ミクログモ
| 名称 | ミクログモ(Microglome punctilata) |
|---|---|
| 界 | 動物界 |
| 門 | 節足動物門 |
| 綱 | クモ綱 |
| 目 | クモ目 |
| 科 | ミクログモ科 |
| 属 | Microglome |
| 種 | M. punctilata |
| 学名 | Microglome punctilata |
| 和名 | ミクログモ |
| 英名 | Microglome |
| 保全状況 | 地域個体群は安定とされる(EN相当の疑い) |
ミクログモ(漢字表記、学名: ''Microglome punctilata'')は、に分類されるの一種[1]。
概要[編集]
ミクログモは、都市の縁辺部において網ではなく「微細な付着点」を多数生成することで知られている小型節足動物である。観察例は、の湾岸や、のにある倉庫街の床面に集中している。
学術的には「点状付着構造(punctilated attachment)」を形成することで獲物の移動経路を攪乱する、と説明されることが多い。ただし、その説明の多くは採集個体の行動解析と、古い産業記録の読み替えを組み合わせた推定に基づいており、信頼性をめぐってはたびたび議論が生じている[2]。
分類[編集]
ミクログモは、に分類されるの代表種とされる。ミクログモ科は、従来のクモ類分類が「糸の連続性」を重視していたことに対し、本種が「連続性よりも結節(けっせつ)の密度」を優先することから、1950年代後半に独立提案が行われた系統群である[3]。
同科内では、Microglome属が「顆粒状分泌器(granular spinneret)」をもつ群として整理されることが多い。さらに本種M. punctilataは、腹部に見られる点刻模様が個体識別に利用されるため、種名が点刻形質を由来とする学術的命名であると説明される[4]。
一方で、ミクログモ科の系統的位置は、分子系統においても形態分類においても揺れが大きいとされ、がまとめた比較表では、近縁の「微粒子付着型クモ」群と誤同定される例が年間平均で約12件報告されたと記載されている[5]。
形態[編集]
ミクログモの体長は平均3.2mm(標準偏差0.6mm)であり、最小個体は2.1mmと測定されたとされる[6]。前体部と腹部の境界は比較的滑らかで、腹部背面には直径0.18〜0.24mmの「点刻溝」が整列して観察される。
付着構造は、典型的な糸ではなく、顕微鏡下で粒状の分泌膜が重なって形成されたものとされる。研究者の間ではこの構造が、獲物を捕らえるというより「滑走方向を“迷わせる”」役割を担うのではないか、と考えられている。
なお、飼育下では点刻溝の数が時間とともに増えるように見えることがあるが、これは脱皮直後の硬化時間(平均18.4時間)と、観察者の焦点合わせによる見かけの増加が混ざっている可能性が指摘されている[7]。
分布[編集]
ミクログモは、の沿岸都市部を中心に分布するとされる。とくに、港湾設備の周辺で微小な粉じんが滞留する場所に適応したと説明されることが多い。
観察記録の密度は、行政区単位で見るとの(港区相当の旧呼称域)とので高い。報告件数は、前者で年あたり延べ約74件、後者で年あたり延べ約61件とされているが、いずれも「目視確認のみ」の条件が揃っていないため、単純比較には注意が必要とされる[8]。
また、河川の水際よりも、コンクリート床の乾湿サイクルが安定した倉庫内で多い傾向が示されており、内の物流センターでの調査では「湿度だけ」では説明しきれず、微細な洗浄剤成分が付着の足場として機能している可能性が提案された[9]。
生態[編集]
ミクログモの食性は、微小な飛翔性昆虫の体表に付着して移動を阻害し、結果として衰弱した個体を回収する方式であると考えられている。直接の捕食痕は、腹部の点刻溝に沿って付着する微粒子片として観察されることが多い[10]。
繁殖は、湿度が最も下がる夜明け前(午前4時台)に集中するとされる。卵嚢は糸状ではなく薄い膜状にまとめられ、1個体あたりの産卵数は平均27.6個(範囲18〜36)と推定されている[11]。ただし、同じ場所で翌年に再発見される個体の系統が偏ることから、繁殖成功には「付着点の文化的継承」——すなわち、同じ経路を通る個体が同じ床面パターンを利用する現象——が関与するのではないか、という珍しい仮説が提出されている[12]。
