ポール・マッカートニーみたいなカレー
| 分類 | 架空の料理・文化現象 |
|---|---|
| 起源 | 1967年頃、ロンドンのカムデン周辺 |
| 主な材料 | 玉ねぎ、マスコバド糖、缶詰のマッシュルーム、バター、謎のハーブ |
| 味の特徴 | 甘味が先行し、遅れて辛味が入る |
| 食べ方 | 2回混ぜてから1分置く |
| 関連人物 | ポール・マッカートニー、M. R. Henshaw、八木園子 |
| 流行地域 | 英国、関西圏、香港の一部 |
| 初出文献 | 『The Camden Meal Papers』 |
| 別名 | メロディック・カレー |
ポール・マッカートニーみたいなカレーは、後半ので発生したとされる、甘さと反復性を特徴とする架空の香辛料料理である。一般にはの余韻を料理化したものとして知られている[1]。
概要[編集]
ポール・マッカートニーみたいなカレーは、音楽的な反復構造と、口当たりの軽さを両立させるために考案されたとされる料理概念である。北部の学生食堂で流行したのが始まりとされ、のちにの喫茶店文化と結びついて独自の発展を見せた[2]。
この呼称は、単に本人の好みを指すのではなく、「押しつけがましくないのに耳に残る」「やさしいのに妙に執拗である」といった性質を料理に投影したものである。なお、初期の定義ではの楽曲構造を模した“8口目で味が完成する”設計が重視されたとされる[3]。
歴史[編集]
起源[編集]
起源は夏、の下宿兼レコード店「Henshaw & Peel」に求められている。店主のが、残ったカレーに砂糖漬けのレモンピールを加えたところ、来店していた学生が「これはポールみたいに優しいのに、妙にしつこい」と評したことが契機とされる[4]。
この逸話には異説も多く、の港湾食堂で先に成立していたとする説もある。ただし、1982年にが行った聞き取りでは、当時の証言者17名のうち14名が「正確な場所は覚えていないが、必ずレコードがかかっていた」と述べており、音楽との結びつきだけはほぼ一致している。
日本への伝播[編集]
には、来日した英国留学生を介して左京区の喫茶店「サテン月面」に伝わったとされる。同店の調理係であったは、辛味の輪郭を出すためにを隠し味に用い、これが“関西的な軽妙さ”を生んだとして後年しばしば引用された[5]。
後半になると、関西のレコード喫茶や深夜営業のカレー店で「曲順のように食べるカレー」として売り出され、北区では“1皿に3回の転調がある”ことを売りにした店まで現れた。もっとも、当時の宣伝文句の多くは誇張であり、実際に3回転調を感じたかどうかは個人差が大きかったとされる。
標準化と衰退[編集]
、の食文化誌『Spice Ledger』が「ポール・マッカートニーみたいなカレー」の標準レシピを提唱し、玉ねぎの炒め時間を正確に、仕上げの乳化をと定めたことで一時的に注目を集めた。これにより、家庭版と喫茶店版の差異が縮小した一方、自由な解釈が失われたとして批判も出た[6]。
に入ると、健康志向の高まりからバター量が削減され、味の“ポールらしさ”が薄れたとする指摘がある。なお、一部の研究者は、衰退の原因は減塩ではなく「曲が短くなった世代が、長い余韻を料理に求めなくなったため」であると主張しているが、これは要出典である。
特徴[編集]
このカレーの最大の特徴は、口に入れた瞬間には甘く、飲み込む直前にだけ微細な辛味が立ち上がる点にある。料理評論家のはこれを「味覚のフェードアウトではなく、フェードインである」と表現した[7]。
また、具材の配置にも独特の作法があり、通常のカレーが“混ぜてから食べる”のに対し、本品では「2回だけ混ぜ、3回目は混ぜない」ことが推奨される。これは後期の多重録音を連想させるためであり、実際には3回目を混ぜると香りが壊れるという調理上の理由もあるとされる。
さらに、上に散らす薬味としてはパセリではなく、刻んだセロリ葉が用いられることが多い。これについての栄養学講座は「青臭さがノスタルジアを増幅する」と説明したが、調査対象が12名しかいなかったため、学術的には限定的な意味しか持たない。
社会的影響[編集]
の英国では、学生運動とポップカルチャーの結びつきの象徴として受容され、政治集会の炊き出しで供される例があった。特にの労働者寄宿舎では、食後に全員で同じレコードを聴くことが半ば儀礼化し、これが“共同体的な食事体験”として研究対象になった[8]。
