ボビー・オロゴンゆゆうた殺害事件
| 名称 | ボビー・オロゴンゆゆうた殺害事件 |
|---|---|
| 発生日 | 2008年6月14日ごろとされる |
| 発生地 | 東京都内の配信文化圏 |
| 原因 | 切り抜き動画の誤解釈、音源差し替え、なりすまし投稿 |
| 関係者 | ボビー・オロゴン、ゆゆうた、匿名編集者群 |
| 類型 | ネット上の疑似事件 |
| 影響 | 事件名を用いた釣りタイトルの定着 |
| 備考 | 一部資料では『逆再生裁判』の前史に位置づけられる |
ボビー・オロゴンゆゆうた殺害事件(ボビー・オロゴンゆゆうたさつがいじけん)は、の日本において、のと、配信文化圏の演奏家として知られるの名を冠して語られる、半ば、半ばとして成立した騒動である。実際の刑事事件ではなく、上の編集合戦と、匿名掲示板における誤引用が連鎖して発生した「事件視聴型コンテンツ」の一種として知られている[1]。
概要[編集]
本事件は、の深夜帯ネットラジオと、初期の字幕文化が交差する中で成立したとされる疑似事件である。名称に著名人の実名が並ぶため、初見では実録系の暴力事件に見えるが、実際には「殺害」という語がとして使われたことに端を発する。
もっとも、当時の利用者の間では、事件そのものよりも「どの版が本来の時系列なのか」を巡る争いが中心であり、これが後のにおいて重要な事例として扱われるようになった。なお、一部の掲示板ログでは、事件の第一報がに投稿されたとされるが、投稿サーバーの時刻補正がずれていた可能性が指摘されている[2]。
発生の経緯[編集]
切り抜き文化との衝突[編集]
事件の起点は、前後に流通したとされる15秒の切り抜き映像である。その映像では、が発したとされる断片的な発言の直後に、のピアノ音源が無関係に重ねられており、視聴者の一部が「二人の間に何らかの抗争がある」と誤認した。
この誤認を受け、匿名編集者のひとりが「殺害事件」という強い見出しを付けたことが、以後の拡散の決定打となった。のちにが収集した断片資料によれば、当該見出しは単独投稿ではなく、合計7人の編集者による連名修正の末に現在の形へ落ち着いたという[3]。
配信者コミュニティの反応[編集]
当時のコミュニティでは、事件名そのものが一種の隠語として使われるようになった。特にのインターネットカフェで活動していたとされる実況者集団は、ミスをした際に「これでオロゴン側に回った」と冗談を述べるなど、事件名を敗北宣言として流用した。
また、春には、事件を題材にした朗読配信が48時間以内に3本制作され、そのうち1本はの位置が1フレームずつずれていたため、視聴者の間で「事件の真相が隠されている」と話題になった。これが後の考察動画ブームの先駆けであるともいわれる。
地名の錯綜[編集]
現地調査を名乗るブログ記事では、事件現場がのスタジオであるとも、の深夜営業ゲームセンターであるとも記され、場所の特定は最後まで揺れ続けた。実際には、いずれも編集者の記憶違いとされるが、あえて複数の候補地を並立させることで、読者に「本当に何かあったのではないか」と思わせる効果があった。
この手法はのちに「地名分散型釣りタイトル」と呼ばれ、事件名付きまとめ記事の定型として広まった。要出典とされることが多いが、少なくとも時点のまとめサイトには同様の記述が確認されている。
事件名の成立[編集]
事件名が現在の形に定着したのは、系のログ転載サイトで見出しが簡略化されず、そのまま太字化されたことによる。通常であれば「ボビー騒動」程度に省略されるところ、転載者がタイトルの全要素を残したため、かえって異様な迫力を持つ名称となった。
さらに、側の名前が付加されたことで、事件の焦点が「誰が何をしたのか」ではなく「なぜこの二名が並置されているのか」という、より不可解な方向へずれた。このズレこそが本事件の本質であるとする研究者もおり、の準拠文献では「固有名詞の過剰連結による事件実在感の生成」と定義されている[4]。
影響[編集]
釣りタイトル文化への波及[編集]
本事件以降、動画やブログの見出しに著名人名を連結して危機感を演出する手法が急増した。2010年代半ばには、同種の手法だけで月間約1,200件の投稿が確認されたとされ、うち約18%は本文と無関係な雑談で終わっていた。
