象が観測されたとされる。ある統計メモによれば、祭の当日、回遊率は平常日の1.62倍になったという[10]。
ただし、拡大の過程で問題も生じた。回覧譜が人気になるにつれ、模倣団体が乱立し、同じ“歌”でも編集思想が異なることが露呈したとされる。これにより、同好会は楽曲の“作者”をめぐる論争だけでなく、譜面の“編集者”の権限をめぐる争いも抱えるようになったとされる。
制度化:巡回コードと“歌詞の正規化”[編集]
1980年代になると、自治体の文化政策の影響を受けて、フォークソング同好会は制度化の圧力を受けたとされる。そこで用いられたのが巡回コードと呼ばれる管理方式であり、演奏会の記録を“歌詞の版数”として番号化したと説明される[11]。
巡回コードでは、歌詞を「A段(語感優先)」「B段(方言優先)」「C段(韻律優先)」の3系統に分け、同好会の会員は自分がどの段で採譜したかを自己申告する必要があったとされる。さらに、自己申告が曖昧な場合は、同席者の採譜スコアで補正されたとされる。なお、補正スコアの最大値が“1000点”であるとする資料があり、なぜ1000なのかは「指を使うから」とだけ書かれているともされる[12]。
一方で、この制度化は創作性を損ねるとして批判も受けた。編集の番号が先行し、即興の揺らぎが“誤差”として扱われるようになったためである。この反動として、1990年代には番号を封印する“無コード期間”が複数の地域で実施されたとされる。
社交儀礼と技法:回覧譜、しおり採譜、沈黙の拍[編集]
フォークソング同好会の儀礼は、演奏の上手さよりも「他者の記憶を尊重する手順」に重点を置くとされる。代表例として回覧譜が挙げられ、参加者は順番に紙面を回しながら、空欄を埋めるのではなく、まず“前後の息継ぎ位置”だけを書き込むことで参加の責任を示すと説明される[13]。
また、しおり採譜という技法では、歌詞カードに挟む小さな紙片を使い、声の高さや言葉の強勢を“物理的な目印”として管理したとされる。ある会報では、しおりの幅がちょうど7ミリでなければ誤差が増えるとされ、結果として購入される文具の銘柄まで指定されていたとされる[14]。
さらに、沈黙の拍と呼ばれる慣習があったとされる。これは、歌のサビ前に8分間だけ質問を受け付け、誰かが答え始めるまで歌わないというルールである。もちろん長すぎるため、同好会が“歌詞より会話を先に作る”団体として誤解された時期もあったといわれるが、当人たちは「沈黙を編集するのがフォークである」と真顔で述べたとされる[15]。
批判と論争[編集]
フォークソング同好会には、制度化が進むにつれて批判も増えたとされる。特に、巡回コードによる正規化が、地域ごとの“歌詞の倫理”を固定化してしまうとして問題視された。ある研究者は、版数管理が進むほど、即興の改変が“許可制の訂正”に置き換わり、結果として文化が静的になると指摘したとされる[16]。
また、回覧譜の運用をめぐっては、誰が“空欄の正解”を決めるのか、という権限の所在が論点となった。無コード期間の宣言が出された地域でも、実際には誰かがこっそり合意を取り付けていたのではないか、という疑念が出たとされる。なお、この疑念は後に一部のメディアで“歌詞の選挙”と揶揄され、同好会側は「歌は投票ではなく呼吸である」と反論したとされる[17]。
このほか、やや誇張を含む記述として、フォークソング同好会が“人流工学”を過剰に取り込み、夜間の騒音規制に抵触したケースがあったとも伝えられている。ただし自治体側の記録では、問題が発生したのは会そのものではなく、その会が貸し出した譜面台の向きが原因だったとされ、当時の行政担当者が「譜面台は東向きが最適」とまで助言したという話が残っている[18]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 相良円『回覧譜の社会学:即興共同編集の制度設計』港湾書院, 1987.
- ^ Margaret A. Thornton『Oral Lyric Transmission in Urban Japan』Harborlight Academic Press, 1991.
- ^ 渡辺精一郎『若者の路地裏合唱史:1970年代の小規模会合』東京文庫, 1976.
- ^ 佐伯和則『風向き祭と人流の編曲学』大阪府立文化研究所紀要, 第12巻第3号, 1983. pp.120-134.
- ^ Hiroshi Tanaka『Version Control for Folk Lyrics: A Case Study of “Circulating Sheets”』International Journal of Community Music, Vol.4 No.1, 1995. pp.55-71.
- ^ 琴浦しのぶ『しおり採譜の精密化と文具産業の一時ブーム』文具文化史学会誌, 第9巻第2号, 1989. pp.33-49.
- ^ 川島義春『巡回コード:番号化が即興を殺すのか?』音楽行政レビュー, 第7巻第1号, 1992. pp.1-18.
- ^ 『千代田回覧譜保存班記録集(複製)』千代田区教育局, 1973.
- ^ 伊達尚樹『沈黙の拍と討論のリズム:フォークの“間”の研究』新興出版, 2001.
- ^ R. M. Delacroix『The Silence Interval and Civic Conversation』(著者名が英語の体裁だが内容は日本会報の翻訳とされる) Blue Lantern Books, 1998.
外部リンク
- 回覧譜アーカイブズ
- 風向き祭 公式記録(非公式)
- 巡回コード研究会ノート
- しおり採譜 図解集
- 無コード期間 現場報告