日本では逆に、喫茶店文化の中で“会話を邪魔しないカレー”として定着した。短いサビのように印象を残しつつ、食後に胃の中で静かに続く点が好まれ、の一部店舗では「B面まで美味しい」と記されたメニュー表が確認されている。
一方で、は「著名人の名前を借りた商品化が過剰である」として1989年に注意勧告を出した。しかし、その直後に同協議会自身が“McCurry Section”という内部部会を設けていたことが後年判明し、かえって宣伝効果を高めたとされる。
批判と論争[編集]
批判の中心は、そもそも「ポール・マッカートニーみたい」という比喩が曖昧すぎるという点にある。辛味研究者のは、これを「味の説明に見せかけた文化的な手抜き」と断じたが、同時に自身の論文では香りの余韻をと細かく測定しており、議論をややこしくしている[9]。
また、のテレビ番組で、調理実演中にスタッフが誤ってブラックペッパーを入れたところ、観客アンケートで満足度が上昇したため、「本来の完成形はむしろ胡椒強めである」とする異端説が生まれた。これに対し、伝統派は「それはジョージ寄りである」として退けた。
なお、最も有名な論争はの「沈黙の12分事件」である。東京都内のイベントで提供された本品が、提供後ちょうど間、誰も感想を言わなかったため、主催者が成功と解釈した一方、批評家は「単に熱すぎただけではないか」と反論した。
派生形[編集]
派生形としては、白いルウを用いた、辛味を後半に集中させた、カレーうどんに寄せたなどが知られている。特には、の乳業関係者が「穏やかさを強調しすぎた」と回想しており、結果として“優しさしか残らない”という別種の評価を受けた。
また、学生向けの簡易版として、レトルトに刻みリンゴと少量の紅茶を加える「2分間カレー」も流行した。これは本来の思想からは逸脱しているが、のSNS上では「ポール感が高い」とされ、料理写真の定型句として定着した。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ Henshaw, M. R.『The Camden Meal Papers: Notes on Repeatable Curry』Camden Institute Press, 1971.
- ^ Carter, Elaine『Spice and Refrain in Post-Beatles Britain』University of Kent Press, 1984.
- ^ 八木園子『喫茶店と余韻の料理学』関西味覚出版, 1992.
- ^ Croft, Samuel W. “On the Fade-in Flavor Profile of So-Called McCartney Curry.” Journal of Culinary Semiotics, Vol. 8, No. 3, 1996, pp. 41-67.
- ^ 西園寺正彦『カレー比喩の倫理と反復』青陵書房, 2004.
- ^ British Society for Food History『Proceedings of the Camden Symposium on Musical Cuisine』Vol. 12, No. 1, 1988.
- ^ Takahashi, Jun『喫茶店文化におけるB面メニューの成立』京都食文化研究紀要 第14巻第2号, 2001, pp. 115-139.
- ^ Morrison, P. & Yates, L. “The 17-Minute Onion and the 42-Second Emulsion.” Culinary Review Quarterly, Vol. 19, No. 2, 1991, pp. 88-104.
- ^ 『Spice Ledger』編集部『ポール・マッカートニーみたいなカレー標準化案』Spice Ledger特別付録, 1991.
- ^ 北村玲子『沈黙の12分事件と都市型カレー儀礼』都市食研究社, 2007.
外部リンク
- Camden Food Archive
- British Society for Food History
- 京都喫茶料理アーカイブ
- Spice Ledger Digital
- McCurry Studies Forum