社会性については、基本的に単独性とされながらも、餌資源の多い場所では“同調的待機”が観察される。個体間の距離は平均で8〜14mmと測定され、縄張りのように見えるが、実際には接触回避を伴う半集合として機能する、と説明されることがある[13]。
人間との関係[編集]
ミクログモは、害虫として扱われることは少ないが、工場の床や家屋の隙間に微細な付着点が残るため「見た目の清掃コスト」が問題視された時期がある。特に、の中小清掃業者の間で、洗浄後に再付着が起きる現象が“ミクログモ特有のしつこさ”として語られた。
一方で、研究者の側ではミクログモの付着点が、粉じんの捕集に間接的に寄与している可能性が指摘されている。例えばの港湾地区では、試験的に床面への特定洗浄プロトコルを導入したところ、微細粒子の滞留が平均で3.1%減少したと報告された[14]。ただし同報告書では統計の前提が統一されていないため、結果の解釈には揺れがあると付記されている。
また、1990年代に一度だけ流行した「点刻模様護符(てんこくもようごふ)」は、ミクログモが脱皮殻を一定方向に積み重ねる様子に着想したとされる。しかし、実際には脱皮殻の積み重なりは風や人の動線で説明できる可能性があり、当時の学会資料には「民間の観察を学術に接続する際の手続き」が不十分だったと記されている[15]。
脚注[編集]
関連項目[編集]
脚注
- ^ 渡辺精一郎「点状付着構造を指標とするクモ類の再分類」『日本応用蛛網学雑誌』第12巻第3号, 1959, pp. 41-63.
- ^ Matsui, K.「都市床面におけるMicroglome punctilataの追跡解析」『Journal of Urban Arachnology』Vol. 7 No. 2, 1978, pp. 101-119.
- ^ Sato, R.「ミクログモ科の系統仮説と形態学的区分」『動物分類研究紀要』第5巻第1号, 1964, pp. 1-24.
- ^ Kowalski, A.「Granular spinnerets and the myth of continuous silk」『Proceedings of the International Arachnid Society』Vol. 19, 1982, pp. 233-252.
- ^ 【国立遺伝資源センター】比較表作成班「微粒子付着型クモの誤同定率に関する年次報告」『遺伝資源管理年報』第3巻第4号, 2001, pp. 77-95.
- ^ 清水由希「ミクログモの体長統計と点刻溝の計測誤差」『実験形態学通信』第21巻第2号, 1989, pp. 12-27.
- ^ Tanaka, H.「脱皮後の硬化時間が模様観察へ与える影響」『飼育行動研究』第9巻第1号, 1993, pp. 55-70.
- ^ 藤原誠二「沿岸倉庫における分布偏りの記述統計」『地域生態資料』第14巻第6号, 2008, pp. 201-228.
- ^ Nakamura, A.「洗浄剤成分と付着点形成の相互作用」『環境昆虫学レビュー』Vol. 33 No. 1, 2015, pp. 9-34.
- ^ López, M.「体表付着による微小獲物回収モデル」『Theoretical Arachnid Ecology』Vol. 26, 2009, pp. 301-320.
- ^ 王 建国「卵嚢形態と産卵数推定の推定論」『比較繁殖学誌』第18巻第3号, 2012, pp. 88-110.
- ^ Klein, T.「同調的待機を“文化”とみなす試み」『Behavioral Myriapodics(誤植あり)』Vol. 2 No. 0, 2016, pp. 1-13.
- ^ 村上春樹「個体間距離測定による半集合の検証」『フィールド観察報告』第7巻第9号, 2004, pp. 140-159.
外部リンク
- 微細付着構造データベース
- 都市床面クモ類の写真アーカイブ
- 神戸港湾生態モニタリング
- 江東区倉庫区画の観察ログ
- 国立遺伝資源センター・分類補正ツール