特に初期の解説系チャンネルでは、事件名をサムネイルに置きつつ、実際の内容は通信機器の設定手順という構成が流行した。これにより、事件名は「中身がないほど強くなるタイトル」の代名詞として定着した。
音楽配信界への影響[編集]
ゆゆうたの名が付随したことで、事件は音楽配信者に対する「過剰な事件化」を象徴する事例にもなった。ある研究では、を扱う配信者の34%が、タイトルに「事件」「逮捕」「崩壊」のいずれかを含む動画を一度は経験したとされる。
なお、の内部メモには、本事件以後「演奏者は意図せずドラマの登場人物にされやすい」との懸念が記されているが、原本は所在不明である。
法務・放送倫理上の議論[編集]
の関連会議では、実在人物名を含む架空事件タイトルについて、視聴者の誤認を招くおそれがあるとして一時検討対象となった。しかし、問題の多くが事実誤認ではなく編集誇張に起因するため、明確な規制には至らなかった。
一方で、系の報告書では、本事件を「真偽が判別しづらいが、最後まで見ると何も起きていない類型」の代表例として分類している。ここから、後のの理論が形成されたともいわれる。
後世への継承[編集]
に入ると、本事件は実際の出来事としてではなく、ネット文化の寓話として扱われることが増えた。とりわけ、まとめ動画や考察配信では「ボビー・オロゴンゆゆうた殺害事件を見ると、その時代の視聴者が何に飢えていたかが分かる」と説明されることが多い。
また、の専門学校で行われた情報リテラシー講義では、本事件を題材に「見出しだけで事件性を補完しない」訓練が実施された。受講者56人のうち41人が、講義後に「事件があるのだと思った」と回答したという結果が残っており、教育効果については評価が分かれている。
批判と論争[編集]
本事件に対する批判は主に、実在人物名を用いて不必要に不穏な印象を与える点に集中している。とくに以降、検索エンジンの補助表示により、事件名が実録犯罪と誤認される例が増えたため、関係者の一部は見出しの修正を求めた。
ただし、逆にこの不快感こそが事件の拡散力であるとする反論も根強い。ある匿名評論家は「不謹慎さは、アーカイブ時代の接着剤である」と述べたが、同じ評論家が翌週に別名義で同趣旨の記事を書いていたことから、引用の信頼性には疑問が残る[5]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 田所誠一『事件名の過剰連結と視聴行動』情報文化研究 第14巻第2号, 2013, pp. 44-67.
- ^ Margaret A. Thornton, "Title Inflation in Early Japanese Video Platforms," Journal of Digital Folklore, Vol. 8, No. 1, 2015, pp. 102-128.
- ^ 佐伯由里子『ネット時代の疑似事件とその受容』青弓社, 2016.
- ^ 小野寺航『字幕文化史入門』岩波書店, 2011.
- ^ Hiroshi Kanda, "From Clip to Incident: The Bobby-Yuyuta Thread," Media Archive Quarterly, Vol. 21, No. 3, 2018, pp. 11-39.
- ^ 渡会真一『匿名掲示板の修辞学』筑摩書房, 2010.
- ^ Elizabeth Moore, "Misread Names and Manufactured Crises," The Review of Online Mythologies, Vol. 5, No. 4, 2012, pp. 77-94.
- ^ 中里寛『事件を見る文化――配信と誤認の戦後史』河出書房新社, 2021.
- ^ Kenji Arai, "The Reverse Courtroom of Japanese Web Humor," East Asian Media Studies, Vol. 12, No. 2, 2019, pp. 155-181.
- ^ 文化庁メディア芸術資料室『平成インターネット騒擾記録集』報告書第3巻, 2020, pp. 201-219.
外部リンク
- 日本ネット民俗学会アーカイブ
- 配信文化研究センター
- 事件名表記史データベース
- 匿名編集ログ保存館
- メディア誤認年表プロジェクト